キャンプギア それは ワークマン が過去を活かし次へと繋げる 戦略
キャンプギア?キャンプをしない僕には耳慣れない言葉だが、その戦略を聞かされて、納得したのである。これは今までの価値を活かしながら、次の時代へと繋げる成長絵図である。僕が伺ったのは、ワークマンの春夏新作発表会で、満を持して発表されたのが「キャンプギア」である。売上はキャンプギアだけで中堅メーカー並みの40億円を目指していて、最大55億円の増産体制も構築済。
ワークマン キャンプギア に注力するのか
1.これまでの機能性をフルに生かすから後発でも輝く
キャンプギアの「ギア」というのは「道具」の意味で、キャンプで使う道具全般を指す。元はと言えば、ワークマンは仕事着の延長線上で、その機能性が高く評価されてキャンプを趣味に持つ人から支持されるに至った。ただ、それはあくまでアパレルや靴などのファッションに限った話。キャンプ全般の用品を手掛けていたわけではない。つまり、今回の展示会を契機に、本格参入というわけである。
ポイントはどこにあるのか。それは生地である。
実はキャンプ用品というのは生地を使ったものが多く見られていて、ここで彼らは差別化要因を作れると着想したところにミソがある。
2.機能性に満ちた生地は横展開ができる
「テント」ひとつにしても、防虫加工など、ファッションで必要とされた機能をそのまま、キャンプギアで横展開できるからである。キャンプ用品という部分で言えば、既に世の中には存在していて、彼らが改めて入る余地などないはずなのだが、「その機能性を活かして」となると話は別。
大抵が「丈夫さ」などの視点であり「防虫機能」など、ワークマンがファッションで見せてきた独特の着眼点に目を向けたメーカーはそれほど多くはない。逆にいうと、ワークマンのそれらのアパレルで見せた機能性は、他にはないから、差別化要因になっていたわけであり、他の会社がそれをやろうとするほど、単価に跳ね返ってくるだけで、入りようがないのである。
とはいえ、それらの機能性が必要ないかと言えば、そういうことは無い。アパレルでキャンパー達がこぞってその機能を讃えたことでも分かる通り、必要なものである。
3.新ブランドをやるほど、既存ブランドの単価を抑えられる
しかも、それが彼らにとって成長を伴う大きな要因となりうるのは、横展開をすることでロットを多く発注できるわけである。ただ、実際は、担当者の方に聞くと生地そのものは高くはないようだ。
しかし、防虫など付加価値をつけるための素材の単価が高い。だから、それがテントなどアパレルよりも使われる面積が増えるほど、それらの素材が必要となるから、単価が低くなり、全部の単価を抑えられて、これらの機能性そのものが、付加価値たり得る要因を作るわけである。
賢いのは新規参入のキャンプギアをテコにすれば、同じ機能性を謳ってきたアパレルも同様に恩恵を受けることになるから、昨今、言われる「原料費の高騰」、「円高」、「運送費の上昇」などで、多くの会社で軒並み、商品の単価を上げる中で、彼らは65%は定価を据え置きにすると宣言した。勿論、キャンプギアもセットで1万円以下など、初心者でも手が届くラインナップを意識している。
ネットを強化する一手に
1.多くがネットを意識した展開
新ブランドの一手が、実は既存ブランドの価値を維持している構造が流石であるが、そこに加えて抜かりないのは、ECへの本格進出の要素も秘めていることである。現在においても既に、ワークマン商品は多く、積極的にウェブでの購入を促し、「送料無料」とする代わりに、彼らは拡大するリアルな店を受け取り拠点とすることを意図している。つまり、店舗では在庫を抱えない。
通常、ネットにおいては配達する事を連想していて、既存のリアルなお店を持つことが不利であるように思われたが、昨今、逆にお客様にお店に来てもらい、店舗受け取りを促す風潮が広がっていて、ワークマンもその一つである。
2.ネットの利点とリアルの利点
実際に何店舗か回って購入できない人がいるくらいなら、最初からWEB上で選んでもらい、それを確実にある事を前提に店に訪問してほしいと説くわけである。それゆえ、キャンプギアを含めて、春夏新商品は140アイテムがweb注文店舗受け取り専門となっている。販売は5年で200億円規模を狙う。
だから、これらをフックにしてその出店計画を加速させる構えであり、2030年までに1500店舗(ワークマン200/ワークマンプラス900/ #ワークマン女子400)を予定している。ウェブで探して一番、近くのワークマンで購入するという流れを構築していく考えだ。これは元々の作業着のワークマン、カジュアルのワークマンプラス、女性向けの#ワークマン女子と入口を複数持たせたことで、色々な商業施設や地域の路面店の状況を加味して、出店しやすくなっているのもプラスに働いている。
そして満を辞して長年の悲願であった銀座の旗艦店を4月にオープン、都内最大規模の池袋店のオープンも迫っており、それに対する受け皿は着々と用意されているわけだ。
ファン層をも拡大している
1.アンバサダーとの繋がりを強化
彼らが温めていたアンバサダーとの繋がりは、今まで以上に、商品作りに反映させることを意図しており、キャンプギアでも、130アイテム中43アイテムがアンバサダーと連携して生まれたものであることを明らかにした。
例えば、他では買えないカラー、汚れにくい素材、家族四人でもゆっくりなど、アンバサダーのサリーさんの声を取り入れ、ワイドミシックドームテントなどがそうだ。
これが結果的に、消費者の声を身近に感じられる手段と捉えており、その理由はアンバサダーが普段、YouTuberでその層の潜在的なお客様と直に接触を繰り返し、消費者の好みの最大公約数を知っているから、である。だから、彼らにアプローチすることは、そのジャンルに興味のある人たちの全般のニーズに答えることになるとしており、その連携の割合を今後は、半分程度まで引き上げることも明らかにした。
2.素材がもたらす日常が市場自体も拡大
さて、ここまで「キャンプギア」の構想を軸に話してきたが、それ自体がなぜに、マーケットも拡大させることになるのか。よく考えてみると分かるのだが、今までなかった「防虫」などが当たり前に、アウトドアに浸透すれば、当然、そういう理由でアウトドアに苦手意識を抱いていた人が、もっと身近にアウトドアにチャレンジするようになるわけである。
彼らの機能性でアウトドアの悩みを解決して、日常に近い生活を取り入れることで、その敷居を下げて、それを低価格帯で後押しするわけである。勿論、今はコロナ禍でのブームの要素もあるかもしれないけれど、利用者は増加傾向はこうすることで続けることができるだけでなく、マーケット全体の拡大で、自分達の成長を見込んでいるというわけである。
新しいブランド提案でありながら、既存ブランドの価値を底上げし、かつ、未来に向けては、消費者に近いところでニーズを集めて、自らの機能性の更なる向上に努めるなど、したたかな一面を感じさせるものであったし、まだその勢いに止まりはなさそうなことを実感したのである。
今日はこの辺で。