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冴えないなんて言わせない 垢抜けた文具で女子煌めく 「文具女子博2023」

 語弊を恐れず言えば、文具はイマイチ冴えないものだったかもしれない。けれど、「文具女子博」における文房具たちは華やかに生まれ変わり、女性を煌めかせた。必要な時に使うだけ。そういう視点で語られていたはずの“あの文具”が。どれだけ日常に彩りを与えられるか。来場者の感性に魅せられ、その視点で、各メーカーが切磋琢磨する。そして、全く違った息吹が文具に吹きこまれて、この場所はエンタメになったのだ。

その着眼点が胸ときめかす

1.マカロンのような付箋のような

 例えば、僕はこの“マカロン”をみて、驚いた。実は、付箋である。え?

 これを手がけたのは加藤製本という名のお堅い製本会社である。非常に面白いのは、製本の技術を活かして、新しい価値を創出していること。言われてみて気づいたのは、分厚い本の側面。そこに、目を向けてみると、まるく曲線を描いている。

 製本だからその形状に沿って紙をカットする技術が備わっている。この製法でこの曲線を活かせないか。そう考えた先に、このマカロン風の付箋ができた。ブランド名は「クルーシャル」と言って、心躍らせるものづくりを意図したシリーズで、これはその一つだ。

 本来の用途で言えば、メモを書くもの。しかし、その機能性を日常に織り交ぜるところに女性的な感性がある。インテリアとして空間を彩るから、優しいタッチの色合いとなる。それが付箋における既成概念を打破して、目を引くわけである。

2.カレンダーも生活に馴染むための胸躍らせる工夫

 こちらは、一九堂という会社のカレンダー。日付を見るだけではないところに価値を追う。そして彼らはクラフト風に作り上げて、飾る楽しさを見出した。

 左写真のようにチケット風になっている。それは折りたたまれていて、開くと、チケットの行き先の風景が立ち上がるのだ。上記で言うなら、フィンランド。カードケースのようなものに入れて、1ヶ月ごと、違うカードを取り出して開く。

 右側写真は、箔押しされたカレンダー。箔押しというと金や銀を連想する。しかし、これはピンクやブルーを織り交ぜた。さらに、モチーフに魚を選ぶことで、それが強調され、可愛らしくなる。その技術をグラフィカルに魅せることで新しい価値を創出したのだ。

 それらは、3000円以上ということで、1000円以内のシリーズとして、ご当地の名刺入れも。「私も使っているのがコレ」と紹介されたのが、あずきバターの名刺入れ(※上記写真をスライドして参照)。中には一緒にあずきバターを連想させる色紙が入っていて、ニヤリとしてしまう。こういう細かい演出が気持ちをウキウキさせるのだ。

3.ギミックは常に人を魅了してきた

 今回、サンリオも今回初めて出店にこぎつけた。ただ、キャラクターを前面には出しておらず、グリーティングカードでアピールしていたのが興味深い。

 知る人ぞ知るサンリオの価値である。実は、ハローキティなどのキャラクターのイメージは強い。だが、源流にあるのはグリーティングカードだ。

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 年々進化は続けており、それを披露したまでだ。インテリアに位置付けて、カード自体がクリスマスツリーのように立って、キラキラと電気がつくような設計。裏側で電池をつけられるようになっている。ささやかでも華やかに一人一人の生活を明るく、灯してくれるのである。

 また、上記の通り、文具女子博ではイラストレーター3名と組んで、このイベント限定のデザインを起こしたグッズなども提案。グリーティングカードという軸はブレることなく、自らイラストで提案して「かわいい」を訴求してきた彼ららしく、その制作秘話を添えながら、自らの価値を深掘りしているのが印象的だ。

全ては商品の付加価値を見直すところから

1.何気ない要素にエンタメ的な価値を見出す

 この場所はあらゆる意味で、エンタメである。だから視点が変わる。要するに、メーカーも機転を効かせて、来場者を喜ばせる演出として、そこに気づけるか。

 amifa(アミファ)で言うなら、百円均一の商品を多く手がけているけど、そのバリエーションの多さで“遊んだ”。レターに関連して「便箋」「封筒」「シール」、そして「レターセット」。ありとあらゆるものを組み合わせて、それらを10個買ってもらって、巾着をプレゼント。

 何気ないことなのだが、来場者たちはこの場所で“想像して”楽しんでいるのである。自分が手紙を書く時に、「これと、これと、これを組み合わせたら、きっと可愛い!」という具合に。

 他に、マスターピースWM限定セットもそう。シックセットとライトセットで、セット感が楽しい。

 商品とメーカーの演出に来場者の想像力が補完されて、エンタメとしての価値を高めている。商品には、まだ気付かぬエンタメ的な価値が潜んでいるのだ。そして、それはamifaの皆さんのこの表情然り、思い遣りやあたたかさとセットで。

2.カスタマイズ性に重きが置かれる

 商品のエンタメ的な価値。それを思うと自ずと、メーカー側も商品を通して、どうカスタマイズするかという視点が芽生える。例えば、こちらは、ワールクラフトが提案する「キラキラ」というキラキラフレークシール。フレークシールというのは、写真やイラストに沿ってひとつずつカットされた小さなシールのこと。

 だから、それらを貼りつけると、手帳の元の柄の雰囲気を損なわず、フィットする。彼らの場合、そこにラメを入れることで、より華やかになる。それゆえに各々持っている手帳を思い浮かべて楽しみ、この商品を手にするのである。

 だから、ハンコ一つ取ってみてもMOLT社の「切手のこびと」のようなアイデアが出てくる。ハンコだけで完結させることなく、各々の貼りつける切手とセットで一つで考えるわけである。

 その切手の側面にハンコで押すことで、エンタメに変わる。その切手を含めたアートに変えるという発想で、必要に駆られて押すハンコではない。でも、それが各々のグッズをカスタマイズして楽しめる別要素が生まれて、ハンコとしての価値を底上げしている。

トレンドも反映したデザイン性

1.レトロに気づきを得てデザインに幅が

 昨今のトレンドを反映するのもこの場所ならでは。「きっかけは「シモジマ」のレトロ風な柄だったんです。」そう語ったのは、フロンティアの荒井美樹さんと上原和人さん。

 そこに同社は着想を得て、「地元パン」というコンテンツにたどり着いたのが面白い。甲斐みのりさんが「全国地元パン」という、全国各地を旅して出会ったパンをまとめた本がある。昭和の香りを残す、地元密着のパンで、あんパンなどもちろん法事パンなど、独特の雰囲気を醸し出す。そのデザインに着目して、交渉を持ちかけ、雑貨にしたのである。

 そこに懐かしさを感じる人がいる一方で、新しいと受け止めるZ世代を中心にブレイクに繋がる。新作でも、内藤ルネさんのデザインを文具に起用しており、その幅が広がってきた。いわゆるルネさんのファンというよりは、ルネさんがが醸し出すその雰囲気の力で、それらの層を惹きつけるのである。

2.地図とレトロの調和を楽しむ

 レトロという意味で着目しつつも風変わりなのが、ゼンリン。ゼンリンというと地図のイメージが強い。地図の持つ魅力ももっと多くの人に知ってもらおうと、その精度はそのままに、淡いレトロ風な色合いにして、文具や雑貨として販売し、人目を惹く。

 これはこれで地図への愛着が実ったもの。それを考える上で、話は逸れるが、彼らの事業に少し触れたい。失礼ながら、今やGoogleやAppleでも地図のアプリを出す中で、彼らはどこで商売をしているのかというと、カーナビなどに使われる地図で採用されている。

 それは地図の建物一つ一つ、入り口がどこにあるのかを徹底的に把握していることにあって、そこで経路が変わるはずだと指摘する。この話をしてくれた広報の羽田 真紀代さんもその調査員だったとか。

 だから図面としてというよりは、人々が生活している街として地図を受け止めている。地図に親しみを感じてもらいたいから、それを込めて文具に付加価値を与えている。

 右の写真を見てほしい。ペンはメモリが書かれていて、彼らの地図の絵柄の上に合わせると、10kmの距離がどのくらいなのかを測れる。商品に地図への偏愛に溢れている。

3.限定グッズにも引きがある

 加えて、このイベントの規模感が拡大して、この場所限定の商品も随分、増えている。その背景には、僕が行ったのは東京だが、これが全国各地で開催されて、ある程度、それなりの数量を見込めるから、という部分もありそう。それがあることでキャッチになって、他の商品への関心につながるので、メーカーとしても意義を感じている模様。例えば、こちら。何を言いたいかわかるだろう。

 「のり」でお馴染み「アラビックヤマト」の形状をしたペンポーチである。この要素で目を惹きながら、他の商品もお客様の反応を見ながら、新しい商品を追加して、紹介している。そこで同社から勧められたのが「のり」とポンプのセット。(※上記写真をスライドすれば見れる)。実は、復刻版で、SNSで投稿していたところ、石油ポンプを連想させるデザインなのがレトロ風でブレイク。それで商品が発売に至ったというエピソード付きである。

自らの価値に誇りを持って提案する場

1.その使い道に驚きを

 ここまではそのギミックやデザイン性で魅了する向きもあった。最後に、使い道自体に新しさをもたらして、驚かせているのがサンスター文具である。正直、僕は知らなかったが「ウカンムリクリップ」という商品がある。ズバリコレである。

 書籍など「見たいページ」をキープするといういぶし銀とも言えるアイデア。中心部分を避けて止めるので、内容を隠さなくて済むというのが長所。まさに、僕の小説の文庫本でやってみたのだが、外した後も、ページの開き癖が全くついておらず、本も痛むことはなかった。

 それ以外も「metacil」と言って、芯が黒鉛を含んだ特殊合金で作られたペン。(※上記写真をスライドして参照)。鉛筆のようで鉛筆ではない。筆記時に黒鉛と合金の粒子が摩擦によって紙に付着することで筆跡となるわけだ。勿論、消すこともできる。例えば、文具女子博にくる人の中にはクリエイターも少なくない。だから、これらはそんな人にはちょうど良い。約2H鉛筆相当の濃さで、絵の下書きに良いからだ。

2.想像力をかきたて、豊かさ、楽しさ基準で見る文具

 お分かりいただけただろうか。語弊を恐れず言えば、文房具は冴えない要素もあった。

 でも、垢抜けたわけである。そのヒントは、女性を中心とする感受性によってもたらされたというのが大きい。各々が、楽しみながらそれらを使う場面を喚起することで、それ自体がエンタメへと変わり、文房具に対しての見方が変わった。

 本当に女性はクリエイターだといつも思う。

 思うに女子は感性の生き物である。それが自身も気持ちを盛り上げたり、人と心を通わせるきっかけになれば、そこに価値を見出す。情緒的とでも言おうか。シールやカレンダー、ありとあらゆる素材を見たが、その本来の用途だけをみていたとしたら、その高揚感は生まれることはないだろう。この感覚がこのイベントの真骨頂なのだ。

 入場口にずらりと並ぶそのファンたちの姿を見ると、この切り口がどれだけ人の心を潤し、豊かにして、力を与えてきたかがよくわかる。この感性に基づくことで熱狂を生み出す「文具女子博」の姿勢は一時のトレンドではなく、未来に続くその時代を生きる人の喜びそのものであり、だから注目すべきイベントだと僕は思うのだ。

 今日はこの辺で。

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