小さいからこそできること。文化商店の大きな一歩
語弊を恐れずいうなら、小さいからこそ価値があるってことがあると思うのだ。勿論、大きいからこそできることはたくさんある。けれど、今の時代は、寧ろ小さいことが生み出す価値に焦点を当てるべきだと僕は思う。その意味で、僕はこのイベントに注目した。それが、「文化商店」である。
・リアル、ネットを越えて伝えられる価値が問われる
主に、オンラインで商品を販売する事業者が中心となって、リアルでその価値を伝えていく。僕は、最近、顧客接点のあり方こそ、これからの企業価値を決める重要な要素だと思っている。だから、リアルでこういうイベントを設定したのは、Bestな判断だと思う。
また、このイベントは、多くの人で賑わう原宿で行われ、場所柄多くの感度の高い若い層で盛り上がった。ある意味、この世代はSNSに重きを置き、それ自体が拡散して、マスメディアにも匹敵する破壊力を持っているから、挑戦の舞台としては適切だろう。
では、そこには、どんな企業が集まっているのか。その場に行くと、知る人ぞ知るブランドが並んでいる。裏を返せば、有名ではない(失礼!)。だからこそ、やる意味があるのだ。
・日本酒が若年層にブレイク
それで、やっぱり視点が面白いと思えるお店は存在した。残念ながら、時間がそれほど、なかったので、取り上げる店は少ない。だが回れていない企業にもポテンシャルがあっただろう。出会った企業の姿勢を見れば、それはわかる。
例えば、クランド(KURAND)。要するに、お酒のお店である。元々、運営会社の社長が酒屋出身であり、日本酒に精通していた。そういうことを言うと、日本酒の伝統などを打ち出して、、、というようなイメージを描きそうだが、そうではないというところに“文化”がある。
え?そう思われるだろうが、何よりの証拠が購買層である。その商品を買い求めるのは、多くが若年層である。日本酒というと、年配の人が購入するイメージが強い中で、彼らは全く独自の姿勢で顧客を切り拓いた。純粋に、僕はその姿勢に惹かれた次第であり、その工夫に、日本酒への愛を感じるからである。
その突破口となったのが、ネット通販である。
・変化球だから響く、拡散される
そこに並ぶ商品とその案内を聞いて、驚いた。日本酒っぽくない。日本酒にしてはその中身がドロっとしている?
なんですか?これ。そう問いかけたときに、答えてくれたのはスタッフの遠山彩華さん。
彼らは敢えて「クラフト酒」といって、小規模生産で作った個性的なお酒のジャンルを提供している。例えば、石川県の高松は、ぶどう栽培が盛んな地域。丹精込めて作ったぶどうを一粒一粒、大切に収穫して、果肉とお酒が合わさっているというわけである。
つまり、何が彼らの中で、変わったのか。それは、商品開発チームが「酒蔵」の息子や杜氏経験のあるメンバーで構成されている。そして、彼ら自体が、自らの日本酒だけではなく、他の酒蔵やこういう農家と連携を果たして、オリジナルの酒を開発していること。
これからの時代は、大きくなくとも、小さなところが肩を寄せ合い、他人の価値を尊重する。すると、そこには新しい価値が生まれ、共感されて、ウィンウィンで“文化”を作り上げていくことができるというわけだ。
・かくして全く違う層にリーチする
そこには魂があるし、新しい創造と新しい顧客を意識した商品提案がある。相手が見えていて、直接繋がれる。だから、SNSなどを通じた発信により、これまで届かなかった人たちに響くことになった。SNSを使えばいいというのではなく、彼らの商品開発をそこから逆算して、作り始めたところに意義がある。地元の酒蔵なり、原材料を扱う業者は、多くその手作りの雰囲気作りが苦手だ。
若年層が興味を示すよう、ジャムやピューレのようなアレンジをしても楽しめることを謳う。従来の日本酒にはない洗練された雰囲気が、SNSとの相性もバッチリでその効果が最大化されるのである。おのずと、デザインのあるべき姿も見えてくる。デザインとはお客様とのコミュニケーションだから、カジュアルになるわけだ。これぞ、クリエイティブの価値だなと思う。
そのまま地方の魅力を伝えたり、お酒の魅力を伝えても、こうはならなかった。そして、それらはECサイトへ誘い、成果を出していく。大事なのは自らの価値を受け入れながら、それを差別化要因にまで仕上げて、そして発信の仕方と売り方をセットで考え、伝えてオリジナリティを発揮すること。
受け取る人が、その商品の登場を、楽しい出来事として、受け入れられるように進化させたからこそ、SNSで脚光を浴びることになった。味がよければ、流行ではなく継続顧客になる。まさに、ここも文化を構築していることの利点である。
・小売は企業価値を高める手段
そのほか、「カンナチュール」というお店では、缶詰に“文化”を込める。僕らの固定概念にある「ありがちな保存食」としての考え方はもはやそこにはない。まずは、食べる人を唸らせる一級品の料理に着目をする。
それをどうやってその缶の中に詰め込められるだろうと思案する。そして、至福な時を閉じ込める。例えるなら、山の宝 鹿肉のフレッシュコーンミート。鹿肉を3種類のスパイスとともに、塩水漬けして、丁寧に蒸し煮にしたわけである。
つまり、缶詰自体がメディアとしての意味合いを持って、様々な魅力的な料理へと誘う。そのためには、材料にまつわるストーリーも添えて、その産地に敬意を表するわけである。そうすれば、現地まで行かずとも、そのレストランなりの料理を味わうことができる。レストラン体験を缶に閉じ込めているという表現が相応しいかもしれない。
・手間ひまかけてこそ醸成される文化もある
それ以外でも「京ハーブくろもじや」は、お茶の中でもマイナーな(失礼!)「くろもじ茶」に焦点を当てたことに意義がある。くろもじとはローズウッドと同じクスノキ科の「木」であり、抗菌効果が高いお茶である。
「京ハーブくろもじや」は京都にあるその「くろもじ」を活用し、必要数量しか作らない。それは自然を保護する意思からである。
だから、販売の仕方もできるだけ長持ちするように乾燥状態にして販売される。つまり、理念と売り方は紐づいていて、それを含めて、お客様に提供するというわけである。だから、その「売り方」は企業ブランディングに直結し、お客様とのやり取りを通して、自分たちの姿勢に気付かされるというわけだ。
これがこれからあるべき「小さいけど伝えるべき価値」なのではないか。季節ごと、年間通して味わいの異なる「くろもじ」を少しいただき、ブレンドすることの楽しさを実感しながら、それを思う。
・文化を重んじ売り方を工夫することで真に心の充実感がある
おわかりいただけただろうか。
おおよそ数字では推し量れない、“文化”を重んじることは、心の充実感を満たす上でもとても大事である。その一端を、実感いただけたのではないだろうか。ここには「売り込む」意思は少しもない。個々の魅力、そして、日本という誇れる個性を受け入れながら、豊かな時間を過ごす。そこに必要な対価を払うのなら、価格の比較は必要ない。
そして、そのそれぞれの個性を尊重して、同じ価値観のもとに成り立つ「文化商店」という存在もまた貴重。繰り返すが、売り方と企業の考え方はセットで、そこには理念が必要だから。この場所があることで、それを確認できる。
何気に、帰りがけ、主催のフラクタ代表取締役 河野貴伸さんとも話をしたのだが、極力、参加店舗の費用的な負担は軽減するように配慮したという。フラクタはブランディングの構築の会社なので、彼らはこういうイベントをする事で還元し、また自分たちの成果を俯瞰し、未来に繋げるわけだ。
素敵なムーブメントではないか。
デジタルの進化は売り方の多様性を推進していく。大事なのは、その中で、ずっと守り続けてきたものづくりを筆頭に、こういう形でECによって文化を謳い、企業ブランディングがなされていくこと。それがまた収益を作り出していけば、企業とファン、共にウィンウィンである。それこそ、あるべき豊かな新しい時代のような気がしている。
今日はこの辺で。