見るべきは円安効果ではなく 企業収益の変貌だ BEENOS 越境EC ランキング2022
世界は一つへ。単純に儲かるから、越境ECをやる。そんな時代ではない。日本国内と変わらぬ姿勢で海外に臨み、企業が既存の仕組みを変えて、成長する時代だ。 BEENOSが開催する「越境 ECランキング」の会見にやってきて、痛感した。円安の好調ぶりは顕著。ただ、それを踏まえつつ、席上、直井社長は、敢えて消費の変化を熱っぽく語ったのだ。
越境EC で垣間見える 消費の変化
1.商品の購入金額は年初と比べ50%増
そもそも、簡単に説明するなら、彼らは「Buyee」というサービスを提供している。国内 ECのサイトにおいてHTMLタグを入れるだけで、越境ECにトライできる環境を整えている。海外からのアクセスに対して、言語、決済、物流の観点で、外国人に合わせた仕様にしていて、門戸を開いたわけである。
確かに、直井さんが言いたいこともわかる。2022年3月から円安傾向が続いて、9月22日には1ドル145円台を出した。それを追い風に、2022年の第4四半期においては前年比31.3%増、2022年度の流通総額は、435億円にも拡大したのである。
2. 商品の購入金額も増加傾向
細かなデータで見れば、より明確。その流通を見ると、商品の購入金額は1ドル115円台だった1月1〜7日の時に比べて、9月22日〜29日(1ドル145円台)では50%増である。
3.商品別で言えば、高単価の商品が好調
ランキングの発表について触れるなら、商品ジャンル別ランキングでは下記の通り。
ブランドの腕時計、トレカ、アニメフィギュアと続く。何が伸長率が高いのかと言うと、カメラのレンズ、オートバイのセキュリティグッズ、ブランドの腕時計である。もう少し深掘りすると、下記の図のとおりで、高額商品が以前よりも売れるようになったという印象が強い。
これだけ急成長を続ける背景は何か。それは、海外販売を強化する国内企業が増えたと言う要素がある。
僕が思うに、この日、同席した「タビオ」がまさにその代表的な例である。そして、彼らは越境ECで自らのこれまでの価値を最大化したことに価値があると思うのだ。
越境ECでタビオの商品力を証明
1.ものづくり精神にこだわりづづけた
タビオの売りは何か。それはものづくりの姿勢である。
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実は、国内に流通する靴下の9割近くは海外での生産である。しかし、海外生産では効率化が重んじられる。だから、彼らの意図するものづくりはむしろ、国内生産により具現化されるとして、それを徹底している。説明に立ったWEB営業部の武田知定さんがその点を強調するのが実に印象的で、中身を聞くと納得である。
国内生産を推進することで、職人魂を触発し、その縫製における編み込みなどで、丁寧で細やかな配慮を心がける。指先までしっかりフィットする靴下の仕様は、世代を問わずファンも多く、それがリピーターとなってこのブランドを支えているのだ。そんな彼らも一年ほど前から越境ECを始めた。それで驚くべきは、台湾からの売上が約150%増となったという話である。
2.そのものづくりが越境ECでの成果につながる
その舞台裏としては、台湾にはタビオがリアル店を出店していたという過去が効いている。現地の人は、その商品の良さを履いて実感し、また欲しいと願っていることが、その数値によって明らかになった。初動から実績が得られたことが何よりも、その証拠である。伝えるまでもなく伝わっていたのである。
越境ECの開始に合わせて、台湾向けの公式SNSのアカウントを積極的に運用。そのフォロワー数が約955%増にもなったわけである。
3.商品力という強みが活きた越境EC
越境ECは儲けるために広げるのではない。自らの商品力の最大化として、この動きを捉えるべきであろう。今までの彼らのものづくりの蓄積が、越境ECによってさらに発揮されたのである。それは、直井さんの「円安だからではない」という言葉に通じると思う。
「インバウンドで外国人の方が来て、何かを買っていただいた後のことなんです。我々のサービスはそこで、その熱量を逃さずに、すぐに越境ECで国の垣根を越えて、買えるようにしていくこと。だから、大きいブランドに限らず、もっと多くの企業がやるべき」。直井さんがそう力強く説くのもうなづける。
BuyeeはECサイトへのアクセスを前提としているから、ブランディングができている企業のほうが有利に働きやすい。しかし、彼がいうように、たとえ無名であっても、必要だと。
それは、これからコロナ禍が落ち着いて、インバウンドが増えてきた時に備えるためだと。海外に戻った時に、買える受け皿を作っておくことは、自ら積み上げてきたものを活かす手段だというわけである。
そう思うと、確かにリアル店舗を持つ店ほど、その準備が大事なような気がする。繰り返すが、タビオの実績を見れば、店なりブランドなりが、今まで築き上げてきたものを活かす手段として、越境ECは有効であると。
リユースでも企業変貌の時
1.高級品の中古品が需要増
さて、それと同時に「越境EC」を考える上でリユースの急成長も見逃せない。彼らはデファクトスタンダードという会社で「ブランディア」という中古品の越境ECプラットフォームも持っている。それも円安前後の購入単価の比較で言えば、円安前の1.16倍となって好調ぶりがうかがえる。
その背景としては、これまではアパレル重視だったが、バッグなどの高単価商品が売れたことに起因する。特にリユースに限って言えば高級ブランドの伸びが大きい。ルイ・ヴィトンは最大約25%増という具合である。
ただ、これに関しても再度、直井さんの言葉が思い出される。つまり、「円安だから」と言って追いかけるとその本質を見失うというわけである。
2.欧州におけるメーカーの変化
それを紐解く上では、ヴェスティエール・コレクティブの日本カントリーマネージャー佐藤丈彦さんの言葉がわかりやすい。彼らは主にヨーロッパをメインにリユースのプラットフォームを抱えていて、ブランディアはここに出店しているのだ。
僕が特に感じたのは、再販の重要性である。
再販って?と思われる人もいるだろうが、メーカーが顧客から回収して、再度販売することをいう。思うにここには、ECにより“世界がひとつ”になったことで、それなりの数を見込めるようになったものがあると思う。
そこにプラスアルファとして、ブランドと顧客の関係性が継続的になっていく点で、企業にとって利点だと感じられるようになったこともあると思う。これをみてほしい。
つまり、中古市場が企業のライフタイムバリューと直結しているということだから、再販していく。また、それが新規顧客の書くときにもなるというわけなのだ。
実際に、顧客のクローゼットを見ると、欧州では中古品カテゴリーの購入数別シェアで再販品が25%も占めているのである。再販?そう思われた人もいるだろう。メーカー自体がブランドの商品をお客様から回収して、再度、販売するのである。
また、主にZ世代を中心にそういう形で中古品に触れる人が出てきている。面白いのは、CtoCで損得勘定で売買していたわけだ。ところが、この需要は環境を保護する意味合い。マネタイズの中身が変わっている。
3.顧客との新しい関係性の幕開け
つまり、メーカーの意識がそれだけ変わっている、ということなのだ。大量生産、大量消費ではなく、必要数、生産する。しかも、その生産したものに対しても、お客様と向き合い、廃棄ではなく回収して、再利用に回していくのである。
こんなことは、かつてのメーカーでは考えられなかった。けれど、欧州などではまさにその動きが起こっていて、消費の変化である。
僕は個人的に、この動きに非常に関心を持った。それは昨今、多くの企業が広告に頼って大量に売ることに距離を置き始めていることにも通じている。つまり、継続顧客を大事にして、ブランドと顧客の関係を深める動きが盛んなのである。
その動きは、まさに再販という動きに直結しそうに思う。ブランドを思えばこそ、それを送り届けて、誰かがまた使うことを意図する。それは、中古品のマネタイズの変容を意味する。CtoCで損得勘定で売買していたのとは違って、環境を保護する意味合いで、メーカーと中古品を通して関係を構築する新しい動きを思うのである。そうなれば企業の構造も変わってくるだろう。
だから、世界は一つへという発想はもはや当たり前なのだ。日本国内と変わらぬ姿勢で海外にのぞむ理由は、「消費のありよう」が変わってきているからだ。円安などではない。企業が既存の仕組みを変えて、新しい枠組みで臨むことこそが今の時代に求められているのである。
今日はこの辺で。