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そっと横に佇むようにSNS 共感の本質─MERY編集長・奥松彩夏さんが語るZ世代とのメディアの向き合い方

 Z世代という多様性の時代において、メディアの在り方は大きく変わりつつある。Instagramに限らず、多様なSNSを通じて独自の存在感を放つ「MERY」という“メディア”。彼女たちは、ずっと、共感というキーワードを軸にメディアの本質を再定義してきた。MERYソーシャルメディア 編集長・奥松彩夏さんは、時代とともに変化する読者の感性にどう寄り添ってきたのだろうか。面白いのは、「ファンです」ではなく「いつも見てます」と言われるところにある。何が違うのか。ここに実は、SNSやメディアの本質があり、その背景には、Z世代の生活感覚とSNSの構造を深く読み解く哲学があった──。

1章:発信の主役はメディアではなく“共感”

従来のメディアの概念とは大きく異なる

 一言で言えば、MERYは、Z世代に向けた若い女性向けに特化したメディアである。

 ただ、それは、単なる女性向けウェブサイトではない。Z世代の若い女性たちの「自分らしさ」や「幸せのアップデート」を応援するメディアプラットフォームとして発展している。

 聞いていて、興味深かったのは、従来型のメディアの捉え方とはまるで違う点である。

 MERYが本格的にSNSメディアへと舵を切ったのは、スマホアプリ中心だった時代の終焉を見据えての決断だった。それこそ、アプリ誕生の頃には、ピンク色を基調にして、記事を豊富に、そのカラーを前面に出していた風でもあった。でも、そこから大きく転換したのは、ここ3年ほどのことである。

 記事主体から、SNSを舞台とした“映像・共感ベース”の運用に切り替えていく。それこそ、前例がない。だから、その方向性が受け入れられるか、またメディアとして成立するのかの確証はなかった。でも、編集部は「いいコンテンツを数多く出せば必ず届く」という信念を持ち続けた。

SNSを軸にした展開

 Instagram、TikTok、X(旧Twitter)、YouTube──そのすべてを活用するのは、「多様な価値観に寄り添うには、情報の入り口も多様であるべきだ」という信念に基づいている。

 それぞれのSNSには異なる空気感があり、異なるユーザーのリズムがある。MERYはそれらを丁寧に読み取り、媒体ごとに異なるコンテンツの表現と構成を試みている。

 大事なのは、この裏側にある彼女たちの感性を重んじる姿勢そのものだ。

 ともすれば、SNSというと、その運用法が取り沙汰される。でも、彼女たちは、そうしたアルゴリズム攻略よりも、熱量のある発信が届く構造を作り上げることに打ち込んだ。

 それが、冒頭に話した言葉に通じる。従来の雑誌であれば、媒体名で買っていたのであり、カラーを打ち出すことで存在価値を発揮した。それではなく、「たまたま見ていたらMERYだった」という逆算型のメディア体験こそが、現代の情報流通のリアルなのだというわけなのだ。

2章:誰の“好き”も否定しない設計思想

20代の編集部員の感性をもらさず尊重

 MERYは、実は、明確なペルソナ設計や固定的なフォーマットを持たない。

 あえてカラーを定めず、編集部員一人ひとりがZ世代当事者として、自分たちの“今”を発信している。そこには「誰の好きも否定しない」という強い価値観があり、それが共感を呼び込む基盤になっている。

 多様な趣味嗜好、ファッション、思考様式──Z世代はそのすべてを変容可能な流動性をもって受け止めている。MERYでは、Instagramに限らず、YouTubeでは編集部員の“私物紹介”がユーザーの共感を得ていたり、Xではちょっとした生活の“気づき”を発信したりと、メディア的統一感ではなく、それぞれの場にふさわしい距離感を重視する。

ファンではなく、いつも見ている対象

 そこで、ハッとする。とある化粧品会社に勤務する20代女性から、以前、「MERY、結構見ているんです」と言って、YouTubeを紹介されたのだ。彼女は、MERYを見るうちに、MERYの中にいる人の持つ物なら、きっと自分も興味を持てるだろう。そう思って見ていて、購入してしまったとのことだった。

 まさに、「たまたま見ていたらMERYだった」に近い感覚ではないか。MERYという強力なカラーに引き寄せられて、、、というわけではない。気づいたら、そっと横に佇んでいた。その言い方が相応しい。

 この姿勢があるからこそ、雑誌的な「顔となるモデル」や「読者モデル組織」をあえて持たず、「誰でも自分のままで触れられる存在」として、メディアの距離感をリセットしているのである。言うなれば、読者が、自分をそこに投影して、その世界を味わっているのである。

3章:“雑誌モデル”からの決別とSNS的導線の再構築

インフラが変わったからこその選択肢

 繰り返しになるけど、従来の雑誌モデルでは、メディア自体のブランドカラーが強くなければやっていけない。なぜなら、本屋で、棚に置かれず、買ってもらえなかったからだ。

 しかしMERYでは、その逆をいく。

 特定のモデルや有名人に頼らず、読者と地続きの存在が発信する。そうすることで、「自分ごと化」されやすい世界観を構築。だから、気づいたら「いつも見ていた」という循環が生まれ、それがSNSならではの導線となっている。リアルイベントでも、その世界観がユーザーの中で自然に共有されており、奥松さんは「トレンドの中にMERYがいる」と表現する。

 これって何気なく、深いなと思って聞いていた。つまり、本屋で選択するというインフラがなくなったから、それが当たり前になったのだ。

 だから、今のZ世代(に限らないのかもしれない)はすでに色々な価値観に触れていて、それが並立して、身の回りに存在する。それらは常にアップデートされたり、消えてしまったりするわけで、それをMERYは拾いに行っているのだと思った。

様々な関心が同居している今のZ世代

 何か特定されたものではなく、存在するあらゆる関心、興味をとりにいく。

 それができるのは、編集部員が読む人と同じ世代であること。どんな興味も堂々と、自分なりにいいよねと表現していく。それらは、必ずしも、大衆に受け入れられるものかもしれない。

 けれど、響く人には響くことがある。それがどれであるかはわからない。でも、そこは「数をこなす」ことで見えてきたという。

 気がつけば、その自分の興味のあることのいくつかを、MERYがちゃんと表現してくれていた。ごく普通の生活者が、それを感じたとすれば、もう、それはMERYを身近に感じるようになっている証拠。ここに、共感が生まれる。他のメディアとは圧倒的に違う点が存在する。自分と同じだ、、、という感覚である。

 ゆえに、それぞれのSNSを尊重することにもつながるわけだ。

 YouTubeでも編集部員の等身大のライフスタイルが垣間見える構成にし、Xでは情報拡散性を活かして新たな接点を築く。媒体ごとの「文脈の差異」を受け入れながら、「MERYらしい」と思わせる一貫性を各所に滲ませる構造は、旧来の“世界観統一”とはまったく異なる発想だ。

4章:一つの商品に、多様な物語を見出す

多様な文脈の可能性

 奥松さんとの対話からもう一つ見えてきたのは、商品や素材に込められた「多様な文脈の可能性」だ。

 これが他に応用の利く部分ではないかと思う。つまり、今上記に書いた通り、MERYは、様々な切り口の関心事を表現していく。逆に言えば、世の中にあるものも、色々な角度からそれを眺めることができるはずだ。

 たとえば、無茶苦茶な例だが、「人参」。(なぜ?って。すまない、奥松さんと話して、なんとなく話題にあがったから)。

 この人参ひとつとっても、料理、飾り切り、育成など多様な視点で語れる。そのどれかが、ある人にとっての「わたしのこと」に変わる瞬間がある。

 つまり、ここが先ほどの攻略法的なSNSのアプローチとは違うところなのだ。あなたはどんなタイプですか。そんな具合に、切り分けて提案したりするのを見かける。だが、それはあくまで要素をわかりやすくルール化したにすぎない。ルールに合致しないと、最大化されない。だから、悩む人も多い。

一つの方向で決めつけない

 MERYから学ぶとすれば、多様な物語を見出せばいい。この人参の例で言えば、真っ先に思い浮かぶのが、レシピという視点だろう。そうすると、レシピが正解のように見える。だけど、MERYが追うのは、それだけの切り口ではないよねという話なのだ。(飾り切り、育成がそれに相当する。)

 あ、この部分、共感できる。その集積地がMERYなのだから。

 故に、これがSNSの本質ではないかと思う。だから、この本質は、あらゆる商品・サービスに応用できる視点となりうる。

 つまり、固定化された「売り方」ではなく、日常のなかでいかに「接点」を生み出せるかが重要になる。SNSに限らず、販促も接客も、商品も「文脈の設計」に目を向けることで、Z世代の行動と自然に溶け合う可能性が高まる。

 逆にいえば、今まで、小売をはじめとして、一つの方向性にとらわれていたように思う。裏を返せば、そこに発掘すべき価値があり、伸び代があるわけだ。

5章:目的ごとの“設計とKPI”でエンゲージメントを高める

エンゲージメントも繊細なアプローチ

 さて、そんな風にして、読者との共感が生まれれば、エンゲージメントが気になる。

 とかく、SNS運用でよく語られる「エンゲージメント」は、MERYにおいても重要な指標ではある。だが、それを単一で追うことはない。

 目的に応じて「保存」「いいね」「再生数」などのKPIを使い分け、それぞれのコンテンツに応じた“目標設計”を行っている。例えば、保存を促す投稿には「後でやってみたい裏技」や「店舗情報」を盛り込む。

 再生数を狙う動画では、ストーリー性やテンポ感を重視。フォロワー数はむしろ直接的に追わず、キャンペーンや広告運用などを分離して扱う。KPIを“感覚”ではなく“意図”で使い分けるこの発想は、長期運用を前提としたチームの合意形成にも寄与している。

細かく存在する価値観に合わせて検証していく

 つまり、人の感覚はそれだけ様々細かく分類され、MERYはそのどれも尊重する。だから、その目的に合わせて、丁寧にそのエンゲージメントを高める方法にもこだわるわけだ。女性の感性に、繊細に耳を傾ける彼女たちの姿勢そのものが、ここにも現れている。

 要するに、ここに彼女たちの存在意義がある。

 従来型のメディアの姿勢からの脱却をした。正直、だとしても、自ずと、そのマネタイズの仕方も変えなければならない。そこを奥松さんにも聞いた。

 それを踏まえて、彼女たちはいわゆる広告収入というところをメインにすることなく、そういうマーケティング的な要素で、Z世代に寄り添うサポートを支援するようになっているわけだ。

 まさに、メディアの骨子が変わっている。

結び:MERYは“共感の集積地”として存在している

 「ファンではないけど、いつも見ている」──Z世代のそんな声が、MERYの今を象徴している。

 従来のメディアが担っていた“色”をあえて脱ぎ捨て、多様性をそのまま受け止めるメディア。それが今、最もユーザーに近い場所に存在している。つまり、メディアが手にすることのできなかった“共感”を彼女たち、MERYは一人一人の編集部員の力によって、手に入れた。

 ゆえに、いつも読者と近いところに寄り添っている。

 おそらくこれからの時代、大事なのは何だろう。寄り添いながら、わかってくれているという、ちょうどいい距離感で、信頼を育てていくこと。そこなのではないか。

 それは何も「MERY」だけができることじゃない。それぞれ、全てに言えること。

 バズらせるのではなく、関係を育て、売ろうとするのではなく、分かり合える場所を作る。

 そしてこの姿勢こそが、商品にも応用可能な“アプローチの本質”であり、個々の関心にやさしく触れることが、未来の購買体験のヒントになるのかもしれない。

 今日はこの辺で。

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