「売らない」から、信頼が根づく──ファンケルの小学生向けスキンケアに見た、理解から始まる価値設計

小学生にスキンケア?いらないんじゃない?それこそが間違った常識にとらわれている証拠だ。今回、コスメWeekで話を聞いたのは、株式会社ファンケルでマーケティング戦略を担い、現在は海外ブランディングを統括する板坂ひとみさんだった。テーマは、ファンケルが創業以来掲げ続けてきた「不の解消」という企業理念を軸にした新たなチャレンジ──小学生向けスキンケアである。
なぜ小学生なのか。なぜそれを社会課題と捉えたのか。そして、商品発売に至るまで、どのように社内の反対意見と向き合い、お客様起点で価値を組み立ててきたのか。そのプロセスは、単なる新商品開発の話を超え、今の時代における「価値の生まれ方」そのものを問い直す内容だった。
1. 使用者と購入者が違うとき、価値設計は根本から変わる
小学生向けスキンケアという領域を考えるとき、最初に直面するのは、使用者と購入者が一致しないという構造だ。使うのは子どもだが、買うのは親である。この前提は当たり前のようでいて、実は多くのマーケティングが十分に向き合えていない部分でもある。
親はまず第一に、子どもにとって本当に必要なのか、余計なことをしていないか、将来に悪影響を与えないか──そうした判断の重さを背負いながら、慎重に選択している。
特にスキンケアは、「何もしないほうがいいのではないか」という考えが常につきまとう領域だ。ここで重要なのは、親が懐疑的である一方で、それが真剣さの裏返しでもあるという点だ。
だからこそ、正しい知識をきちんと伝える。それが必要なのは、情報過多の世の中だからなのだ。仮に、肌トラブルに悩んだとしても、自分で調べるという手段がある。
しかし、情報が溢れているこの現代、本当に正しいこと、もしくは本当は正しくないことを、お子さんはどうやって取捨選択ができるのだろう。
情報は世の中にあるけれど、正しい情報が何かわからないというのも、実はこれからの子どもにとって、「負」があり得るのではないかということなのだ。
2. 子どもの肌は「きれい」ではなく「未成熟」だった
その点、多くの大人が抱いている「子どもの肌はきれい」というイメージは、間違いではないが、正しくもない。板坂さんの説明で示されたデータは、そのイメージとは異なる現実を浮かび上がらせていた。
子どもの肌は、水分量も皮脂量も大人より少なく、外部刺激に対して非常に未成熟な状態にある(水分量は大人の1/3、皮脂量は1/5)。一見、見た目がきれいであるがゆえに、ケアが不要だと思われてきた。
しかし実際には、守る力が弱い時期に、適切なケアが行われていないという“空白期間”が存在していた。
これは誰かの判断ミスではなく、正しい情報が共有されてこなかった結果だと言える。
そこで改めて、正しい知識の重要性に着目する。
この事実をどう伝えるか。ファンケルが選んだのは、まず肌の状態を正しく理解してもらうことだった。その理解があって初めて、「では、どうするか」という選択肢が意味を持つ。この順序を守ったことが、後のすべての設計を支えていた。
3. 売るためではなく、理解を補完するための商品
この取り組みで個人的に印象的だったのは、商品が主役になっていない点だ。商品は解決策ではあるが、出発点ではない。先にあるのは、子どもの肌の状態や環境の変化、そして親が抱える迷いへの理解である。
商品は、その理解を体感として補完するための存在として置かれている。「これを使えば解決する」という語り方ではなく、「こういう状態だから、こういう選択肢がある」という順序だ。
特にこの商品に関しては、正しく理解されていない子どもの肌の実態を学べる機会をまず創出し、そこから親が理解を深めていく。実際に学校へ行くなどして、丁寧に関わりを続けてきたのだ。
その過程で、早いうちからスキンケアをしておくことの重要性を実感し、利用が始まる。あとは、実態に即した使用体験を通じて、継続的な利用へとつながっていく。
だから、ただ商品を宣伝するという活動だけではなく、ファンケルとお客様双方に学びがある講座を開催する。それによって、お客様とブランドの間に信頼が生まれたのである。
4. 「市場が小さい」は、判断軸にならない
社内では当然、反対意見も出たという。少子化が進む中で、小学生向けスキンケアという市場は小さく見える。実際、利用率も低く、短期的な数字だけを見れば、効率が良いとは言えない。
しかし、ここで立ち返ったのが「負の解消」という企業の原点だった。重要なのは、市場が大きいかどうかではない。その「負」に向き合う必然性があるかどうかだ。
時代や環境が変われば、「負」の形も変わる。子どもの肌を取り巻く環境は、紫外線量の増加などにより、以前より過酷になっている。直近約10年で4.6%、紫外線量だけでも増えている。
光老化という言葉も最近聞かれるようになり、実際に肌のダメージは増えている。そこに目を向けることは、長期的に見れば、企業としての信頼を築く入り口にもなるのだ。
その事実を伝えることこそがマーケティング。
「何パーセントが満足しました」「何パーセントの人が持っています」。そうした数字的な情報だけでは、その裏に隠れた本当に真の情報は決して見えてこない。
見るべきは、生活そのものである。
5. まだ言語化されていない「負」は、必ず存在する
思うに、まだ言語化されていない「負」は必ず存在する。
それは売れるかどうかというマーケットサイズの話ではなく、ごく日常の中に潜んでいる。環境が変化し続けているからこそ、当たり前の中に埋もれてしまっているだけなのだ。
とはいえ、企業である以上、既存の価値と新たな価値を掛け合わせ、その課題解決を生活目線で見ていくことで、新しいアイディアにつながるのではないかというわけである。
ファンケルが今回の小学生向けスキンケアにたどり着けたのは、誰かの「負」を解消するという思想を常に念頭に置いていたからだと思う。
その軸がぶれなかったからこそ、誰に対して、どのように理解してもらうかを徹底的に考え抜くことができ、結果として継続的な顧客との関係づくりにもつながっている。
商品を軸にするのではなく、理解を軸にする。そこに、新しい価値の入口があることに、改めて気づかされた。
今日はこの辺で。







