境界のない世界“チームラボボーダレス” その革新の歴史 新たな拠点 虎ノ門での船出へ至るまで
「デジタルアートに関しては自信があったんですよね」。森ビル 新領域企画部の杉山 央さんに尋ねると、そう熱っぽく話してくれた。「デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」に関しての話である。同所は2022年8月で幕を閉じてしまう。そこで、このミュージアムのこれまでを振り返るとともに、新たな拠点での発表を記者会見で行ったのである。
チームラボ 歴史 を紐解く
1.今までにないアートが生まれた理由
まさに、ミュージアムという類にはそれまでなかった形のアートを指し示した。
たとえ、ミュージアムと言っても、絵画を飾るだけではなく、その場所自体がアートとなり、鑑賞する人すらも作品の一部になる。今までのどのジャンルにも属さないタイプのアートであり、感銘を受けた。だから、僕は思わず、森ビルの杉山さんにそう尋ねたのだ。「かなりのチャレンジであったのではないか?」と。
すると、彼は自身の過去を口にした。実は学生時代、街は表現の舞台になると考えていた。それを自ら、表現しようと模索した一アーティストでもあったのだ。しかし、リアルの街でやるには制限がある。考えればわかる。銅像に何かペイントできれば、見るものに刺激を与えられる。けれど、許可を取る必要があるし、実行には何かとハードルが高いというわけだ。
2.デジタルでもっとアートは広がりを見せる
だから、彼はデジタルに可能性を見出した。彼が考えたものには、例えば、街ゆく人に、吹き出しをつけるなどをするデジタル上の仕掛けがある。つまり、デジタルを取り入れることで、彼のいう、街の“装飾”をアートで具現化させたのである。
そこまでしているから、自信はあったし、イメージもできていた。たとえ、それが、「今までにない」ものであってもそれは「浸透するだろう」と。それが冒頭の発言につながる。
自らアーティストだから、チームラボの実行する世界にも理解できたとも言えるだろう。
チームラボが個人のアーティストではないのがまた大きいと話す。組織として事業として、この美術館全体に及ぶアートを作り上げられる相手としては、チームラボにおいて他にはいない。そう彼は言い切ったのだ。以前からチームラボとは接点があり、共感できる部分も多かったのも大きい。
かくして、街が表現の舞台となるとする考え方は、具現化された。何気ないその壁も、アートを取り入れることにより、際限なく、その存在感を感じさせずに、人々を魅了する。それこそ、杉山さんが話していた世界ではないか。そう、この拠点の建設は、今の時代のテクノロジーを踏まえた、自然な流れであった。
予見して見えた文化とアートとデジタルと
ではチームラボ側に話を聞いてみよう。「ボーダーって人間が決めた概念だよね」そう彼らは語る。
床は?壁は?そういうものの多くは、我々人間がつくってしまっただけ。今こそ、境界のない世界が美しいと言って、この独創的な空間を生み出した。
だから、入った瞬間から、アートが際限なく広がり、順路もない。どちらに行くかは自分次第。その人が興味を持つほど、そのアートは広がる。例えば、背中を壁につけるだけで、花が咲く。鑑賞者自体も作品の一部となって、幻想的なその世界に、来場者は酔いしれるわけである。
東京の街に文化とアートをもたらす
森ビルの杉山さんは言う。「これからは都市の時代であり、その中心にある東京の発展を思った。ただ、その強さは経済的な意味合いが強かった。」そして、森記念財団都市戦略研究所が発表する「世界の都市総合力ランキング」を例に挙げ、(2019年時点で)世界第3位。
「ロンドンやニューヨークなどの都市と比べて、文化とアートが劣っていると思った。世界から見て、ナンバーワンの都市を目指すべく、その部分で、型にとらわれない発想でやるべきである」と。
一方で、チームラボの工藤 岳さんが話していた通り、「見るだけではなく、体験できるミュージアム。マップもなく、順路もない。その価値観が受け入れられるだろうか」と。ただ、チャレンジする意味はあったのだ。一度、そこから好奇心が花ひらけば、そこから世界はどんどん広がり、魅了するはずだから。
期待と不安と入り混じる、全くない概念である。なので、立ち上げる1週間前、事前に体験をした人から「出られない」とクレームが来て、慌てたくらいだと工藤さんは笑う。
自分達のやってきたことも踏まえて、出口がわからないという一見すると弱みに見える要素は、「彷徨い、探索する場所」と言い換えた。そして、もうひとつ。二度と同じ風景を作らない点もまた、他のミュージアムにはない。作品も、鑑賞者も常に変化し続ける。つまり、両方ともにコントロールできないところに、価値があるとしたのだ。
230万人の来場者 160カ国の人の利用
結果的に、その斬新さは、それらは多くの人に受け入れられた。その実績は昨年度で、230万人にも及んだのだ。近隣の青梅駅は同ミュージアム以来、利用者が1.9倍となった。
一年足らずで160カ国の人が利用するに至った。驚くなかれ、来場者の半分が海外の人。その内訳は、アメリカ27%、オーストラリア10%、中国9%、以下、タイ、カナダ、イギリスと続く。国の垣根を越えて楽しませてくれたと言える。さらに、雑誌TIME誌により、World’s Greatest Places 2019にも選出された。世界に類のないアートミュージアムとして、新風を起こしたわけである。
まさに、先ほど、杉山さんが話していた世界における東京のアートを知らしめるのに、格好の場所となったわけである。
今回の8月の閉鎖は、ビーナスフォートの閉鎖など、地元の環境に余儀なくされたものである。逆に言えば、それは、更なる街をアート化させる進化のためのようにも思える。シン・ボーダレスの世界への一歩である。そして、2023年竣工の「虎ノ門・麻布台プロジェクト」への移転の発表をしたのである。
新しいチームラボは虎ノ門から
その名も「森ビル デジタルアートミュージアム:チームラボボーダレス」である。
同プロジェクトの地域は、施設ありきではなく、人の営みがシームレスにつながる街という意味合い。商業施設や住宅や自然の公園などが広がる区画の中に、同ミュージアムが入る格好になる。
そう考えると、この移転も、先ほどの杉山さんのいう世界により近づいているのではないかという気にすらなる。
思うに、アップデートこそがデジタルの魅力だと思っている。実は、このミュージアムも、小さなアップデートを繰り返しているのをご存知だろうか。触ることで変化するアートも、コロナ禍で、やや浮かせて、触らなくても反応するようにしているのだ。つまり、その時代を生きる来場者の実態に合わせたチャレンジができるという事だ。まさに、些細なことだけど、その事実が、ボーダレスの真骨頂かもしれないと思った。
今回のリニューアルは、場所を取り替えての誰が見てもわかる「最大級のアップデート」だ。今から4年前、果たしてこれが受け入れられるだろうかという期待と不安を持って取り組んだように、そのくらい、僕らを刺激的に、楽しませてくれるアップデートであることを期待したい。さあ楽しみだ。意識は虎ノ門へ。
今日はこの辺で。