スルーしがちだけど見逃せない「hanamikoji」「shiki」「hirali」など職人技ずらり勢揃い
まだまだ掘り起こされていないメーカーの価値にまず目を向けていこう。視点を変える事で、培ってきたものが「いいもの」なのだと再確認させるメーカーの奮闘ぶり。華やかとは言い難い(失礼!)部分もあるけど、製法などで工夫の跡が見られ、参考になる。僕がいたのは「ててて」という展示会。話を聞くほど、その工夫に愛があり、そこに少なからずファンがいることも感じたのだ。
hanamikoji に込められた日本への敬意と魅力的な製法
・日本好きな台湾人の手により価値を再認識
例えば、こちら。
Akushu社から紹介されたのが、ヴァルカナイズ製法で作られたハンドメードシューズである。ブランド名は「hanamikoji」であり、日本製を彷彿とさせるが、台湾の南の地域で製造している。ただ、日本で取り入れられていた製法であり、しかし、工数がかかるゆえに大手メーカーから敬遠された。今でも取り組んでいる企業は、わずか三社程度というから衰退の危機にあると言ってもいいほどだ。
しかしながら、不思議な話、日本好きな台湾の人たちがこの製法に着目した。だから、現地台湾で作って、日本への敬意を込めてブランド名にしたというわけだ。
・蒸すことでシューズを作り出す
そこまでこの製法に惚れ込む理由は、履き心地が良いからなのだ。現在、大量生産で作られている靴の多くは接着剤を塗り、それを乾燥させるという工程を繰り返して作っている。しかし、それに対して、バルカナイズ製法では「蒸す」のであり、そうすることで、アウトソールとサイドが一体化して、履きやすく見栄えも良くなる。
ただ、接着剤の工数に比べればはるかにコストも時間もかかる。それを靴の形状にして仮止めをしておき、その上で窯にそれらを入れて蒸すわけだ。すると、それらがぎゅっとしまって、接着剤を使わずとも、靴の形状になって、履きやすい仕様になるのである。
それゆえにしなやかであり、強固な靴。実際、それに価値を見出して、購入者が増えてきたので、日本でも販売しようと、Akushu社が代理店で動き出した。つまり、逆輸入的に、販売されている日本の価値なのである。
あかまつの木の素材の商品で、森へと誘う「やまとわ」
・木を素材にした敷物や文具
続いて「やまとわ」という会社が手がける「Shiki」「shikibun」というブランドである。これらは「あかまつの木」で作られていて、この薄くなったものを敷物にしようと考えて「Shiki」が生まれた。
会社がある長野県伊那市では「あかまつ」の木が豊富にあって、それらを丸太にした上で、15cm×48cmの立方体からなる角材にする。それで、刃物がついている機械にセットして、まるで鰹節を削るようにして、薄くそれを切り出す。そうやって、できたものなのだ。触り心地といい、なんとなく漂う木の香りといい、心が癒されるグッズなのだ。
それ自体、清潔感があり、ピクニックなどでは、おにぎりなどに包んで自然と調和。若い女性の間でも支持者が多いのだという。それをさらに横展開するべく、ノートの紙に応用したのが「shikibun」というわけである。先日、テレビで取り上げられた際には、即完したというのだ。
・商品は森のエバンジェリスト
ただ、面白いのは、それはこの会社の個性を彩る一つに過ぎないということ。その商品が入り口となって、森の素晴らしさを伝えようとしているのだ。だから、こういう商品を作る一方で、伊那谷フォレストカレッジと言って、森を探索するためのツアーなども実施。日夜、都会の人などにも参加を呼びかけている。社員もまた、春には農家、冬には木の伐採と自然と触れ合う時間を大切にしているのである。この日、話してくれたスタッフも、埼玉県出身だとかで、その森の魅力に魅せられて、移住し、ここで働いているほどなのだ。
室町時代の「印染」の息吹をそのままに
続いて、「印染(しるしぞめ)」をご存じだろうか。室町時代から伝わるもので、上りやふろしきに家紋をくっきりと染めるための技術のことを言う。神社の賽銭箱の真上あたりにかかっているのをみたことはないだろうか。
スギシタは、その技術を今に残すために、自ら「杉下印染」を発表し、デザイナーを起用して、その色合いを表現したハンカチや風呂敷などを展開しているのだ。
「おりん」の新しい魅力を発掘
ああ、これ、見たことある。そう思う人もいるだろう。従来、「仏具」として受け入れられていた「おりん」。そこに光をあてたのがシマタニ昇龍工房。「チーン!」となるアレで、彼らが目をつけたのはその音である。全部、同じなんじゃね?そういう声が聞こえてきそうだが・・・・。
真鍮素材を平らな状態から熱して浮き上がらせてあの形状となるわけで、外から中からトンカチで打つことで、唯一無二の音が出るわけです。つまり、独特の形状のおりんはその作り方によって醸し出す音色が異なるわけで、そこを売り込みポイントにしたわけである。
そのまま、叩いてもいいが、内側を摩って音を出すなど、そのバリエーションは豊富。つまり、その音色は心落ち着くとして、ヨガにも取り入れられていることもあって、それらをオシャレな巾着とセットで提案して、全くのイメージチェンジを図ったというわけだ。
その価値を見逃さずに
1.両面染色の偉大さ
言わなければわからない技術の奥深さというのはあるものだなと思う。例えばこれは、手拭いのメーカーで竹野染工という会社が手がけているもの。てぬぐいやガーゼストールなのであるけど、一見、普通のものと変わりがないように思える。
でも、よーーくみてほしい。実は「両面に染色されている」。それでもピンとこない人がいてもおかしくない。両面に染色されているのに、全く裏映りしていないのである。
それが「hirali」の真骨頂。ガーゼストールの生地の薄さを考えれば、いかにそれが度を超えた技術であるか。手にとって、言われてみて初めて気づくのである。
染め物は当然、塗料を使って染めるわけだから、薄いものであれば、当然染み込んで、反対側にその色が出てしまう。その点、竹野染工はロール捺染と呼ばれる染め方で手ぬぐいづくりを行っており、要するに、染色したい場所に糊を混ぜた染料を金型で捺し染める技法。
現在これができる職人は全国にほんの僅かしかいないのに加えて、表と裏の両面に染色できる技術を開発したわけである。そこまでくると、本当に限られた職人しかできない芸当なのである。
2.秋保で古くから重宝されていた石
もう一つは、秋保石。僕は仙台出身なので、ハッと気付かされた。温泉街として有名な秋保。そこの石をモチーフにした「SENDAI FORME」。それまで、広く建築材として用いられた凝灰岩であり、東北学院大学本館・礼拝堂などにも使用されたほど。
耐久性があり軽量で火に強く、さらには湿気を吸うなど数多くの特徴を持つことから、大切なものを保管する蔵や書庫の建材として適した素材なのだが、最近はめっきり影が薄くなった。家具を提案するクラスコファニチャーが、秋保にあり、その価値に光を当てようと、自ら知見のある家具と紐づけたわけである。
下の写真の通り、植物を置くための「プランツコースター」。あるいは、本を支えるブックエンドなどを提案している。
メーカーと言われる人によくよく聞けば、その製法ややり方には他にはない特徴がある。地味だけど、ファンがいて、心を満たす大きな価値がある。ただ、皆、それを知らないだけで、廃れていくのはあまりに勿体無い。今一度、一見すると、スルーされがちなものづくりの真価に目を向けよう。
今日はこの辺で。