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顧客台帳2.0、そして3.0へ。 J.フロント リテイリングに学ぶ 変貌する顧客データ収集法と分析の舞台裏

 古くは、呉服屋時代から、顧客台帳は存在していただろう。けれど、その中身は時代と共に変貌を遂げた。情報量が多く得られる時代になったのは、web2.0の世界ゆえ。誰もがスマホを持ち歩く時代だから、得られる情報も増えたからだ。けれど、何を吸収し、どう活かすか。分析するために必要な情報収集のあり方と、その分析の中身を、J.フロント リテイリング執行役常務 林 直孝さんに聞いた。

売上を追わず、顧客を追うと売上が上がる

 ズバリ言う。小売業なら誰しも持っている顧客台帳の中身が、昭和時代から止まっていないか。ここ30年ほどの急激なデジタルの躍進によって、拾い集めるべき顧客データがまるで変わってしまった。僕が彼が持ち出した中で気になったキーワードは「維持率」。

 ちなみに彼が言う「維持率」とは「その年度の購入者が翌年の年度でも購入している割合」。

 ここに限らず、最近、リピートを重んじる通販界隈では、よく聞かれるワード。それを百貨店や商業施設の立場からも当然にして語られているこの現実。そこに過去とは違う姿を見てとれる。かつて、小売におけるデータで重要視されたは「いつどこで何がどれだけ売れたのか」。購買データであったからだ。

 勿論、彼ら百貨店は、今も昔もそれを蔑ろにしているのではないだろう。ただ、林さんは殊更丁寧に、デジタルの観点で、それを顧客の行動を紐づけた。そして、購買を、維持率の向上につながる「データ」の一つとして捉えた。そのことに意味がある。

 だから、デジタルにおける施策とそのリアクションを含め、それを僕は「顧客台帳」2.0と呼んでみた。

パルコ時代から培った必要なデータの見極め

 元々林さんがいたのがパルコ。リアルの商業地として名高いこの拠点の価値を、デジタルの側面から顧客分析して、上げてきた。つまり、今までであれば、数を集めて、売上を向上させる。百貨店はそれで、お客様を集めつつ、一方でロイヤルカスタマーを醸成して、手厚いサービスと引き換えに、長く盤石な売上を作る源泉を生み出していた。

 ところが、ロイヤルカスタマーの醸成においては、まだ旧態依然であって、デジタルを活用しきれているとはいえない。まさに、ここで林さんが出てくる所以であり、パルコを傘下に置きつつ、百貨店も併せて、その価値を向上させていこうという話なのであろう。ここからが現代における「顧客台帳」の考え方に通じる。

 彼は、以前から、その購買行動の前後のデータ収集にも着目して、そのための施策を続けていた。その起点となるのが「ポケットパルコ」の存在。つまり、スマホアプリなのである。

 元を辿れば、その片鱗は今から10年以上前から始めた「ブログ」にある。当時はまだ、アプリも充実していない時代だからこそ、パルコのWEBサイトに掲載していた。何もそれはアピールするためのものだけではない。その内容をクリップできるようにして、顧客のデータを購買行動と紐づけるためだったわけだ。

カスタマージャーニーの片鱗が見えてくる

 ただ、ブログによる理解度の度合いに合わせて、店側が接客できるようにしていく。そうすることで、顧客満足度へと繋げ、よりそのデータの利用機会を増やして、精度を高めたわけである。データの必要性を企業側の都合に寄ることなく、顧客思いに徹して、購入前の行動を把握できるようにした。繰り返すが、購買をブログとの結びつきで検証することで、顧客を理解するための手段にしたのである。

 この本質は変わらない。では、アプリとして進化した時、どういうタッチポイントを作ることが、顧客を理解することにつながるだろう。だから、ブログのクリップを日常化させるのと併せて、店に着けばチェックインをしてもらうことを着想するわけだ。

 更に一見、購買には関係がなさそうな「ウォーキング」も追加される。スマホに実装された歩数計と連動させて、500歩、歩けば、ポイントを付与されるのだ。すると、どのくらい、その場所に滞在したのか、お客様の買い周り状況を含めて、把握できるのである。

 さらに、購買した場合、ポイント付与を敢えて後からアナウンスして接点を作る。その接点から評価を促す。ここに、一連の行動が一続きになるわけだ。顧客満足度に直結しつつ、自然な形でデータ収集が実現できている。このバランス感覚が彼らの真骨頂ではないかと思った。

そこで浮かび上がる顧客データとは

 さてさて、これが同社に与える影響である。実際、このような積み重ねにより、全体の売上の4割程度は、アプリを利用しているという状況(23年2月時点)。有効会員数は200万人にも及ぶ。

 それだけ多くのお客様の購入前から購入、そして購入後の全てを把握できる。そのことは、売り場として以上の価値を彼らは手にしたことになる。先ほど触れた通り、ここで大事なのは「維持率」という指標だ。それは買い周りの件数を増やし、継続的に店に足を踏み入れる要因になるからである。

 実際に「維持率」が高い人はどういうお客様か。具体的には、一つのブランドを目指してやってきて、それだけ購入している人より買い周りをして複数ブランドを購入している人の方が、維持率としては高い。買い周りの購入件数が複数ブランドで購入している人の方が、「維持率」において倍ほどの高い数値を出している。

 これはジャンルを問わない。雑貨やファッション、食品など他のジャンルでも、同じ傾向が見られる。だから「百貨店やショッピングセンターの役割とは何か」をそこから導き出す。

 ショップはその商業施設でそのブランドを認知させるとともに、体験価値を底上げしていく。その体験価値の向上が実は、他の個々の店舗への体験価値向上にもプラスに作用して、それが、商業施設たる所以を作り出している。

買い周りを自然に促すことが価値に

 簡単に言えば「買い周るほど、そのショッピングセンターへの愛着が増す」。ここに彼らの存在価値がある。

 商業施設も1つよりは複数の方が良い。例えば、心斎橋などはパルコと大丸松坂屋の距離が近く、両方の利用者は「維持率」が高かった。つまり、彼らはこれらのリソースを使い、相互に行き来させるように施策を機能させることで、その存在価値を最大化させられるということになる。KPIもそこが指標となる。

 それは、eコマースとリアル店舗を行き来させる。その意味でも言わずもがな。

 最近、大丸松坂屋百貨店が開始したのが「アナザーアドレス」というファッションレンタルのサブスク。定額で着数のファッションが着用できる。年間での利用が増えるから「維持率」を高める。派生させて、冷凍食品が作れるデパ地下のサービス提供者とも「ラクリッチ」というサブスクリプションサービスを展開している。

  でも本質的には同じ。というのも、ブログを通してショップを動かし、それによって体験価値を底上げする。結果、それが商業施設としての維持率を高め、ショップに還元していく。これをeコマースで取り入れると、ファッションや食品などで横断的に送られるサービスで認知と体験を上げていく。自ずと維持率が高まり、店に還元できる度合いが上がる。

 つまり、出店しているお店に対して自分たちが果たすべき役目は何か。それは「維持率」を軸に、回遊する価値を店に還元する。

データは世代を通して家庭の実態を映し出す

 だから自ずとお客様のLTV(ライフタイムバリュー)が大事となる。そのためにライフタイム・ジャーニーに沿って、施策を立てることが重要となる。

 さらに推進していくと、ハウスカードのデータの価値も見えてくる。

 例えば、百貨店のハウスカード。契約した本人とその家族が使えるようになっている。その上で、18歳以上であれば、カードの発行を可能にしている。それを「家族カード」と呼んでいるのだ。

 それで、本契約者よりも20歳以上、離れた家族と思われる人が、家具に限って購入されている率を年齢別で出した。すると、18歳、20歳、22歳で共通して、家具を購入する傾向が見られた。

 だから、百貨店の中で、子供に当たる人にDMなどを通じて、プロモーションをすることは効果的だろう。同時に、家具を扱う店舗は、パルコにもある。だから、そこを訴求することができると、選択肢に幅を持たせることができる。このカードの利用を通して、年齢が離れたお客様に対してもその「ライフタイム・ジャーニー」が作れる。それが後の「維持率」につながっていくとすれば、グループ全体に意味を持つ。

 また、大丸松坂屋とパルコという比較的属性の異なるユーザーで補完し合う関係ができている。だから、学生から社会人、結婚して、子供の世代へとそれらが連鎖していく。維持率が高まる施策によりそのデータは盤石なものとなるわけだ。

それはweb3.0の世界とも通じている理由

 これらを踏まえて、未来は?ということになって、web3.0の世界だ。大きく変貌を遂げるし、まだまだ先のことだろうと思う人もいるだろう。でも、あと数年でやってくる世界であり、実は本質的には変わらない。Apple vision Proの装着をして、僕は、空間コンピューティングの概念により、きっと、リアルの価値は最大化される。そう思った。

関連:Apple Vision Pro体験記 MESON 「世界がデジタルと自然に共存する時代」

 まさに、林さんが話してくれた「渋谷パルコ」での取り組みがそれに近くて、そこで花火をあげたのだ。と言っても本当のではなく、デジタル上。まだ、iPhoneを使ってのことだった。つまり、リアルの活用の度合いが今までにまして、多様性を帯びてくる。そうするほど、よりリアリティを持った情報が集まる。

 これらを単なる客寄せではなく、そこを起点にまた、あらゆる持ち場と回遊させていく土台を作れる。

 思えば、ブログの時代と変わっていない。ブログそのものの価値を、小売に掛け合わせるだけで、それらが、来店前における顧客把握の手段となる。一見すると、それが購買に関係ないものでも、そこには購買の動機があって、顧客を知ることとなる。だから、顧客台帳は2.0から3.0へ。

 語弊を恐れずいえば、小売に固執しない小売こそ顧客を理解し、維持率を高める。結果、維持率を知ることで小売を伸ばすことになる。

 今日はこの辺で。

 

 

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