閉鎖的から開放的へ。オタク文化が「推し活」へと進化してマーケットを牽引する
昨今、よく耳にする「推し活」。Oshicoco代表取締役 多田夏帆さんの話を聞いて痛感した。時代背景を思えば、この動きは必然なのかもしれない。そして、それは一過性ではなく、これからも定着すると。そう感じた理由は、単純にアイドルを追いかける、従来のオタクの文化とは違っているから。推し活は、思うに「閉鎖的」から「開放的」になることで進化したのである。だから、市場はますます拡大していく可能性を秘めていて、もう無視できない。
派生して広がりを見せる消費行動全般
Oshicocoという会社自体は、実はメーカーである。ただ、その社名の通り、推し活に関連したグッズ開発に特化させることで、推し活に関してのマーケティング支援やEC事業など行う。押し活に興ずる女子の気持ちを捉え、そこに相応しい商品作りをして、自ら販売まで行う。
ここで見事なのは別にアイドルグッズを作っているわけではない。また、専用の工場を持っているわけではない。推し活に付随するグッズ開発を行っているのだ。だから、推し活のプロフェッショナルである。
この視点は素晴らしい。従来のメーカーは、ものありきでのビジネスをしていることが圧倒的だからだ。「こと消費」から商品が生まれ、それが事業として成り立っている。そもそも、僕は、同社のメーカーらしくない視点に正直、僕は感心した。
さて、「推し活」専門家たる多田さんの話を聞いて実感したのは、何か。押し活にまつわる消費活動が、単純に、個人の自己満足を満たすだけでは解決しないところにあることということ。
推し活と聞くと、真っ先に思い浮かべるのが、アニメ?音楽?と言った具合である。けれど、彼女の説明を聞く限り、そこから派生した消費活動全般に及んでいる。彼女曰く、韓流に魅せられた後、その後、語学を勉強し、韓国の料理や化粧を学ぶ。つまり、推しを起点に消費活動が広がっていること。その価値を強調する。
推しをいうことで個人の個性を形成
そもそも、推しと好きであるということとの違い。それは、どこにあるのか。これも彼女曰く、それを周りに表現することとした。これこそが、これだけ市民権を得るに至った所以だと思う。SNSがあることで、推し活を通して、人がつながる。そして、先ほど触れた消費活動の拡大に拍車がかかる。
特に、SNSを使いこなすZ世代においては顕著。
自己紹介では、二言目にはーー推しであることをアピールするくらいになっている。多田さんが説明するところによれば、10代ー30代までの女性の生活が、ここ20年ほどで変わったことが大きい。それまでは、子育てに重きを置かれていた。だが、女性の社会進出が進んで、晩婚化が進むとともに、ぽっかり空いたその関心事に、ちょうど、推し活が当てはまったのだと指摘する。
そのマーケットは2030年には1兆円にもなると予測され、伸び代がある。
繋がりを深める推し活が市場の成長を後押し
思うに、SNSの台頭により、人は個性を発揮したくなった。そこの部分を埋める材料として、推し活が当てはまった。それは今までにないマーケットであり、人を巻き込まれる人の増加と共に、右肩上がりとなる。ここが従来と異なる。冒頭書いた通り、オタク文化で言えば、アニメなどのファンは、自分の気持ちを満たし、家に閉じこもりがちだった。
でも、SNSがあることで、同じファン同士がつながり合い、消費を刺激して、ゆえに、このマーケットを盤石にしているのだ。それを彼女の話を聞くたびに痛感するのである。だから、僕は敢えて「閉鎖的」から「開放的」とかかせてもらった。
だから、推し活とSNSはセットみたいなもの。そこから見ると、SNSというのはそれぞれ強みが異なるということも見えてきていると説明する。
コミュニケーションのインフラができている
例えば、「拡散力」に限って言えば、TikTokに勝るものはない。昨今、動画の影響力は大きく、それを短尺でコンパクトに伝わるTikTokはまさにそれの代表格。とはいえ、それを、共感する仲間同士で、口コミとして広げていくとなると、TikTokは不向きなのである。それは、作り込まれた動画ゆえに、作成者の負担が大きいからだ。口コミにより、広がりを狙うとすれば、X(旧Twitter)やInstagramを使った方が良くなる。
推し活はある一定の共通の共感に基づく。ゆえに、それがシェアされることで、これだけのマーケットになっていて、これは揺るぎない。つまり、多種多様な表現者が生まれ、形は違えど、SNSの特性ごと、多くの人の共感をもたらす動きは定着を続け、さらに伸びていくものと思われる。
Z世代を軸にSNSを使いこなし、それがもはや、コミュニケーション上のインフラとなっている。その流れの中で、自らの個性を発揮するのが「推し活」ということになって、それは一過性のものではないことがお分かりいただけるだろう。
消費へどう反映されているのか
さて、その実際の消費額は、推し活総研の調べによれば、中高生こそ、三千円だが、大学生以上は、一万円から五万円とかなり振り幅が大きい。そもそも、中高生にしてもお小遣いから出しているとすれば、かなりの割合である。
今でこそ、定着し始めているけど、推し色の発想。大抵の推しはグループによって構成され、一人一人に担当色がある。だから、そのアイドルなどが刻印されたグッズのみならず、タオルやうちわなど、推し色を全面に打ち出す動きが生まれる。色以外にも、そのアイドルが猫顔であれば、猫グッズが売れる。察するに、それをする理由は、第三者から見られることを想定しての自己表現だろう。
消費が生まれやすい土壌ができており、ファン同士の横のつながりも触発する。
それで、その金額にまで至るのは、SNSで横のつながりが活性化されているからである。例えば、その推しのライブに行っても、都心部に出て、出てきたからには、、となる。
同じ推しの人と食事をともにし、それも推しの勧めている飲食店でその時を堪能する。こういう流れに、オタクから生まれ変わった「推し活」の真骨頂があるように思う。
第三者からの見え方が大事だから派生する
そう考えると、多くの企業にとって無縁でないことがわかる。何も分かりやすくその推しの対象が刻印されていなくていいわけだ。上記の飲食店然り、いかに、この推し活の行動の内側に、自分たちのサービスなり、商品なりが接点を持てるか。
それで、その売り上げが格段に違ってくる。
その証拠に、最近は「花束」や「ケーキ」も売れていて、推し活に伴う消費なのである。
例えば、推しの生誕祭、つまり誕生祝いの場面でも、自らケーキを買う。そして、それをSNSにアップするわけである。推しの仲間とが繋がっていれば、一緒にいるかのようにしてその時を共に刻める。
もしも今までのように、閉鎖的なオタク文化であれば、これはない。一見すると全く関係のない商品でも、その推し活の需要の恩恵に預かれる可能性がある。
だから、逆算して考えれば、仕掛け方にもヒントが見えてくる。例えば、イベントでもフォトスポットを用意して、それで終わっては意味がない。そこにイベント性を持ち込み、今すぐそれをシェアすることに関心を向かせる必要がある。その行動が人のつながりを刺激し、SNSヘの行動へと駆り立てるからだ。
逆説的になるけど、オタク化させずに「開放的」に「推し活」として成立させるか。それが推し活を攻略する上で大事なのだろう。
今日はこの辺で。