ドン・キホーテが惹きつけるド派手な外装 その裏には巧みな地域連携があった
ドン・キホーテは今、若い世代の人にとって待ち合わせ場所。そんな話を以前、カラコンを手がける企業から聞いて、気になっていた。その時はカラコンのバリエーションの豊富さで、時間を退屈させないという文脈でもあった。けれど、そもそも、人を滞在させるだけの工夫がありそう。それで、僕は、ライフスタイルweekで、PPIHの二宮仁美さんの話を聞くことにした。集客できるデザインの秘訣について話していて、その内容に、納得したのである。
店ごと異なるドンキの魅力
良し悪しを抜きにして、街中で『ドン・キホーテ』は目立つ。これは創業者自身がずっと描いていたことでもあり、街に埋没させないためと言われている。ただ、目立つの一点張りで、画一的な店舗デザインであるかのように見えて、そうではない。
ある種、その地元に根付くテーマパークのようであり、地域に密着している。だから、実は、店によりその個性が大きく異なっていて、そこに集客におけるみそがある。正直言えば、僕自身、ドン・キホーテというお店に、クリエイティブなイメージはなく、とにかく人目を引くための「ちんどん屋」のような印象が強かった(失礼!)。
実は、2010年以降、重んじられてきたのが、デザイン性なのであり、それはなぜか。
地域のニーズを取り込み、デザインに反映されることで、滞在時間が増えれば、売上が向上する。そのことに気づいたからである。2014年にはスーペースデザイン部という個別の部署が立ち上がるなど、それを本格化。二宮さんは一貫して、それを手掛けてきた。まさに、手を替え品を替え、外装その他で、その地元を賑わせてきた張本人である。
間違いなく言えるのは、昨今の商業施設のように、ファッショナブルに上品にまとまっているわけではない。では、どんな風にその地域性をデザインに反映しているというのだろう。それを追求してみることにする。
浅草の変貌を取り込み自らの価値へ
わかりやすいところでいうと、2013年の『ドン・キホーテ』浅草店だ。
この地域は、浅草寺の西側に位置し、かつては東京一の興行街だった場所である。今では、つくばエクスプレスの開業により浅草の新たな西の玄関口として、浅草観光の拠点を担う地区となっている。
当時、浅草としては、それまで培ってきたものは継承しながら、六区ブロードウェイを中心に、浅草の歴史や伝統、芸能文化を彷彿とさせる新しい街並みを形成することを意図していた。その六区でアイキャッチに相当する五差路の角にそびえ立つのが「ドン・キホーテ」。
テーマもはっきりしており、ゼロベースで作れる自由度の高さと、社内でもデザイン性を重んじる最中でのことゆえ、浅草店は思い切った外装を取り入れた。
かつてなかった「アールデコ調」のデザインを取り入れ、六区ブロードウェイを念頭に、華やかな外装を心がけた。これにはその近隣の人たちも度肝を抜かれた。
しかも、ドン・キホーテらしさは失われていない。初の試みで、ドンペンくんにシルクハットを被せるなどして、そのイメージを徹底。自らの価値は尊重しながら、地域に適応して行ったのである。
三つの軸でブレないデザイン性
また、PPIHでは店ごとの店舗責任者に権限移譲が行われる。各々の裁量全てが任されることで、対象となった人物は、地元を研究する。
それは、その地域にふさわしい拠点として足りうる存在に必要な要素を洗い出すためである。これだけの大きなお店でありながら、地元の個人商店に発想は近い。ある意味、それがリアル店舗での潮流なのだろう。
浅草であれば、外国人観光客の存在(顧客)、そして、五差路という場所の特性の最大化(立地)、浅草自体の地域におけるまちづくりとの連携(地域性)という具合に、落とし込んでいく。
また、それは外にとどまらない。内装においても練られており、その代表的な要素としてあげたのが、水槽である。水槽?実は、この浅草店の入り口付近には水槽があり、中に魚が泳いでいる。
決められたデジタルサイネージであれば、人は飽きる。けれど、生き物には規則性がないから、自然と一度、そこで立ち止まると、長く滞在してしまう傾向があるのだ。
アイキャッチとなり、外から中へと誘導したあと、飽きさせない空間となり、滞在時間を長くして、連れのお客様に、商品をより多く買ってもらえる土壌を作る。何気に、よく計算されている。
そして、水槽は、今でこそ、どこの店舗でも見られるほど、定着したのである。
内装でも店ごとの個性を
そして、水槽以外の内装でも、地域ごとに異なり、個性を放つようになった。
それをいうと、わかりやすいのが、後楽園店。それを考える上で、注目したいのが立地。2階に上がった先にお店があり不利な環境である。
それこそ、階段周辺に趣向を凝らしている。遊園地という地域性に鑑みながら、階段の頭上にはメリーゴーランドが設計されているのだ。こんな裁量も、店舗責任者とデザイナーに委ねられている。だから、思い切った違いを演出できる。しかも、綺麗にまとまりすぎないところも、良い。
敢えて、メリーゴーランドでイメージが固定されないよう、そこにドンペンくんを忍ばせる。ややドン・キホーテらしい、遊び心のある、崩した演出を絶やさない。
それだけではなく、登るたびに、音がなる設計。また、側面に鏡を入れた。それは、心理的に、自然と自分の容姿を確認したくなるという性質を利用したもので、気がつけば、売り場にたどり着いている。
デザイン性を背景に店ごと新コンセプトで
最近は、店自体のコンセプトも、デザインが培ってきたものを活かして、型破りに攻めている。
最近、オープンさせた新業態に「キラキラドンキ」がある。ドン・キホーテではあるもののの、Z世代を念頭に置いた店。重要なのは、Z世代を意識しているのに、Z世代を思わせない演出。
自らの世代向けであることを強く全面に打ち出さないで欲しい。そんなZ世代の生の声を取り入れ、彼らにとって必要な価値観を切り出した。昨今、ネオン系のデザインはZ世代の好むテイスト。ロゴも色合いも、そこに寄せた上で、Z世代を謳わぬ「キラキラドンキ」というネーミングを採用して、船出した。
何気ないことだが、今、ドンキが売り場として以上に、若い人たちの「溜まり場」担っている理由。それは、品揃えからなる部分もある。だが、それを支えるだけの地域性、あるいはその属性を尊重する姿勢。そして、それを反映するデザイン性。その両輪によって、自然ともたらされている部分が多い。
僕らが考える以上に、デザイン性が大きなドン・キホーテ。また、画一的なマーケットのようでいて、地域という小さな単位に着目して、人が集まりやすい場所を意図する。これってある意味、昨今、商圏の単位が小さくなっていることと関連があ流ようにも思う。地元の商店に近づいている。その戦略が、若年層の待ち合わせ場所として定着する所以なのだ。人の集まる場所にはやっぱり理由がある。
今日はこの辺で。