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文具は、どこまで人の気持ちを扱えるのか──文具女子博2025、取材現場で交わされた「作る理由」

 文具女子博2025の会場で交わされていた会話は、市場規模や売上の話ではなかった。「なんで、これを作ったんですか?」その問いに対して、作り手たちはすぐに整った言葉を返さない。少し考え、笑い、「理由なんて大したことじゃないんですけどね」と前置きしながら、それでも自分の中にあった衝動を、ゆっくりと言葉にしていく。

 本稿は、実際に会場を歩き、声をかけ、立ち止まり、その場で話を聞いた記録である。完成された思想ではない。だが、だからこそ、今の文具がどこへ向かっているのかが、はっきりと見えてくる。

小さくした理由?「かわいいからです」── ムトウユニパック「封筒女子部」

 ムトウユニパックには、社内プロジェクトとして「封筒女子部」という取り組みがある。その封筒女子部が手がけたのが、窓付き封筒を、さらに小さくした商品だ。

 理由を尋ねると、返ってきた答えは驚くほど率直だった。

「かわいいからです」

 用途や機能の説明は、その後でいいという。

「用途は後から考えました。請求書も入るし、意外と使えるんですよ」

 まず感情があり、合理性は後から追いつく。

 封筒女子部の活動は、機能を否定しているわけではない。ただ、「好き」という感覚を商品開発の起点に置いている。文具女子博という場で、この順序が成立していること自体が、今の文具の立ち位置を象徴している。

思いつきを書き留め、形にし続ける── Stamp shop – coron

 Stamp shop – coron の手帳スタンプは、市場分析やトレンド予測から生まれたものではない。社内のデザイナーが、日々思いついた絵柄をまず書き留める。だから、写真を見てわかる通り、全部違う模様のスタンプが並んでいて、これだけではなく、社内にも違うデザインがあるのだという。

 そして、「これ、スタンプにしたら面白いかも」という感覚で、少しずつ形にしてきたから、絵柄のデザインが柔軟である。スタンプは少量から作りやすいアイテムであるが故の利点を活かしたもので、バリエーションの豊富さに女子は夢を抱く。

 デザイナーも女子なのだから、思惑は一致する。しかもデザインもキラキラ仕様の袋だったり、小さな缶に入れたり、外からその世界観は追求されている。

 どれも「管理」のためではなく、気持ちを残すためのスタンプである。体系化よりも、ストック。完成度よりも、思考の断片。

 文具が、整理のための道具ではなく、思考のメモ帳になっている好例だ。

80億人の中で、2人だけのお揃い── 2in8billion いろは出版

「8dは、80億の意味なんです」

 そう説明されたあと、続いた言葉がすべてだった。

「80億人いる中で、この2人だけ、という意味です」

 2in8billionは、世界人口80億人というスケールを持ち出すことで、逆に「この2人」を際立たせる文具である。

「全人類の中で、あなたと出会えてよかったね」

 その言葉は、商品説明というより、ほとんどそのままメッセージだ。イニシャルチャームを組み合わせ、ペアで使うことを前提としながら、購入者はカップルに限られていない。

 友人同士、あるいは一人で。関係性の定義は、使い手に委ねられている。大量生産の文具で、どうやって唯一性を残すか。2in8billionは、コンセプトによって数字を極端に際立たせることで、感情の一点を浮かび上がらせた。

スタンプ文化の蓄積が生んだ「はんこ沼」── ビバリー

 ビバリーは、もともとスタンプを扱ってきた企業である。その長年の蓄積の上で、ここ数年、再び顕在化しているのが、いわゆる「はんこ沼」と呼ばれる現象だ。

 春先から、はんこにハマる人たちが急増している。背景にあるのは、手帳ログ文化の広がりである。

 判子を使うことで、記録をフォーマット化しやすくなり、枠を作ることができる。日付に感情を乗せることもできる。マスキングテープやシールと並び、はんこは手帳を自分仕様にするための道具として再評価されている。

 管理のためではなく、モチベーションを保つための文具。その文脈の中で、「はん沼」は自然に生まれている。

 そんな彼らは、例えば、レトロ堂といって懐かしいモチーフに吹き出しを入れるなどして、ハンコで手帳のレイアウトを楽しむ工夫を。単純に必要事項を押すのではなく、想像力を広げる材料としてハンコを活用しているのが、先ほど触れた「はん沼」文脈から広がる新しいハンコスタイルだ。

 それ以外でも、彼らのオリジナルキャラクター「ぶんくま」で、アンブレラチャーム。アンブレラと言いつつ、実際には、ノートのリングやコスメなどにつけるなどの用途もある。何気ない日常のものの可愛さを向上させる要素として機能しているのである。

意味はない。ただ、楽しい── イワコー「寿司クリップ」

 寿司の形をしたクリップ。理由を尋ねると、返ってきた答えは実に率直だった。

「特に深い意味はないです。楽しいから」

 だが、技術は本気である。もともと、イワコーは消しゴムの会社。面白くて、リアルな造形で知られる消しゴムの技術を応用して、作り出したのが、このクリップなのだ。造形物を得意としているからこそ、強度もしっかりしている。

 遊びと技術が、同じ熱量で並んでいる。それが、このクリップの魅力だ。

20分で、本を作るという体験── 東京美術紙工協業組合

 8枚16ページの製本キット。KURUMIというブランド名だ。大友になっているのは製本会社の考え方である。約20分で、本が完成する。狙いは明確だ。

「本を作る楽しさを、知ってほしい」

 子どもでも取り組めるが、「本は、こうやって手がかかっている」という実感が、確かに残る。文具を通じて、「結果」ではなく「過程」を体験させる提案である。

 要するに、用途だけではなく、それら紙を使ってどういう体験をもたらせるか。ここの部分にも楽しみを見出すのが、この「文具女子博」の魅力でもある。

自分だけの美術館を持つ── マリモクラフト

 なるほどと思った。「自分の美術館が作れる」という発想。それを文具で再現するから面白い。どういうことなのか。バッグそのものを美術館に見立てるのである。

 バッグには絵画を飾るフレームが描かれている。要するに、それを軸に、フレームを埋めていく。例えば、ピンズだけ買う人もいれば、セットで世界観を作る人もいる。

 単一の商品ではなく、工夫して掛け合わせることで楽しみ方が広がる。文具は、バッグや手帳と同じく、自己編集の場になっている。

 自分が何を好きか。何を大切にしているか。それを静かに表現するための文具だ。

紙の魅力を、もう一度信じる── カミパネルラ

 これも、紙の可能性を追いかけた文具である。

 組み立て式にしてオブジェに見立て、表面には絵画風のイラストをセットできるようにし、それ自体がポストカード入れなどの容器になる。

 さらに「たちか」という特殊紙を使ったフォトフレーム。熱加工で成形し、裏側から光を当てるとスケルトン効果が生まれる。絵の部分が透き通って浮かび上がる仕組みだ。

 担当者は、はっきりと言った。

「この紙の魅力を、どうしても伝えたかった」

 これも、本来の紙の用途とは別である。付箋ボードも、外側と内側がリンクした構造で、立てても倒れない安定性を備えている。紙は、単なる素材ではない。思想を伝えるメディアになっている。

カレンダーで、一年を物語にする── 一九堂印刷所

 彼らもまた印刷所であり、その個性をカレンダーで活かしている。おにぎりカレンダー、お弁当カレンダー、メガネカレンダー、旅行カレンダーなど、どれも12ヶ月をどう楽しむか、という視点から作られている。

 それらのカレンダーは、お弁当箱ケースに入っていて、中身のカードに描かれているのは、おかずだ。捲るたびに違うお弁当素材が出てくる。つまり、月ごとに違う弁当の中身を楽しめ裏を返すと、レシピが出てくる徹底ぶるだ。

 また、メガネカレンダーは、入れ物が、メガネケース風。その箱から取り出すと、メガネの形をしたカレンダーが出てくる。メガネの中には絵柄があって、これにも意味がある。実は、それらの絵は、木から紙へと変わる製造工程が描かれたものなのである。

 元はこの会社は、レコードジャケットを手がけていた企業。レコーと需要が減る中で、そのアイデアと工夫を別の切り口で、カレンダーを通して日常へと落とし込み、一年を「物語」として提示している。

 カレンダーは、予定表ではなく、時間を味わうための文具になっている。

文具メーカーが、化粧品を作る理由── ぺんてる

 非常に関心を持って見たのが、文具メーカーであるぺんてる。もはや文房具ですらない。なんと、化粧品分野に挑戦しているのだ。

 思わず「え?」と声が出た。

 まず、アイライナーから展開し始めた。事業開始は2023年9月。別部署での新しい挑戦で、満を持して、今回、「文具女子博」へ初出展となった。

 それこそ、不安もあっただろう。なぜなら文具の流通しか基本、彼らは知らないはずだからだ。

「ぺんてるだからこそ、いい」

 そう言われることを目指して、作った。というのも、彼らは、筆ペンの穂先技術に自信があるからだ。使えば、そのタッチ感でも他とは違うことを実感するのだという。当然、手に取ってもらうためにパッケージにも強いこだわりを込めている。文具で培った技術は、書くこと以外の領域にも、確かに届いている。

 これもまた、文具女子博の魅力の一つだろう。

 文具女子博は、完成された答えを並べる場ではない。

「なぜ作ったのか」

その問いに、正解のないまま答え続ける場である。

 今日はこの辺で。

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