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たつけとは?石徹白洋品店が守る、日本の伝統ワークウェア

 岐阜県郡上市の山奥にある石徹白(いとしろ)という集落。この地には、かつて庶民が日常で着ていた伝統の衣服が今も息づいている。石徹白洋品店は、そんな日本古来の服作りの知恵を掘り起こし、現代に合う形にリデザインして伝えているブランドだ。僕が惹かれたのは、その中でも代表的な衣服である。それは「たつけ」と呼ばれるワイドパンツ型の作業着なのだ。

 「この服の作り方を知ったとき、本当に目から鱗が落ちました。」

 そう語るのは、石徹白洋品店に関わるメンバーの一人。かつての人々の知恵が詰まったたつけの製法には、単なる「服」としての価値を超えた、受け継ぐべきものがあった──。

1. 「たつけ」とは何か──動きやすさと合理性の結晶

 たつけは、元々田植えや農作業のための作業着として作られてきた。特徴は、ゆったりとしたシルエットで動きやすく、丈夫なこと。さらに、布を無駄なく使う合理的な作りになっている。

「和裁の集大成とも言える服なんです。」

 その構造を見せてもらうと、その仕組みの秀逸さが際立つ。切り取る布の量が最小限に抑えられ、縫い目が動きの邪魔をしないように配置されている。そして、もともと着物文化の中で培われたため、折りたたんだときにもコンパクトになる設計がなされている。

 「もともと着物の布って、貴重なものだったじゃないですか。だから無駄なく使えるように、すごく計算されて作られているんです。」

 何気ないことだが、大したものだ。

 それは、現代の大量生産・大量消費のファッションとは真逆の、長く使うことを前提とした服作りの知恵だったのだ。

2. 「みんながユニクロのレギンスみたいに履けばいいのに」

 このたつけ、実際に履いてみると驚くほど快適だという。

「履き心地がめちゃくちゃいいんですよ。本当に、みんながユニクロのレギンスぐらい当たり前に履く時代がきたらいいなと思っています(笑)。」

 それもそのはず。たつけは元々、田植えや祭りの時に使われる服だったため、動きやすさが徹底的に考え抜かれているのだ。特に、日本の夏の湿気の多い気候でも快適に過ごせるように工夫されている。

 これまでの時代は大量生産、大量消費で済まされてきた。しかし、回り回って、こういう実用的で、かつ、自然に優しい設計の商品の価値が見出されるような予感がしている。

「正直、現代のワークパンツよりも、こっちの方が合理的だと思うんです。」

 現代の機能性ウェアに通じる要素を持ちながら、伝統の知恵が詰まっている。この服がもっと普及すれば、ただのファッションではなく、日本の文化そのものが次世代へと伝わっていくことになる。

3. 「たつけ」の作り方を公開する理由

 一般的なアパレルブランドなら、服の製造工程は企業秘密にするものだ。しかし、石徹白洋品店はその真逆のアプローチを取る。

「作り方を知ってもらうことが、この服を未来に残す方法だと思っています。」

 たつけのレシピを公開し、全国の人々が自分で縫って作れるようにしている。その背景には、単に服を販売するだけではなく、この文化自体を伝えていきたいという強い思いがある。

「アパレル業界では、作り方を見せることは普通しないですよね。でも、私たちにとっては“売る”ことよりも、“知ってもらう”ことの方が大事なんです。」

 作り方を公開することで、たつけの魅力が広まり、それをきっかけに伝統を守る意識が生まれる。さらには、石徹白という土地への関心を持つ人が増えていくのだ。

 この視点は新しくて、優しい。

4. 古き良き製法が呼び寄せた新しい人の流れ

 石徹白洋品店の活動が広がるにつれ、少しずつ地域にも変化が生まれてきた。

「このブランドをきっかけに、というと大袈裟ですが、石徹白に移住しようとする人が出てきました。」

 かつて存続の危機にあった小学校も、少しずつ子どもの数が増えているという。製法を知ることが、この土地への興味につながり、人の流れを生み出しているのだ。

 さらに、石徹白洋品店は、新たな挑戦として宿泊施設のリノベーションにも取り組み始めた。

「服だけじゃなくて、暮らし全体を感じてもらう場を作ろうとしています。」

 かつての日本の生活の知恵を、宿泊体験を通じて学べる場を目指している。たつけを入り口として、石徹白の文化そのものを体験できる場所が生まれつつある。

 地方は、都会中心の考え方の中で、後回しにされがちではないか?でも、実は都会こそ、画一的で生産的だから、気持ちを切り替えるには相応しいのかもしれない。心機一転、人が羽ばたき、行動を踏み出すのが、地方なのかもしれない。

5. 単なる服ではない

 石徹白洋品店が取り組んでいるのは、単なる「地方創生」でもなければ、「伝統文化の保存」でもない。

 彼らが守ろうとしているのは、かつて日本中で当たり前だった「衣服を自給する文化」だ。布を大切にし、無駄をなくし、機能性を追求しながらも美しさを持たせる。その知恵を次世代へ繋げることこそが、彼らの使命なのだ。

「石徹白の先人たちが残してきた知恵を、未来へと伝えていきたい。」

 僕がすごく感銘を受けたのは、たつけという一つの服。だが、こういうものが、土地の歴史や文化、人のつながりを再生していく。そして、人によってはこの場所で“自分”を発見する人もいそうだ。

 そして今、静かに、しかし確実に、日本の服文化を未来へと紡ぎ始めている。“ものづくりとは、文化をつなぐこと”──石徹白洋品店の挑戦は、これからも続いていく。

 今日はこの辺で。

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