来るメーカーの転換期?ヒントは物流 単なる管理と配送ではない。顧客体験を向上せよ!
昨今、言われるところでは、デジタル化が進むほど、物流の大事さがクローズアップされがちで、そうすると倉庫の役目も変わってくる。倉庫と呼んでいいのかという話ですらあると思う。それに関連して考えてみると、これまでは小売店そのもののDX化が叫ばれていたけど、メーカー自体もEC要素を備えて、デジタル化を進めることで、新しい伸び代があるのではないか。そんな事を先日、物流現場に詳しいKURANDO 代表取締役 岡澤 一弘さんと話をしていて、思ったのである。
メーカー物流の転換期?
1.BtoBとECを組み合わせた物流トレンド
まずそもそもの話として、少し話が逸れるかもしれないけど、書きたい。EC事業者がどのくらいのフェーズで物流を意識されるのか、という話。ほんの少し意識し始めるのは年商1億円かなと。月商にして1000万円弱。仮に800万円だとして大体1日100件。この程度ではぎりぎり出荷はできるけど、そろそろ、物流を意識し始めるフェーズだ。ただ、この段階では生産性を高くするというよりは、多く出荷できる体制を整えて、機会損失を減らしていくということになる。
その意味で言うと、本格的な投資が必要なのは年商10億円を超えてから。1日1000件のレベルなので、下手すると物流現場も人の調整が必要だし、波動に応えられなくなっていく。それ用の物流への投資が必要になってくるわけで、今度は、逆に生産性を高めるだけではなく、物流サイドも店ごとの対応ができるほど、融通が利きやすくなる。オリジナルで、カスタマイズをやれる余地が出てくるわけである。
2.仮説としてセミオーダーのような要素が増えるのでは?
こうやって物流に対して「求めるもの」が変わってきたところでの話で、ここからが仮説。デジタルツールによりやれることの幅が増えてくると、リアルの物流サイドでもそこに応えられるように、荷主と連携して、物流を味方につけて、顧客満足度を高めていく工夫が必要になってくるわけで、岡澤さんは、具体的にはセミオーダーメイドのような要素を持ったお店が増えてくるのではないかと説明している。
何が言いたいかというと、今までリアルのお店でやっていたようなことが、当たり前に物流センターで行われるようになってくるのではないかというわけである。
3.物流にとっても健全な環境の形成に繋がる
実は、これが物流サイドにとっても進化の可能性を秘めている。これまでで言えば、あくまでコストと人を投資していくだけで、中身の業務は現状維持だから、トータルで見ると、そこに会社としての成長性を見ることはなかなか難しい。しかし、ここで荷主と連携してセミオーダーの要素を備えることで、それ自体が付加価値を生むセンターへと変わっていくので、伸び代が出てくるというわけである。
このような発想がこれから広がりそうに思える理由には、少し時代が変わってきたからだ。物流においてBtoBとECを組み合わせたところに一つのトレンドが生まれているという話が背景にある。
4.一方、メーカーも転換期を迎えている
岡澤さんから聞いて初めて知ったのだが、これまででいうと物流倉庫の役目は大抵が「BtoB」だという。言われてみれば当然だが、メーカーから問屋、そして問屋から小売店という具合に、特に消費者の絡むところではないマーケットの方が圧倒的に大きく、そこで忙しなく流通しているわけだ。
例えば、メーカーは自らの倉庫で大きなカゴ車に商品をまとめて詰め込んで、お店に直送。お店は、その大きな荷物の束を解体して、一つ一つ、店内で陳列するわけである。世の中にあれだけリアルのお店があるならば、当然、そこで飛び交う物流の量も多い。しかし、そこに変化が生まれてきたのは、ファッションアパレルなどに見られる、メーカー小売業の動きである。
ECのシェアが増えるほど、その倉庫の意味合いも変化
以前はECも一個の店舗として見られていた
今の話は「問屋」を通しての話だけど、例えば、ファッションブランドの場合、製造工場から届いた商品はそれぞれの「お店」に納品される。だから、それも「BtoB」の物流ということになる。その時、ECの扱いは?というと、これまでで言えば、その他の店舗と同じように「一つの店舗」と位置付けていた。つまり、BtoBの物流倉庫から、別にEC用の倉庫に納品される事が多かったわけである。
ところが何が変わってきたかというと、昨今のコロナ禍を受けて、ECの割合が増えてきたことで、BtoB倉庫がECと組み合わせて存在するようになってきた。それもそうだ。リアル店に対してのECの商品の割合が15%程度を超えるということが起こってきて、仮にそれが100店舗備えるアパレル企業だと考えれば、15店舗分に相当する。それを一つの店舗と考えて別に倉庫を作って、そこにBtoBの倉庫から納品するのは明らかに効率が悪い。
だから、最初から「BtoB」向けと「EC」を共存させる形で倉庫でのオペレーションを作るように変化してきたわけである。それに合わせる形で、それらの倉庫はEC系のものを扱うオペレーションの中でセミオーダーなどの機能を備えるに至って、倉庫としての色彩も変わってきているわけである。
メーカーは顧客体験を考えて直販をするべき
1.問屋やお店の顔色を伺うのではなく違った商品価値を提供
今の話はファッションブランドでの話だが、メーカーも当初から、その倉庫の存在を「BtoB」向けのものと“決めつけて”活用している。しかし、ファッションブランドさながらに、そういうオペレーションを取り入れることが現実的になって、変わってくるのではないか。
昨今の動きを見て分かる通り、メーカー自体も自社でオンラインストアをする傾向が高くなってきている。
ただ、それが一部の企業に限られているのは、やはり古くからの風習で、メーカーから問屋、問屋から小売店への流れと、自分達が直に販売することに対しては、ごくごく当たり前に、反発を受けるからなのである。
そこで、先ほどのファッションブランドにおける話を思い出してほしいが、BtoBとECを共通して扱い、セミオーダー然り、相応しいオペレーションを組めるのであれば、メーカー直販型のECと小売店(問屋)が共存していける可能性を模索できる。
2.メーカーならではの付加価値はラストワンマイルにあり
純粋に、Appleの商材などは、僕の話で恐縮だが、Apple信者なのでAppleのショップバッグに入れてもらって接客してもらうだけで、優越感に浸れるからあるが、キーとなるのはメーカでしかできない顧客体験である。
日本酒を購入したらその酒蔵の案内と美味しい飲み方が添えられている、なんて些細なことは見られる。表側のECのCRMツールが発展している以上、もう一歩踏み込んだ事ができる。その時に、倉庫を物流センターと考えるのではなく、「顧客接点の最終地」と再定義すれば、実は色々な付加価値をつける事ができて、小売店との差別化ができるのではないか、と岡澤さんの話を聞いて納得した。
出荷センターではなく、商品の価値を高める商品センターでありたい。ラストワンマイルに近い保管場所を、保管場所以外の価値で模索してみることだってできるはずだ。
僕が調べてみるに、セガトイズという会社では「セガトイズエコプロジェクト」と呼ばれる下取りサービスをやっていて、その引き取りは壊れたおもちゃも対象となっている。新たなおもちゃを買うのと引き換えに、メーカー直販でのメリットを生かして、おもちゃを確実に下取りしてもらえれば、新たなおもちゃの購入を促す事ができる。こういう付加価値は、消費者にとっても、販売するメーカーにとっても利があり、小売店にはできない付加価値なのではないかと思う。
3.小売店とメーカー直販でお客様に使い分けて貰えばいい
例えば、ショッピングモールなどで買いたい人は当然、それはそれで存在するので、それは今まで通りで良く、ポイントを活用したいといった要素は、まさにそれは小売店に行けばいい。
だから、デジタルリソースを通じて、メーカーは寧ろ、割高で提案すればいい。その分、深い体験とは何かを考えるべきだ。未来を見据えて考えれば、そういう風にして、メーカーはこれまでと違った形での伸び代がある。ある意味、物流サイドとうまく連携して、どんなカスタマイズをして、顧客体験を向上させるか、ということがこれからのメーカーにとって必要にして生き残るために不可欠なことではないか。
昨今の「D2C」の台頭にやきもきしているメーカーも多いはずだ。でも、メーカーはメーカーでD2Cのように価値を創造してお客様と関係を継続的に構築できるのであり、以上に示したその座組みを変えることでそれが可能なのである。
確かに、コロナ禍で元気を失った業態も多いけど、それは旧態依然の役割に当てはめようとするからである。そこから脱却して、「メーカー」「問屋」「小売店」の新たな役割分担を形成していくことで、もっと健全で偏りのないマーケットができるのではないかと思った。今一度、その座組みの意味を考え、物流の役割を見直す中で、新しい時代を切り開いていこうではないか。
今日はこの辺で。