EC専業では太刀打ちできない リアルとSNSとECと。酒と泪と男と女ではないお酒の新時代
EC専業であるということが、なかなか、厳しい時代になると思う。カテゴリー内で価格を比較し、商品を購入する。そのベククトルは依然として、存在するだろう。ただ、ECは多様性を帯びて、自己主張の場になりつつあるからである。先日、新宿三丁目の駅の目の前という好立地で、「SAKE MARKET」と名付けられたそのお店に行ったが、居酒屋でありながら、居酒屋ができないことをやっていた。ECサイトを起点としたお店になっているから、それができるのである。ECサイトは名を「クランド」という。
リアルにできないリアルでこそ活きる視点
そもそも、僕は、新商品の試飲をするための場所として呼ばれて、伺った次第。だが、店のメニューを見せてもらって、かなり刺激を受けた。こちらがメニューである。
メニューには、時間無制限飲み放題で、3600円とある。ここがすでに画期的である。各自、グラスを使えるのは3つまで。店内にはご覧の通り、お酒が陳列されており、自由にそれを持ち出し、グラスに注ぐことができる。
これらの陳列されたお酒こそ、自身でやっているECサイトで扱うお酒である。どのようなお酒かというと、これも新しい。というのも昨今、若年層離れが進むお酒の業界にあって、彼らの主たる顧客層は、なんと、その若年層である。
酒と思わせずに伝わる酒の魅力
彼らは自ら手がけるお酒を「クラフト酒」といっている。例えば、この日、僕が試飲させてもらったのが、「夜のクラフトコーラ」である。最近、クラフトコーラはブレイクしていて、スパイスや柑橘類などを効かせてつくるコーラ。一般的なコーラとは異なり、原液を提供し、それを炭酸水などと合わせて飲むタイプであるが、それをお酒で再現したというわけである。
お気づきになるだろうか。
いわゆる酒というと、酒蔵などを紹介し、それのこだわりを切々と語るというものが多い。それはそれでよしとしても、若年層ではそれが響くわけではない。そして、このお酒を思わせないラベル。
味付けと見せ方でSNSから話題に
見た目だけではなく、味付けもジュース感覚で、若年層に身近。実は、梅と温州みかんがベースになっており、スパイスになっているのはシナモンや生姜。下地はバッチリ。きちんと地元の農家などとも連携して、少量生産だからこそ、手作り感を重んじて、差別化要因にしている。
しかも、アイスクリームにかけるなど、アレンジも提案する。若い人たちは、お酒としてではなく、新しい飲食の楽しみ方として、関心を抱く。昔ながらのがっつりちびちび、日本酒などのイメージはそこにはなく、洗練されている。そしてSNSを通じて、最初はその可愛らしい見た目に魅了された若年層も、実際、それを味わう手段も含めて、口コミで広がる。
これらのお酒は、毎月のように次々、少量で様々な種類で開発、発売される。だから、商品単位ではなく、ストーリーとして継続顧客が生まれるわけだ。
お酒を試す場として、飲みに行ける拠点として
そして、話が戻ってくるわけである。このお店は試飲できるという捉え方で勝負をすることができるから、どのような通常の居酒屋ではできないチャレンジングなプライス設定ができる。
「夜のクラフトコーラ1に対して、炭酸水3の割合で飲むのが美味しいんです」。そう言われて、ここは学びの場でもあるなと。
商品の良さをより深掘りする拠点としても活用できるから、それはECサイトにおいては販促となる。
このお店に飲食店として、来るのもよし。ただ同時に、ECサイトで次々、販売される商品を、試飲しそこで味を確かめた上で、商品を購入するというパターンも考えられる。思うに、リアル店の存在価値は、ただ、そこで飲むだけではなくなっていて、使い道も変わっているのだ。
だから、EC専業であるということが、なかなか、厳しい時代になると思う。こういう仕掛けが出ている以上、ただ価格の差別化で売る時代は、太刀打ちできない部分もある。
リアルにおける既成概念を打破して、その場所の使い道や商品の買い方を変えていく。そして、不思議と、商品自体の開発が起点となって、ECとネットの文化を介して、生まれていることも忘れてはならない。まだまだEC起点で、新しい発想が生まれるに違いないし、その知恵に期待したい。
今日はこの辺で。