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個性は随所に “虎ノ門ヒルズ ステーションタワー” 名店の食のこだわりを様々な角度から紐解く

 個性は随所に細部に生まれる。それは華やかな見た目に現れて、表に見えなくても、しっかり味に反映されている。この日、僕がやってきたのは「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」。2024年1月16日から、新たにオープンするお店があって、それらを訪問した。料理人の思いはものづくりに匹敵する。そう思っているからやってきたが、それに間違いはなかった。それぞれ違う価値を持った店の数々。ここでは、論点を絞って、その共通軸で差別化要素を浮かび上がらせてみた。

食材にキラリひかるその個性

 敢えて、絞った論点は「食材」「作り方」「流通」「見せ場」である。

 例えば、まずは食材。

 「創作串揚げ つだ」では、生産物を大切にする姿勢が際立っていた。津田さんの言葉が印象に残った。串揚げのタレは年間通して、変化しているという。なぜか。それは、野菜の仕上がりが季節によって異なるからだ。スパイスの要素が野菜に強くなれば、合わせる調味料なども変化させる。それは、串カツとしての味わいをより深く堪能させる大事な要素になると。

 僕が実食して圧巻だったのはこちら。

 サーモンを揚げた串揚げだが、その上にマヨネーズと北海道産のいくらを乗せている。サクッと柔らかい串揚げ。それがマヨネーズといくらの調和によって生まれたまろやかな味わいとの相性が非常に良い。

製法に見られる店の工夫

 かと思えば、「作り方」つまりは製法で魅せるお店もある。

 「Lampada」と呼ばれるお店では、フォアグラと味噌と大根を混ぜていて異彩を放つ。和洋折衷とはよく言われるけど、何を調和させるかが肝である。元々、この料理は、イタリアの郷土料理で肉の出汁で食べるものを参考にしている。そこに付け足す要素が、和であり、その郷土料理から一歩、踏み出すオリジナルの味わいを出している。

 他にも、イタリアの中部地方では生ハムを揚げパンに乗せた料理。聞いて、学びだったのは、生ハムの脂を揚げパンに浸透させて、味わい深くしている点だ。また、ランブルスコという赤ワインを一緒に飲むことを勧めて、組み合わせの妙を楽しむ。海外の文化をリスペクトしつつも、日本ならではの味わいにも敬意を表するわけだ。

郷土料理をヒントに自らの個性を掛け合わせ

 また、郷土料理はまさに、その地域ならではの製法上の工夫の跡。それをこの日本という場所でどう発揮するかは料理人たちの腕の見せ所である。

 「falo+」というお店は、イタリアの郷土料理をモチーフにした「カルトッチョ」を出していた。特徴は、スープで、自家製のパン醤油を足している。

 「え?パン醤油?」そう思わず、僕がつぶやく。

 実は、パンと米麹、お塩を合わせて半年ほどの時間をかけて、醤油を作り出す。それを味の土台にして、魚を入れて、白菜を添える。この白菜も、自家製の「発酵白菜」。野菜ひとつにしてもその素材の価値を、発酵という部分で引き立たせて、それを最大化させる郷土料理の礎があって、成立しているのだ。

最適な状態で提供する

 あとは「流通」。あわせて、保存という部分も含めて、その意味を考えると興味深い。

 食材として、肉は王道。「焼肉 山水」は、元々国分寺でやっていたが、その後、GINZA SIXへ進出し、その実力を買われて、虎ノ門ヒルズにやってきた。聞いていて思ったのは、店舗に限らず、流通を重んじていること。

 当然と言えば当然かもしれないが、どこから仕入れるかというのに加え、彼ら自身も、その提供する数を見込んで、冷凍することはしない。また、肉は少しの空気に触れるだけでも、黒ずんだりして、印象が変わるので、そこへの配慮し、最適なタイミングでお客様に、必要なものを提供している。

 それを相手のお客様の層に合わせて、提案内容をうまく、変えながら、やってきたわけであり、とは言え、その土台があっての虎ノ門進出なのである。

シーンもまた味を彩る大事な要因

 その他、味を彩る要因として、「見せ場」を重んじている。

 「焼き鳥 野之鳥 幻鳥」では、焼き鳥を焼く場所を用意して、それを囲むようにして、席が並んでいる。系列店にはない「幻鳥」という冠をつけ、ここだけにしか巡り会えない体験を提供したいと語る。

 煙を上げながら、臨場感たっぷり、焼いているのは店長の野網 厚詞さん。店長自ら、現場に立つという彼の姿勢は、この設計にピッタリ。焼いたそばから「京鴨のキンカン」が出てきた。

 京鴨のキンカンは希少部位。それが店名の「幻鳥」に通じるところで、それを引き立たせる味の工夫として、京鴨ロース肉のたたきで巻きつけている。口に含んだ時の贅沢さは言いようのない至福の時を生み出す。

 焼く姿を“魅せている”という意味では「うなぎの中庄」もそうだ。食材卸から始まり創業100年ほどだとかで、だからこそ、素材の目利きはできている。その上で店として素材と料理の魅力を伝えるべく、何ができるかを追い求め、ここに行き着く。

 自ずと作り手側も緊張感を持って調理をするから、良い効果も出るとか。

 「虎ノ門もう利」で言われたことは「非日常」。なるほど。だから、黒ベースのシックな空間で提供されたのは、ウニとキャビアといくら、白エビの豪華なお寿司。スーパーでは買えないもの、日常の食卓ではみられない光景。それは店に来る醍醐味。そう嬉しそうに料理人は語り、ここに辿り着くまでの3年ほどを振り返っていた。

挑戦が新しい価値を生む

 かくして、その料理店はここにたどり着いた。ここまで色々お店を触れてきたが、それぞれにチャレンジなくして今はない。

 「flower + water」はベーカリーカフェであり、僕は、そこに並ぶ「ワンハンドレッド プレーン」に関心を抱いた。何気ない食パンすら、見えない挑戦の跡がある。

 パン生地というのは、小麦粉に水を加えて作る。だが、この水分量によって仕上がりがまるで変わる。では、その水分量は、どのくらいなのだろう。小麦粉100に対して、どのくらいかで判断する。通常は、水分は70%ぐらいなのだそうだ。

 それに対して、このお店で並んでいたそのパンは、、、100%。

 水分が少なくなるほど、硬くなる。、、、ということは、これは、その逆だ。

 ふっくらの度合いがいかほどかは想像がつくだろう。それは市販のバターではその硬さに負けてしまうほど。だから、そこにストーリーが生まれる。それに相応しいジャムが必要になって、彼らが独自でジャムを開発することとなるわけだ。

 面白いのは、運営会社の最初は居酒屋であった。店として、お客様と触れ合ううち、そういう挑戦へと繋がり、また、それがファンを生む。挑戦に向き合う彼らの姿勢が、自分たちの今の立ち位置を見出したのだ。

おもてなしはそのそれぞれに

 思えば、エンターテイメントの語源は“おもてなし”ということらしい。一人一人の食に込められた想いは、演出と共に、エンターテイメント性をもって、輝きを増していることがよくわかる。

 最後に、「PLEIN」というお店のオーナー中尾太一さんの経歴を聞いて納得した。星野リゾート軽井沢ホテルブレストンコートで、フランス料理の研鑽を積んだのち、同社の飲食部分を統括する役職に就いた。そして、独立へと駆り立て、今に至る。

 おもてなしの延長上に、料理があるのだ。親和性が高い両者の知見を持ち込み、このお店の料理が生まれる。この日、僕が堪能したのも、オマール海老汁と海の幸のブイヤベース仕立て。豊洲直送の鮮魚に合わせたそのスープは、オマール海老の素材を活かす、自然の調和によって生まれた深い味わいなのだ。

 敢えていくつかの切り口に絞り、その差別化要因から、魅力を引き出してみた。各々違えど、それが個性となって、違った魅力を放っていることがわかるだろう。

 食べる、飲む。極論、そこにこだわりがなくても、生きていける。でも、文化を深掘りすることで、それを人はかけがえのないものとして受け入れる。生きるってそういうことだよね。これからは、そういう配慮が、あらゆるジャンルにおいて、大事な時代だと思う。だからこそ、すべての業種の方々がその差別化要因から、その個性のありように着目して、学ぶべきなのである。

 今日はこの辺で。

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