“クリエイティブ” 発想 の源 クライン氏の建築も sioの料理も同じだった
人の気を惹く“クリエイティブ”とは何か?それを思い、この二人の話を聞いていた。クラインダイサム アーキテクツ代表アストリッド・クラインさんとシズる代表取締役 鳥羽周作さん。ヤプリupdateというイベントでのトークセッションでのこと。それは、あらゆるものを受け入れ変化を楽しみ、驚きを考え続けようとすることで生まれる事なのかも、と僕は思った。その 発想 の原点を考えた。
発想 は共通していた クリエイティブ の真相
1.建築に潜む驚き
元々、クラインさんは蔦屋書店など、代官山T-SITEを手がけた建築家であり、鳥羽さんは代々木上原の名店「sio」のオーナーシェフであって、二人の業種は違えど、話している内容は共通している。僕が思ったのは二人が変化に対して敏感であること。それでいてすぐにそれに順応して、そこから人々に対しての驚きを発見するプロであるということだ。
特にクラインさんは「驚き」の意味について何度も強調していた。彼女曰く、それは些細なもので、例えばいつものテーブルに花を乗せるだけでもいいし、メッセージをおいておくだけでもいい。その想定外の驚きが、日常を充実させると話すのであると説く。おそらくそれが彼女の建築においても生かされているのだろう。
例えば、水道橋にある「toggle hotel」は高速道路とJRの線路に挟まれた逆三角形のような場所にあって、本来ホテルが建てられるロケーションではない。しかし、敢えてその立地を利用して、複数の列車が走るその様子を眺められる事をこのホテルだけの特権として楽しさに変えて、また、都会の無機質さを逆手に、部屋を丸ごと赤系、緑系といった具合に同系の色で統一した内装にしてみせ、それこそお客様を驚かせた。
2.シェルが考えるお客様への驚き
レストラン「sio」の姿勢もまたそこに近く、アラカルトでお客様に食べるものを選んでもらう店が多い中で、彼らは敢えてコースを固定しています。そこには彼らなりに考えるストーリーがあるから、それが真にお客様に伝わって、喜ばせて驚きを生んでいるのだと思う。
だからこそ、クラインさんが「ちょっと残念」と述べたのは、最近の建築で、タイムレス(時間を感じさせず)で、ニュートラル(無機質)なものを要望する声が少なくないという事だった。けれど、建物は「毎日過ごす空間」であって、だからこそ、そこに少しの変化や驚きが大事だと説くのである。
派手なものでもいいから、自分の大好きなイメージのペーパーを貼ればいいと語る。なぜならそれを毎日、見て元気になるということが起こるから。ここに彼女の建物に対しての本質を見た気がする。「それだけでもムードは変わるもの」であり「ペーパーだからいつだってはがせるでしょ?」と。毎日、生活するものだから、そうした心の動きを起こす工夫を強調するのである。
吸収していくその姿勢が日常に驚きをもたらすヒントになる
すると、不思議と、二人の考えが共通していることに気づくだろう。
そこで、クラインさんは語るのである。日常、意識しながらものを見て感じることの大事さを。インプットしたことがいつか何かしらのプロジェクトで発揮する時がやってくる。そうだと信じて日常を研ぎ澄ますだけで全然、クリエイティブの内容は違ってくることを強調した。
「sio」の鳥羽さんはクラインさんの感性に訴えかけるその言葉の数々に深くうなづきながら「呼吸をするように何かを感じ取ろう。そう話しているんです。」と答えたその中身が良かった。彼曰く、どんな些細なことでも『気持ちいいな』ということと『そうじゃないな』というものがあると話す。例えば、マクドナルドでピクルスの酸味が美味しいな、『気持ちいいな』と思ったら、それを自分の料理でもあの酸味の『気持ちよさ』を、自分達の料理の中のピクルスでも表現できないかな、と応用していく先に、お客様の驚きがあるとしたのである。
両者はシェフと建築家という異なる職種でありながら、同じように日常を研ぎ澄まして、吸収したものの中から、お客様への小さな驚きを持ち出しては、楽しみながら、仕事をしているのである。彼らのクリエイティブはまさに、今日、今この瞬間からもう始まっているのである。
今日はこの辺で。