十人十色 違った視点が面白い デザインフェスタ56
アートは、自分に問いかけ、表現されるのであり、自分の心の声だ。それは十人十色、全く違っていてだから面白い。来場者は見て、何を感じたのだろう。この日、僕は『デザインフェスタ』にやってきた。僕もまた、とある創作物を手に、ニヤリとしていた。クリエイターの伊豆見さんの「えっびっ」というキャラクター風に描かれた僕の似顔絵である。大事に大事にその場を持ち歩いていたけど、同じような気持ちの来場者は数多くいただろう。
デザインフェスタは感動に偶然出会う
1.伊豆見さんのえっびっ!に遭遇
ところで、伊豆見さんについてだが、以前から、僕はTwitterでその存在を知っていた。だから何気なく通りかかったそのブースで、せっせと描くそのイラストを見て、あっ!と思った。「これって、GIF(簡易的なアニメーション)で表現しているキャラですよね?SNSでみたことあります!!」
僕が思い浮かべたのがこちらである。
フォロワーを見ると46,000人もいる。とはいえ、ブースも地味で目立たなかった(失礼!)ので、思わず二度見した。でも、それがデザインフェスタらしいとも思えた。何気なく、ちょっとした有名人が潜んでいるのである。僕が、そう声をかけると、伊豆見さんの顔もパッと明るくなった。
「そうです、こうやって、見せています!」とスマートフォンを片手に説明する姿がキラキラしていた。
才能は人を自分らしく輝かせてくれるものだ。僕も喜び勇んで特製の名刺入れを購入しつつ、この似顔絵を描いてもらった。うん、宝物が一つ、増えた。
2.十人十色の魅力で花が咲く
『デザインフェスタ』は56回目を数えるアートの祭典で、数々のアーティストを輩出してきた。昨今、なんでもデジタルで済まされる時代だが、作家に聞くと、口を揃えてこの場所を大事にしている。何故ならリアルに目の前で、自分の作品に対しての反応を確認できる。だから、それを見て、「次の作品はこうしてみよう」と創作意欲が湧いてくるからのようなのだ。
思うに、アートは自分の心の声。十人十色で、色々な視点があるし、だから皆、胸を張り、チャレンジすることに意味がある。だから「かなえまる」というアーティストの卵に遭遇したけど、聞けば大学生だそうだ。作品にカメラを向けていると、視線を感じて見上げたら、ピースをしていた(笑)。コミュニケーションがこのイベントの真骨頂だと再確認させる。
描いていたのは「なきべそアニマルズ」という。「なぜ泣いているの?」そう僕は問うと、捨てられた動物を意図しているという。着ぐるみを人間に着せることで、人間に近い印象を抱く。捨てられることの重大さが、より伝わってくるし、感情移入がしやすい。僕はそう受け止めた。
彼らのアカウントはフォロワーが4万人を越えたという。
https://www.tiktok.com/@kanaemaru?is_from_webapp=1&sender_device=pc
自分への可能性にチャレンジした結果が、ちゃんと数字となって現れている。しかし写真の表情を見るに、その人懐っこさも加味されて、一層、このコンテンツの魅力を引き立たせている。リアルならではの楽しみ方である。
3.ブルベアも原点の精神に戻りデザインの祭典へ
先ほど触れた通り、ある一定のファンを抱えるコンテンツも、当然、ここに顔を出す。「ブルベア」のその一人?である。突然、本人?が出てきて、ビックリした。
「ブルベア」とは、人気ロックバンド「BLUE ENCOUNT」のグッズに使われた事に端を発する。バンドのファンに認知されただけではなく、そのキャラ自体に人気が生まれた。本来、ファンの中でも一部しか知らないはずのキャラクターだったけど、人気者になったのは、TikTokでの表現が受け入れられたからだ。
関連記事:キャラクター で TikTok 24万フォロワー の快挙 ブルベア の軌跡
上記の記事でのキディランド原宿店でのイベントの事を振り返り「ブルベア」に関連するスタッフたちは、こう語る。「あれは貴重な経験。その原点に立ち返って、ブルベアと一緒に、新しい動きを起こそう。そう思った」。その原点に相応しいのが、アートやコンテンツの聖地である「デザインフェスタ」というわけだ。
次のフェーズでは、ストーリーで見せてきたいと意気込む。多くがTikTokを舞台にして、その直感的な動作などは多くのファンを瞬間的に、惹きつけてきた。今思うのは、そこからずっと繋がりあえる存在としての『ブルベア』である。周りにいたスタッフなどは「伝説のブルーぬいぐるみ」なども手にして、ブルベアの新しい動きへの応援に忙しい。
4.ソフビでキャラの魅力が伝わる「珈琲坊や」
続いては、tanakasakiさんの手がける「牛乳坊や」シリーズである。ご存知ないかもしれないが、実は、彼女の作品は「アトムの童(こ)」でもちらっと登場している。ファンの間ではそれが密かに話題になっていて、彼女の作品もそのモノづくりの素敵さを伝える大事な要因になっているのだ。
何が大きいかって、ここ何年かで身につけたソフビ人形によって、それが脚光を浴びたことにある。今回のデザインフェスタでは「珈琲坊や」というキャラでソフビ人形を出している。何気ないことなのだけど、彼女に話を聞くと、奥が深い。写真を見てもらうと分かるが、お尻から足にかけてが特徴的。
実は、心掛けているのは子供の体型であるというのだ。赤ん坊がうつ伏せになった時を思い浮かべれば、足のところのぼてっとした感じなどが、それに近いことに気づくだろう。柔らかく優しいタッチと、母性本能をくすぐるテイストがよくマッチしているではないか。
5.ルールなき表現
アートっていうのはルールがないから面白い。どんな些細なものでもアートになりうる。クスッと笑ってしまったのは、スタジオモイモイの「働かない犬」。「犬って結構、働き者なイメージがありますよね。だから、逆に働かないってイメージで、絵を描いたら面白いかなって思ったんです。ウフフ」と遊び心が楽しい。
こちらは、コキンというブランド。飾り結びをアクセサリーにしたのだという。元々、日本のものの素晴らしさに感化されて始めたこと。思いがけずそれを、手芸と掛け合わせて、表現したのがこのアクセサリーだ。写真の右のサイコロ風のアクセは、芯を作って四角に巻きつけ、可愛らしく仕上げた。飾り結びは縁起物に使われるものだから、その作品を幸福感が包み込む。
ファンタジーでありリアルである
1.写真家がファンタジーを表現する妙
アートは人と人との出会いも創出する。【Everland】が手がけたフォトブックは、映画館のパンフのように高級な仕上がり。そのブースにいた下條 祐美さんはフォトグラファーだという。だけど、彼女はただ写真を冊子にするだけではなく、ストーリー性のある写真集に仕上げた。彼女が、SNSで幻想的な衣装に身を包むarianaさんを発見して、一緒に創作しようと、声をかけて生まれたのがこれである。
arianaさんは自らがファンタジーな世界観を表現するとともに、ストーリーも頭にあったから、二人の合作が噛み合った。下條さんが写真を撮り、arianaさんがそこに物語を吹き込む。互いの才能を認め合う中で、生まれた見事な化学反応である。
2.忠実でありファンタジー
こちらは鈴木ズコさん。今回の新作は、持ち手付き巾着でおまるに乗った猫の「BUNTAN」柄。何か乗り物に乗せてみたいなと思う中、「なるべく誰でもが乗れるもの」と思っていたら、いつの間にかおまるになっていたという傑作。写真のようにTシャツも。シュールな顔とファニーなシチュエーションの組み合わせが絶妙。
幻想的だが、一方でご自身が猫を飼っていて、そのリアリティさも売りである。「猫好きは猫のツンデレなところがたまらない」と鈴木ズコさん。敢えて世間で見られる猫キャラのように、ニコニコしていないのが逆に、猫を飼う人の心をそそるらしい。
3.ウサギに扮して干支を意識
常にその時その時で、チャレンジし続けているのが、レモン&シュガー。今回、前面に打ち出しているのは、「うさぎ」の装い。「来年は卯年だもんね!」と言われて納得。キャラクターもスターみたいなものだから、季節に合わせたイメチェンは、ファンサービスとして大事な要素である。
クリエイターは試行錯誤の連続
1.作品のセレクトと商品の見せ方
しかし、クリエイターは、日々いろんなことを考えながら、工夫している。みやかわさとこさんのブースを訪れると、その想いに触れて、なるほどとうなづいた。例えば、今回はさまざまな商品を数を多く用意して、陳列してみた。けれど、一点ものに絞って、そこに付加価値をつけて見せたほうがいいのだろうかと、いつも頭を悩ませながら、陳列しているという。見せ方一つにも、作家側の色々な試行錯誤があることに気づいた。
その中で僕が購入したのはコルク素材のコースター。一点一点手書きをしていて手の込んだ仕様である。少しずつ手がけ続けてもう500枚、描き切るところまできたそう。驚きである。
2.カラーよりモノクロの方が自分の才能を活かせる
カラーで書くよりもモノクロの方が自分の絵のテイストが上手く表現できる。そう気づいたと話してくれたのは写真の副島あすかさん。それまでのカラー作品も見せてくれて、それをみながら「どこか平凡だった」と。そこで敢えて白と黒にデザインを振り切った。
写真を見て分かる通り、黒と白とで対比が鮮明になる。だから、彼女のように書き込むタイプの作家はそれが繊細さとなって、際立つわけである。ああでもないこうでもない。色々考えた末に自分の立ち位置を確認するものだと気付かされた。
デザインフェスタは色々なカラーがある。その才能はなにもイラストでなくても、造形物、アクセサリーに至るまでどんな表現でも発揮できるものなのだ。デザインフェスタは表現しようとする人全てに門戸を開放するから、多くのアーティストが自ら作品を披露することで、自分の存在意義をも確認している。勿論、それらは来場者の一人ひとりの反応によってより深くなり、刺激と気づきをもたらしてくれる。
十人十色。だから、その心の声は各々違っていて、来場者は自ら刺激を受けつつ、それを讃える場なのである。たとえ、同じものを見ていたとしても、一人一人が見える世界はまるで異なる。だから、その一人一人の表現は、多くの人にとって時に新鮮に、センセーショナルな印象を持って受け止められるのである。
今日はこの辺で。