PPIHの新たな挑戦 渋谷のド真ん中で「道玄坂通」ド肝を抜く
それは渋谷・道玄坂に斬新でかつ「ド肝」を抜く形で現れた。「道玄坂通」という新しい拠点であり、一見、おしゃれに見えて、僕は、ここに昨今、あまり見かけなくなった「アーケード商店街」の片鱗を見た。地域の魅力を理解し、道なりにあの手この手で楽しさを演出する新たな動線。それは、横だけでなく縦にも高く、上には歯科やジムを併設したコーナーなどカオスな視点もちらほら。店ではなく拠点としても「ド」を超えた視点は、パン・パシフィック・インターナショナルならではといったところか。
通りを歩くのがただ楽しい
1.特殊な形状な道なり
まず、建物の形状が独特で、道玄坂の構造に沿って4つの入り口がある。大通りに面したところでは、一つ全く別の建物を挟んで、両脇に入り口がある。この辺は、従来の施設の発想にはなく、正方形ではないから、街の延長線に馴染むように施設があるような感覚。それらは奥にある高層の建物に直結していて、オフィス棟と「INDIGO」という海外で著名なホテルで形成されている。
オシャレで若者の多いこの渋谷で、そんなカオスでニッチな発想をするのは、誰だろう?そう思うが、その運営元を見ればわかる。
パン・パシフィック・インターナショナル(PPIH)。「ドン・キホーテ」の運営元であり、数多くの売り場でカオスを演出してきた。でも、そこにこそ好奇心がかき立てられ、僕らは魅了された。そんな彼らの新しい事業の始まりをここで告げる。
脱サラならぬ脱俳優?猿田彦珈琲の飛躍の理由
1.コーヒーでその地域を知る
入り口部分なのだが、入ってすぐに「猿田彦珈琲」がある。なるほどと思ったのは、必ずしも、渋谷にありがちな万人ウケするような要素が実はそんなにない。寧ろ、実感したのがこの場所の地域性である。大衆目当てのビジネスが必ずしも奏功しない。今、まさにそこの指摘に対して、応える今の時代の要請が、もうひとつ、地域性ではないか。それは、例え「渋谷」においてもだ。
一階の「猿田彦珈琲」が強く打ち出していたのは、まさにそこだ。様々な地域で見せるその姿勢と全く同じである。「実は、その各所でその場所に合わせたブレンドコーヒーを提案して、それが利用者から支持されているんです」と同社の瀧 菜美子さん。
なるほど。だから、ここには「SHIBUYAブレンド」なるオリジナル珈琲が用意されているし、ティーバッグも売っているのだ。ほら、この通り。
2.渋谷ならではの味わい
そのデザインもスクランブル交差点をモチーフにしたもので、人がそこを闊歩している。
「これ、外側だけですか?だってロット、大変ですよね?」そう聞いたら、「いやいや、中身もオリジナル。それがうちの姿勢ですから」とキッパリ。「これをいろんな場所で、100種類、作れたら良いね、って話しています」そう教えてくれた。
そもそも「『猿田彦珈琲』って何が始まりなんですか?」そう聞くと「実は弊社の代表は元々、俳優をやっていました。でも、そこでコーヒーのお店に出会って仕事をすることで魅了され、そのコーヒーで自ら起業したそうです」と答えた。へぇ。
失礼な言い方かもしれないけど、コーヒーの知識は後からついたもの。でも、一心に向き合い、その行動力が身を結んで、開花する。特に、創業から数年後、コーラ会社との間で、コーヒーに関する商品開発で協力する機会を得また。それがきっかけで、その名前が知られるところになる。
3.店ごと違うコーヒーを手がけるのは調合への自信ゆえ
そもそもコーヒーというのは、色々な地方で採れた原料がある。それだけでも数は豊富だが、そのブレンドと、地域に根ざしたお店の姿勢を掛け合わせているから秀逸だ。
わざわざ調布にスペシャリストを揃えて、そこのメンバーは「何と何を組み合わせれば、どんな味になるかのイメージはできる」と話す。つまり、混ぜ合わせることで生まれる味の妙。それが珈琲の魅力だと語り、そこで猿田彦珈琲では出店計画を立てる度、その価値を最大化させるべく、街のイメージを調査して、彼らに伝える。
相応しい調合を編み出してもらうことはその地域の価値を引き立たせ、リアルの幸せな空間を醸し出す。後発ながら、躍進したのが、そういう彼らなりの珈琲の活かし方があったからだろう。
4.漂う香り店の雰囲気、全ては快適な時間のために
ずっと彼らは創業以来、その店の雰囲気を重んじてきた。店の空間や香り、店の人の仕草など。 だから、ほら写真のように、笑顔が素敵な店員さんが連携で、コーヒーをその場で作ってくれる。
「渋谷ブレンド」を飲ませてもらったが、確かに濃厚で染み入る美味しさ。作られるところからその演出は始まっていて、味と空間はそれを最大化させて、豊かな時間を作り出す。
彼らとしては、華やかな渋谷の印象をそこに込めたとか。他の地域の味とは違うと胸を張る。
思わず僕は「見えないサブスクリプションですね」と伝えると、うなづく。要するに、ファンなら様々な場所へ行くたび、猿田彦珈琲に立ち寄るだろう。その地方の魅力をどう、珈琲で落とし込むのかは、ファンにとっては楽しみの一つになりうるからだ。継続的に、飽きさせず、個々の地域のコーヒーを飲むきっかけになりそうである。
歯医者とカフェとスポーツジムが混在して一つの価値を
1.親和性の高い生活提案
さて、地元に密着したという意味での地域性を発揮していたのは、上の階の歯医者である。え?歯医者と思われる人もいるだろう。この辺が造りとして上手だな、というところで、1階フロアが比較的、飲食に寄せているのに対して、建物の設計上、縦にもテナントが入っている。だから、上にはこういう要素を盛り込んで、この場所の利用価値の幅を広げているのだ。
さてさて、そこで、この規格外を提案するのは「ANDELT」。チャレンジ精神旺盛で、彼らからも気づきを得ることができる。
何にチャレンジしているのかというと、スポーツジムと歯医者とカフェが一体となったフロアなのである。それら一つ一つは、壁に隔たれることなく、オープンにそれらを行き来できるような空間になっていて、それ自体がカオスである。
呆気に取られていると、「スムージー、いかがですか?」そう声をかけられた。促されるまま、そのカフェでスムージーを注文して、いざ名刺交換をして「広報の方かな?」なんて思ってみていたのだが、、、若松怜子さん、、、肩書きが「歯科医師」じゃないですか!
スポーツジムと歯医者とカフェ。一見するとバラバラな3つ。
しかし、彼女から話を聞けば、その親和性が高いのだと説く。ご本人が“先生”だから、その言葉に説得力がある。例えば、歯医者で口腔ケア、カフェで栄養摂取、ジムで運動機能、という具合に、相互に利用することで、健康に直結するというのである。
2.生活の質を向上させる拠点が増加
この会社の社長も歯科医。歯を治療するだけではなく、ライフスタイルを提案したいと意図しており、心身ともに、安心できる空間を作りたいと意図して、この設計。よく考えれば、この場所は動線を作り出す、アーケード商店街のようだと話したけど、商店街にもよく歯医者は見かける。
ただ、こういう新発想の視点を取り入れたあたりが、NEO商店街なのだ。この歯医者も普段のライフスタイルの向上が、精神的な安定をもたらし、結果、歯医者としての効果も最大化させるというわけである。
そして、こういう傾向って今の主流かもなとも思った。以前、僕は東急歌舞伎町タワーの取材をした時に、やっぱり上にラウンジ付きのパーソナルケアのスペースがあった。昨今のこういった施設はただ「食べる」「飲む」「買う」というステレオタイプから脱却しようと画策している。
参考:行ってみた!エンタメの魅力は底なし沼 東急歌舞伎町タワー
例えば、目的買いをするなら、ネット通販でも十分だし、映画だって配信で済んでしまう。リアルとは何か。そこを考える必要がある。でも、そこには明確な答えはまだないから、こういう思いがけないアイデアはこれからも商業施設で続きそうに思う。改めて店が街を作り、街が人を作るのかな?と思ったのである。
リアルがプロモーション拠点となる
1.見栄えのする店内と商品の見せ方
続いては化粧室のような内装に魅せられて、入店すると、そこはお惣菜屋である。その名を「eashion」という。また、先ほどから言う通り、売ればいいわけではない。だから、惣菜屋さんひとつにしても、リアルの捉え方が変わっているのだ。
「eashion」はカネ美食品という老舗が運営するいわゆる定番の惣菜屋さん。しかし、商品ラインナップを見て、「あれ?どこかで見たような、、、」という気持ちにさせられた。それもそのはず。僕自身、デパートで見かけていたので、知っていて食べたこともあるブランドだったのである。
これって何気ないことだけど、すごいことなのだ。なぜなら盛り付けで「その会社のものかを特定できている」わけだから(名前こそ出てこなかったけど(失礼!))。でも、そのブランド名の由来を、同社 黒坂由香さんに聞いて、納得してしまった。「eatとfashionを掛け合わせたのが『eashion』なんです」と。
2.リアルを通して個性を最大化させて認知へ
なるほど。確かに、ここの店は弁当も惣菜も、見た目の印象がとても良い。色合いを大事にしていることが伝わってくるのだ。だからこそ、総菜屋として一歩踏み込んで、少し違った趣向でアプローチしている。ブランド名とそのファッショナブルとも言える盛り付けをしっかり紐づけて、今以上に、そのブランド名を認知させる取り組みなのだ。
これらの売り場を提供する場所であると同時に、パフォーマンスの要素を持っていると気づいたのでだろう。だから、そのイメージをさらに強調して、ご覧の通り、その隣にはスイーツの店舗にも進出した。スイーツ単体ではなく、自慢の惣菜とセットで提案することで、その価値が補完される。
スイーツも本腰を入れて「SHIBUYA ツイストロール」といって限定メニューを作成。それも、国産の生フルーツを乗せた仕様で、自らの食材で培ったネットワークを活かしたスイーツを提案しているのはさすがです。
お惣菜も然り。この店限定の「SHIBUYAバーグ」を用意して、見た目に華やかなこのブランドのファンを作り出していく考えのようだ。
そんな理由で、「eashion」に 「fun」をつけた名前がこの渋谷店の店名。fun=楽しんでもらう空間として、この店のファンになってもらうべく、店自体の内装も、こんな風にエレガントなミラーも設置した。全ては、彼らの強みを最大化させるための“仕掛け”なのだ。
3.商品の価値を活かす店内設計
惣菜でも、スイーツでも、どちらでもいい。彼らの商品には“ばえる”要素がある。だからこそ、それらをユーザーには手にしてもらい、映り込む自分をSNS投稿して、楽しんでもらいたいわけだ。
思うに、一般人が“表現者”なのであり、その表現に対してフォロワーがいる。だから、個々は小さくとも、いかに店内でそのきっかけづくりができるかに配慮すべき。そこをよく抑えている。より多くの“表現者”の力を借りることで、それは絶大な発信力へと繋げられるから。
参考記事:東京ガールズコレクション 飛躍の理由はきっかけ作り。SNSで共存共栄して掴んだ影響力
渋谷バーグなど、食べさせてもらった。これがまた、厚みがあってジューシーな味わい。ただ、そのこだわりだけではない。見栄えに優れたという特徴をフックに、親しみを持って、その認知を上げていく。それを惣菜屋も自らやる時代なのだ。
Gon Cha は知らない世界へ誘う
1.お茶だけだからこそ、掛け合わせにドラマがある
ここまで話した通り、それぞれの店がプロフェッショナルである。「Gong Cha(ゴンチャ)」もまた、そうだ。多くの喫茶店や飲食店ではコーヒーとティーなど、全てを一緒に提案する。そんな中で、彼らは徹底してお茶だけにこだわる。これはお茶への自信無しには語れない。
彼らは、お茶のトッピングで違う世界を魅せる。「ちょうど今日から巨峰ミルクティーを限定販売し始めたんです」と 同社 渡邊千紘さん。それは、口にすれば、違いがわかる。語弊を恐れず言えば、お茶の実感がない。ありきたりなお茶のイメージを良い意味で覆し、こんな美味しさがあるのか、発見へと誘ってくれるのだ。
こ、これは、、、と僕。
2.常にその組み合わせはアップデート
どうやら、元々高級台湾茶に、阿里烏龍というのがあるとか。それらは、甘い香りとすっきりとした風味であり、そこにジューシーな巨峰ソースを織り交ぜた。その相性の良さと、今までになかった着眼点が、従来のお茶とは全く別物の印象を抱かせるわけだ。
さらに、その見た目にこだわる。そのために、色合い鮮やかな巨峰ゼリーを持ち込んだ。当然、見栄えが良いから、僕も、撮影スポットを探してしまって「こちらです!」と渡邊さんに案内された。せっかくだから、ドンペンも添えた(笑)。
ここにみたプロフェッショナル。単純に飲めれば良いわけではない。この店で、次はどんな“化学反応”があるのかを楽しみ。また、ここに足を運んでしまうのだろうな。
上品で質の高いホテルとオフィス空間
ちょうど、Gong Chaの横が出口になっており、外へ出ようとしたその先に、上へ続く階段があって、思いがけずホテル「INDIGO」への道がひらけた。え?ホテル?
どうぞ。そう促されるまま、その地に足を踏み入れ、エレベーターで駆け上がると、開放的で、大きく広がる窓。そこには、渋谷を俯瞰した景色がパッと開ける。富裕層とカジュアルの間をいく、上品な佇まいのプチ高級感漂うホテルは、渋谷を一望して、気分を高揚させる。
このホテルもまた、その地域に根ざした姿勢を見せており、デザインにはスクランブル交差点を思わせるモチーフなどがある。カフェなども併設されているが、内装のデザインはレコードを思わせる。これは、渋谷の宇多川がレコードが最も多く売られている地点というリスペクトを込めてのことだとか。
かつ、そのホテルまでの高層階はオフィス棟になっている。これまた、驚きなのだが、4月からの募集で、既に9割はその入居が決まっている。渋谷近辺のオフィス需要はまだまだあるようだ。
ド真ん中でド迫力「ドミセ」
1.ドンキは店から商圏へ?
色々書いてきたのだが、要するに、パン・パシフィックインターナショナルは商圏を築きたいのかな、と思った。もともとこの施設のあったところには「ドン・キホーテ」があった。そして、目の前に「MEGAドン・キホーテ」として移って、もともとあったところの周辺の地で建て直したのがこの「道玄坂通」である。
また、この「道玄坂通」のそれぞれの店舗ではmajicaという電子マネーを使えるようにしている。当然、それらは個人情報を入れるから、ドン・キホーテ単体ではえられないものが手に入る。つまり、この施設での決済を通して得られるようにすることで、新しい商品開発をしたり、事業としての幅を広げることに視点を向けているのではないかと推測できる。
別にそれが使われなくても、彼らは自ら「ドミセ」という新業態のお店をこの施設内に用意している。当然、目の前のMEGAドン・キホーテよりはフロア面積が狭い分だけ、濃度の高いセレクトショップとしての位置付けである。
その一方で、オリジナル商品や先行商品も用意して、アンテナショップとしての位置付けを果たすことで先陣を切って、この施設に人が来るように働きかけるわけだ。
2.濃度を高めて、祭りの楽しさを
ジャンルを横断して、その個性が入り混じる「ドン・キホーテ」。それを、このワンフロアに凝縮した。ビジネス用バッグを売っている程近い場所で、試食用に炊き立ての焼き芋が配られている。そして、その焼き芋を口にすると、横で同店限定の「焼き芋大福」「焼き芋アイス」「焼き芋タルト」の商品があって、芋尽くし。
僕が気になったのは「呼び込み君 情熱価格 ブランドムービーver」。ドン・キホーテに流れるあの曲がボタンひとつで流れる(笑)。必需品ではないけど、小ネタとして仕込みたい商品。そもそも、パーティグッズを探しにドン・キホーテによくきていたことを思い出して、今も昔も、彼らがド真ん中にいるおかげで賑々しいなと。
そういうわけで、彼らがド真ん中にいるおかげで賑々しい。掴みどころのない店内は祭りの賑わいを思わせる。
3.町と施設とで回遊を促す源がここに
向かいに「MEGAドン・キホーテ」がある。海外客の訪問も多い渋谷にあって「MEGAドン・キホーテ」を目当てに向かう人もいるくらいだから、この場所にハシゴしてくる人もいるだろう。
それを迎え入れるには最適な場所なのかもしれない。彼らなりにその裾野を広げるチャレンジとしては、十分な意気込みを感じさせるものだったというわけだ。やっぱり、従来の商業施設にあるような常識にとらわれていない。この場所は、アーケード商店街のノリで、人の笑顔が連想される。それらは彼らでこそできるということだと思う。
そして、しっかりマーケティングの幅を広げて、ドン・キホーテの付加価値を高めながら、更にポテンシャルがどこにあるのかを考え、未来に思いを馳せるのだ。様々な価値観が交錯し、いろいろな人種がスクランブル交差点のように入り混じって、この場所の魅力を引き立たせるのである。
「ド」肝を抜く演出で渋谷を楽しもう。日本人も、海外の人も。この「ド」ーゲン坂にある「道玄坂通」で。
今日はこの辺で。