ShopifyのPOSが拓く“オンラインとリアルの垣根なき”未来─商品を軸にした新しいマーケティング視点

ネット通販の急伸が顕著な昨今、一方で実店舗を持つ企業やブランドも独自の体験価値を打ち出す重要性が増している。ShopifyはもともとEC構築のプラットフォームとして知られてきた。だが、近年ではPOS(販売時点情報管理)をはじめとしたリアル店舗向けの機能も強化。オンラインとオフラインを横断する“垣根のない”ショッピング体験をサポートする。そうなることで、単なるECベンダーから一段階進んだ存在へと進化を遂げつつある。
それを通して「商品を軸にしたデータ活用」「オンラインとリアルの融合」「事業者やブランドのオリジナリティ発揮」の重要性を論じる。ECとリアルの対立構造ではなく、“両者を自在に行き来できる顧客体験”をどう作るのか。数年先を見据えても色あせない視点として整理してみよう。
1. チャネルから商品軸へ──変わるマーケティングの捉え方
オンラインとオフラインを区別しない時代
かつては「リアル店舗」と「オンラインストア」を分けて、それぞれで顧客を囲い込むのが一般的。ところが今は、消費者が多様なチャネルを縦横無尽に行き来する。だから「どのチャネルで買っても変わらない体験」が求められるようになっている。
Shopifyが「Shopify POS」を発表した背景にも、この潮流がある。
オンライン上の顧客データと、リアル店舗のPOSデータを一体管理する。それができれば、販売タイミングや商品の人気動向をより正確につかむことが可能になる。ブランドやショップはチャネルごとのバラバラな情報にとらわれず、“商品軸”で顧客との接点を最適化することができるのである。
“商品データ”がマーケティングを変える
EC領域では、顧客が“いつ・どこで・何を買ったか”がデジタルデータとして蓄積されている。
リアル店舗でもPOSデータを活用すれば、似たように“いつ・どんな顧客層・どの商品が売れたか”を捕捉できる。これらを一本化すると、「どの商品がどのタイプの顧客にいつ好まれるのか」がより精緻に把握可能になるわけだ。
- • メーカーは、どの店舗やブランドが自社商品にマッチしているかを検証しやすくなる。
- • 店舗(ブランド)は、顧客ニーズと商品特徴を合致させた仕入れや開発を行いやすくなる。
従来は「在庫があるかどうか」「店舗の立地特性」という視点が優先されていた。だが、これからは「商品特性 × データ × 顧客体験」をどう設計するか。それが、マーケティングの要となっていくだろう。
2. オフライン強化の鍵──Shopify POSと決済基盤の進化
なぜPOSが重要なのか
POSはリアル店舗のデータを取得するための入り口である。Shopifyはオンラインストアでのトランザクションデータを強みとしてきた。だが、そこにリアル店舗のPOSデータを加える。そうすることで、一貫性のある顧客理解が可能になる。
- • オンラインで目をつけた商品を店舗で試着して購入。
- • 店舗でスタッフから商品知識を得てからオンラインで再購入。
こうした行動を一つの顧客ストーリーとして把握できるようになる。そうすれば、接客の質やアフターフォローの精度が格段に上がるわけだ。
Shopifyペイメントの充実とPOSとの連携
データを集積するうえで欠かせないのが決済手段の多様化である。
Shopifyはクレジットカード決済に加え、電子マネーやコンビニ払い、スマホ決済、仮想通貨など幅広くサポートしている。日本ではJCBカードやPayPayなども利用可能。より多くの顧客層をカバーできるようになっている。
- • オンラインとオフラインの決済方法が統一感を持てば、顧客IDと購買データのひも付けがスムーズ。
- • 「Shopify POS」を導入した店舗では、リアル店舗での決済データとECのデータを一元管理しやすい。
結果として、“顧客体験のトータルデザイン”がしやすくなる。店舗スタッフやブランド側もデータに基づいた施策を打てるようになるのである。
3. システム移行や物流支援で“運営しやすさ”を後押し
他サービスからのスムーズな移行
店舗(ブランド)が成長過程で、より高度な機能を求める場合、プラットフォームの乗り換えが課題になることがある。そこでShopifyはBASEなど他社サービスからの移行をサポート。店舗運営者が自社ECの機能を拡張できるよう配慮をしている。
- • 小規模な段階でBASEを使っていたが、中規模以上に成長したのでShopifyへ移行。
- • 新たにリアル店舗も導入するタイミングで「Shopify POS」と連携したい。
こうしたニーズに対応できる柔軟性が、事業者の運営効率を高め、結果として顧客体験の向上にもつながる。
物流面や画像編集など“痒いところに手が届く”アプリ連携
Shopifyは公式・非公式合わせて多数のアプリやサービスと連携。物流管理や画像加工など運営者が頭を悩ませる工程を簡単にする仕組みを整えている。例えば、下記の様な連携である。
- • ファッション系EC:ZOZOTOWN出店企業との在庫・出荷管理を一元化
- • 画像編集ツール:「Scratch Photos」などAIを活用し、商品写真の背景処理を簡単化
特に商品の見せ方や出荷作業は、EC運営における大きな負担ポイント。Shopifyはそうした課題をアプリで軽減する。それで、運営者が「ブランド価値を高める施策」にリソースを集中できるようにしている。
4. エコシステムづくりと“裏方に徹する”Shopifyの本質
“裏方”としての役割に徹する強み
Amazonや大手ECモールは、消費者がプラットフォームで買い物をするという仕組みが主流。一方でShopifyはあくまでも“ブランドやショップの裏方”に徹する。その分、事業者独自の世界観やブランディングを可能にするデザイン・機能・アプリ連携を提供する。
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- • 「オンラインとオフラインの双方でブランド体験を提供したい」
- • 「顧客データを自社でしっかり把握し、独自にマーケティングを展開したい」
そうしたニーズに応え続ける。そうすることで、Shopifyは世界規模で利用者を増やしてきた。POSを含む機能拡張はまさにこの戦略の延長線上にあり、“お店のカラーを活かすための道具立て”をどんどん広げているわけである。
5. これからの小売──“商品を軸にしたデータ活用”が生む未来
実店舗が売上を稼ぐ場であることに変わりはない。だが、今後はそれ以上にマーケティングの要としての役割が増すだろう。なぜなら、オンラインとは異なるリアルならではの接触機会から得られる情報があるから。
- • スタッフが対面でヒアリングした顧客の好みや表情
- • 店頭で試着したけれどオンラインで購入した実績
こうした情報をShopifyのPOSや決済データと組み合わせ、オンラインの行動履歴とも連動させれば、より正確な需要予測や顧客エンゲージメント強化が実現する。
さらに店舗自体がメーカー化し、「自社ブランド商品を開発・仕入れ・販売する」という動きも加速するだろう。
“商品”という視点で顧客と向き合う
ブランド構築やショップ運営の究極的な目的は、「顧客に価値ある商品・サービスを適切に届ける」こと。そのために、今やチャンネル(オンライン・オフライン)の違いはもはや障壁ではない。むしろ統合すべき要素なのである。
- • いつ、どのタイミングで、どんな顧客が、どんな商品を欲しているのか
- • その商品に共感を生むストーリーやデザインを、どう見せれば効果的なのか
ShopifyはPOSとECのデータ融合、豊富な決済手段や物流サポート、パートナー企業とのエコシステム構築により、この“商品を軸にしたマーケティング”をしやすくするプラットフォームへと進化を続けている。
まとめー EC専業の発想ではECはまわらない
Shopifyは“EC専業”のイメージを持たれがち。だが、POSによるリアル店舗対応や多彩なアプリ連携、決済基盤の強化などにより、オンラインとオフラインの垣根を取り払いつつある。
ここにShopifyの戦略の強さがある。あらかじめ、ECをする為のリソースではない。個々の持つ店の販売価値を最大化する。そこに向けて、機能を実装させているから。フラクタの河野さんは、もしかしたら、BASEとShopify以外は無くなるのではないかと危惧したほど。
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結果として、単に「どこで売るか」ではない。「どんな商品を、どんな顧客に、いつ届けるか」という本質的な課題に向き合えるようになっていく。
データを集積しながらブランド体験を最適化する戦略。それが、これからの小売・ECの主流となっていくだろう。
Shopifyが目指すのは、オンラインやリアルといったチャンネルの分断を超えて、“商品”という軸で顧客と結びつく新しいマーケティングの世界である。それは数年先を見渡しても普遍的に価値ある視点であり、いずれ定着するであろう。
今日はこの辺で。