ファーに生命を宿して MAI MATSUO
物にはいろいろな価値があって、実用性に限った物ではないから、面白いのだと思う。MAI MATSUOさんの話を聞いて思った。ファーを素材にした雑貨を手掛けるクリエイター。普段使わぬ動物の素材を使うあたりに、彼女なりの思いが込められている。
持ち歩けるお守り
「持ち歩けるお守りなんです。」そう彼女は言って、にっこり。手に取ったのはうさぎの毛皮で作った雑貨である。確かに、ウサギとは珍しい。なぜ、このようなものを作るに至ったのか。
「別に、ウサギでなくてもいいんです。こちらの素材は羊ですし」
拘っているのは、素材そのものが持つポテンシャルである。
彼女は遡ること、数年前、メーカーに素材を提供する「素材屋」にいた。彼女自身、素材に興味があって、最初の頃は、革などにも強い関心を抱いた。その理由は、そこに生命を感じるからだという。それが人を安心させるわけで、彼女の言葉にある「お守り」に直結する。
ファーに生命を感じて
元々、彼女はテキスタイルを専攻していたから、その知見を素材に活かしたいと考えるようになった。その素材自体の生命をもっと身近に感じる商品は何かと。革も魅力的ではあるけど、もっと温もりを感じられるものをと考えた先に、ファーとの出会いがあった。
それで、自らの経験と、その魅力を活かした商品を手掛けたいと、ファーの雑貨を作り上げたわけで、最初の話に戻ってくる。ものはものでそれ自体に実用性がある。それが必要とされる理由でもある。一方で、その素材に目を向けてもらうことで、その背景にある生命の温もりなどを感じてもらいたいと。
だから、実用性以上の付加価値をもたらそうと、テーマを掲げ、商品を手掛けた。だから、商品自体にその素材の表情があって、それ自体に生命を宿しているような気分にさせる。
僕らは実用性、機能性を判断の基準に据えがちだけど、実は心の豊かさを満たすのはその素材を生かす付加価値の方であろう。彼女はそこに重きを置いて、価値観を訴求して、ファンを掴んでいるのだ。商品の価値は、時代を経て、変わっていくものである。
今日はこの辺で。