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キャラクターは“売り場”を選ばないーリアルでしか売ってこなかった谷川商事が、ECで“届ける場所”をつくるまで

 「オンエア中に販売して買えるのは良いですね!こういった商品ってオンエア終わってからが多いので!」Xに投稿されたその言葉が、すべてを教えてくれた。アニメ『mono』の舞台となった山梨の地元店舗で販売されていた、とあるキャラクターグッズの話題。しかし、その投稿はこう続いていた。「どのみち自分には関係ないんですけどね!(;ω;プゥゥゥ。」つまり、現地を訪れた人は買えたが、遠く離れたファンにとっては、その商品がどうしても手に入らなかった。

 “今、欲しい”という熱があっても、それを受け止める場所がなければ、想いは宙に浮いてしまう。ネットで検索しても出てこない。たどり着けない。買えない。──それはあまりにも、もったいないことだった。

実は老舗ライセンシー──けれどECは眠ったままだった

 その商品を手がけていたのは、谷川商事という企業だ。その投稿が引用されていたのは、まさに谷川商事の公式Xではあるけど、そこに書かれていたのは販売店情報だったのだ。惜しい、惜しすぎる。

 実は、谷川商事は、20年以上にわたってアニメや漫画のキャラクターグッズを手がけてきた、業界では名の知れたライセンシー。

関連記事:キャラクターは、動かせる。──谷川商事が挑む「アニメ×地域」の次なるステージ

 『名探偵コナン』『SPY×FAMILY』『推しの子』──彼らが手がける商品のそのラインナップを見れば、実力は疑いようがない。

 ところが、販売の多くはリアル店舗に限られていた。ネットショップも存在してはいたものの、整備されておらず、訪れたファンが迷子になるような状態。

 SNSで話題になっても、商品ページにたどり着けない。買い物にすらつながらない。

その現場に静かに火を灯した、ひとりのEC改善者

 「これは、もったいない」

 そう語ったのが、EC改善のプロフェッショナル・ISSUN(いっすん)だった。ISSUNが感じたのは、キャラクター業界全体に共通する“構造的な機会損失”だった。

 ファンの熱量は、もう街の看板ではなく、SNSで生まれる。けれど、その熱を受け止める器──つまりECの整備が、業界全体として遅れている。

「整えるだけで、ちゃんと届くようになるのに」

 ISSUNは、谷川商事とともに、静かな改革に取り組み始めた。

売り場を整えるということは、“信頼の入口”をつくること

 まず手を入れたのは、トップページだった。

① トップページを「キャラグッズ専門」に見せる

  • ロゴ・画像・カテゴリを工夫し、一目で“何の店か”を伝える
  • 見た目の信頼感が、購入への第一歩

 正直、何のサイトかわからない。恐縮しながら、ISSUN矢崎宏一郎さんは指摘した。ロゴや商品写真、カテゴリ分類。すべてを見直し、「ここはキャラグッズを扱っている場所だ」と一目で伝わるようにする必要があると指摘したのだ。

 人は、何を買うか以上に、「誰から買うか」で心を動かされる。下手すれば、転売サイトとと思われてしまう。だからこそ、第一印象にあたるトップページで、信頼の入口を丁寧に設計した。

② キャラごとの商品分類を徹底する

  • 「コナングッズ」「monoグッズ」などカテゴリを整理
  • バズ時にも該当商品に直接飛べる導線を用意

 多くのECサイトでは、その“らしさ”がカテゴリー分けに表れる。

 たとえば谷川商事であれば、カテゴリをキャラクターごとに整理することで、「何のサイトなのか」がひと目で伝わるようになる。

 言われてみて気づいたのだが──この点こそが、クリエイター個人のECサイトと、企業のECサイトの大きな違いなのかもしれない。

③商品情報を“買いたくなる温度感”で整える

  • 画像は1枚だけでなく複数。魅力的な見せ方を工夫
  • 「カード付き」「限定セット」「再入荷通知」などファン心理をくすぐる要素を加える

 次に指摘したのは、商品情報の充実。これまで1枚しかなかった商品画像。これでは商品を決定する要因としてはあまりに弱い。店で実物を見るように、内容がわからないといけない。それを複数に増やし、サイズ感や使用イメージが伝わるように調整。

 さらに「EC限定コンプリートセット」や「カード付き5個セット」など、ファンの心をくすぐる提案も加えられていく。リアル店舗との大きな違いは、その場で開封して楽しむ“体験”がECにはないということ。

 たとえばカード付き商品なら、リアルでは「当たるまで買う」「友人と一緒に開ける」といった偶然性も含めた楽しみ方がある。

 けれど、ECでは商品が手元に届くまで時間がある。となれば、あらかじめ全種類をそろえた“コンプリートセット”を用意しておくことで、「確実に欲しいものが手に入る」という安心感と特別感を提供できる。それは、リアルとは違う文脈で、ファンの気持ちをくすぐる──ECならではの仕掛けなのだ。

“売る”ではなく、“共に楽しむ”ための仕掛けを

④ブログや特集で“背景”を語る

  • ただの販売ではなく、背景にある物語や熱量をブログで伝える
  • 「何者が売っているか」を知ることが、ファンとの信頼関係に

 ISSUNがとりわけ大切にしたのは、販売の裏側にある“人の想い”だった。ただ売るのではなく、「一緒に楽しんでいる感覚」を届けること。

 そのために提案したのが、山梨の地を舞台にした“聖地巡礼ブログ”だった。販売する側が自ら足を運び、その土地で感じた空気やキャラクターへの愛情を言葉にすることで、ファンとの間に共感が生まれる。

⑤ SNSとの連携を想定した設計に

  • Xのバズ投稿にすぐリンクを貼れるよう、投稿前に準備
  • コンテンツも“共犯感”を醸せるように仕掛ける

 さらには、X投稿にも工夫を凝らす。

 ファンだけがわかるセリフや効果音──たとえば「ドドドドド…(ジョジョの奇妙な冒険のファンにはお馴染み)」のような世界観の引用を含めることで、届く人には深く届く発信ができるように。

 その投稿に、今度は“ちゃんと買えるリンク”がついていれば、ファンの行動は自然と生まれる。

届けるということ、それはファンとキャラクターをつなぎなおすこと

 これは、売上の話じゃないんです。届けるって、そういうこと。リアル店舗を大切にしてきた企業だからこそ、オンラインでもその誠実さが活きる。

「どうやったら気持ちよく届けられるか」を考える姿勢が、キャラクターを“ただの商品”から、“特別な誰かの宝物”へと変えていく。

 谷川商事のECは、今、静かに整えられつつある。何気ないことだが、その踏み出す一歩での指摘が参考になったのではないか。

 ひとつひとつは地味な作業かもしれない。けれど、そのひとつひとつがファンとの距離を縮め、キャラクターの未来を広げていく。リアルでしか売ってこなかった商品が、画面の向こうにいる誰かの手に届くとき。

 そこには、数字では測れない、かけがえのない体験が生まれている。キャラクターは、売り場を選ばない。

 届ける気持ちが整えば、どこにいたって、誰にだって、ちゃんと届くのだ。

 今日はこの辺で。

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