組織改革と物流戦略で掴んだ成果〜アイリスプラザ au PAY マーケット店が総合賞1位

戦略転換を推進し、モールの価値を上手に生かすべく、貪欲に施策を重ねながら掴み取った栄光。2026年3月13日、KDDIとau コマース&ライフが運営するECモール「au PAY マーケット」において、2025年に活躍した店舗を表彰する「ベストショップアワード2025」が開催された。売上やサービス品質、ユーザー投票などを総合的に評価して選出されるこのイベントで、総合賞1位に輝いたのが「アイリスプラザ au PAY マーケット店」である。
授賞式後には、アイリスプラザ 取締役社長 岩崎亮太さんへの取材が行われ、同店の戦略転換の背景や、消耗品を軸にした事業改革、物流を活かした独自のスキームなどが語られた。単なる商品ラインナップの拡大ではない。組織の評価制度から物流設計まで含めた“構造の作り直し”によって成果を生んだ点が、今回の受賞の本質と言えるだろう。
家電中心の店舗から「消耗品の店」へ舵を切った転換点

今回の受賞を語る上で欠かせないのが、家電中心のEC店舗から消耗品中心へと舵を切った戦略転換である。
アイリスグループの取締役会で議論を重ねた結果、「これからは消耗品だ」という判断に至ったことが明かされた。家電のような耐久消費財は単価が高い。その一方で、購入頻度が低く、市場環境によって売上が大きく左右されやすい。そこで同社は、継続的に購入される消耗品カテゴリーへ本格参入する方針を固めた。
実際、ベビー用おむつなどのカテゴリーにも参入。店舗の性格そのものを変える形で改革を進めたという。この転換は単に商品を追加するだけではない。店舗の戦略そのものを「消耗品を継続的に販売する店」へと再定義するものであり、EC運営の考え方自体を大きく変える決断だった。
さらに、この変化を実現するためには、社内の評価制度や業績の見方も変える必要があった。消耗品は家電に比べて単価が低く、短期的には売上が縮小して見える。
しかし同社では、年間単位で見ればリピート購入によって売上が積み上がるというシミュレーションを社内で共有し、戦略の理解を深めていった。つまり今回の成果は、商品戦略だけでなく、組織の認識や評価基準まで含めた改革の結果とも言える。
au PAY マーケットを“実験の場”として活用した一年
もう一つ興味深いのは、アイリスプラザがau PAY マーケットを新しい施策の実験の場として活用してきた点だ。他の巨大モールと比べて「試してみるのにちょうどいいボリューム感」があると語られた。
巨大化したEC市場では、一度の施策が大きなリスクになることも多い。しかしau PAY マーケットでは、大胆なチャレンジを比較的柔軟に試せる環境があるという。実際、この1年の間にも多くの施策が試された。ライブコマースやサンプル配布といった販売施策もその一つ。正直、成功したものもあれば、投資に見合わない結果に終わったものもあったという。
しかし重要なのは、その失敗が無駄にならなかったことだ。「それなりの規模で試しながら、失敗も学びに変えることができた」と語る。要するに、それらのPDCAを高速で回す環境があったことが、戦略を磨き上げることにつながった。
EC運営では、成功事例ばかりが語られがちだが、実際には多くの試行錯誤がある。その意味で、今回の受賞は「成功した施策」だけでなく、失敗も含めた検証の積み重ねの結果とも言えるだろう。
単価5分の1の世界で求められる組織改革
消耗品戦略のもう一つの難しさは、繰り返しになるが、単価構造の違いにある。実際、具体的なデータを挙げると、家電と比べると、消耗品の平均単価はおよそ5分の1程度。これは大きい。そのため、短期的な売上だけを見れば、どうしても数字が縮小して見えてしまう。
この問題を解決するため、アイリスプラザでは店長やスタッフの評価制度そのものを見直した。では、それをどのように見直したのだろう。
従来のように短期売上で評価してしまうと、消耗品戦略は成立しない。そこで同社では、「消耗品を年間で4回購入してもらえば売上はプラスになる」という考え方を共有したのだ。長期的な視点で成果を評価する仕組みを整え、その理解を徹底的に促した。
つまり、単に商品ラインナップを変えただけではなく、組織の評価指標まで含めて設計し直したのである。このような取り組みは、EC事業者にとっても重要な示唆を含んでいる。ECではどうしても短期の売上が注目されがちだが、リピート購買を前提にした消耗品ビジネスでは、時間軸そのものを変えたマネジメントが必要になる。
その勇気こそが、結果につながっている。今回の受賞は、その変化を組織として受け入れ、実行できたことの証とも言える。
物流を横断することで生まれた新しい利益構造
今回の取材で特に印象的だったのは、消耗品戦略の裏側にある物流設計である。彼らは「店舗」でありながら、同時に商品を生み出すメーカーとしての顔も持っている。多くのメーカーは、基本的に商品ごとの利益構造で事業を考える。
つまり、各商品カテゴリーごとに収益を計算する縦割りの発想でビジネスが成り立っている。しかし、アイリスプラザの場合、利益の考え方は少し違う。例えば、飲料は重量が重いため、トラックに積むと重量制限に先に達してしまい、運賃効率が悪くなる。
一方で、おむつのような紙製品は、容量は大きいが重量は軽い。この二つの商品を組み合わせて配送することで、トラックの積載効率を最大化できるというわけだ。
要するに、「家電で利益を出し、食品で補う」といった商品ミックスの発想ではない。そうではなく、物流効率そのものを高めることで利益を生む構造を作っているのである。そして、この仕組みは、メーカーとして自ら物流リソースを持つアイリスグループだからこそ実現できる強みでもある。
自社物流をベースにしながら、ラストワンマイルは外部キャリアを活用する。そうすることで、配送能力にも余力を持たせているという。こうした物流戦略が、消耗品ビジネスの拡大を支える基盤になっている。
だから消耗品なのである。
消耗品と家電のシナジーをどう作るか
そして最後に興味深かったのが、消耗品と家電の関係性の捉え方である。EC業界の一般的な考え方では、消耗品は日常的に必要とされる商品である。そのため、まず消耗品で顧客を獲得し、その後、家電のような高単価商品で利益を取る――。
こうした戦略はよく語られるところだ。しかし、アイリスプラザの考え方は、必ずしもその構造に当てはまるわけではない。これが正直、僕にとっては大きな驚きをもって受け止めたポイントだった。同社が重視しているのは、新しいカテゴリーが既存事業とどのようなシナジーを生むかという点だという。
消耗品を扱うことで工場の稼働率が上がり、メーカーとしての事業にも好循環が生まれる。さらに、上記の通り、物流効率の改善など、事業全体の構造に影響を与える要素もある。つまり、単に売上を積み上げるためのカテゴリー追加ではなく、企業全体のリソースを活かす戦略として消耗品を捉えているのである。
また、今後の課題としてSNSを通じた顧客接点の強化も挙げられた。ライブコマースなど動画を活用した販売は今後成長すると見ており、段階的に取り組みを進めていく考えだという。
組織改革と挑戦が生んだ総合賞1位

今回の総合賞1位は、単なる売上の結果というよりも、組織と戦略を作り直した成果と言えるだろう。家電中心の店舗から消耗品へと舵を切り、評価制度を見直し、物流設計まで含めて戦略を組み直す。
しかもそれは、自社の強みを改めて見直した結果によるものだった。見直したからこそ、これまで向き合ってこなかった課題に直面することも多かったはずだ。それでも彼らは、そこに果敢に挑んだのである。
そして、au PAY マーケットを実験の場として活用しながら、PDCAを回し続けてきた。
そうした一つ一つの取り組みの積み重ねが、今回の結果につながったのだろう
EC市場が成熟する中で、単なる商品戦略だけでは差別化は難しい。だからこそ、組織、物流、販売施策を一体で設計することの重要性が、今回の受賞から見えてくる。アイリスプラザの取り組みは、EC事業者にとっても多くの示唆を与える事例と言えそうだ。
今日はこの辺で。







