どこが売れるかでなくどこの誰に売るか au PAY マーケットで出会うべきお客様 au コマース&ライフ 社長 桑田祐二さんと話して。
「うちはいち早く、新たな方向へと舵を切ったのが、よかった。新たな方向というのは、クーポンやポイントに関して、継続的に利用いただけるような仕組みづくり、そして販促強化のことです」。au コマース&ライフで新たに代表取締役社長に就任した桑田祐二さんの言葉がしっくりきた。そもそも、経済圏って何だろう。僕らは経済圏のイメージを固定概念で捉えていたように思う。経済圏の価値の発揮の仕方は、経済圏ごと、それぞれ違っていて、もっと別のところにある。それが、彼の言葉の真意であり、実は、未来のECを考える上で必要な視点だと思う。
ポイント還元が全てではない
まずプラットフォーマーが身銭を切って、大量にポイントを放出する。ECを起点にポイントが循環して、サービスを利用するようになるから。だから、店舗はセールなど、そのポイントの後押しを受けて潤った。自然と「どこが売れるか」に目が向いていたと思う。
その中で「au PAY マーケット」はいち早く別の方向に舵を切った。桑田さんの話を聞いて僕は痛感した。これからECで大事なのは、経済圏の違いを見極めると共に、「どこが売れるか」ではなく「どこの誰に売るのか」の視点である。どこの誰により売れるか、使ってもらえるかに力を注ぐ。
au PAY マーケットでいえば、au、UQ mobileの回線のお客様を、経済圏全体で、どれだけエンゲージメントアップに貢献できるのか。ここにこだわっている。なんだ?ECに力を入れないのか?そう思われがちだが、そうではない。彼らの強みを最大化させる中でこそ、より購入に繋がるお客様を呼び、自然と店舗の流通・サービス全体の流通につながるというわけだ。これにより「どこの誰に売るのか」で流通拡大をはかっていく。
彼らのその真意を紐解いてみることにしよう。桑田さんの話を聞いていると、それに関連して、バーチカルという言葉がよく出てくる。すなわち、垂直統合型で、親会社のKDDIの考え方に基づく。
この「垂直統合型」とは上流から下流のプロセスをすべて一社で統合したビジネスモデルをいう。それに対して、水平分業というのあって、核心部分以外は、外部を使いながら、実現していくものがそれである。
バーチカルにグループ全体で事業を推進してきた
その意味で、KDDIは、グループを通して、垂直統合型で一個ずつ企業を、1から丁寧に作り上げてきた。電気、金融などもそうだ。コマースもDeNAから買収したとはいえ、元のリソースを尊重しつつ、その視点はブレることなく、具現化させてきた。自前で作って、それを大事に、川上から川下へ。
だから、むやみやたらに、ポイント経済圏の拡大を急ぐわけでもない。利用機会を増やしつつも、それを通して自前で作り上げたものが、親和性高くなるように、一つ一つ結びつけ、グループアセットの最大化に努めるわけだ。大事なのは、それを踏まえて「変えていくべきは変えていくこと」そう彼は明言した。
彼の原点を辿れば、KDDI出身であり、今から約8年前、KDDIコマースフォワードが立ち上がる時からECと通信との親和性をずっと模索してきたのである。一際、ECへの想いとKDDIへの愛着は共に強い。
さて話を戻せば、バーチカルの一丁目一番地が通信。
それこそが、多くの人にとってのインフラ。繰り返しになるが、ここを起点に近年、KDDIはシナジー効果の高い電気、金融などに早々と着手。ECも含めて、グループとしてたどり着いたのは、何か。それらを含めて、これまで長らく継続して支払ってもらった通信料金に加えて、その付加価値の領域でもARPU(一人当たりの売り上げ金額)も上げて、企業価値を底上げすることである。
経済圏としての広がり
通信以外の領域でも安定的に、通信と同様に、継続利用が定着すれば、彼らも関係する事業者も全てウィンウィンとなる。それでいうと、彼らがなすべきことはなんだろう。そう尋ねてみた。
「何か施策を一発打てば、いいというわけではない」。そう桑田さんは語る。au PAY マーケットにお客様が期待しているのはauにおける信頼感。シンプルに言えば、“ハズさないよね”という部分。安心感という言い方もできるだろう。そう彼は続けた。
確かに、通信はその特性上、継続的な利用がベースとなるから、そこには信頼が伴う。
そこをフックにして、価格一つとってみても、au、UQ mobileの利用者であれば他よりもお得である。そういう要素を作るのも大事だし、検索の精度を上げ、ポイントを有効活用できて、配送環境を整える。そこでの安心感を、しっかりau、UQ mobileの利用者に抱いてもらえるようにする。ベタではあるけれど。
そうか。それがあることで、逆に通信の信頼が増すわけであり、それが増すことで、付加価値領域の信頼が増すという格好である。
ここの部分がすごく重要だろう。言っていることは、どの経済圏でも同じように言っている当然なこと。だけど、それをいかに、彼らの通信利用者に感じてもらえるようにしていくか。その部分で、自ずと顧客が絞られてくるのである。
ARPUを上げていく為に
実は、通信費の値下げの動きで、KDDIもまた、通信費のARPU収入で低迷を続けていた。けれど、ここにきて、脱却することができたのは、UQmobileも含め、マルチブランド化して、その契約件数を伸ばしたからだ。
だから勢いづくわけである。ECの話と外れるが、結果、繋がってくる話なので聞いてほしい。最近、「auマネ活プラン」という金融特典を通信の「使い放題MAX 5G/4G」と掛け合わせた。結果、そのセットは70万件を突破し、その解約率が25%改善するとともに、利用者のARPUが10%増加したというわけである。
例えば、こういう人たちの信頼をフックに、au PAY マーケットが存在するというわけである。彼らのECが占めるシェア率が大きいかどうかではなく、auへの信頼度が高いユーザーをECとしてどう獲得できるか。そこが事業者にとって大事な新規獲得であり、その後の継続率に繋がってくる。
「どこに出せば売れるか」ではなくて「どこの誰に売るのか」と、先ほど、書いた所以である。
だからこそ、通信以外の付加価値で定額の支払いが生まれる「auスマートパスプレミアム」が意味を持ってくる。元は携帯のメンテナンスであったけど、今はまるで異なる。例えば、クイックデリバリーのmenuの配送料が無料になったり、ECでも「プレミアム」のマーク付き商品は送料がかからない。
付加価値領域の深掘り
その先には、三菱商事との間で子会社化した「ローソン」との連携があるわけだ。
実は、この桑田さんの取材をする数日前に、僕は、KDDIの決算発表で、同社の代表取締役 高橋誠さんの話を聞いていた。そこではいよいよ「au スマートパス」が「Ponta パス」へ、リブランドしローソンを含めた特典を備えるとしている。
これが通信を軸とした経済圏のARPUを上げていく新たな一手といえよう。そして、バーチカルなその戦略で裾野を広げる部分に変化はない。今後、ローソンは「買う場所」に限らず、薬の受け取り、金融保険の相談なども行い、それ自体がKDDIなどの知見を取り入れ、変化するわけである。
余談になってしまうけど、高橋さんの「Ponta パス」に関しての言葉が印象的だ。
「ガラケー時代には各ブランドごと、異なる機種を出して、お客様に近かった。スマホが登場して以降、iPhoneか、Androidの機種を共通して出すことでそれがなくなった。結果、我々の存在感はその通信環境を提供することでしか出せない。どこか寂しかった。今、ローソンでお客様との距離が縮まり、そこでできるサービスを考えられることが何より嬉しい」と。
この言葉に全てが現れている。こうやって信用の幅を多くのジャンルに広げた中の要素として、au PAY マーケットが存在する。そして、集まるデータは他の経済圏とは違った“顔つき”になるだろう。
Pontaパスに込められた真意を理解する
語弊を恐れず言えば、まだ商品数も足りていない。だから、まだ開拓する余地がある。「au PAY マーケット」だからこそ、購入するユーザーがいるはずだ。そのユーザーが経済圏には多く存在し、より規模が大きくなっていく。
すでに、先日、開催された「ベストショップアワード2023」では特徴が出ている。総合賞一位が「お酒のビックボス」、二位「リカーBOSS」。共にお酒のお店なのである。
そして、不思議なことに、2店舗はこう口を揃えた。
auスマートパスプレミアムの利用者を軸に、そのクーポンの相性の良さが奏功したと。他のモールとも比べても売り上げが良く、「お酒のビッグボス」に至っては売上の半分がau PAY マーケットであることを明らかにしていた。それを支える高いリピート率もプラスに作用している。
こう僕が話すと桑田さんがまた、うなづく。「元々、日頃、auを使い続けているという特性。そこから、結果、お酒もその中で、日常的に買うというものとして認知され始めたのでしょう」。
こういう事例を積み重ねたい。そう続けて「ライブTV」についても触れ、こう言って胸を張った。「番組を見て購入したお客様は、数字は公表できないけれど、かなりの定着率」と。お店にも長く繋がるお客様を発掘できた。先ほどの通信の信用を補完する要因として機能している。だから、グループに与える意義も大きく、ウィンウィンの関係性がある。
店舗と彼らの在るべき向き合い方だと思った。
信用が定着するきっかけをつくる
つまり、彼らなりの方向性が決まっているからこそ成せる技。それを踏まえ「店舗様が出してくれている商品を、どういう位置付けで、お客様にお伝えすればいいか。そんな提示をすることが我々に必要」。そう話すわけだ。
今はその最中。先ほどのお酒の例は、日常、継続できる「賢い消費術」でのこと。桑田さんは、「その逆の消費シーンも自分たちこそ、やるべき事」というのである。購入頻度は低いかもしれないけど、ハレの日需要である。
その裾野を広げるきっかけ作りもしている。その一つが「誰でもギフト」というサービス。贈りたい相手の住所や本名を知らずとも、手軽にギフトを贈れるというもの。「au PAY マーケット」アカウントがあれば、そのログインで購入時にそれを選択し、ギフト情報を送ってもらえる。この情報は、メールやチャットに貼り付けるだけでいいので、簡単にギフトが成立する。
そして、桑田さんの言った言葉が良い。
「auには長く通信でつながり続ける信用があります。ギフトこそ、商材、方法も含めて、慎重になる。だからその信用は商材選びと渡す手段で、自分たちの信用は発揮されるべき」と。なるほど。
「信用」という言葉が出てきた。大事な人への贈り物だから、先ほどの信用が活きてくる。古くは、贈り物といえば、百貨店。そこで、購入したものが多いのはその館の信用があるからであり、auはその信用に近いものを持っている。だって繋がり続けたのだから。
au PAYマーケットで「売るべき相手」を発掘すべし
お分かりいただけただろうか。
つまり、人が集まるところで、不特定多数の人に、メルマガをたくさん、送ればいい。そんなのはもはや、過去の話になりつつある。プラットフォーム側が群雄割拠で、一律なやり方では差別化できないからである。ただ、それで気づいたこともある。各経済圏もまた、それぞれに強みが異なるということ。
だからこそ、通り一辺倒な横一列で同じやり方をするのではない。アプローチが変わってきていて、集まるお客様も、集まるデータも、違ってくる。だから、そのそれぞれのマーケットで、店舗は出会うべきお客様に出会うことが急務なのである。
だからこそ、「どこが売れるか」ではなく「どこの誰に売るのか」である。
確かに、au PAY マーケットの言っていることは、地味かもしれない(失礼!)。ECの存在感が小さいように見えてしまう。けれど、見るべき本質はそこではなく、価値の提供の仕方が違うだけのこと。
だからこそ、そこにはそこで、向き合うべきお客様がいる。だから、まずは自らの商品と然るべきアプローチを確立すべし。通信を起点にECで価値を作り上げるマーケットに関しては専門家である、彼らとともに。そうして、模索していくことで、導き出した答えこそが、未来に繋がるEC店舗のあり方そのものなのだ。
今日はこの辺で。