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Netflix日本進出10周年──実写とアニメ、挑戦と革新を語り合う場から見えた未来

 2015年に日本に上陸したNetflixは、わずか10年で映像業界の構造を大きく変えた。配信という形を通じて作品が国境を越え、国内で育まれた物語が世界の視聴者に届くようになったのである。2025年9月4日、東京の映画スタジオで行われた「Netflix日本進出10周年記念イベント」には、Netflix共同最高経営責任者(CEO)のグレッグ・ピーターズも来日し、その歩みと未来を語った。

 グレッグは、映像作品を特別なものではなく、日常に溶け込む存在へと変えたことを強調した。つまり、日本人一人ひとりが日々当たり前のように映像作品に触れられる──その生活習慣の変容こそに、大きな意義があるのだと語ったのである。まさにその変革の象徴が、Netflixが独占放映権を取得したワールドベースボールクラシックであり、スポーツ視聴のスタイルさえも刷新し、時代を変えていくことを示していた。

 そして大根仁、佐藤信介、藤井道人、山田孝之、大塚学、吉川広太郎、見里朝希、根本宗子──日本を代表するクリエイターたちが続々登壇。進行役を務めたNetflixの高橋信一と山野裕史、そして全体を統括する坂本和隆(Netflixコンテンツ部門バイス・プレジデント)が加わり、10年の歩みと未来の可能性を縦横無尽に語り合った。

1. 大根仁が語る「即断即決」の衝撃──企画が走り出す瞬間

 大根仁は、社会現象となった『地面師たち』を企画した当時を振り返り、Netflixの「即断即決」の文化に驚いたと語った。

 映画会社やテレビ局では、どんなに熱を込めた企画でも「一度持ち帰ります」と保留されるのが常だった。しかしNetflixは、企画内容と脚本をその場で読み込み、「これはやろう」と即決する。そのスピード感こそが、企画に命を与え、映像作品を社会へ送り出す突破力になったという 。

 さらに大根は「キャスティングよりもまず脚本の強度を重視する」というNetflixの姿勢にも触れた。

 従来の国内映像業界では有名俳優の名前が先に立ちがちだが、Netflixでは「物語が面白いか」が第一に問われる。その構造がクリエイターの自由を後押しし、挑戦的な作品を世に出す原動力となっているのだ。大根の言葉は、Netflixがこの10年で日本の制作現場にもたらした“空気の違い”を象徴していた。

2. 実写を切り拓いた3人──壁を超える挑戦

 続いて登壇したのは佐藤信介、藤井道人、そして山田孝之。三者三様にNetflixとの挑戦を振り返った。

 佐藤信介は『今際の国のアリス』を例に、日本から世界に作品を届けるための脚本作りに挑んだ当時を振り返る。日本文化を知らない人に理解してもらえるか──その視点を持ちながら緻密に脚本を練り上げた経験は、自らの創作意識を変えるきっかけになったと話す 。

 藤井道人は『新聞記者』などを手掛け、「Netflixは配信だからこそ、僕らの映画を海外のクリエイターや記者が直接見て連絡をくれる」と強調。国内に閉じていた映像文化が一気に外に開いたことの衝撃を語った 。

 そして山田孝之は、英語を学んで海外に出るのではなく、日本語の芝居で世界に挑めるNetflixの環境がいかに自分を試す機会になったかを吐露。これまで業界内で懐疑的に見られていたNetflix参入を「チャンス」と捉え、挑戦した姿勢は、今の日本の俳優たちに新しい道を切り開いたことを示している 

3. 世界に届いた“イマアリ”──佐藤信介が感じた変化

 『今際の国のアリス』は、日本の実写作品として世界的に大きな成功を収めた。

 その成功の背景にあるのは、佐藤信介監督のこだわりだ。彼は日本で「画面を明るく分かりやすく」と言われがちなところをあえて逆にし、ダークトーンの映像美を選んだ。その挑戦が結果的に海外の視聴者の心を掴んだのだという 。

 シーズンを重ねるごとに、脚本開発では「日本の事情を知らない人にどう伝えるか」という議論が何度も交わされた。日常と非日常を織り交ぜた作品構造は、日本映画の伝統を継ぎつつも、Netflixというグローバルな舞台で新たな生命を与えられた。

 佐藤は「日本から世界へ発表できる場所が広がったことが大きな変化だった」と語り、この10年の挑戦を振り返った。

 さらに彼は、VFXや撮影技術の水準をNetflixが求める高さに合わせることで、日本の制作現場が確実に底上げされた実感を持っている。グローバル基準に触れることで、日本作品は「ローカル発」から「世界発」へと意識を更新したのだ。

4. 労働環境を変えた配信時代──藤井道人の実感

 藤井道人監督にとって、Netflixとの出会いは9年前。まだ「無名の映画青年」だった自分にチャンスをくれたのがNetflixだったという 。そこから藤井は『新聞記者』『パレード』、そして最新作『イサミ』と挑戦を重ねてきた。

 彼が特に強調したのは「労働環境の変化」だ。Netflixは作品の品質だけでなく、スタッフへのケア、リスペクトトレーニングの導入など、従来の映画会社にはなかった仕組みを整えてきた。その結果、制作現場に“頑張りすぎなくていい”という新しい価値観が持ち込まれた。

 また、藤井のもとには海外からの問い合わせが直接届く。

 従来は映画祭に出品しなければ届かなかった声が、配信を通じて日常的に届くようになった。この構造変化は、若手クリエイターにとって「海外は遠いものではない」と思わせる大きな転換点だ。藤井は「配信は自分にとって戦える場をつくってくれた」と語り、その表情には自信と感謝が滲んでいた。

5. 山田孝之が語る「日本語で世界へ」──本当の挑戦とは

 俳優・山田孝之が登壇すると、会場の空気は一層引き締まった。彼が語ったのは、Netflixがもたらした「日本語で世界に挑む」という新しい選択肢だ 。

 山田は「英語を学んで海外に出ても、文化や言語の壁がある限り本当の自分を出せるとは限らない」と率直に語る。だからこそ、日本で日本語の芝居をして、それをNetflixが世界に届ける方が、自分の実力を正しく試せると確信した。全裸監督での挑戦は、その思想を体現した瞬間だった。

 当時、業界内では「Netflixは日本から撤退するのでは」と揶揄する声も多かった。しかし山田は逆に「だからこそチャンス」と捉えた。既存の流れに逆らい、あえて挑戦することで、後輩たちに新しい選択肢を示す。その姿勢は、俳優という職業における「リスクを取る勇気」の象徴である。

 さらに彼は、日本の俳優の待遇改善にも言及。

 「企業CMに頼らず、芝居だけで生活できる環境が必要だ」と語り、Netflixが俳優の評価軸を変える存在になってほしいと訴えた。

 この発言は、10周年イベントにおける最も本質的なメッセージの一つだった。

6 アニメを支える現場の10年──MAPPA大塚学の振り返り

 アニメセッションに移ると、まず口火を切ったのはMAPPA代表の大塚学。彼は「この10年はプラットフォームで作品が全世界に広がり、作り手として強く意識するようになった」と振り返る 。

 特にコロナ禍では、在宅勤務やリモート制作が進み、Netflixの協力で柔軟な制作体制が実現した。

 働き方の選択肢が広がり、アニメ制作のスタイルが大きく変化したのだ。視聴者にとっても、外出制限の中でスマートフォンを通じてアニメを楽しむ習慣が根づき、アニメが生活の一部へと組み込まれていった。

 大塚は「今後はプラットフォームを土台に、どれだけクリエイティブを観客に届けられるかを追求したい」と語る。彼にとってNetflixは単なる配信サービスではなく、クリエイターと視聴者をつなぐ“距離を縮める場”として機能しているのだ。

7. SAKAMOTO DAYSから広がる快挙──トムス吉川広太郎の挑戦

 吉川広太郎は『SAKAMOTO DAYS』のグローバル成功を振り返り、「NetflixがIPを育ててくれた」と語る 。2016年に提案した作品が、アメリカでトップテン入りし、ついには世界ランキング2位に躍り出た。

 この快挙は、単にアニメの人気にとどまらず、日本発IPがNetflixを通じて世界的なブランドに育つ可能性を証明した。

 彼は「Netflixはクリエイターをリスペクトし、規模の経済を最大限に活かせる場」と強調する。3億人を超える会員基盤に作品を乗せることで、一気に世界的認知を獲得できるのだ。さらに各国の詳細なレポートが提供されれば、より視聴者ニーズに合った作品を企画できるとも提案した。

 この発言には、アニメ業界全体を底上げする意志がにじむ。単に作品を作るだけでなく、IPを世界水準で育てる視点を持つこと。それが、今後10年の勝負になると吉川は力強く語った。

8 ストップモーションの可能性──見里朝希が感じた突破口

 見里朝希は、『My Melody & Kuromi』を手がけた経験を語った 。ストップモーションという地道な手法を用いながら、世界的に配信され、2週連続でグローバルトップ10入りを果たした。

 彼は「手作業の積み重ねが“手に触れられる可愛さ”を生み出す」と説明し、ストップモーションならではの魅力を強調。従来はアナログで古臭いと見なされがちだったこの手法が、Netflixのグローバル展開によって新たな可能性を獲得したことは象徴的だ。

 制作現場は小さなアパートから始まり、今回のプロジェクトでは100人規模に拡大した。見里は「これほど監督らしい仕事ができたのは初めて」と胸を張り、次は長編作品やVRと組み合わせた挑戦にも意欲を示した。日本発のストップモーションが、いま新たなステージに立っている。

9. 演劇からアニメへ──根本宗子が見た“自由度”

 劇作家の根本宗子は、『My Melody & Kuromi』でのアニメ脚本への初挑戦を振り返った 。

 彼女にとって演劇の世界では「予算や制約に縛られるのが常」だったが、Netflixでは「まずやりたいことを全部広げてみよう」と言われたという。結果、広げた構想の大半がそのまま形になり、自由度の高さに驚いたと語った。

 演劇畑からの参加は異色に映るが、Netflixはあえて「異業種の人間に書かせてみる」姿勢を持っていた。

 その懐の深さが、『My Melody & Kuromi』の多層的なストーリーを生み出したのだ。根本は「オリジナルを書きたい脚本家がもっと選ばれる場になってほしい」と願い、この経験を次世代につなげていく決意を示した。

 彼女の発言は、Netflixが日本に根付かせた“クリエイティブファースト”の思想を象徴している。制約から解放された自由な発想こそ、作品を世界へ羽ばたかせる原動力になるのだ。

10. 坂本和隆が語る“次の10年”──ローカルからグローバルへ

 イベントの最後を締めくくったのは、Netflixコンテンツ部門バイス・プレジデントの坂本和隆だった。彼は10周年を振り返り、「クリエイティブファースト」と「ローカルファースト」の理念を改めて提示した 。

 日本で根づいた物語をまず国内で愛される形に磨き上げ、その先に世界展開を見据える──その姿勢こそがNetflixの強みだ。そして、挑戦は映像表現にとどまらない。坂本は新たな領域として「ライブ配信」への踏み込みを発表。スポーツを題材に、リアルタイムで熱狂を共有する仕組みを日本から始めるという。これは単なる中継ではなく、物語としてスポーツを描く試みであり、Netflixが次の10年に掲げる“体験の拡張”を象徴している。

 坂本は「限界を超えて、想像を超えて、誰も体験したことのないエンターテインメントを届けたい」と力強く語った。会場にいたクリエイターたちの言葉と共鳴するように、その確信は明確だった。無理にNetflixになる必要はない。日本の文化やものづくりの精神を発揮し、それをNetflixが世界に広げていけばいい──。その未来図が、次の10年への期待を鮮やかに描き出していた。

11. 僕が感じたこと──“ものづくり精神”の再発見

 仕事柄、コンテンツホルダーの動きを見る機会が多い僕にとって、特に印象的だったのは『My Melody & Kuromi』の取り組みだった。ストップモーションという映像手法に敬意を払いながら、それをサンリオのキャラクターに重ね合わせ、コンテンツそのものの価値を最大化していたからだ。これは、単なるアニメーションではなく、コンテンツの「拡張」という挑戦に他ならない。

 Netflixはプラットフォーマーとして全世界と日本の作品との接点を作っている。しかし同時に、日本のお家芸である“ものづくり精神”を映像の領域で再確認させる役割も果たしているのではないか。かつては製品に宿っていた日本の職人気質が、映像という形に変わりながらも息づいている──僕はそう感じた。

 さらに語弊を恐れず言えば、Netflixのビジネスモデルは企業の顔色を窺わずに済む。

 だからこそ作品の想像力は大きく広がり、演者も山田孝之さんが語ったように、より生き生きと挑めるのだと思う。そして全力で挑んだ暁には、報酬を適正に引き上げ、真に作り出すもののレベルをさらに上げていく。その高い意識の表れは、コンテンツの価値向上にとどまらず、日本という国の価値を飛躍させるものだと僕は感じた。

 この10周年イベントに立ち会い、時代が明らかに変わりつつあることを肌で感じた。僕自身も、その変革のただ中に立っているのだと思う。

今日はこの辺で。

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