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新商品ではない。“新用途”開発こそワークマンの真骨頂 池袋など出店攻勢をかけるその理由

 新用途開発とは、面白い発想である。先日、銀座店をオープンさせたばかりのワークマン。ワークマン女子池袋店も新たにオープンさせ、僕はなぜそこまでこのコロナ禍で出店攻勢をかけるのだろうと思った。でもその理由がわかったのだ。僕はワークマン女子の池袋店にいて、広報の林さんと話をして、その「新用途開発」視点にこそのその答えがある。それは、同時に、この池袋店がなぜ、存在するのかを考える上でのヒントでもあるので、敢えて記事にした次第だ。

ワークマン女子 池袋店Open

1.え?銀座店好調なんですか

 「つい先日、オープンした銀座店も過去最高レベルの売り上げを記録しているんです」きっかけは、彼の一言だった。実を言えば僕も銀座店を訪問させてもらった。下の写真がそうであるけど、若干、敷地面積も狭く、品数が多いと言えない。ただ銀座というだけで、店自体にそれほど他との大きな違いは感じられず、特に記事にすることもないだろうと、記事化を控えたほどである。ところが!である。

 林さんの話を聞いていると、場所柄、ビジネス帰りに寄る人も少なくないと話して、その中身が興味深かった。つまり、不思議な話ではあるけど、キャンプやスポーツを意識したアパレルであっても、それをビジネスシーンでも使えそうだと言って、購入する声もなくはなかったというのだ。防水用のパーカーは雨の日の行き帰りに使ってみよう、という具合。

2.専門性で立ち寄っても使用用途は様々

 つまり、元々、彼らは作業着としての専門性を持っているけど、キャンプなどの需要があり、一躍脚光を浴びるようになったのは周知の通り。けれど、今度は僕自身、成長後の「ワークマン」をそういうキャンプなどのイメージで気付かぬうちに固定して見てしまっていたのだ。

 彼らはもっと貪欲にキャンプ用に作ったものすら、違う用途を求めている。実はビジネスに使えるのではないか、という具合に、チャンスを窺っているのだ。専門性を持ちながらも、使うシーンに対してはもっと柔軟であろうとする姿勢に今、あるべきメーカーの姿を垣間見るわけである。

 だから、さぞかし彼らは、銀座店で「ビジネスシーンでも使えそうだ」と買ってくれた人たちの存在にガッツポーズを見せたことだろう。それこそが彼らの意図する新規顧客。銀座に出店した最大の理由はそれであると言っても過言ではない。

3.もっと貪欲になるための出店強化 

 とことん商品開発にこだわり、機能性に富んだ商品を作る。ただ、その利用シーンは決して固定することなく、消費者に徹底的に委ねる。その委ねたことでの広がりは、そのままリアル店を増やすことのメリットに直結している。

 逆説的ではあるけど、だから新しい利用シーンを消費者に委ねるために、リアル店舗を全国各地に増やしていくわけである。同じ商品であってもその地域や集まる人の属性によって、使い道が異なるはずだと。その証拠にこの銀座店での売れ方があり、また違った層を彼らは自らの出店攻勢によって掴んだわけだ。

受け取り拠点にする理由も

1.店舗受け取りを100%にしたい

 これが結果、店舗受け取りを強化している理由にも繋がる。彼らはここ最近、ネット通販を強化している。とはいえ配送ではなく、店舗受け取りを強く推奨している。下記は以前の決算発表での資料。店舗受け取りの割合は70%を目標に掲げているが、現時点で確認したところ、概ね達成する状況だとか。

 勿論、その理由の一つは、彼らの付加価値に価格訴求があるからだ。送料を足すことで、その効果を薄れないようにするために、送料無料にする代わりに店舗受け取りを依頼するわけだ。ただ僕が注目するのは今回の文脈ではそうではない。

2.受け取ったその時の立ち寄りで文化が生まれる

 それは、ここまでの話を踏まえれば、それだけではないことが分かるからだ。

 そうやって、お店に来てもらった時に、その商品の素材や機能性を見ながら、新しい使い道を発見してもらいたいという狙いもあるから。だから、彼らは最終的には店舗受け取りを100%にしたいと意気込む。

 もはやリアル店舗こそが彼らの商品のアナウンスの場であり、アナウンスすることで、消費者が来てもらいその場で各々で使い道を模索してもらう。一度、消費者がそれを発見されることになれば、それらは直ちに拡散されて、それが新規顧客の呼び水となる。それが今という時代だ。

3.シューズでも見た目以上の使いやすさに反応

 特に今回、ワークマン女子池袋店では関東圏では初めての「ワークマンshoes」も併設していて、今までに取り組んだ事のないパンプスなども陳列されている。関西圏では既に販売されて、想定外の売れ行きとなっているといい、その理由は「体感しているからだ」と胸を張る。

 論より証拠。写真の通り、そのパンプスは萎れているようで、見た目がいいとは言えない。

 けれど、このパンプスにしても、彼らの作業着の知見が活きている。作業をする人たちの間では、靴を履いたり脱いだりする機会が頻繁にあり、そこで靴べらが必要ない靴にこだわっていた。

 だから、それを女性のパンプスにも取り入れたところ、履きやすいと口コミで広がった。想像以上のヒットで在庫がなくなり、関東では池袋店でしか手に入らない状況。思いがけずこの「ワークマンshoes」の付加価値になったと苦笑いする。

 彼らのヒットの原点はいつも現場と共にある。

新用途開発こそ、ワークマンの真骨頂

1.新用途開発を後押しするのがリアル出店

 冒頭、「新用途開発」という言葉を強調した理由がこれで、わかっただろう。彼らは「新商品を開発する」のではなく、「新しい用途を発見する」ことで事業の伸び代がある。

 そして、その新しい用途を生み出すのは現場。だから、店が増えるほど、その可能性は広がるし、受け取り拠点として浸透すればするほど、上記の理由から新規顧客獲得となる。それが会社自体の可能性を飛躍させ、成長につながるというわけである。

 余談だが「この手についているサポーター(下写真)にしても、作業着から始まってます。元々道路工事の人がドリル持つ時、手に疲労が溜まるから作った。それが始まりです」と林さんは笑う。もっともっと新用途を求めている。

 だから、商品力に驕ることなく現場の声に耳を傾ける。それは相手が消費者であろうが、社員だろうが徹底している。「ほら、あちらでも」と林さんが視線を送る先には、女性社員に男性社員が直接、聞いている光景があった。使う人のシーンを考えて、謙虚に現場の声を傾ける姿勢は確かに今やこの会社に根付いている。

2.リアル店の価値は過去とは大きく違う

 何より僕はこれらの話を聞いて、「リアル店の価値が大きく変わっている」事を実感した。かつてであれば、マスメディアに対して露出し、「それを購入できるのはこの店」とリアル店を指定することで、そこに集客させた。そこに付加価値がついて、それがリアルの商業施設なり百貨店たりうる理由であったのかも知れない。

 けれど、これからはリアル店自体が人々の気持ちに寄り添うインフラとなって、そこに来てもらってからストーリーが始まる。並ぶ商品を使って新たな利用シーンを消費者の立場に立って考え、価値を醸成していけるか。そこにこだわるわけである。まさに、SNSなどの台頭によって、消費者が先導する形でブームが生まれるというわけである。「ヒットは消費者から」が今後の小売のど定番だし、リアルは欠かせぬ大事な拠点である。ネットも大事だけど、それ以上に、リアル店の価値を見直すべき時に来ているだろうと思う。

 今日はこの辺で。

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