小杉湯、東急プラザ原宿「ハラカド」での挑戦!花王、アンダーアーマなどが今、銭湯に熱視線の理由
大都会、原宿の真ん中で「銭湯」が産声を挙げた。僕がやってきたのは「東急プラザ原宿店」通称、ハラカドである。案内された先には、ごく普通の銭湯があって、その名も「チカイチ」。ここに、僕は未来に向けての企業のあり方の変貌を垣間見たわけである。なんせ、銭湯に絡んでいる顔ぶれに、花王、アンダーアーマーなどの名だたるブランドがいたのだから。
現代における銭湯の価値の活かし方とは
名だたるメーカーが先頭に熱い眼差しを送る理由。それは、思うに、昨今、D2Cが出てきたことと無関係ではないと思っている。そこでは「もの消費」ではなく、「こと消費」となって、価値観で繋がっていて、その分、深い関係性が築かれている。それ故、盤石な顧客基盤が生まれ、それがビジネスの根幹部分を成している。
そこで、反面、大手メーカーは、それができない。卸を挟んで、お客様と関わりを持てないからだ。
思いがけず、その課題に応えるのが、銭湯であるという現実を、この原宿で実感する。ただ、それは銭湯側における切実な思いもある。だから、実際は助け合い、価値を高めていると言っても良く、それが興味深い。
僕は、ここに共創という昨今のキーワードが当てはまると思った。この知恵に学ぶべきである。
この銭湯は、「チカイチ」といい、運営元は、高円寺で実際に、銭湯を営む「小杉湯」という会社。昔ながらの銭湯である。東京の銭湯は、1日平均144人といわれる中で、小杉湯は4〜500人を数え、祝日に至っては1000人も集まる。背景にあるのは、元々3代目が就任してからの企画。スタッフ自身が考えるだけではなく、お客様も提案して人の輪を作ってきたから、それが実現したのである。
・新しい価値を創出して財務体制を見直す
しかし、毎年、その建物には修繕費が500万円ほど必要。小杉湯としては財務体制としてやっていける環境ではないのも事実。新たなビジネスモデルの確立を、打ち立てる必要があった。
その可能性をかけてのこの原宿での立ち上げである。大都会で、銭湯が経済を作ることを知らしめ、その銭湯がもたらす可能性をフルに発揮する環境を作り出す。だから、既成概念にとらわれない活用手法に気づきがあって、僕はここで取り上げることの意味を考えたわけである。
チカイチが一番こだわったのは入浴料で、520円。実は、東京都の公衆浴場で決められた価格と全く同じにした。認可としてはスーパー銭湯の形。しかし、毎日入ってもらえる場所であるべき。その考えから、この金額設定にしたと言うのだ。
その姿勢からも分かる通り、街の銭湯でありたいという考えは本物。
敢えて、サウナを作らず湯船で勝負をしているし、地元のエリアの方々との接点づくりを絶やさない。スタッフ自身が、原宿に住んで、町内会にも参加しているという徹底ぶりである。
・着用率を上げるためのリアル体験「アンダーアーマー」
ではどんな企業が連携しているのかというと、アンダーアーマーの野田佳宏さんが、答えてくれた。彼らは実は最近、実店舗を使って、コミュニティ化を進めているのだとか。有明などのお店では、開店前を使い、ランニングやストレッチなどをその集まりで、行っているのだという。
それに対しての手応えがある理由は、いまだ着用率が徹底できていないからと語るわけである。
実店舗を通して実施していたものを銭湯に
商品がいくらあっても、それがまだ、着用しきれていない状況。何かを買うというときに、着用せずに他社と比較すると、自分たちのブランドの価値を訴求できないまま、判断されてしまう。
だから、そういうきっかけを自ら作り出すことで、その率を上げていく。そうすることで、着用率が上がって、購買が増えるという現象が起こるのだという。
それゆえ、この銭湯に着目したということにもなる。
自身もこの周辺でランニングをするものの、その汗を落とす場所がないと思っていたようです。だから、ここに銭湯ができたことで、それが同じく感じる人も多いだろうと。それは、自然な流れで、上記の取り組みを銭湯でやることに親和性があると感じたというわけである。
・外のその価値を実感するために「花王」
同じく、感銘を受けたのは花王である。そこに並んでいたのは、過去の石鹸のパッケージデザインであり、へぇと不思議な気持ちでそれを眺めていたら、声をかけられた。花王の野原聡さんである。
「こんなにパッケージが凝っていたのはなぜ?」。僕は聞いたのである。
「当時の石鹸って今でいう化粧品なんです」と。石鹸が出た頃は、価格が高く、一般の人には手に入らない代物だったという。イメージとしては、化粧品。そう言われて、ここまでこだわったパッケージなのかの想像がついた次第である。
このデザインをトレースして、ここで販売していく予定なのだとか。
・銭湯だからこそ初めて石鹸を感じることができる
ここで石鹸にまつわるあらゆることを深掘りしていきたいと考えるのは、お風呂というロケーションだからだと語るわけである。ここが全体を通して、気づきを与えるポイントである。
というのも、石鹸は花王と一緒に体験して、価値が向上するものではない。では、体験を通して、石けんを感じられる場所ってどこだろう。「そう考えると、銭湯なんですよね」と野原さん。生活に馴染んだところで、石鹸を意識してもらう。そうすることで、他との差別化ができる。だから、そこを深掘りして、新たな接点を作り出して、顧客との距離を縮めていくわけである。
これが深いのは、銭湯は銭湯で、別で存在していたわけである。でも、花王は花王で、個々の人の生活に密着しすぎて、外で触れ合い、実感できる場面がない。だから、これらが掛け合わさるわけだ。アンダーアマー然りだが、それぞれ補完しあって、価値を高めていけるから、意味を持つわけである。
まさに、これが今まで、お互いできなかったこと。僕は、デジタルが浸透する中で、これから意味を持つキーワードがあるとすれば、共創なのだと思う。それぞれ、その役目を果たすかだけではない。どう心に染み入るか。その部分に落とし込めるかが、これからの企業にとって大事なことだろう。それを昔ながらの銭湯が教えてくれている現実は、自らの文化をも守ってくれていて、未来の僕らの姿勢にも気づきを与えているのだ。
今日はこの辺で。