日本橋高島屋S.C.に ポップアップストア 出店 した D2C “ソージュ”手応えは?
昨今、リアルとネットの融合という中でD2Cのお店がリアルの場面でポップアップストアをやることは増えているが、そこで意識すべき事は何だろう。「SOÉJU(ソージュ)」運営するモデラートの代表取締役 市原明日香さんに話を聞いてみた。同店は9月22日から2週間、日本橋高島屋S.C.新館で ポップアップストア を 出店 している。ネットの利点とリアルの強みを上手に活かした中身で学びが多い。
ポップアップストア 出店 の舞台裏
1.東京駅付近であることの意味
「SOÉJU(ソージュ)」はアパレルのネット通販を展開しており、このお店の特徴はお客様ごと、相応しいコーディネイト提案を行うことにある。ウェブ上、幾つかの質問に答えることで、6アイテム表示され、その6アイテムを通して、専門のコーディネイターが示した衣服の組み合わせが提案されるわけである。
自分の価値観と近い形でコーディネイトを指南されるわけで、特にお客様には結婚や出産、あるいは管理職への就任など転機を迎える女性が多く、イメージチェンジを余儀なくされた人の間で話題を集めているわけである。
ただ、ウェブをメインにしながらも代官山にもサロンと称して、リアルなお店を設置している。
そうすることで、その使用感を試したり、実際にコーディネイトをしてもらうわけだ。来店予約を事前にしてもらえば、以前、購入してくれたお客様にはそのデータに基づき、より質の高いアドバイスなどをすることができるようになるので、そうやってネットの強みを上手に活かしつつリアルで上手にそれを補完している。
ただ、今回はそれがありながらなぜ日本橋高島屋S.C.新館にポップアップショップを展開しようとしたのだろう。その理由として2つ挙げた。出店先として自分たちのブランドはお客様にどう評価されるのか、また商業施設であればふらっとお客様は立ち寄ってもらえるのかと。その検証がしたかったと市原さんは語るが、そもそもこの日本橋という部分にも関心があった。それは東京駅付近にサロンを誘致したいと考えていたからだ。
東京駅?そう聞くと「実は代官山のお店にも地方のお客様が出張帰りに立ち寄られる人が多くて、それであればもっと気軽に寄れる場所をと考えたからです」と話す。
2.商業施設の柔軟な姿勢と在庫に対しての意識
今回の件でいえば、リアルの商業施設の柔軟な対応も注目すべき点である。ショールーミングとしての様相を呈していて、お客様はその場でコーディネイトに関しての指南を受ける。そこで商品を試着して、気に入ればそこで支払いを済ませたとしても、商品の引き渡しは別の場所から配送される。
何よりこの場所が売る場所というよりは接客しコーディネイトをする場として、割り切って運営できているからこそ、ポップアップストア自体に100SKUの商品が陳列されていて、そこに打ち込めるわけである。そうすれば在庫を必要最小限にとどめて、場所の価値をフルに活かせて、接客の質が上がればお互いにとってウィンウィンだ。
また、彼らは日頃、D2Cで配送環境が整っている事も見逃せない。リアルで購入したのと変わりないスケジュール感でお客様の元に届くから、リアルと利便性がそれほど、劣らずに済む。物流を強みに、コーディネイトに特化した売場を構築できて、これまでの商業施設の活用の仕方より生産性が高く運用できているのが見るべき点ではないかと僕は思う。
僕が市原さんの視点から気づきを得たのは、そうは言いながら、メイン商品を絞っている点である。日頃から彼らはネットを通してお客様に発信を続ける中で、実は3型のウールコートにお客様の関心が集まるように仕向けている。
ライブ配信をするにしても3型のウールコートをインフルエンサーに紹介をしてもらったり、その後も強く打ち出す事はしなくても、さりげなくそのライブ配信に映り込むようにしたり。そうやって小出しにそれらの印象を植え付けているのであって、注文がそこに集中することを心がけている。それは、やはり購入アイテムが分散させないことで、在庫リスクを軽減しているからであり、ここも思うに大事なポイントである。
そこに加えて店内でもその推しである商品の写真を全面に掲げて気を引くようにしている。かつ4万円以上の購入であれば、特典がつくようにしていて、その金額はメイン商品とあと少し足すことで達成する金額。接客によりお客様もリピーターが多いから、その金額を目指して購入してくれる。結果、売上と粗利の両面でプラスに働くわけである。
3.トレンドを抑えつつ受注予測もできる理由
余談だが在庫をうまくコントロールしてリアルの場すらも生産性高く運用しているけど、だからこそ市原さんに僕は尋ねた。「とはいえ、アパレルは受注予測が難しいのではないか」という事。
しかし、この点、彼女がさすがなのは「ソージュ」の商品自体は実は短くても3年は継続販売することを想定してデザインをしているというのだ。つまり、ここでこの店のコーディネイト力が発揮される。その時代にあわせコーディネイトは自由自在に変化させられるから、常にお客様には新しい印象を持ってもらえることができる。でも、それらの裏側にある商品は定番的な商品だという現実である。
そもそも女性の消費は常に、気持ちとセットになっていると僕は思っている。気持ちの変容に合わせて着るものも変化するから、そこで彼らの親身なコーディネイトにより、満足してもらえれば、それはこの店のファンになるのも当然である。それがこのポップアップでの来店にも繋がっていて、「ソージュのお祭りごとには全て参加する」というお客様も少なくないのは、それらが全て機能しあっているからなのだと思う。
実際その土台がある中で、お客様との関係性は良好で、初日の朝には並んでまで、そのコーディネイトを受けたいという人が生まれたほどである。これこそが百貨店や商業施設では生み出せない集客力なのだと思うから、百貨店や商業施設もそういうブランドと組む事に意味を感じ、柔軟に対応するようになるわけである。
市原さんも涙を流して嬉しかったその話
このお店をやったことの意味を語る上で、最後に市原さんが話してくれたこんな素敵なエピソートをあげて締めたいと思う。「実はですね、昨日の夜とあるお客様のTwitterを見つけて、それをみて私、本当に泣いていたんですよ」と嬉しそうに語る。
「その方はソージュの立ち上げの頃から知ってくださっていて、いつか着てみたいなと思っていたらしいんです。代官山のサロンもあるのは知っていたけど、どうやら、そのお客様は『もし合うサイズがなかったら哀しい』と思って予約できなかったというんです」と。
「でもポップアップだったら他の人もたくさん気軽に試着できるかなと勇気を出して行ってみたのだそうです。そしたら、すごく丁寧に見繕ってくれて自分が綺麗に見える洋服がいくつも見つかったと。洋服を着て嬉しくて泣けてきたのは人生で初のことでしたと書かれていたのです。それを見て涙が溢れました」。
そして、「こんなシャイなお客様もいらっしゃるんだなと思いましたし、隠れ家サロンのようなものは実は敷居が高いのかなと思わせてくれたのは、大きな気づきでした」と述べる。今回のポップアップショップの意味は、その一言で十分、成果があったのではないかと思った。気づきを得たと共に、お客様にとって人生初の泣けてくるほどの喜びを提供できたことに、このイベントの意義を感じたことだろう。
勿論、アパレルを提供しているのだけど、やはりアパレルやコーディネイトはきっかけで、このお客様との深い繋がりにこそ「ソージュ」の魅力があり、強さであると僕は思うし、これぞD2Cである。だからこそ、生産体制や物流環境などを駆使して生産性高く運用して、その強みを最大化させて、今日もお客様と真摯に向き合う事に集中する。彼らが夢見るさらなる高みは、いつも顧客満足度と比例している。
今日はこの辺で。