シニア世代が日本を変える──「枯れない心」で未来を切り拓くマーケットとは

未来が見えづらい──そんなムードが、日本全体を覆っている。少子化、経済停滞、閉塞感。しかし、その足元には、まだ十分に活かされていない豊かな資源が眠っている。それが「シニア世代」だ。単なる高齢者ではない。新しい挑戦を恐れず、培った経験と情熱をまだ胸に秘めた「枯れない世代」。この世代にどう光を当てるかが、これからの社会の息吹を決める。マーケティングプランナー・鈴木準さんは、未来へのヒントをこの世代に見出している──本稿では、その思想と具体的アプローチを探りながら、「枯れない日本」を描いていく。
シニアは、過去ではない。「これから」を生きる人たちだ
多くの人が、シニア世代を「老い」と重ねて語る。
しかし、鈴木準さんが見つめるのは違う光景だ。昭和30年代生まれ、バブルを駆け抜けたこの世代は、挑戦する喜びを知っている。経済成長期を生きた彼らは、実は「未来を拓くマインド」を持っている世代だ。
いわゆるステレオタイプで言われる様な老人では全くない。
デジタルデバイスを使いこなし、SNSで繋がり、時に新たなビジネスに挑戦する。
精神は若いまま──むしろ「枯れるな」と自らを奮い立たせている。シニアは過去に生きる存在ではない。今を生き、これからを切り拓く、力強いプレイヤーなのだ。
年齢を言い訳にしない。ジェロントロジーが教えてくれること
現実はそれが発揮されていない。確かに「老い」は宿命だ。しかし、「どう生きるか」は選べる。鈴木さんがそう考えるきっかけとなったのが、ジェロントロジーだ。それは、このシンプルな真実を教えてくれる。
老いとは、ただ体力が衰える現象ではない。鈴木準さんが深く学んだ「ジェロントロジー(Gerontology)」は、そこにまったく違う光を当てるのである。ジェロントロジーとは、医学、心理学、社会学、経済学、哲学──あらゆる分野を横断して、「人が年齢を重ねること」を包括的に研究する学問だ。
その発祥は約100年前まで遡る。ヨーロッパからアメリカに渡り、超高齢化社会の到来を見据えて発展してきた。単なる医学的な老年学ではない。どうすれば、歳を重ねながらも豊かに、誇り高く生き続けられるか。その知恵を体系化したものである。
驚くべきは、ジェロントロジーが明らかにする「老化」の始まりだ。成長期を経た20歳をピークに、人間はすでに緩やかな老いのプロセスを歩み始めている。つまり「老い」とは、シニアだけの問題ではない。すべての人が若いうちから向き合うべき人生の一部なのだ。
この視点に立てば、年齢を重ねることは「衰え」ではない。「次なる自分をデザインする」ためのチャンスだとわかる。ジェロントロジーはこう語りかける──「あなたは何歳でも、人生を再設計できる」と。
趣味は、人生を支える新しい「仕事」になる
鈴木さんはこの学びを通じて、「年齢を言い訳にしない生き方」を志すようになった。
枯れることを前提とするのではない。どうすれば、精神と社会性を保ち続け、最後まで輝き続けられるか。それを真剣に考えたとき、シニア世代は「消費される側」ではなく、「社会を動かす側」に変わる。
ジェロントロジーが示すのは、年齢を力に変える、そんな新しい人生設計図なのだ。だから、退職後、ただ時間を持て余すだけではもったいない。鈴木さんは語る。
人生後半戦では「好きなこと」を仕事にしていいのだ、と。
ここと先ほどのかつてとは違う今の60代以降の精神がオーバーラップする。何より今のそれらの世代はバブルに湧く日本を知っている。遊び方を知っている。寧ろ、これは低迷する日本で育ったそれら以外の世代には持っていない強力なアドバンテージである。
そして、なぜ、鈴木さんがここまで熱っぽくこのことを語るのか。
眠る巨大資産を、「心の花」に水をやるために使う時
それは今、日本には2000兆円の個人金融資産が眠っているから。そのうち実に8割が50歳以上の世代の手にある。だが、この富は動かない。
なぜなら、未来への不安が、消費をためらわせているからだ。本来なら、このお金は自らの人生をさらに豊かにするため、社会に希望を循環させるために使われるべきなのに。
確かに、人生の折り返し地点に差し掛かると、多くの人が「更年期」という心身の変化を経験する。例えば、閉経を境に女性ホルモンが急降下し、心身のバランスを崩しやすくなる。ただ、案外、精神的な部分で男女に違いが見られる。
でも、学ぶべきは一部の女性の動きだ。つまり、ここで明確に認識できるから、女性はそれを機に、ポジティブに捉え、第二の人生を歩む傾向が強い。
例えば、鈴木さんの周りでも、こんな例が見られる。表情筋トレーニングを教える女性、セレクトショップを立ち上げた女性──趣味と熱意は、新たな生きがいとなり、周囲の人たちを巻き込み、コミュニティを育てていく。
つまり、自分が夢中になれることを磨き、発信すれば、それは小さな経済圏を生む。
経済合理性だけでは測れない、温かい経済がそこにはある。「仕事」という枠を軽やかに越え、人生を彩る舞台を、自ら作り出していこう。
男性もまた奮い立て
問題となるのは、男性の存在なのだ。そこで男性もまた、奮い立たなければいけない。
それこそがまた、先ほど挙がった「更年期」という心身の変化に絡んでいて、男性はそれを認識していないからだ。
意外なことに、男性もまた、40代後半から50代にかけて徐々に男性ホルモンが減少していく「男性更年期」を迎える。自覚されにくいこの変化が、無気力感や自己肯定感の低下を引き起こし、人生後半の活力を奪う大きな要因となるのだ。昔を引きづり、それらができない自分に自信を失う。ポジティブな女性とは対照的だ。
だから、こうした生理的な変化を知識として理解することが、とても大切なのだ。下手すれば、知らずに「自分の努力が足りない」「もうダメだ」と思い込めば、心まで萎れてしまう。だが逆に、体と心の自然な変化だと受け止め、対策を講じることができれば、そこから人生をもう一度再起動させることもできる。
ここで、ジェロントロジーは再び、こう教えてくれる。
「年齢を重ねることは、衰えることではない。新しい自分を設計し直すことだ」と。年齢を理由に諦める必要はない。人生は何度でも、設計し直せる。
枯れない心が、社会を再び熱くする
鈴木さんが示すのは、老いを恐れるのではなく、知識と行動で味方につける、新しい生き方だ。
語弊を恐れず言えば「枯れかけた心」に水を与えるように、夢中になれる体験、つながり、承認、貢献を提案していくこと。マーケティングとは、心に火を灯す営みなのだ。
だから、今こそ、そのシニア世代に光を当てるべきなのだ。実際、今の日本には、「あきらめ」の空気が漂っている。しかし、それを変える力は、案外近くにある。人生を楽しむことをあきらめないシニアたち──彼らこそが、次の社会の火種になる。ディスコに足を運ぶ60代、ファッションを楽しむ70代、起業に挑む80代。
そんな姿が広がれば、自ずと経済は回る。そして、個人金融資産が健全に世の中を活性化させる。さらには、若い世代にも「歳を重ねることは、未来を諦めることじゃない」という希望が伝わるだろう。
無駄を恐れず、情熱を信じよう。人は最後まで咲くことができる。日本という社会も、まだ枯れてなどいない。この国を再び熱くするのは、枯れない心を持つ一人ひとりなのだ。シニア世代は、社会の余剰でも負担でもない。希望だ。彼らの「これから」を応援することが、停滞した日本にもう一度、息吹をもたらす。
必要なのは、「老い」への恐れを捨て、可能性を見つめる勇気。私たちは、もっとこの世代に目を向けていい。枯れない未来は、ここからきっと、始まる。
今日はこの辺で。