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AI時代、プラットフォーマーは「売る」だけでは足りない──物流から見えた、お客様との“ちょうどいい距離感”

 以前、「物流はコストか、価値か」というテーマを取り上げた。物流には、大きく二つの方向がある。徹底して標準化し、コストを抑える物流。その一方には、梱包や同梱物、届け方にまで手をかけ、物流そのものを顧客体験に変える考え方がある。どちらが正しいという話ではない。

 大切なのは、自分たちが何を価値とし、どこに時間とコストをかけるのかを、明確に選ぶことだった。ただ、その議論を終えたあとに、一つ先のテーマが見えてきた。

 その選択を、店舗だけに委ねてよいのだろうか。今、店舗と物流の間には、ECカート、OMS、越境EC、メーカー支援など、さまざまなプラットフォーマーが存在している。彼らは、単に商品を売る仕組みを提供するだけではない。店舗の事業構造を知り、顧客との接点を持ち、売れた先で何が起きるかまで見渡せる立場にある。

 ならば、これからのプラットフォーマーには、店舗とともに顧客体験を設計する役割が求められるのではないか。そんな問題意識を、今回、KEYCREWグループが運営するSTOCKCREWの物流拠点を訪れて、語り合ったのだ。

俯瞰してその設計を見直すとき

 最新鋭の倉庫を見学したあと、future shopの安原氏、exicoastの石崎氏、ジグザグの仲里氏、宮内氏、KEYCREWの重光氏、アイルの本守氏、天真堂の松崎氏とトークロア伊藤氏ともに、座談会を行った。

 集まった人たちの立場は、それぞれ異なる。だからこそ、見えている景色も違った。しかし、議論を重ねるにつれて、全員の言葉が一つの方向へつながっていった。

 物流をどうするかという話ではない。

 AIによって人の働き方や、企業が使えるリソースが変わり始めた今、お客様に対してどこまで手をかけ、どこを仕組みに委ねるのか。企業にとっても、お客様にとっても無理のない、“ちょうどいい距離感”をどう設計するか。

 今回の議論がたどり着いたのは、そこだった。

プラットフォーマーは、売れた先まで設計する

①売れた先までが顧客体験になる

 今回、参加者に投げかけたテーマは、シンプルだった。「プラットフォーマーは、物流をどう考えるべきか。」

 少し前までなら、物流は物流会社、ECカートはカート会社、OMSはOMSと、それぞれが自分の担当領域を支えればよかった。しかし、今の顧客体験は、それほどきれいに分かれていない。

 商品を探す。購入する。届くのを待つ。箱を開ける。使ってみる。そして、問い合わせる。

 その一連の体験すべてが、店舗やブランドへの評価につながっている。そう考えれば、商品が購入された時点で、プラットフォーマーの役割が終わるわけではない。

 むしろ、売れた先にどんな体験が待っているのかまで理解して初めて、店舗に適切な提案ができる。

 その中で、今回の見学先であるSTOCKCREWは、物流の標準化を徹底していた。話し合う議題として、適切な会社だと思って、今回も取り上げる。

②リソースの使い方を変えることが本質

 彼らの特徴は、ロボットに任せる部分と、人が担う部分を切り分け、共通化できる作業を仕組みに変えていく。その結果、初期費用や固定費を店舗に求めず、使った分だけ支払う完全従量課金を実現している。

 それは単に「安い物流」ということではない。これまで物流へ固定的に割いていたコストや人手を軽くし、店舗が別のことに時間を使える構造をつくっている。

 つまり、物流を効率化すること自体が目的なのではない。店舗のリソースの使い方を変えることが、その先にある。

 店舗と店舗に近いプラットフォーマーたちがこの仕組みをみてもらい、理解すれば、「物流を外注するか否か」だけではなく、「その店舗は、どこに人の時間を使うべきなのか」というところまで提案できるようになるからだ。

「早く届く」も価値。けれど、梱包をやめられない店舗もある

① 生産性も顧客体験になる

 早速、future shopの安原氏が最初に語ったのは、物流現場の進化だった。以前に見た倉庫と比べても、人が作業する場面が減り、商品が流れる速度は大きく上がっている。

 その姿を見て安原氏は、「生産性高く、早く届くこと自体が、お客様にとっての価値になる」と話した。これは重要な視点だった。

 顧客体験というと、手厚い接客や特別な演出を思い浮かべがちだ。しかし、注文した商品が滞りなく、早く、正確に届くこともまた、十分な価値である。

② やめられない問題

 一方で、future shopを利用する店舗の中には、まったく異なる価値を重視する企業もいる。

 ブランドロゴの入った箱や、オリジナルのテープ。向きまで整えた同梱物や、手書きに近い温度を感じさせるサンキューレターなど。

 ECでは、荷物が届き、箱を開ける瞬間に、お客様の感情が大きく動く。その瞬間まで自分たちらしくありたいと考える店舗は少なくない。

 ただし、そのこだわりが、やがて事業の成長を止めることもある。正直に、それを口にした。細かな梱包仕様を物流会社に委託すれば、当然コストは上がる。対応できる物流会社も限られる。結果として、自社発送を続け、売上が増えるほど現場が疲弊していく。

③ 顧客満足は量ではない

 安原氏は、それを「始めてしまったので、やめられない問題」と表現した。

 お客様が喜んでいるし、自分たちも大切にしてきた。だから、簡単にはやめられない。

 思ったのは、続けることで利益を圧迫し、事業を伸ばせなくなることだってある。ならば、その顧客体験は長く維持できない。

 ここで必要なのは、梱包を続けるか、やめるかという二者択一ではない。どこまでがブランドに不可欠で、どこからは共通化しても、お客様との関係を損なわないのか。

 そこを見極めることである。手をかけた量が、そのまま顧客満足になるわけではない。企業が無理なく続けられることもまた、顧客満足を守るための条件なのである。

海外だからこそ、想いと合理性の衝突がはっきり見える

① 思いも届ける

 安原氏の話に対し、ジグザグの仲里氏や宮内氏は、「うちは海外なので、少し事情が違う」と話した。ジグザグは、日本のECサイトを訪れる海外ユーザーに対して、購入代行から決済、多言語対応、海外配送までを提供している。

 扱う相手は、世界約200カ国のユーザーだ。同社が大切にしている考え方の一つに、「思いも届ける」がある。

 そのため、商品を海外へ再発送する際も、できる限りショップから届いた箱を活かしている。ショップのロゴやデザインを含め、その店らしさを海外のお客様にも届けたいからだ。

 ところが、その想いが、そのままコストになる。商品に対して箱が大きければ、海外送料は高くなる。ショップの箱を喜んでくれる人もいれば、「配送料金が高い」と感じる人もいる。

 しかも、海外輸送では、きれいに送り出した箱が、きれいなまま届くとは限らない。飛行機に積まれ、複数の拠点を経由する中で、箱が傷むこともある。

 想いを届けたい。しかし、そのためにお客様の負担が増える。仲里氏が「まだ解決していない」と率直に語ったのは、そこに簡単な正解がないからだ。

② 海外物流はもっと複雑

 さらに、ジグザグの物流は、自動化そのものも難しい。

 同社には、一般的な物流で使われる統一された商品マスターがない。海外ユーザーが複数のショップから買った商品が次々と届き、JANコードがあるものも、ないものも含めて検品する。一定期間保管し、別々の店舗から届いた商品をまとめて発送することもある。

 STOCKCREWのような「商品を在庫からピッキングして出荷する」構造とは、出発点が違う。それでも仲里氏は、作業台の配置や梱包資材の管理、動線のつくり方など、共通化できる部分には多くの学びがあったと語った。

③ 最大公約数をどこへ置くか

 最後に仲里氏が口にしたのが、「最大公約数をどこに置くのか」という言葉だった。すべてを同じにはできない。

 だからこそ、共通化できるところは仕組みにし、個別に対応すべき部分だけに人の力を使う。海外物流は特殊に見える。

 けれど、そこで起きていることは、国内ECと変わらない。想いを込める場所と、合理化する場所をどう分けるのか。顧客との距離感を設計する上で、避けて通れない判断である。

「送料無料」が、お客様との距離を見えにくくした

① 物流現場が抱える現実

 天真堂の松崎氏は、化粧品OEMの立場から、多くの通販企業の現場を見てきた。物流現場を訪れるきっかけは、クレームであることも多いという。そこで目にするのは、付加価値をつくるために、細部まで決められた梱包だった。

 サンキューレターにはじまり、別商品の案内。そして、クロスセルのチラシ。入れる順番も、向きも決まっているわけだ。

 一つひとつに手をかけ、ブランドの世界観をつくっている。その一方で、私たち自身がAmazonなどで商品を買う時には、同じ箱に商品が入り、隙間が埋められているだけでも、ほとんど気にしない。

② 「教育」という視点

 この違いを、松崎氏は「教育」という言葉で捉えた。「送料無料」という表現が広がったことで、送料は本来存在しないもののように見えるようになった。

 外箱や緩衝材についても、「自分が頼んだ商品ではないから無料」と受け止められやすい。

 しかし実際には、箱にも資材にも費用がかかる。荷物を運ぶ人がいる。現場を設計し、作業する人がいるだっているわけだ。そのすべてにコストが存在する。

 その点、安原氏も、長く利益を出している店舗ほど、「送料無料」という言葉を安易には使わないと話した。送料を取ることが冷たいのではない。かかっている価値を、正しくお客様に伝えているのである。

③ 顧客満足は納得感

 ここで大事なのは、お客様の期待にすべて応えようとすることではない。外部の競争環境によって生まれた「当たり前」に振り回されるのでもない。

 自分たちは、何に価値を置く会社なのか。どこまでを価格に含め、どこからを別の価値として説明するのか。それを企業自身が決め、お客様に伝えることだ。

 顧客満足は、際限なく手を尽くすことで生まれるのではない。何を大切にする企業なのかが伝わり、その価値にお客様が納得することで生まれる。

 つまり、満足はサービスの量ではなく、企業とお客様の間に生まれる納得感なのである。それを彼らの言葉から徐々に感じ始めたのである。

標準化と属人化は、対立するものではなかった

① 外から見た最適解

 改めて、STOCKCREWに目をむけてみよう。外側から物流を標準化している。扱える商品のサイズや作業工程を整理し、誰が作業しても品質がぶれない仕組みをつくる。機械へ投資し、オペレーションを均一化することで、物流を安価に、多くの事業者へ届けている。

 それを店舗側から見た時、どう映るのか。僕はexicoastの石崎氏に尋ねた。石崎氏は前職の外資の某ファーストフード店で学んだオペレーションを、自社の店舗運営に応用してきた。

 ただし、STOCKCREWとは逆に、あえて人の属人性を活かしている。誰でも同じことをできるようにするのではなく、人を育て、その人にしか生み出せない価値を強くしていく。

② 「形は違えど思想は一緒」

 一見すると、二つの考え方は正反対である。しかし石崎氏は、倉庫を見た感想をこう表現した。

「外から突き詰めていった最適解と、内側から突き詰めていった最適解は、だいぶ近いところに行き着く」

 そして、「形は違えど、思想は一緒」と続けた。

 ロボットを動かすか。人を育てるか。方法は違う。

③ 標準化の意味

 けれど、どちらも、限られたリソースの中で生産性を高め、他社とは違う価値をお客様へ届けるための選択である。石崎氏は最後に、同じことをしていれば、やがて価格の話になると語った。

 標準化は必要だ。ただし、標準化するだけでは差がなくなる。その上に何を積み上げるのか。

 どこを自分たちの個性として残すのか。その選択が、企業の価値になる。標準化は、人らしさを消すためにあるのではない。

 人が力を使う場所を、より明確にするためにある。STOCKCREWとexicoastが、異なる方法で同じ場所へたどり着いていたことは、今回の議論を象徴していた。

選択肢を示すことで、店舗が使う時間を変える

① 正解ではなく選択肢

 そして、議論の終盤、アイルの本守氏が語ったのは、OMSの立場から見える店舗の姿だった。本守氏のもとには、物流に関する相談も寄せられる。

 他のロジスティクスからの移行や、スポットで利用できる倉庫、店舗の規模に合った物流サービスなど、その内容はさまざまだ。相談を受ければ、状況に応じて提案できる。

 しかし、本守氏が問題視していたのは、相談へ来ない店舗も少なくないということ。

 他の方法を知らないまま、「これしかない」と思い込み、一つのやり方を続けている企業が少なくない。本守氏は、どれか一つを正解として勧めたいわけではない。

 「こういう選択肢もあります」と伝えたいのだという。

② プラットフォーマーの役割

 選択肢を知れば、店舗は自分たちの状況に合わせて選べる。物流へこだわるのか。外部に任せるのか。一部だけを委託するのか。

 その判断によって、本来取り組むべき仕事へ集中できる。これこそ、これからのプラットフォーマーに必要な役割である。なるほど。

 店舗へ機能を提供するだけでは足りない。店舗の事業を見ながら、どこを仕組みに委ね、どこに人を残すべきかを一緒に設計する。

 そのために、選択肢を増やす。

③ 考える環境をつくる

 手厚い物流を否定しているわけではない。自分たちはコストを抑える役割を担い、そこで浮いた時間とお金を、店舗が販売やマーケティング、商品づくりへ振り向けられるようにする。

 何でも引き受けるのではなく、自分たちの役割を明確にする。それによって、店舗側も選びやすくなる。プラットフォーマーがすべての答えを持つ必要はない。

 ただし、店舗が適切な答えを選べる環境は、つくらなければならない。これは深いと思った。

物流は、保管する場所から、価値が出会う場所へ

① 倉庫業ではない

 最後に重光氏が語った構想は、もはや、物流会社ではなかった。逆にいうと、だから、KEYCREWは、物流会社の常識にとらわれずに済んだとも言える。

 本当に実現したかったのは、「在庫のマッチング」だった。例えば、同じ倉庫にタオルを扱う事業者と、シャンプーを扱う事業者がいる。

 両者が一緒に商品を売ることになった時、商品を別の場所へ移動させるのではなく、WMS上のデータを動かすだけで仕入れを成立させる。物流費を発生させず、倉庫内で商品と商品をつなぐ。

② 物流が商流になる

 さらに、倉庫内にある商品をインフルエンサーが見つけ、販売する。売れた時にフィーを受け取る。そうなれば、倉庫は商品を保管する場所ではなく、新しい商流を生み出す場所になる。

 そして、さらに先には「コンビニで物流を売る」という構想がある。バーコードの付いた袋へ商品を入れ、コンビニに預ける。

 それが倉庫へ運ばれ、そのまま在庫として管理される。誰でも手に取れる場所まで物流を近づける。

③ リソースの再配置

 物流は、これまで事業が一定規模に達してから使うものだった。しかし、最初から気軽に使えるようになれば、小さな店舗や、これから挑戦する人も、発送作業に追われずに事業を始められる。

 ここにも、同じ思想がある。物流を便利にすることが目的ではない。人や企業が、本来力を使うべきところへ向かえるようにする。

 この会社の構想は、物流の未来を語っているようで、実際には、企業が持つリソースをどう再配置するかという話だった。

AI時代の「おもてなし」は、手数ではなく温度を設計する

① 全員の話を振り返る

 改めて、僕は思う。お客様との距離感を知れる時代だからこそ、ただ手を尽くせばいいわけではない。今は、レビューやSNS、購買データを通して、お客様の反応が以前よりも細かく見える。

 だからこそ企業は、「もっと応えなければ」と考えやすい。しかし、企業である以上、それによって利益が圧迫され、現場が疲弊すれば続かない。

② 今、変わっているもの

 続かないサービスは、長い目で見れば、お客様のためにもならない。安原氏の「やめられない梱包」は、手をかけることが顧客体験になる一方で、それが企業を縛ることも示していた。

 仲里氏、宮内氏の海外配送は、ブランドの想いを守ることが、お客様の送料負担につながる現実を見せた。松崎氏の「教育」という視点は、企業が価値を提供するだけでなく、その価値がなぜ必要なのかを伝える責任を示していた。

 石崎氏の言葉は、標準化と属人化のどちらを選ぶかではなく、どこを仕組みにし、どこに自分たちらしさを残すかが重要だと教えてくれた。

 本守氏は、その判断に必要な選択肢を、プラットフォーマーが示すべきだと語った。

 そして重光氏は、ロボットと人を適切に組み合わせ、物流にかかる固定的な負担を軽くすることで、店舗のリソースそのものを解放していた。

③ これからのおもてなし

 つまり、顧客満足とは、できる限り多くのことをすることではない。お客様が求めるものと、企業が無理なく提供し続けられるものの間にある、“ちょうどいい温度感”を見つけることだ。

 AIによって、これまで人が担っていた仕事の一部は、確実に仕組みへ移っていく。そこで新たに生まれたリソースを、どこへ向けるのか。

 それを決めるのはAIではない。外部の競争環境でも、「送料無料が当たり前」といった刷り込みでもない。自分たちは、どんなお客様と、どんな関係を築きたいのか。

 その見解を企業自身が持ち、必要なところには人の温度を残し、それ以外は仕組みに委ねる。これからの「おもてなし」は、手数の多さではなく、温度の設計によって生まれる。

 お客様との新しい距離感を、自分たちの意思でつくること。そこに、これからの顧客満足がある。

 今日はこの辺で。

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