一極集中から分散へ ザ・スーツカンパニーはスーツスクエアに
集中から分散である。先ほど、青山商事の記者会見で、僕は、銀座の店舗を訪れていた。それが「SUIT SQUARE TOKYO GINZA店」である。「ザ・スーツカンパニー」に関して屋号変更を行うという内容で、装いも新たに「スーツスクエア」に変わるというのだ。そのイメージ一新をかけて、窪塚洋介さんと息子の愛流さんをアンバサダーに据えるなど、その気合いの程がうかがえる。
屋号変更は事業の転換でもある
1.コロナ禍で変容した生活スタイル
そもそも「ザ・スーツカンパニー」は2000年11月にスタートし、今年23年目を迎える。当初から都市部の一等地に構え、2プライスのわかりやすい価格設定など、画一的でライトな取り組みでスーツの裾野を広げた。ただ、時代の変容と共に、ワンランク上の「ユニバーサルランゲージ」など、女性向けやオーダーメードなど3ブランドを追加して、拡大戦略を進めていた。
これらの店舗は今から遡ること、今から2年前、新業態を発表して僕も新宿のその店舗に駆けつけていた。下記の記事に譲るけど、基本的にはそれらのブランドを一つのフロアに集めて、その分、接客の質を向上させようというものである。
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この時から口にしていたのは、「コロナ禍で一変した生活様式」である。外出自粛をきっかけにして、利用が広がったネット通販をテコに彼らは、事業の中身も、リアルとネットを行き来したOMO戦略を打ち出したのだ。
2.フロア内に多様性に応える4つのブランドを混在
まさに、この動きを踏襲するものだと思った。つまり、まずは、それまで単一ブランドでずらりとスーツを並べていたイメージを一新。先ほども示したとおり、スーツカンパニーの成長と共に拡大してきた4つのブランドを一つの店舗に集める。
そうすると、それまで単一ブランドだったフロアが4つのブランドで構成される。だから、個々のブランドの在庫数は減ることになる。だが、一店舗が提案できる多様性の幅は広がる。あらゆる層をこの拠点に集約してその分、手厚い顧客対応を進めていく。
それに際しては、適度に効率化を図り、店内にはデジタルサイネージを実装。実物が少ない分だけ、それらを通じて、提案を可能にする。当然、それができるのは、ECとの親和性の高さがあってこそ。それゆえ、それをアピールすると共に、スタッフも相互送客の意味を伝えるわけだ。
この辺で店の意味合いが変わっていることに気づくだろう。つまり、この拠点はあくまで顧客起点を推進するための場所。柔軟に商品提案を進めると共に、顧客の満足度に重きを置き、場所は「売ること」に依存しなくなる。そういう体制をここから徹底していくわけだ。
3.画一的なものから多様性と深掘りできる顧客体験
そうすると、店の提案も多様性のあるものがベースになって、リアルとネットを行き来して、お客様と店員が寄り添う形になる。これまでで言えば、来店したお客様に画一的にスーツを提案していて、適宜、売るための作業に追われていた店員が変化する必要が出てくる。
つまり、場所を起点とした考え方から、脱却するということだ。だから、かつてのように、店ごとに在庫に厚みを持たせるのではない。なぜなら、その場で購入して完結させるのではないから。もしそれを貫くなら、デジタルの出番はそこにはない。それは今の時代にふさわしいかというとそうではない。
それも、昨今は、お客様側が既にECを使って購入することに慣れているからだ。必ずしもリアルで買うことを求めていないから、そこを抑えながら、顧客体験の向上に努める。だから、完全にリアルをクローズしようという考えは彼らから感じられない。ECに振り切ったところで、所詮、彼らの強みは活かせないからだ。
長らく「スーツ」という専門的なジャンルで実店舗を構えて、ブランド認知も浸透している。ならば、この知見を活かすことが重要だと考えた。そこで、たどり着いたのが、従来の店舗を顧客体験の深掘りをするための空間にしていくこと。
リアルはリアルの価値を持ちそれを強みに模索する
1.顧客体験を深めるための出会いの創出
顧客体験を個々のニーズにフィットさせるべく、先ほどの4つのブランドを提案していく“スクエア”による提案に至る。だから、名称変更にとどまらない、業態の改革という意味合いを持つわけだ。
ちなみに、従来の「THE SUIT COMPANY」。女性向けのスーツを楽しむ「WHITE THE SUIT COMPANY」。素材や縫製にこだわり、オリジナルを楽しむ大人のためのブランド「UNIVERSAL LANGUAGE」。きめ細やかな接客を念頭に置いて個々にあったオーダースーツを展開する「UNIVERSAL LANGUAGE MEASURE’S」の4つ。
異なる価値観を混在させて、店はショールーミング的な役目を果たす。しかも、従来、培ってきたリアルでの接客の知見は、顧客対応の深掘りに舵を切って、この店の付加価値となる。
だから、単純に「購入する場所」としてのお客様の認識を変えていくための屋号変更だ。お客様は必要に応じて、近くの店舗に足を運べばいい。接客やオーダーメイドなど、リアルならではの価値を享受する為に、くればいい。買うだけなら、ネットでいいよねという話だ。ゆえに、そのレジがどこにあるのかを意識しない。適材適所でその価値を実感させようというのである。
2.自ずと事業形態も変わっていく
だから、その証拠に、旗艦店である銀座店すら、売り場面積を約半分まで狭めている。それは、多様性のある提案を実感し、それを契機に、お客様との触れ合いに重きを置いていくためである。
だから、僕は一極集中から分散と書いたのだ。巨体な店舗を構えて、一極集中させて、そこで自由に選んで買ってもらうスタイルではない。多様性を持たせた内装の小さな店舗を要となる箇所に点在させて、お客様がその場所に通いやすくする。通った暁には、買うのではなく、発見して体験するわけである。
あわせて青山商事は郊外に巨大な倉庫を構えている。この店の方針に合わせて、倉庫とお店を一元で管理して、各店舗の在庫状況と紐づける。店を倉庫がわりにしつつも、抱える在庫数は抑える。その代わり、常に倉庫の数を把握して、適宜、倉庫か店かのどちらかから配送ないし、受け取る環境を作るわけだ。
3.盤石な経営基盤がDXによりもたらされる
だから、OMOという言葉を青山商事は謳うわけだ。店舗の都合とお客様の利便性を掛け合わせて、実店舗の役割を変えていく。売るために店が存在するという発想から脱却していこうというわけだ。
事実、大宮には既にトライアル店舗として「スーツスクエア」を冠にした店舗もある。接客に重きを置き、多様性を受け入れた提案型の拠点となったことで、既にこの店舗でのEC比率は40%程度にも及んでいる。だからこそ、今回の屋号変更は、それをあらゆる店舗で実践していく姿勢の表れ。だから、単純な名前の変更にとどまらず事業の転換を意味している。
繰り返しになるけど、フロアあたりにブランド数が増えれば、一店舗あたりの在庫は軽減する。だけど、それは過剰在庫を防ぐことになり、必要数のみ、店舗がその在庫を抱えていればいいということの裏返しだ。そのコストを抑えることで、その利益を接客の質の向上に繋げていけば、経営は安定してくる。
4.変貌を印象付けるための窪塚洋介さん親子のアンバサダー起用
ちなみに、そこへの備えは着々と進めていく。近日中に既存の「ザ・スーツカンパニー」にも、それらの4つのブランドを投入して、徐々にそのフロアの中身を変えていく。それを追いかける形で、外側の看板も「スーツスクエア」に変更していく。2年後にはそれらの中身と外側は大きく変わるという、会社を上げての大転換である。
だから、アンバサダーに窪塚洋介さんと愛流さん親子を起用して新たなイメージを訴求する。
彼らから感じたのは、親子の距離の近さ。それこそが多様性の象徴である。厳格な父と子供の昭和な親子像はない。愛流さんからは近さゆえに生まれる親に対しての憧れの感情を口にした。一方、窪塚洋介さんもまた、等身大の自分をフランクに曝け出している。実は、それ自体がスーツスクエアが求める個々を尊重する姿勢の表れだと思った。
改めて、リアルはリアルで、生身の人間が会話をし、そして、実際に商品に触れることでそのものの価値に触れることができる。リアルで培ってきた知見にそこを研ぎ澄まして、新しいカラーで打ち出し、ネットの長所を取り入れて、よりお客様に寄り添うビジネスへと変わっていくことだろう。
今日はこの辺で。