1. HOME
  2. News
  3. キャラ談
  4. ライセンサー|世界を作る側
  5. ライセンス
  6. 劇場アニメ『ルックバック』展 ―― 線が生まれる、その手前で

劇場アニメ『ルックバック』展 ―― 線が生まれる、その手前で

 不完全であること。意味がないように見えること。実は人は、そうしたものにこそ気を取られ、心を奪われる。そんな感覚を、静かに呼び起こされる展示だった。麻布台ヒルズ ギャラリーで開催されている劇場アニメ『ルックバック』展 ― 押山清高「線の感情」は、完成した映画を称えるための展示ではない。

 むしろこの展示は、映画が完成する前に、何が起きていたのかという問いとともに、時代の流れの中で、表現するうえで何を大切にすべきなのかを、あらためて立ち止まって考えさせてくれる機会をもたらしている。

完成した映画ではなく、問いが生まれる場所

 表現の一つひとつが、どこか人間的に感じられる。それは偶然ではない。作業効率の観点から言えば、アニメーション制作では、原画と動画を分業するのが一般的だ。

 動画は原画と原画をつなぐ役割を担い、言葉を選ばずに言えば、動きは「繋ぎ合わせられる」ことになる。その過程で、どうしても失われてしまうものがある。

 本作では、原画と動画(中割り)を分けず、同じ人、同じ線で描き切る「原動画」という手法が取り入れられている。

 だからだろうか、押山さんの表現には、迷いがない。正確に言えば、迷いが消されていない。繊細な心理描写が途切れることなくつながり、理屈では語り尽くせない情景が、静かに立ち上がってくる。

不完全さに、なぜ人は心を奪われるのか

 押山さん自身は、こう展示会に言葉を寄せている。

見てほしいのは、工業製品のような完成度ではなく、人の手仕事による歪で不完全な「息づかい」です。

この言葉に、いたく感銘を受けた。

描くという行為そのものへ、視線を戻す展示

 昨今、AIの登場によって、誰でも絵や映像を作れる時代になった。それでもあえて、非効率で、歪で、手作業を重ねることに意味があるとすれば、それは、押山さんが語る「息づかい」が、そうした絵にこそ宿るからなのかもしれない。

 ルールに沿って整えられたものではなく、不均衡で、揺らぎを含んだ情景。

 それこそが、僕らの周りにある自然なのだと思う。僕は劇場でこの映画を観ていたからか、展示で目にした原画から、その不均衡さがダイレクトに心に響いた。

 線の揺れや間の取り方から、動いている場面が自然と想起され、時折、理由もなく、涙が出そうになった。展示のはじめに置かれているのは、雨の中、田んぼ道をスキップする藤野から始まる映像だ。

 そして、街中へと飛び出す、藤野と京本。その映像は、どこかパラパラ漫画を思わせ、静止画のようでもあり、スケッチブックに描き込まれた線の集積のようでもある。

不均衡こそ、標準

 思えば、映像の原点とは、まさにパラパラ漫画にある。

 以前、映像制作に携わる人から、動きの連なりにわずかな違和感をもたらすことで、人は強く引き込まれるのだと聞いたことがある。原画を重んじるからこそ、そこに不均衡が生まれる。その不均衡が、僕らを世界の内側へと引き込み、深い没入をもたらしているのだと思う。

 効率のいいわけでもない「原動画」は、大量生産にも向かない。だがそのぶん、最初に引いた線の迷いも、勢いも、ためらいも、途中で誰かに均されることがない。線が、線のまま、時間を生きる。その在り方は、藤本タツキさんが手がけた原作『ルックバック』の世界観とも、不思議なほどよく重なっている。

 描くことへの衝動や葛藤を、そのまま抱え込むような物語にとって、この手法が選ばれたことは、観る側にとっても、ひとつの幸運だったのだと思う。

藤野と京本──比較できない二人の距離

 真逆の性質を持つ、藤野と京本。

 ストーリー作りに長けた藤野は、それこそが漫画表現の核だと信じていた。一方で京本は、物語を組み立てるのは得意ではないが、絵の表現力においては群を抜いた才能を持っている。藤野は、自分が漫画では敵なしだと思っていた。周囲からも、どこかそう扱われてきたし、自分自身も、そう思い込んでいた。

 だからこそ、京本の存在は、深く彼女を傷つけ、否定へと向かわせてしまう。

 ところが、京本は京本で、藤野に強い憧れを抱いていた。そこにあるのは、優劣ではない。上下でも、理屈でも語れない、ひとつの真実だ。その関係性から生まれる比較や嫉妬は、予定調和の物語では描き切れない。

 だからこそ、原動画という手法が効いてくる。迷いも、葛藤も、ためらいも、均されることなく、そのまま映像に滲み出る。その表現と手法が互いを引き立て合ったからこそ、『ルックバック』は、あれほどまでに深く、人の心に残る作品になったのだと思う。

繋ぎ合わせるだけでは、見えないものがある

 だからこそ、その後に京本を襲う悲運は、観る者の脳裏に深く焼きつくことになる。そして、藤野が踏み出すその一歩は、京本の境遇と、彼女自身の深い感情の揺らぎを背負ったものとして、強く、観る者を惹きつける。

 原画を前にして、あらためてそのことに気づかされた。原作の構成が持つ力は言うまでもないが、それを押山清高の表現が受け止め、引き受けたことで、いっそう胸に迫るものになっていたのだと思う。

 だからこそ、原画を見ながら、劇場で観ていたあの瞬間と同じように、再び、涙が出そうになったのだろう。

 思えば、映像とは本当に難しいものだ。簡単に表現できるものではなく、小さな表情や情景の積み重ねによって、ようやく形を成す。その魂は、そうした細部にこそ宿る。それらをどう組み立てるかが、何よりも重要なのだ。それを、原動画という手法を通して、この展示で痛いほど思い知らされた。

 無駄に見えることを省かず、日常の細部に目を向け、その一つひとつをどうつなぎ合わせれば、ひとつの真実に近づけるのかを考えること。

 簡単に映像すら作れてしまう、このAIの時代だからこそ、その姿勢の価値を、強く感じた。この時代において、残すべき価値があり、心に焼き付けるべき作品であり、原画だったと思う。

 今日は、この辺で。

© 藤本タツキ/集英社© 2024「ルックバック」製作委員会/©「劇場アニメルックバック展」実行委員会

関連記事

145が自らの考えを大事に、わかりやすく想いを持ってビジネスの本質に迫るメディアです。主に小売業、ものづくりとキャラクターライセンスを追っています。
詳しくはこちら

all/初心者 culture/SDGs culture/学生クリエイター culture/推し活 culture/渋谷 culture/生成AI culture/調査・データ DEEP DIVE: 1推し(イチオシ) DEEP DIVE: ものづくりのセオリー DEEP DIVE: アーティストの感性に触れる DEEP DIVE: ボーダーレス─僕らは空間と時間をクリエイトする DEEP DIVE: 奥深きキャラクターの背景 DEEP DIVE: 店の声─舞台裏での奮闘記 DEEP DIVE: 潜入イベントレポ DEEP DIVE: 賢くなろう─商売の教科書 DEEP DIVE: 超境─クールジャパンの新次元へ EC/Amazon EC/au PAY マーケット EC/BASE EC/Instagram EC/LINE EC/Shopify EC/TikTok EC/Yahoo!ショッピング EC/YouTube EC/フューチャーショップ EC/メイクショップ EC/日本郵便 EC/楽天ファッション EC/楽天市場 ECshop/MA ECshop/OEM ECshop/ささげ(採寸・撮影・原稿) ECshop/アプリ ECshop/オンラインモール ECshop/コンサルタント ECshop/コールセンター ECshop/チャット ECshop/ライブコマース ECshop/多店舗統合システム(OMS) ECshop/自社EC Fancy/Curious George Fancy/PEANUTS Fancy/すみっコぐらし Fancy/カピバラさん Fancy/サンエックス Fancy/サンリオ Fancy/シルバニアファミリー maker/バンダイ maker/ユニクロ RealShop/ZARA RealShop/コンビニ RealShop/スーパーマーケット RealShop/専門店 RealShop/百貨店・商業施設 RealShop/飲食店 Shop/接客スキル Shop/決済 【Buying】オムニチャネル・OMO 【buying】サプライチェーンマネジメント 【Buying】フィンテック・金融 【Buying】フルフィルメント 【Buying】フードデリバリー 【Buying】マーケティング・CRM 【Buying】リユース 【Buying】レンタル 【buying】ロジスティクス(流通) 【Buying】商品企画/マーチャンダイジング 【Buying】海外 【Buying】集客 【Fancy】ディズニー 【Fancy】ピーターラビット 【Fancy】ムーミン 【Game】Nintendo 【IP】Buzzverse – SNSから拡がる共感の宇宙 【IP】Gameverse–Gameから派生し、自分ごととして関わる世界 【IP】Storyverse –物語から生まれたキャラクターたち 【IP】Zakkaverse–モノとともに日常を彩るキャラクターの世界 【IP】キャラクター・スポット 【IP】ファッションブランド 【IP】未来図(WEB3/NFT等) 【Product】ふるさと納税 【Product】アクセ・ジュエリー 【Product】アパレル 【Product】インテリア 【Product】コスメ・健康 【Product】スイーツ 【Product】ホーム・台所 【Product】文具 【Product】玩具・ガチャ 【Product】花・植物 【product】製造業テック 【Product】雑貨・小物 【Product】食品 【Product】飲料・酒 キャリアと生き方|HERO insight —逆境をチャンスに変えるストーリー ビジネス思考法|HERO insight —“仕組み”と“本質”を捉える視点 事業化のリアル|HERO insight —アイデアを持続可能なビジネスへ 創造のヒント|HERO insight —人の心を惹きつけるアイデアの源泉 経営・マネージメント

最近の記事