買い物は“探す”から“感じる”へ──YouTube×楽天が示す、体験型ECの新章

ECは長らく、「検索し、比較し、最短距離で購入する」合理的な場だった。テキストと写真が並び、価格やスペックを見比べながら、目的の商品にたどり着く。しかし本日発表された「YouTube ショッピング アフィリエイト プログラム」と楽天市場の国内初パートナーシップは、その前提を書き換えようとしている。
それは、買い物が“探す行為”から、“感じる体験”へと移行する瞬間だ。信頼するクリエイターの言葉。動画という感覚的メディア。そして動画からシームレスに購入できる導線。
この記者会見から見えてきたのは、単なる機能追加ではない。「買い物の構造そのものの変革」である。
1.ECは“検索”の時代を終えようとしている
かつてのECは、明確な目的を持った人が訪れる場所だった。欲しい商品があり、それを検索し、価格やレビューを比較し、合理的に判断する。楽天が1997年に始まった当初、通信速度は14.4kbps。画面はほぼテキスト中心。どうすれば物が売れるのかを模索する時代だった。
その後、商品数は拡大し、機能は洗練されたが、構造は変わらなかった。「探す」ことが前提だった。
しかし今、ユーザーは必ずしも“買う目的”で動画を見ているわけではない。コンテンツを楽しむ中で商品に出会い、信頼するクリエイターの紹介によって「欲しい」と感じる。
検索から発見へ。
合理から感覚へ。
YouTubeと楽天の連携は、その転換点を象徴している。
2.信頼が購買を動かす──クリエイターエコノミーの力
Google日本法人代表の奥山真司氏は、YouTubeの社会的インパクトを提示した。2024年、日本のGDPに約4,600億円の貢献。85,000人の雇用創出。
だが、重要なのは規模ではない。日本の視聴者の76%が「YouTubeは最も信頼できる動画プラットフォーム」と回答している。Z世代では79%に達する。
さらに資料によれば、日本の視聴者の65%が「買い物の際に商品をリサーチ・発見するのに役立つコンテンツがある」と回答している。ここで起きているのは、広告主導から信頼主導への転換だ。
クリエイターは宣伝ではなく、自分の言葉でレビューする。誠実な説明が「納得」を生み、納得が購買につながる。信頼と納得。この二つが、新しい購買の柱になっている。
3.「商品を表示」が意味するもの──フリクションの消滅
今回の発表で見逃せないのは、UIの進化だ。動画視聴中に「商品を表示」ボタンを押すと、同一画面内に商品名や価格が表示され、そこから楽天市場の商品ページへ遷移できる。
検索し直す必要はない。
タブを開き直す必要もない。
発見から納得まで、シームレスな視聴体験。これは単なる利便性向上ではない。「買う前の手間」という心理的フリクションを消した瞬間だ。
視聴時間は、過去12か月でショッピング関連動画が400億時間に達しているという。この時間が、そのまま購買の入り口になる。動画とコマースが、物理的にも心理的にも接続された。
4.動画の中に売り場が入った瞬間
今回のYouTube ショッピング アフィリエイト プログラムの本質は、単なるリンク設置ではない。クリエイターはYouTube Studio(管理画面)で楽天の商品を選び、動画に紐づける。それだけだ。
手順はシンプルである。
まず「収益化」メニューを開き、利用資格があれば該当セクションをオンにする。
次に、商品名・ブランド名・URLで検索し、表示された商品を追加。
保存をクリックすれば、動画にタグ付けが完了する。
すると、動画再生中に「商品を表示」ボタンが現れ、商品名や価格がオーバーレイ表示される。視聴者はそのまま楽天の商品ページへ遷移できる。動画内で複数の商品を扱っていても、それぞれ適切に表示される。
説明欄にURLを貼るのとはまったく違う。動画の中に、売り場が組み込まれる。検索し直す必要はない。タブを開き直す必要もない。発見から納得までが同じ画面で完結する。
これは利便性の話ではない。“探す動作”そのものが消えた、という構造変化である。売り場は、ページではなく体験の中に埋め込まれた。
5.動画が変える顧客体験の質
従来のECは、写真とテキスト中心だった。しかし動画は、質感、使い方、空気感、温度感まで伝える。レビューの深度が違う。楽天の松村 亮氏も、動画がECの差を生む時代に入ったと明言する。AIレコメンデーション、ROOM、楽天アフィリエイトといった既存資産に、YouTubeの動画基盤が掛け合わさる。
動画の中で紹介され、タグ付けされ、ワンタップで購入できる。“動画を見る”と“買う”が一つの体験になる。購買は、情報処理から体験へと変わる。
6.楽天の原点と、エンターテインメントとしての買い物
また、三木谷浩史氏は、楽天創業当初の構想を振り返った。単なる商品陳列ではなく、コミュニケーションが生まれる場。買い手同士のコミュニティが形成される場。
焼きさばが1位になる世界。地方の小規模ブランドがトップになる可能性。楽天は、インターネットが常識を壊す場所であることを証明してきた。
そこにYouTubeのエンターテインメント性が加わる。
楽しいから買う。
信頼している人が勧めるから買う。
合理と感情が融合する。買い物は再び「楽しい行為」へと回帰する。そう三木谷氏は興奮気味に語るのである。
7.クリエイターは“起業家”になる
Google日本法人 YouTube Japan 代表 山川奈織美氏は、YouTubeのクリエイターを単なるコンテンツ制作者ではなく、一人ひとりの起業家と捉える。広告収益、YouTube Premium、チャンネルメンバーシップ、Super Chat、Super Thanks、Super Stickers。
そこに今回、「YouTube ショッピング アフィリエイト プログラム」が加わる。収益の選択肢が増えることで、クリエイターは自分らしいビジネスモデルを構築できる。
信頼を築いてきた関係性が、持続可能な経済基盤へと接続される。これは機能追加ではなく、経済圏の拡張である。
そして、今回の連携は、三方よしの構造を明確に打ち出している。
クリエイターには新たな収益機会。
視聴者には納得と利便性。
店舗には新たな顧客接点。
楽天は70以上のサービスを単一IDで結ぶエコシステムを持つ。YouTubeは信頼と視聴時間を持つ。信頼 × 動画 × コマース × ポイント経済圏。これが融合した時、購買は点ではなく循環になる。
8.日本のECは“体験産業”へ進化する
テキスト中心の合理的ECから、動画中心の体験型ECへ。
検索型から発見型へ。
広告主導から信頼主導へ。
そして何より、
「買い物は楽しい」という原点への回帰。
商品はモノではない。
体験の入口であり、感情の延長線上にある。
日本のECが“体験産業”へと進化する。
9.検索から文脈へ──購買の入口が変わった
思うに、これは単なる機能の話ではない。買い物の変革そのものだ。
ECは長らく、「商品を探しに行く場所」だった。検索し、比較し、最短距離で購入する。その合理性こそが正解で、運営の勝ち筋は最適化に置かれてきた。
しかし今、その前提が静かに崩れている。
人はもう、能動的に商品を探し続けない。商品と“出会ってしまう”導線が、日常の中に埋め込まれ始めたからだ。
今回のYouTubeと楽天の連携も、本質は同じ構造の上にある。動画という文脈の中で商品が語られ、信頼という関係性の上で納得が生まれ、そこからシームレスに購入できる。
これは販路拡張ではない。購買の入口が「検索」から「文脈」へ移ったという変化だ。
検索の時代は答えが一つだった。
最短で買えること。
だが、出会いの時代は違う。
誰に、どんな文脈で届くのか。
ECは、サイトを最適化するだけでは足りない。
出会いを設計する力が問われる。
今日はこの辺で。







