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ネット通販の拡大と宅配クライシス―物流の役割が増すほど深まる課題

宅配クライシスは小売と連携し受注予測に基づき効率化すべし

 インターネットで商品を購入するのが当たり前。そんな現代、EC(ネット通販)の市場は年々拡大している。一方で、それを支える物流(宅配・配送)もまた需要が急増。それで、深刻な問題を抱えることに繋がっている。この問題は「宅配クライシス」と呼ばれる。ヤマト運輸の労働環境をめぐる訴えをきっかけに大きく注目されるようになった。EC事業者にとっても、物流との連携やコスト増などの影響は避けられない。

 そこで本記事では、ネット通販と物流が一体となっている現状や宅配クライシスが引き起こされた背景、さらに今後どのような解決策や新たな取り組みが望まれているのかを総合的に解説する。

1.ネット通販の拡大と物流環境の変化

1-1. 宅配便の取り扱い個数の増加

 国土交通省の調べによると、宅配便の取り扱い個数は平成29年度(2017年度)で約42億5,100万個に達した。前年対比で105%となる伸びを見せている。年を追うごとに右肩上がりが続いており、EC利用の拡大がこの増加を大きく押し上げていることが明らかである。

1-2. ビジネスの根幹としてのネット通販

 ネット通販がこれだけ普及したことで、企業がビジネスを進める上で「ネットを活用して商品を売る」という選択肢は不可欠になっている。小売の現場では、新たにオンラインチャネルを立ち上げたり、店舗とECを融合(オムニチャネル化)させたりする動きが加速。これに伴い、急増する荷物を効率的に宅配・配送する環境が必要となっているのだ。

2.宅配クライシスが生まれた背景

2-1. ヤマト運輸の「宅配荷物総量を増やさない」要求

 2017年、ヤマト運輸の労働組合が春季労使交渉において、「宅配荷物総量をこれ以上増加させないこと」を要求したことがメディアで大きく報じられた。

 いわゆる「宅配クライシス」の端緒となった出来事である。

2-2. ドライバー不足と長時間勤務の問題

 なぜこのような主張に至ったのだろう。

ヤマト運輸は配送全体の中でも占める割合が大きい
ヤマト運輸は配送全体の中でも占める割合が大きい

 大きな理由のひとつは、ドライバー不足により長時間労働が慢性化していること。特にシェアが大きいヤマト運輸では、飛躍的に増える荷物をカバーするドライバーの確保が難しく、人手不足による負担が深刻化していた。

 加えて、ネット通販の特性として曜日や季節、キャンペーンなどによって出荷量の増減が激しいことも問題を複雑にしている。需要に合わせてドライバーを増やすことができず、既存の限られた人員で対応しなければならないケースが多いため、労働環境がさらに逼迫しているのである。

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2-3. 配送料の高騰・出荷量制限へ

 労働環境とコストの維持が難しくなるにつれ、何が起こったのだろう。

 宅配業者は取引先企業に対して出荷量を制限したり、配送料を引き上げたりする動きに出た。物流のコストが上乗せされる小売店やEC事業者の損益にも影響が及ぶ。そして、商品の値上げや利益率の低下など、ビジネスモデル全体を揺るがす深刻な問題となっているわけだ。

3.宅配クライシスが小売・EC事業者に及ぼす影響

 「宅配」はECにとって切り離せない存在。商品を売ることができても、それを顧客に届けられなければビジネスは成り立たない。

 つまり物流とECは不可分の関係にある。

 しかし、配送料の値上げや出荷量の制限は小売・EC事業者にとって経費増や販売機会の損失を意味する。要するに、買い手・売り手双方の利便性が損なわれかねない。

 そのため、宅配クライシスをめぐる課題は、単なる「物流会社 vs. 小売・EC」ではない。社会全体で解決を模索すべきテーマとなっている。

4. 生まれつつある解決策と新たな動き

4-1. 楽天などプラットフォーマーによる物流参入

 宅配クライシスを受け、楽天など大手ECプラットフォーマーが物流に参入する動きも見られる。ネット通販のプラットフォーマーは、売り手・買い手の注文データを広範囲に把握できる。そのため、需要予測を活かした配送計画を立案しやすいのだ。

 それで、楽天は、総額2,000億円規模の投資を表明。倉庫の自動化や自社配送網(楽天エキスプレス)の拡充などに本腰を入れることになったのである。

関連記事:楽天 “物流”への考え方 彼らが取り組む 利点 とは?

 これにより、出店店舗は配送料高騰や配送キャパ不足といった課題を楽天の物流インフラに任せられる。そのため、売上増を妨げるリスクを低減できるというメリットがある。

 一方で、その施策の一環として「送料無料ライン(例:3,980円以上)」を統一する動きもある。ゆえに、小規模店舗には価格設定の見直しが迫られるなど、店舗側との調整が課題となるケースも見受けられる。

4-2. 「再配達問題」の解消に向けた施策

 宅配クライシスと並行して注目されるのが「再配達問題」である。

 国土交通省によると、宅配便の約2割が不在再配達にあたるとされています。この再配達は年間で約1.8億時間ものドライバー稼働を生み、労働力の大きな損失になっていた。これを配達員であるトラックドライバーの労働時間に換算すると、年間約1.8億時間、年間9万人(ドライバーの約1割)に相当する労働力だ。

 これを解決するために、以下のような取り組みが行われている。

  • 置き配:ドア前・宅配ボックス・コンビニ受取などを促進。
  • 配達日時の調整:AI・データ分析による受け取りやすい時間帯の把握。
  • 複数事業者との提携:自社以外の物流網を活用できる仕組みづくり。

3. システム面・技術革新によるアプローチ

 さらに、IoT機器やAI技術の発達により、新たなソリューションへの投資・研究が進んでいる。配送経路の最適化自動運転車両・ドローンによる配送などである。システム面から物流を俯瞰して最適化する流れは、宅配クライシスへの長期的な解決策として期待を集めている。

5. 物流とECを一体で考える重要性

5-1. 事業成長と物流コストのバランス

 ネット通販の市場拡大は、事業者にとって機会であると同時に、物流費や人員確保のリスクとも背中合わせである。安易な値下げや送料無料施策を展開すれば、荷物量は増える。その一方で、配送側に大きな負担がかかり、結果的に配送料の引き上げやサービス品質の低下につながる。

 EC事業者は、「販売戦略」と「物流キャパシティ(配送能力)」を同時に考慮する必要があるのだ。

5-2. カスタマーエクスペリエンスの向上

 ネット通販では、配送の質が顧客満足度を大きく左右する。注文した商品が時間通りに届かない。受け取りが難しいといった不満が続けば、せっかくの購買意欲を損ないかねない。

 EC事業者は、物流サービスが顧客体験の重要な一部分であることを認識。宅配クライシスの問題に積極的に取り組む必要がある。

関連記事:配送で差がつくEC運営 ─ ヤマト運輸・中西優さんが語る「配送は購買体験の一部」

6. 今後の展望――テクノロジーと連携が鍵

• ビッグデータ解析と需要予測

 プラットフォーマーによるビッグデータ解析をはじめ、需要予測モデルの高度化が進めば、繁忙期や閑散期を踏まえた効果的な人員配置や、在庫・発送計画の立案が可能になる。

• 新しい受け取り方法の普及

 置き配の標準化やロッカー・無人受取所の拡充、ドローンや自動運転車による無人配送など、新しい受け取り方が広まることで再配達が減少。ドライバー不足の緩和に寄与する。

• 宅配以外の流通チャネルの進化

 宅配を中心とする従来の仕組みだけでなく、近隣店舗での受け取りや、シェアリング・エコノミーを活用した新しい流通形態の創出など、多様な物流ルートが整備される可能性がある。

7.再配達問題にも新たな価値観でのぞむ

 ネット通販が拡大するほど、その裏側を支える物流の重要性はますます高まる。同時に、ドライバー不足やコスト負担、再配達問題などの課題が顕在化し、宅配クライシスと呼ばれる社会的問題となっている。

 この問題を解決するには、物流企業とEC事業者が手を携え、需要予測や新たな配達方式の導入、労働環境の改善に取り組むことが不可欠。今後もテクノロジーの進歩や異業種からの参入が進み、物流全体の姿が変化していくだろう。

 EC事業を進めるうえでは、商品の企画・仕入れだけでなく「どう届けるか」までを含めた全体設計が必要である。宅配クライシスは一過性の問題としてではない。「常に目を向けるべき構造的な課題」と捉えること。そうするで、長く読み続けられる学びと知見を得ることができるだろう。

 今日はこの辺で。

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