従来の価値観もリセット メタバース空間 αU(アルファユー)にリアル以上のリアルを見た
確実に、変化の足音は聞こえているな。そんな気がした今回の発表である。僕は、この日、KDDIの発表会にいて、そこではメタバースに関してのサービスの発表がされていた。その名もauではなく「αU(アルファユー)」である。
誰もが隣り合い壁を感じない世界を
1.メタバースをコアにしたweb3空間
この日からアプリができていて、その街中は誰でも歩ける。大きく二つの世界が広がっていて、渋谷と大阪である。まずアプリをダウンロードすると、自分のアバターを設計して、服や顔などを設定できる。
ここでは、特に自分のリアルな身なりや人相を再現することは意図していない。全く違った自分をそこで作り出すことで、従来の枠組みにはとらわれない生き方を模索しているようでもある。
2.高橋社長自らプレゼンする肝煎りサービス
この日の会見は、KDDIの代表取締役 高橋誠さん自らがプレゼンする気合いの入りようである。決算会見以外でプレゼンするのは珍しい。彼が説明した「αU(アルファユー)」は、メタバースを起点にして、web3全般を体験するものである。
高橋さんと一緒に映るのは、渋谷区の長谷部区長や大阪府の山口副知事だ。実際の自治体とも連携を密にとって、その街は再現されている。その甲斐あってか、アプリ内の渋谷は極めて忠実に再現されている。
渋谷の街をダウンロードする時間は、ちょっと長め。その辺はご愛嬌か。そして足を踏み入れ、思ったのは、「初めて渋谷に訪れた日」のことだ。「こっちは何があるのだろう」。そう駆け巡っていたあの日のようにその空間を歩いていた。
このサービスはメタバースをコアにweb3領域を全方位でアプローチする。「metaverse」を真ん中に据え「place」「market」「Wallet」「live」で構成するわけだ。
もう一度、その画面を見てもらいたい。右側には「マイク」のマークがある。「オン」「オフ」設定があって、これを使い、自分の生の声で交流を図る。歩いていると、ユーザーの声も聞こえてきた。
3.メタバースを最大化するアイデアを注入
こちらは、登壇した面白法人のカヤックアキバスタジオのCXO天野清之さん。彼は、この音声機能を強調していた。その理由はこれまでデジタルでは、テキストベースのコミュニケーションがメインだったから。
声は、より感情をダイレクトに反映しやすい。熱狂を倍化させるわけで、これを街中やライブで活用する。彼はソフトの価値を最大化させるべく、プロデューサーに就任し、その責務を担う。街中を歩いて気づいたが、声によるリアリティは確かに実感できた。
4.Google cloudと連携し土台を作る
さて、ここまでの内容を実装できた理由はなぜだろう。それは、Google cloudとKDDIが連携して、「immersive stream for XR」を使っているからである。つまり、XR体験を可能にするアプリケーションを使い、KDDIは渋谷などの街を設計した。
そこに天野さんのような専門家の知見を取り入れる。ソフトとハードの両面から、よりリアリティを持った快適なメタバース空間を作り出す。また、イベントやミート&グリートを開催して、ファンコミュニケーションを深める場として存在する。だから、ここを起点に熱狂が生まれやすいというわけだ。
勿論、憧れのユーザーと触れ合う。それもあるだろう。ただ、それだけではなく、自らのオリジナリティも発揮して欲しいと彼らは言う。自ら、クリエイターになれる環境をどれだけ作れるか。各々マイルームを持ち、そこでは自分の好きなデザインにカスタマイズできるようにしたのは、それゆえである。他人の表現に感化され自らも表現し、そしてファンを生み出す。
コンテンツが発揮される空間づくり
1.ライブをリアル以上に堪能できる
リアルな街並みで、出会った仲間はそこでの自己表現を目の当たりにする。そして、その人物が自分と価値観を共にするのである。そのときに、僕らがリアルな世界で当たり前にしていたことを必要とするだろうか。それこそが先程、冒頭に話したことにも繋がる。敢えてリアルな自分の身なりによせなくてもいいだろうと。
そして、その胸の内にある価値観をもとに、ライブに通うのだ。ライブも微細な作りであり、各々の個性を最大化する土壌となる。リアル以上に演出がユニークで小さく映し出された後に、グイッと大きくなって、所狭しと歌ったり、アートである。
また、リアルなライブでは一方からしか、パフォーマンスをみることができない。だが、これは360度、自由視点で視聴できる。「推し」の横顔、後ろ側など、好きな方向から、それを堪能する。それはリアル以上にリアルだろうと思う。より“没入感”のある空間なのだ。
2.コンテンツからも後押し
さらに、コンテンツ自体のパワーも大事だ。そこで、この動きを最大化させるべく、アソビシステム、Activ8、KDDIの3社が戦略的な提携を行うことも発表。アソビシステムはきゃりーぱみゅぱみゅさんなどに見られる「かわいい」コンテンツを豊富に持つ。Activ8はバーチャルタレントの輩出を目指したプロダクションである。デジタルな空間と強力なコンテンツは共鳴しながら、ユーザーを触発するのだ。
この会見では「BE:FIRST」「bala」などが挨拶に立った。リアルで人気のアーティストが、先ほどのライブのリソースを使って、リアル以上に密着感のある体験を提供して、人々の気持ちを高揚させるわけである。
他にも、水曜日のカンパネラなど、アート色の強い音楽ライブなどには大いに期待したい。
消費が生まれて決済が必要となる
1.流通が生まれて行き交う決済に価値
考えるに、これは相当な投資である。そこまでして、その世界を作り出そうとする理由はそこに新しい生活の基盤ができれば、消費を生み出せるからだ。
ただ、この場所では、デジタルではデジタルゆえの商品である方が理にかなっている。
それゆえに、ここでNFTの存在が出てくる。つまり、彼らはαU marketというマーケットプレイスを作り出し、それらのNFTを購入する。それと共に、クリエイター化したユーザーたちの作品が自由に行き交うようにするのである。
投機目的で購入されることも少なくない。だが、僕が思うに、本来、独立して購入されるものではない。メタバースという“日常”を生きることで、最大化されるのがNFTだと思う。自分らしさを追求し、それを発揮させるべく、購入されるもの。
2.各々表現するためのNFTでマーケットを触発
こうやって生活が生まれると、商品が連動して生まれる。だから、決済が必要になる。ここまでKDDIが肝煎りでメタバースに取り組む価値はここにありそうだ。
一人一人のIDは、「αU Wallet」というユーザーの財布と紐づけるのである。この内容は言うなれば、決済代行である。クレジットカードやauかんたん決済で、それらのNFTを購入できるようにしていくことで、ショッピングを身近にする。
この「αU Wallet」での消費をどれだけ活性化させられるメタバース空間を作れるか。それがここまで取り組んだ相当な投資の回収に直結する。土地があり、商品があり、ライブ的なエンタメもある。ともすれば、そこには大きなお金が動く。
その街の影響力が大きければ大きいほど、手数料収入が大きくなるから、彼らは先に投資をして、この街の活性化に努めるのである。そして、そこには単体ではできないような色々な才能を結集して、一緒に盛り上げていこうというわけだ。
4.リアルを手本にリアリティを追求する場所
メタバース空間はある種のリアリティを持っている。だから、プラスアルファでお店も用意する。それは、各々のブランディングに寄与する場所として機能するからだ。それが、αU Placeの考え方。リアルなお店と変わらぬ内装で、買い物ができるわけである。
勿論、ここでもαU Walletは使える。だから、あらゆるものがリアルと変わらず体験し購入できる。
大事なのは、昨今、リアルのお店がエンタメ的になっていることにある。つまり、ブランド体験を感じられる場所になっているわけだ。だからこそ、そこで場所の垣根を越えて、接客などが受けられれば、それがそのまま、ブランディングになる。表参道に行けば、ラグジュアリーブランドの実店舗があって、それは顧客体験を深掘りする空間なのだ。
この場所はそれと同じ。でも、物理的な移動をなくして、ブランド価値を訴求する空間として、世界中の人が通えることの意味を思う。
時に最近、若い世代の間では、その場所へ行くことが「怖い」という人もいるくらい。メタバース上がその人たちにとってはリアルの世界なのだと気付かされる。だとすれば、リアルと同じ実装がその仮想空間になされていることは、必要なことだとわかる。
別の世界ではなくリアルと共に一つの世界
1.メタバースの先駆けクラスター加藤社長も
一見すると、メタバースは違う世界に思えるだろう。でも、それこそがもう古い考えだ。メタバースという世界は「世界を一つ」にする。リアリティのある街だから、リアルの街を補完する。バーチャルの渋谷でもいいし、リアルの渋谷でもいい。ただ、感覚としてはそれらは一つのものという認識なのだ。
その中で、メタバース空間の利点は、誰もが物理的な地域の壁を乗り越え、まるで隣に人がいるような感覚で、一緒に世界中の人が楽しめること。
メタバースに関しては、国内での先駆けが「クラスター」である。意外だったのが、代表取締役 加藤直人さんもこの場に登壇して、この動きを歓迎してみせた事だ。
これこそが真実だと思う。つまり、彼が意図しているのは新しいメタバースができる度、また国のような垣根が生まれたら、意味をなさないと。GAFAのようにどこかだけが圧倒的シェアを握るのは、これからの未来には望ましいことではないと。
ユーザーがそれこそ垣根なく、行き来することこそ、もっと行われるべきことだと応援にやってきたのである。共に手を取り合い、その意味でも一つになろうという精神がある。
そして、何の因果か、リアルが活況に湧きつつある、このタイミングに「αU」を発表した。これこそ、彼らが向き合おうとしているのはデジタルですらないということの証だ。リアルも以前の勢いを取り戻しつつある中、一つの真実を追うのがこのメタバースの世界である。
2リアルの熱量をデジタルに送り込む
あたかも全く違う世界のメタバース空間ができているよう。しかしそうではない。渋谷に来たって良いけど、そこで実感した価値をメタバースでも感じて、また渋谷に来ればいい。どちらが云々ではなく、本当に「一つの世界」なのだ。
特に若い世代では、リアルへのこだわりがそこまで強いとは言えない。大人だって、FacebookなどSNSというフィールドなどで友人のやりとりを確認している。そんな感覚で、日々、そのメタバース空間上に仲間がいるとしたら、今のSNS並みにアクセスするのではないか。それを痛感したのだ。
そうやって、長い目で見たときに、人は「どちらをリアルと言うだろう」と思った。
むしろ、メタバース空間の方がリアルであり、本当のリアルがそのメタバースを補完しているのではないか。つまり、もはやこの世界観は、リアルとネットの垣根を作ることすら、無意味にする。当たり前に、どちらもリアルな世界であり、それを行き来することで、全く違う体験に僕らは足を踏み入れようとしているのだろうと思うのだ。
今日はこの辺で。