ときめきと発見が交差する文具の街へ!文具女子博2024 潜入レポート
純粋に、よくこういうことを発想できるものだと感心する。多くの人が文具といえば、「仕事道具」や「学校の必需品」としてのイメージを持つだろう。けれど、文具はただの道具じゃない。それを教えてくれたのが、「文具女子博」である。そこには感性を刺激するデザインや、使うたびに心が踊る仕掛けがあるのである。
ここでしか出会えない文具との奇跡
今回、一番、心惹かれたのはカンミ堂かな。語弊を恐れずいえば、華やかさはない。けれど、試してみたくなる要素がその文具には潜んでいる。まず、こちらをみてほしい。
仕事場にも、家にも、クリアファイルって溢れていたりしないだろうか。とはいえ、何をどうやってまとめたのか、後になってみると、案外、始末が悪い。だから、この会社は「ファイルタブ」を作ったわけである。クリアファイルにタイトルをつけて貼れるように、プラスチック製のインデックスを作ったわけだ。こうすることで、必要な書類がパッと見つかり取り出しやすくなる。
些細なことだけど、便利で使用した場面を想像するうち、欲しくなる。これが、文具女子博の醍醐味なのである。かくいう、僕もしっかりこれを購入して帰った。
その知恵が些細なところなのである。例えば、マスキングテープをご存じな人もいるだろう。家でインテリアなどに活用したりするが、持ち歩けるようにした。まさか、そのままテープ状で持ち歩くのは不便だから、彼らはそこでペン状にしたのである。
ペンケースなどに入れつつ、必要に応じて取り出し、引っ張り出せばいい。自分のノートなどが彩り豊かになるという趣向である。これも、想像力が掻き立てられる。それと同時に、どこかこのイベントにある商品は、コミュニケーション性があることに気付かされる。つまり、自分だけで完結することなく、人に話したくなるのである。
想像するのが楽しくテーマパークのよう
だから、ここに共通の価値観を持つ人が出てくるわけであり、もはや、累計来場者数50万人を超える。そう考えると、ただの展示会ではなく、まるでテーマパークのような場所。会場に一歩踏み入れれば、そこはまさに「ネオ文具シティ」。そこには僕の知らない“文具の宇宙”が広がっているのである。
今年のテーマは「どきどき!ネオ文具シティ」。会場は昨年の1.5倍の広さに拡大され、過去最多の170社以上が出店した。訪れた人々は、まるで架空の文具都市を歩くかのように、ペーパータウンやスタンプタウンなどのエリアを巡る仕掛けになっている。
だから、懐かしの黒板消しを使ったボウリングなどもある。小さな的を狙うシンプルなルールだが、つい夢中になってしまう。的を倒せばオリジナルステッカーがもらえるという特典つきだ。
文具女子博の魅力は、ただ商品が並ぶだけではない。各アイテムには、作り手たちの「誰かを楽しませたい」「驚かせたい」という想いが込められていた。
見た目でワクワク
今のように用途で訴えかけ、ワクワクさせるものもあれば、見た目の印象で興味を引く商品もある。松浦紙器製作所という会社では、「La KULA」というブランド名で、飛び出す付箋を手がけている。
これも何気ない付箋がドラマチックなスタジオになる演出で、下を見てほしい。付箋を使おうと、それを立ち上げると、そこにジオラマ風に街の光景が立ち上がり、手前に付箋が設置されている。机の中に無造作に放置されがちな脇役の付箋が、デスク周りの主役に躍り出た。
お話を伺うと、どうやらずっとノベルティを手掛けてきた会社だとか。つまり、多くの企業の下請けとして、オリジナリティのある文具を手掛けてきたが、その知見を結集して、自らのブランドとして世に送り出したというわけである。
このイベントにおいては、人気イラストレーター・オビワン氏の「レトロ郵便」シリーズが登場。開くたびにレトロなデザインが、飛び出す仕掛け。これもまた、使用場面を思い浮かべるだけでも、気分が上がるアイテムである。見てわかる通り、これも僕は、購入済みである。
オリジナリティが企業や作家への愛着となる
同じ付箋でもそれ自体が面白い形状なのが、サンスター文具が出しているこちら。それ自体がパンのような形状になっている。上から触ると、プニプニとクッション風に弾力があって、触ってるだけでも飽きない。
もちろん、そんなの付箋でいいじゃないかという声もあるだろう。だが、こういう視点が大事なのは、単なる安さ競争に巻き込まれないことだ。他とは異なるオリジナリティは、この会社やブランド自体にファンを作り出すこととなり、その後の商品展開にもプラスに作用する。
昨今、SNSが多くの人に浸透している中では共通の価値観を通して繋がる。だから、文具での表現もまた、そういう好奇心を持ち、想像力豊かな女子的感性を持つ人たちには、従来とは違った受け入れられ方で広がっていくのである。
アナログ的な価値
ここにくると、いつも感じるのが、商品を出している人たちの強い思い入れ。例えば、「miniature POP-UP book」。ドールハウスのような豆本を手掛けている。本自体も小さいが、その中に潜む精巧で可愛らしいミニチュアのポップアップブックは、来場者を魅了する。
思い入れという部分で言えば、これらが活版印刷によって作られていること。時代の流れで使われる機会が減少しているその技術を使うことで、逆にその手間をかけた造形が価値を持つのである。よく見ればわかるが、印刷によって生まれた凹凸に味わいがある。
そして、日常を楽しく味付けするという側面もあって、こちらは「ダイモ キューティコン ピンク」。些細なことではあるけどテープララベルを作る機器。ただ、特徴が電源が入らないことで、上蓋を両手の親指でカチカチと押す事で、プラスチックのテープに文字を打刻していく設計なのだ。これも手帳などを楽しくさせる要素がある。
「デジタルな時代だからこそアナログの良さを楽しんでほしい」そんな想いが詰まったこのイベントならではの要素である。
心のつながりを感じるイベント
随分と回を重ねて、文具女子博に足を運んでいること自体、僕がこの文具の世界に魅了されているからであって、だからこそ、人と繋がりやすいという側面もある。ゼンリンでは、「お待ちしてました!」なんて言われたほどである。
ゼンリンは地図の会社だけど、だからこそその地形に関するこだわりを文具にしている。だから、こんな風に、その地形のピンバッジを販売している。
それ以外にもその地図をモチーフにした柄のクリアファイルなどがあって、大事なのは文具そのものではない。地図に対する想いを文具という形を通じて派生させて、広く共感を集めようとしているところにある。
これでお分かりいただけるだろうが、文具女子博は商品を見にいく場所でありながらも、感じる場所なのである。それは、僕らが美術館に行って、感じるような感覚に近い。あらゆる価値観を持った企業なり人が、自らのそれを文具を通して、心を通わせるから、仕事道具とは違ったものへと変わって、それだけの人を集めるイベントになるのである。
文具は、もはや実用品ではなくエンターテインメントである。そこには、シンプルなものに魔法をかける女性たちの感性が息づいている。手帳や付箋を装うように楽しみ、使う場面ごとに心をときめかせる。文具女子博は、そんなエンタメの詰まったテーマパークだ。
2025年もこの場所で、僕は新たな文具と出会い、また一つ物語を紡ぐことだろう。
今日はこの辺で。