楽天と西友がもたらすOMOの可能性

ウォルマートが見いだせなかった「未来への成長」を、楽天が日本ならではの視点で実現する――。先日行われた、楽天グループと西友が同席したOMO施策に関する記者会見に参加して、そう感じさせられた。
日本市場の特徴を踏まえて「地域密着での毎日利用のインフラ」を意識した物流。そして、フィンテックの両面からのアプローチは、西友に大きな変化をもたらしているように思える。
1. 毎日使う生活インフラになるために
東急の事例との対比で見える本質
今回の楽天×西友の記者会見を見ていて、ふと楽天×東急のOMO施策が頭をよぎった。
東急の取り組みは、百貨店への集客や販促といった「マーケティング」の要素が強い。対して、西友は「地域密着」で、どれだけ楽天が利便性の高いインフラを作れるか。つまり、物流を含めた足元の生活インフラを支える方に重きを置いている点が特徴的だ。
食品ECの低い現状と大きな伸び代
日本のEC化率はジャンルによってまちまち。だが、食品はわずか3.3%にとどまる。
楽天の三木谷社長も指摘していたように、他のカテゴリーでEC化率が高まっている現状を考えると、食品ECはまだまだ伸びしろが大きいという見方だ。そしてその自信の背景には、楽天西友ネットスーパーの近年の流通額が大きく伸びている事実がある。
もっとも、それは簡単な道のりではなかった。彼らがまず着手したのは、ECにとって要となる物流である。

2. ロジスティクスで差別化を図る
店舗+専用倉庫のハイブリッド配送
従来のネットスーパーでは、各店舗から配達するのが一般的だった。だが、楽天と西友は専用の物流拠点を新設し、店舗からの配送と合わせた“ハイブリッド型”を採用している。
これは、楽天が「ワンデリバリー構想」や日本郵便(JP)との連携など、グループとして物流拠点と配送網を拡大してきたからこそ可能になった施策だ。
一部では「スーパーがあるのに、わざわざネットスーパー専用の倉庫をつくる必要があるのか」と懐疑的な声もあったようだが、2021年のネットスーパー流通総額は前年比26%増、そのうち専用倉庫からの出荷は79%増という大きな成果につながっている。
楽天の出資による連携強化
この成功を背景に、楽天は西友へ10%出資を実施し、リアル店舗との連携をさらに強化している。その中で今後大きな役割を果たすとみられているのがフィンテック領域だ。
3. フィンテックとOMOの融合
西友の実店舗と楽天の決済基盤がガッチリ連携
西友の実店舗で楽天カード、楽天Edy、楽天ペイなどを利用しやすい環境を整える。そうすることで、顧客の利便性が高まり、楽天が持つ膨大な会員情報を掛け合わせることで送客・販促効果も見込める。
「地域密着」の店舗を頻繁に利用してもらうことは、楽天が目指す“経済圏”の拡大にも直結する。日々の買い物を通じた“デイリーユース”の増加は、楽天が最も重視しているポイントといえる。
カード事業成長の後押しにも
スマホ決済などの入り口から、楽天カードへの誘導も自然に期待できる。楽天はカード事業をフィンテックの柱と位置づけており、すでに国内トップクラスのシェアを誇る楽天カードの利用者数をさらに伸ばすことで、楽天市場などのEC流通総額を拡大する狙いがあるのは明らかだ。

4. 実店舗の限界を超えるネットスーパーの強さ
店舗の立地をカバーする物流拠点
西友は実店舗の拡大にはコストがかかるため、今後の成長には限界があると見ている。その穴を埋めるのが物流拠点を活用したネットスーパーだ。実店舗がない地域でもネットスーパーを通じて全国のユーザーを取り込むことで、さらなる事業拡大を目指すというわけだ。

コロナ禍の追い風もあり、西友側は2024年までの流通総額1000億円という目標を前倒しで達成できそうだと発表している。ハイブリッド型の物流とフィンテックの連携が、スーパーとしての西友の価値を引き上げつつある。
5. ローカライズがもたらす成長
ウォルマートで得られなかった成果
かつてウォルマートと提携していた西友だが、日本ならではのローカライズが徹底できず、大きな成果に結びつかなかった経緯がある。そこへ登場した楽天は、日本市場に根ざした物流網と金融サービスを組み合わせることで、西友に“毎日利用されるインフラ”としての新たな道を切り開いたといえる。
今後の展望
楽天としては、西友とのOMOを高度にパッケージ化し、いずれは他のリアル系スーパーにも提供していく可能性が高い。その展開によって、同社の物流網やフィンテック事業をさらに強化し、より強固な経済圏を築くシナリオが見えてくる。
「何がきっかけで成長するのかは分からないものだ」と言われるように、最初は見えづらかった西友と楽天のシナジーも、結果を伴って顕在化してきた。地域に根ざし、毎日の買い物を支える物流とフィンテックを両輪とする戦略こそが、今後の小売業界における新たなスタンダードとなっていくのではないだろうか。
ウォルマートでは果たせなかった日本向けのローカライズを徹底し、OMOを着実に進める楽天と西友の動向は、これからも大いに注目を集めそうだ。
今日はこの辺で。