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ネット通販はこうして生活を変える 経産省 電子商取引に関する市場調査 令和三年度

 その数字を見ると、ECはただ売るだけでは通用しない。EC事業者もまた、知恵を出し人々に生活の変容を促す時代に入ったと言える。先日、経済産業省から「令和三年度 電子商取引に関する市場調査の報告書」が発表された。それを受け、デジタルコマース総合研究所 代表取締役 本谷知彦さんに聞き、感じた事だ。彼は元大和総研で、シンクタンクとしてこの調査を7年連続で携わってきた張本人。この辺のデータに詳しい。

伸長率8.61%は想定以上の高さ?

1.物販系BtoC EC13兆2865億円

 まず、2021年における物販系 分野の BtoC ECの市場規模である。13兆2865億円で、EC化率は8.78%である。経済産業省の発表したデータは下記の表のとおり。

 2020年は12兆2333億円。EC化率は8.08%だ。2021年と2020年を比較すると、伸長率は8.61%である。

2.想定より高い?その伸長率

 伸長率8.61%は想定より高かった。本谷さんはそう指摘し、宅配大手3社の取扱個数について触れた。

 2019年(コロナ禍前)が40億個、それが2020年で44億個まで伸びた。2021年では45.9億個で、その勢いは落ち着いているように見える。

 加えて富士経済の調査データを挙げ、配合率の信憑性の高さに着目している事を明かした。2021年は前年対比で6.4%増と経産省が示すものよりも確かに小幅の伸びである。

富士経済 通販・EC(e-コマース)の国内市場を調査 スマートフォン経由のECが拡大をけん引

 つまり、コロナ禍で世の中が変わったといえるインパクトではない。リアルが存在感を発揮しながら、着実に、ECがコロナ禍で成長を加速した、と考えるのが相応しい。

この程度の伸びなのか?

1.EC市場はいつピークアウトするのか?

「多くの企業で業績が振るわない中、これだけ伸びている。その意味では、今、注目すべき成長産業なのは間違いない」と本谷さん。ただその一方で、「コロナ禍という特殊な環境で、伸びはこの程度。だとすると、この市場のポテンシャルはどの程度のものなのか」。そう、本谷さんに僕は尋ねたのである。

 すると、彼はこんな話をし始めた。「では、日本のEC市場がどこでピークアウトするのでしょう」と。まさにそれこそが、この市場の潜在的な可能性である。彼なりに理論的に、それはいつ訪れるのかを予測してみたのだという。確かに、それは気になる。

 彼が着目したのは、ほぼ同規模の2つのマーケット。それらの市場規模がピークアウトしていく様子と比較するわけだ。それで、大体の予測を立てられると彼は説く。その「2つの市場」とは何か。

2.コンビニの市場規模

 ひとつは「コンビニエンスストア」のマーケット。市場規模は約12兆円である。去年、物販系BtoC ECに抜かれた。ただ「コンビニ」の市場規模はピークアウトまで「何年かかったのだろうか」。

 1974年、セブンイレブンの豊洲一号店ができた。ピークアウトしたのは2019年、コロナ禍に陥る前年である。つまり、その答えは、45年である。彼曰く、コンビニは開店するのに多額の資金を必要とする。それに対して、ECは参入障壁が低い。だから、ECの方が成長が急速であり、もっとピークアウトは早く迎えるだろうと。

3.携帯電話の市場規模

 もう一つは「携帯電話」のマーケットで、やっぱり市場規模は約12兆円だ。これについても調べると、NTTドコモの営業開始が1992年。ここをスタート地点とすると2018年に第一次ピークアウトを迎えた。この間は、26年に及ぶ。

 「携帯電話」には広がり方に「バンドワゴン効果」があり、成長のペースが速いという特徴がある。要は「周りの人が持っているので、つられて自分も欲しくなる」という要素。だからそれ自体は「コンビニ」とは逆の性質を持っている。つまり、物販系BtoC ECには「バンドワゴン効果」がないから、「携帯電話」よりはペースが遅いことがわかる。

 同規模でありながら、違う性質を持った2つのマーケットを比較すれば、自ずと、物販系BtoC ECのピークアウトの期間はこの間に位置することが明白となる。

4.では物販系BtoC ECは?

 さて、大枠では分かったが、今度は、物販系BtoC ECの市場の中身を分析してみよう。そうすれば、自ずと具体的なピークアウトの時期を限定される。物販系BtoC ECの元年を、楽天市場が開設された1997年だとすれば、具体的に何年辺りと推測できるか、である。

 まず、過去の経産省の市場規模データから数字を拾い上げる。そして、五年単位でCAGR(年平均成長率)に落とし込んでみるわけだ。

すると、物販系BtoC ECのCAGR(年平均成長率)は、

  • ・2006年から2011年では17.1%
  • ・2011年から2016年では11.5%
  • ・2016年から2021年では10.7%

 なお、これは、コロナ禍の特需が入っているので、業界の成長そのものが見えづらくなっている。そこで、敢えて、コロナ禍の影響を除いて考えると2016年から2021年は8.3%程度と推測されると。そう考えると、コロナ禍で湧くEC市場ではあるけど、着実に鈍化している。

 以上からすれば、

  • ・2021年から2026年は5%程度
  • ・2026年から2031年は3.0%程度

 なるほど。本谷さんはそう予測する。ここからは今のペースで成長すると考えない方が良さそうだ。すると、2027年から2032年が、ピークアウトの目安ではないか。「コンビニ」の市場規模は45年、携帯電話の市場規模が26年。比較による推測がピタリと当たって、物販系BtoC ECはその間の30年から35年。これが彼の見解だ。

6.人流も増えている

 では、直近の2、3年の動きはどうか。それについても、彼は政府が発表する「人流データ」が参考になるとする。同データは、人流に関するデータを指数で出し、最も多い時間を1として人数の増減を確認できるようにしている。

 だから本谷さんは「2019年」と「2022年」の3年を対象に「1月7日から8月21日」までの人流の指数を対比。(「1月7日から8月21日」としているのは、このデータで3カ年の数値が出揃っているのがこの期間だけであり、それを使えば、明確な比較ができるからである。)指数は1を下回る程、減少しているから、増減が分かる。

 その上で、彼はわかりやすく、2019年の全国平均100%とした。それで言うと、2020年が75.2%である。ほぼ3割程度、人が出ていないことになる。2021年で78.4%。そして2022年においては86.1%まで増えている。人流の増加は物販系BtoC ECの実績にも連動している。だからそろそろネットショップはその減少を実感しているのではないか。そう推測できるわけである。

 2022年は人流が増えている以上、物販系BtoC ECの勢いにストップがかかる。これから2、3年の動きはピークアウトの話とあわせて、ボトルネックに絞り込んで、必要最小限の投資をする必要があるわけだ。

参考記事:中小企業 での DX の進め方 逸見光次郎さんと考える

ピークアウトに対してどう備えるか

1.これからは生活変容をどう促すか?

 さて、少し話を戻して「では企業はどうそれに対処したらいいのか」を考えたい。コンビニの市場規模は45年、携帯電話の市場規模が26年でピークアウト。それに対して、物販系BtoC ECは30年から35年程度だから、あと5年から10年ほどで、その時が来る。これからはフェーズが変わる。

 だから、これまでのように市場の成長ペースに任せて、売り上げを伸ばす、というのは難しい。事業者側がこれまでの売り方に、プラスアルファ、ある一定の工夫を図る必要がある。そして、今の人々の生活変容を起こしていくことこそが大事。その結論に至るわけである。

 生活変容?そう思われる人もいるだろう。実は、それもまたこの「電子商取引の市場調査」の数値を紐解くと、ヒントが見える。最後に、そこに触れたいと思う。

2.工夫次第で新しいマーケットが生まれる

 まず「EC化率」が8.78%というのはあくまで平均値。そこで、毎年、そうしているように、各カテゴリーごとでその数値を見ていく。すると、下記の通りになる。

 カテゴリーで最近の五年間の傾向を振り返ろう。それによれば、食品、家電、家具インテリアは大きく伸びた。いうまでもなく、それはコロナ禍で巣篭もり需要により生まれた。家での生活に必要なアイテムだから、それが数値に反映されたという事だ。

 面白いのは、人々の生活と一致しているのは数値でもよく分かるという事。2021年度のデータで見れば、コロナ禍の初期、大幅に需要が伸びた反動で、家電、家具インテリアの伸びが小さくなっている。伸長率で家電は4.66%増、家具インテリアは6.71%増。その前年が、それぞれ「28.79%増」、「26.03%増」ということを鑑みれば、それは顕著である。 

3.食品のカテゴリーに工夫も

 そこで注目したいのは食品カテゴリーだ。これだけは、その前年が「21.13%増」に対して「14.10%増」。二桁の伸長率を「維持」していて勢いが感じられる。これに関して、本谷さんは面白い指摘をしてくれた。実は、食品に関しては、海外と比較すると、日本人ならではの傾向が見られるとするわけだ。

 つまり、僕が思うにそれは「顧客接点の頻度の高さ」である。海外の事例に目を向けると、食料品に関して、1週間程度、まとめて購入する傾向が高い。土地が広く、車で移動するという要素もあり、だから冷蔵庫の大きさもとても大きい。

 それに対して日本はどうだろう。ほぼ毎日に近い頻度で近隣のスーパーマーケットに通う。かつ、新鮮な食料品で調理をする事が定着している。それが寿司、刺身などのナマモノを重じることにもなっている。この性質が日本人には染み付いている。だから、実はこの核心を尊重して、デジタルを推進することで、人々の生活変容を促しやすかった。それが、この数値に表れているのである。

4.ネットスーパーが見つけた金脈

 この話に絡んで、僕は楽天グループにおける「楽天西友ネットスーパー」の成長率について話して、本谷さんが腑に落ちた様子である。彼らのネットスーパーの流通総額は2022年5月時点で、2018年8月との対比で4.7倍。

 その成長の要因は、西友の大久保社長が自ら説明していた通り、物流にあるとみている。2021年のネットスーパーでの流通総額は前年比で26%増。勿論、店舗出荷という側面を持ちながら、倉庫出荷の割合が前年比で79%増加している。

 つまり、日本人の生活に根付いた「毎日、スーパーで食品を購入する習慣」。そこはブレることなく、スマホ利用によりネットスーパーへと案内し、生活の変容を促した。加えて、ネット通販の強みである倉庫を使うことで、店よりも多い品揃えが具現化できた。さらに、それを西友の実店舗がない地域にも、商品を配達できるようにして裾野を広げたのである。

 つまり、「顧客接点の頻度が高い」食品を、今の資金力とテクノロジーの質にあわせて、リアルと近い環境を促すことで、生活変容をもたらした。すると、それはもはや「一過性」ではなく、「持続的にEC化率を着実に成長させ続ける要因」となりうる。それが、家電の伸長率よりも安定している理由かも知れないと思うのである。これらのデータは、それを教えてくれているように感じる。

5.例えば、食品をテコに違った切り口で生活そのものを変える

 この動きを見れば、食品を入口に据えて、デジタルを持ち込み、顧客接点の頻度を増やしていくことは増えそうだ。だとすると、この食品カテゴリーはまだまだ可能性を秘めている予感がする。それは、Uber EATSなどのインフラもそれに相当する。ただ、それと同時に考えなければならないのは、利便性だけではなく、いかに継続顧客につなげるか。その意味で、食品における顧客満足度が何かを改めて定義するべきだろう。

 また、大枠で見れば、経済圏などの大きな企業のように見える。ただ店にも応用できる話であることを忘れてはならない。本谷さんが最近における「ヴィーガン」などの食品のスタイルの変容を挙げて、なるほどと思った。単純に美味しいモノを食べるというのとは別の視点で、一度、お客さまの心を掴めば、いいのである。頻度の高い食品購入の傾向からすれば、そこで一度、その視点が受け入れられれば、継続顧客になりやすい。まさに、Oisixはその最たる例である。普通のお店でもやり方次第で、伸び代があると言えよう。

6.ただ売るだけではなく、売り方が大事な時代へ

 間違いなく、物販系BtoCECはピークアウトが、やってくる。早ければ五年ほどで。しかも、コロナ禍の反動もあるので、そこへの備えは早くから進めるのが吉だ。その答えは、これからも右肩上がりだと想定して、ただひたすら、数を売り、売上を上げる施策ではないということ。

 また、各々の事業者が持つ強みを活かす中で、今までとは違った形の生活変容を促せないかを考えてみることである。その時々で提案できる質は、その時々のテクノロジーの質と連動して変わってくるからだ。お客様にとって今まで以上に、付加価値のあるものとして提案できば、全体のEC化率は上げていける。

 ただ、注意したいのは食品はあくまで例である。それをやれと言っているわけではなく、今までの売り方とは違った視点を持ち込む一つの形。今回の電子商取引の市場調査の報告書に関しては、そういう生活変容をもたらすという視点が大事であるという部分で、大きなヒントを示してくれているように思うのだ。

 今日はこの辺で。

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