LINEヤフーはどこへ向かうのか──AIとLINEが変える「次の購買体験」

ECの世界はいま、静かに構造を変え始めている。これまでオンラインショッピングは、「検索して、比較して、購入する」という流れの上に成り立ってきた。ユーザーが商品を探し、ECモールが売り場を用意する。その中から選ぶという構造である。しかしAIの登場やSNS・メッセージアプリとの接続によって、購買の入り口そのものが広がり始めている。商品は「探すもの」から「提案されるもの」へと変わりつつあり、コマースは従来の売り場の枠を超えようとしている。
そんな変化の中で、LINEヤフーはどこへ向かおうとしているのか。ここ数年、フルフィルメントの終了や出店モデルの見直しなど、同社の戦略は外から見れば試行錯誤の連続にも見えた。だからこそ今回、ベストストアアワードの場で語られた2025年の振り返りと今後の展望には、注意深く耳を傾けたいと思った。
話を聞きながら見えてきたのは、LINEヤフーがECモールそのものを強くするというより、LINEという巨大なコミュニケーション基盤を起点に、AIとデータを使って購買体験そのものを再設計しようとしている姿だった。
1. LINEヤフーは、ECを強くするのではなく、ECの入り口そのものを変えようとしている
今回、杉本さんの話を聞いていて、まず整理できたのは、LINEヤフーが目指しているものは、従来型の意味で「Yahoo!ショッピングを強いモールにする」ことだけではないということだった。
ここ数年のLINEヤフーは、外から見れば揺れていた。そう僕は見ている。フルフィルメントの終了もそうだし、無料出店モデルからの転換もそうだ。だから、店舗側からすると「結局どこへ向かうのか」が見えにくかったのも無理はない。だが、今回の話を通じて見えたのは、彼らがECそのものを磨き込むより、ECに人が入ってくる“入口”を作り変えようとしていることだ。
LINEという、日常の中で最も接触頻度の高いコミュニケーション基盤を起点にする。そして、その中で自然に商品と出会わせ、そこからYahoo!ショッピングへつなぐ。つまり、コマースを「検索の先にある売り場」から「生活の中で立ち上がる体験」へ変えようとしているのである。
ここを読み違えると、LINEヤフーの最近の動きは場当たり的に見える。しかし、ECで覇権を取るという発想より、グループアセットを使って購買体験を再設計するのだと捉えれば、かなり筋が通って見えてくる。そこに、ようやく彼らの色が見えた気がした。
2. 2025年の成長は、派手さよりも「構造を回した」ことに価値がある
Yahoo!ショッピングは2025年、注文者数が前年比110%、流通総額が108%と、着実に成長したと説明された。
実際、マーケティング施策の成果として、新規ユーザー数は前年比118%、ヘビーユーザー数も110%と伸びている。単なる流通額の拡大ではなく、ユーザーの層が厚くなり始めていることが見て取れる。
杉本さん自身も、市場の自然成長を上回る伸びとして評価していた。 ただ、この数字の意味は、単に「堅調でした」で終わらせると浅い。むしろ大事なのは、その成長が何によって支えられたのかだ。話の中で杉本さんは、期間限定ポイントやランク制度など、マーケティングの構造改革が回り始めたことを強調していた。
Yahoo!ショッピングがやろうとしていたのは、単なる値引き競争ではなく、ユーザーの行動そのものを習慣化させる設計だった。ポイントを付けるのではなく、ポイントを起点に再訪を生み、ランク制度で関係を深める。それは派手な変革ではないが、モール運営としては本質的だ。
だからこの2025年の数字を、成長率そのものより、「構造がようやく回り出した一年」として読むべきだろう。ECの世界では、見た目のインパクトに目が向きやすいが、本当の強さは、地味でも再現性のある仕組みに宿るからだ。
3. AIトラフィックがまだ小さいことよりも、すでに「効き始めている」ことが重要だ
また、AIが叫ばれる世の中だが、実際、AI経由のトラフィックが現時点でどれほど実態を持っているのか。杉本さんの答えは慎重だった。現段階でAI経由のトラフィックは「とても多いわけではない」。
しかし、少ないながらも、そこを経由したものについてはポジティブな数字が出ているという。
つまり今は「量」の話ではなく、「質」の話をするべき局面だということだ。
AIを経由したユーザーの方が購買意欲に近い場所にいるなら、今後インターフェースとしてのAIが普及したとき、ECの導線全体が書き換わる可能性がある。検索窓にキーワードを打ち込む時代から、対話によって目的が整理され、商品が提案される時代へ。
4. AIの本質は、効率化ではなく、ECに“接客”を取り戻すことにある
AIの話になると、多くの場合は省力化や自動化の文脈で語られる。もちろんそれも一面では正しい。ストア運営において、分析や問い合わせ対応、販促提案などをAIが支援する意義は大きいだろう。
だが、今回の話からより本質的だと思ったのは、AIがECに「接客」を持ち込む可能性である。これまでのECは、便利ではあったが、どこか突き放した体験でもあった。膨大な商品の中から、ユーザーが自力で探し、比べ、判断する。その効率性がECの価値だった。しかしリアル店舗の価値は、本来そこにはない。相手を見て、文脈を読み、何が合うかを一緒に考える。その行為こそが接客であり、購買体験を深める要素だった。
AIがもし購買履歴や行動履歴を踏まえて、一人ひとりに合わせて提案を行うなら、それは単なるレコメンドではなく、接客に近づいていく。杉本さんが語った「ロイヤルカスタマーのような接客」が全員に対して可能になる、というイメージは、まさにそこだろう。
・出店者に対しても
そのための仕組みとして、ストア側には「Yahoo! EC Pilot」と呼ばれるAI支援機能も用意される予定だ。問い合わせ対応や競合商品の分析、販促データの整理など、ストア運営の裏側をAIが支える構想も示されていた。
AIは無機質な効率化の装置ではなく、失われていた文脈をECに戻す媒介にもなり得る。ここに、検索型コマースから対話型コマースへの転換の本質があると思う。便利さだけなら、これまでもECは十分便利だった。そうではなく、ユーザーが「分かってもらえている」と感じること。その感覚をテクノロジーで再現できるかが、次のECの分かれ目になるのだと思う。
LINEショッピングタブの話も、単に掲載面が増えるという理解では足りない。
杉本さんの説明では、Yahoo!ショッピングに出店している商品が、特別な作業なくLINE側にも表示されていく形になるという。そしてその際、ただ全商品を並べるのではなく、ユーザーにマッチするものを選定して出していく、かなり高度なパーソナライゼーションを前提にしている。
5. LINEショッピングタブは、売り場の拡張ではなく、生活導線の中への侵入である
ここで重要なのは、LINEはそもそも「買い物しに行く場所」ではないということだ。
会話をし、連絡を取り、日常のコミュニケーションを支える基盤である。
実際、その接点の大きさは圧倒的だ。説明では、LINEのアクティブユーザーからの導線は、Yahoo!ショッピング単体と比べて日次訪問者数で約12倍の規模になるという。またショッピングタブの利用ユーザーの約87%は、Yahoo!ショッピングでの購入経験がないユーザーだという。
つまりこれは、既存ユーザーを回す仕組みというより、新しい顧客と出会う入口として機能する可能性を示している。
その中にショッピングが入るということは、コマースが売り場の中で待つのではなく、生活導線の中で立ち上がるようになることを意味している。これは大きい。なぜならLINEの中にショッピングが自然に差し込まれるなら、人は「買うために来た」のではないのに、商品と出会ってしまう。
その偶発性が購買を生むようになる。
LINEは、日本国内で圧倒的な接触頻度を持つ。だからこそ、ここにコマースが接続される意味は大きい。これはLINEの拡張であると同時に、Yahoo!ショッピングの再定義でもある。モールが独立した売り場である時代から、生活基盤の中に溶け込む時代へ。
その転換の入口として、ショッピングタブはかなり象徴的な施策だと感じたのである。
6. 外部AIに対してLINEヤフーが持つ優位性は、「説明しなくていいこと」にある
戦略共有会での後、質疑応答の中で僕が問うたのは、外部AIとYahoo!ショッピング上のAI体験は何が違うのか、というものだった。
これに対して杉本さんは、将来的には差が縮まるかもしれないとしながらも、現時点では決定的な違いがあると説明した。それは、プラットフォーム側にはすでに購買行動や履歴のデータがあり、ユーザーが「いちいち自分のことを説明しなくても使い始められる」ことだという。
これは非常に本質的な指摘だと思う。
外部AIがいくら賢くても、初回の会話ではユーザーの背景を知らない。
好みも、予算感も、過去の購買も、何を重視するかも、結局は入力してもらわなければならない。しかしYahoo!ショッピングの中なら、それが最初からある程度分かっている。さらにLINEと結びつけば、より日常に近い文脈も含めて理解できる可能性がある。ここで言う優位性は、AIの頭の良さそのものではなく、土台となるデータと接点の深さだ。言い換えれば、ユーザー理解のコストが圧倒的に低いのである。
だからLINEヤフーの強みを「AIを持っていること」ではなく、「AIが働く前提条件をすでに持っていること」だと考える。
外部AIとの競争は、モデル性能だけでは決まらない。誰がより自然に、より少ない摩擦で、ユーザーの文脈に入れるか。ここをどう活かすかが、今後の勝負どころになるはずだ。
7. フルフィルメントの失敗は、後退ではなく、「どこで勝つか」を定め直した出来事だった
今回、あえてフルフィルメントの話も杉本さんにぶつけた。
というのも、昨年のその終了は、店舗側から見ると単なる施策撤退以上の意味を持っていたからだ。以前のYahoo!ショッピングには、楽天を意識しながらECモールとして総合力を高めようとする気配があった。だから物流を整える方向に行くことも、ある意味では自然だった。
だが、杉本さんは今回、それがうまくいかなかった理由を、戦略そのものの否定というより、座組みでうまく回せなかったことにあると率直に語った。
さらに、配送に課題がある認識は持ちつつも、今これだと思える解が見つかっていないとも話した。その一方で、差別化や優位性を考える中で、LINEのような他にはないタッチポイントを活かす方向は近年強まっている、と明言した。
このやりとりを聞いて、むしろ前向きな整理だと思った。何でも楽天やAmazonのように揃える必要はない。物流で勝つには、相当な資本とオペレーションの強さが必要になる。しかしLINEヤフーには、別の強みがある。巨大なコミュニケーション基盤と、そこから得られる生活接点のデータである。
8. 多モール併用時代に店舗が考えるべきことは、「どのモールで何を最大化するか」である
最後に、耳の痛い話かもしれないが、Temuのような新興勢力の台頭も無視できない。
質疑応答でも、消費者の節約志向が強まる中で、安さがフィットしているモデルとしてTemuの話題が上った。杉本さんも、可処分所得が増えにくい時代背景の中では、より安くという傾向は止められないだろうと認めていた。そのうえで、自分たちも総合モールとして、そうした戦い方や商材をどう取り入れるかは網羅的に考えていると述べている。
ただ、ここで大事なのは、Temuに対抗するかどうかそのものではないと思う。もっと本質的なのは、ECモールごとに「何が最大化される場所なのか」を、店舗側が理解することだ。
Amazonは物流と利便性が強い。楽天は経済圏と販促の厚みがある。
Temuは価格破壊力ばかりが語られがちだが、実際には、その価格を成立させるビジネスモデルこそが本質だ。
9. LINEヤフーが描く次のコマース
では、LINEヤフーは何か。
杉本さん曰く、LINEという接点を起点に、データとコミュニケーションによってLTVを高めていく場所だという。LINE公式アカウントがリテンションに最も効果的であり、結果としてLTVを最大化できることが特徴になるはずだと話していた。
まさにこの部分こそ、未来に示されるLINEヤフーの姿なのだろう。彼らはLINEという巨大な接点やメディアとしての側面を活かしながらデータを蓄積し、ユーザーごとにより快適な購買体験を作り出していく。その積み重ねによって生まれる提案力こそが、他のモールや外部AIからの流入では簡単には再現できない強みになる。
ECの競争は、単なる売上の競争ではなくなっている。どの接点でユーザーとつながり、どんな体験を積み重ねていくのか。その設計こそが、これからのコマースの価値になる。LINEヤフーは、まさにその接点を取りに行く戦いを始めているのだと思う。
今日はこの辺で。







