Shopifyが進化し続ける理由──Amazonとは異なる“裏方”モデルの強み

Shopifyはカナダ・オタワに拠点を置くECプラットフォーム企業として、近年急速に存在感を高めてきた。世界最大級のEC企業Amazonとしばしば対比される。だが、Shopifyの強みは“裏方に徹する”という独自の姿勢にある。ここでは、Shopify Inc.が5月20日(カナダ時間)に開催した「Shopify Reunite」を例に、その戦略の違いを深掘りしようと思う。Shopifyがどのようなアプローチで事業者を支援し、なぜ今後も存在感を発揮し続けるのか。それを考えよう。
「ネットショップの裏方」に徹するShopify
AmazonとShopifyの大きな違い
Amazonは自社が「お店」。だから、購買データや物流ネットワークなども自社で統合・最適化することで圧倒的な販売力を誇ってきた。一方、Shopifyはあくまで「ネットショップを構築・運営するためのツールや仕組み」を提供する側に徹しているのだ。
- Amazon:消費者は「Amazonで買う」という体験が中心
- Shopify:事業者が持つブランドや個性を前面に出す“裏方”
Amazonには、大きな集客力や物流網を使えるメリットがあって魅力的。その一方、消費者からは「Amazonブランド」の一部として見られがちになる側面がある。
独自のブランドを打ち出したい事業者。その界隈を主としてShopifyは支持を集めることになった。それはさらに広がっている。小規模事業者や個人にも使いやすい仕組みを整備しているからだ。
Shopify Reuniteに見る進化の方向性
それが、Shopifyは2020年5月にオンラインイベント「Shopify Reunite」でよくわかる。複数の新機能や既存サービスのアップデートを発表していて、これは、Shopifyの根幹となる戦略を理解するうえで重要な示唆を与えてくれる。なので、EC事業者は注目しておきたい。
Shopify Balance は金融的色彩を持った 小規模事業者向け 新機能
Shopifyはネットショップの基盤を提供するだけでない。実は、金融サービスにも踏み込み始めている。
- Shopify Balance:Shopify上で銀行口座に近い管理ができるサービス
- Shopify Card:事業者用のカード発行を検討し、ポイント還元なども想定
小規模事業者が個人の銀行口座を使って売上や経費を管理すること。それは、税務やキャッシュフロー管理の面で大きな負担になる。だから、Shopify Balanceのような機能があれば、事業者はスムーズに資金管理ができる。その上、必要に応じて融資のサポートも受けやすくなるわけだ。
これが、今後のEC事業者の基盤整備をさらに促進していく。
Shop Pay分割払い — 消費者に柔軟な決済手段を提供
Shopifyが見ているのは、事業者側だけではない。消費者側の利便性も高めるためのアップデートを重ねている。
• Shop Pay分割払い:無利子・追加料金なしで最大4回払いが可能
今後ECの世界では、“BNPL(Buy Now Pay Later)”が重要になると見られている。買い手が好きなタイミングや条件で支払いを選べる決済手段だ。Shopifyがこの機能を拡充しているのは、消費者の購買意欲を下支えする仕組みとして、事業者と買い手の両方にメリットをもたらすからである。
ローカルデリバリー — 地域密着型の配送サポート
新型コロナウイルス感染症の拡大を背景に、ローカルデリバリーの需要が世界的に高まった。ゆえに、Shopifyは以下の機能を示した。それによれば、地域の実店舗がオンライン注文を受け取り、近隣エリアへ配達できる仕組みを強化していくのである。
- 1. 配送エリアを郵便番号や距離で指定
- 2. 独自の配送料や最低注文価格の設定
- 3. Shopify管理画面やPOSでローカル注文を一元管理
- 4. 専用アプリで最適な配送ルートを自動生成し、配達状況を顧客に通知
これで、ネットとリアルの垣根がなくなる。地域の小売店も大手と同じようにECを活用できるわけだ。その上、さらに独自のブランド体験を提供しやすくなる。
フルフィルメントネットワーク — 複雑な物流の最適化
Shopifyは2019年から、フルフィルメント(受注・在庫管理・発送)を一元化する仕組みを整備し始めた。
- 箱や同梱物のブランディングをコントロール可能
- 在庫や発送データをテクノロジーで集約し、効率化
事業者が自前で配送センターや物流拠点を確保しなくても、良い。というのも、Shopifyと提携するネットワークを利用できるようになるから。そうすれば、よりスピーディーにECビジネスを展開できる。
Facebook ShopなどSNSとの連携
ShopifyはFacebook ShopなどのSNSとの連携も拡大。コミュニティとショッピングをつなぎ合わせる取り組みを積極的に行っている。
- SNSを通じてブランド・ショップの個性を発揮
- ユーザー同士のコミュニケーションが購買体験に直結
個人や小規模ブランドでも、SNSの力を借りて大きな訴求力を得られる時代。Shopifyはプラットフォーム上でのSNS連携を充実させることで、より多くの“ファン”を巻き込んだ販売活動を可能にしている。
Shopifyが描く“裏方”戦略と今後の展望
Amazonは“自分たちの巨大なモール”として世界を席巻してきた。一方、Shopifyはあくまで“ネットショップの裏方”に回り、ブランドや個人事業者がもつオリジナリティを最大限引き出すプラットフォームなのだ。
- Amazon:巨大モールとしての集客力・物流網で圧倒的規模を誇る
- Shopify:事業者のブランド構築を支援し、あらゆる機能を裏側で提供
Shopifyが金融分野や物流ネットワーク、SNSとの連携を拡充していく。その流れは、“誰もが自分のショップを開ける時代”を加速させる。これはもはや一過性のトレンドではない。ネット通販がさらに進化していく中で不可欠な要素となりつつあるわけだ。
だから、日本でもShopify導入事例は増えている。個人や小規模企業、さらには既存の大手ブランドにおいても、「ECの自前化」「ブランド体験の向上」を実現する手段として存在感を高めている。
Amazonが築いた巨大マーケットプレイス。そして、Shopifyが進める“裏方プラットフォーム”の両軸が今後は、並存していく。それぞれの強みを活かしたECがさらに多様化していくだろう。
Shopifyは、世界規模の地位を確立しつつあるのはなぜか。それは、Amazonが入り込みにくい“ブランド価値の深耕”という領域を抑えているから。その意味で、今のECの状況と進化をこの動きから見て取れる。
今日はこの辺で。