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服を売るのではなく、人を変える──STAFF OF THE YEAR 2025 グランプリ・Nitoさんが見せた「心を包む接客」

 「ファッションって、人に夢を与えて、中身を変える仕事なんだ」──そう感じさせられた。変な言い方だけど、服を消耗品と捉えれば、着るだけで良いし、それで目的を達成できると考えてもいいだろう。しかし、ファッションの真骨頂はそこではなくて、店舗スタッフとともに、自身のコーディネートで、変われるという実感とともに、夢を与えることなのだ。

 それを痛感させられたのが、渋谷ヒカリエで開催された「STAFF OF THE YEAR 2025」。このコンテストを支えるのは、「スタッフスタート」を提供するバニッシュ・スタンダード。社長の小野里寧晃さんは、「販売員の価値を世の中に伝えたい」と語っていた。支える側の想いと、現場で輝く販売員たちの情熱が重なったとき、この“感謝の輪”は、きっと未来を明るく照らすのだと思う。

 そして、そのグランプリに輝いたのは、トゥモローランド 丸の内店のNitoさん

 そのステージには、服を通して“人の心が変わっていく”瞬間が、何度も生まれていた。

ファッションは“案外、難しい”

 第一部では、芸人らが顧客に扮して来店して、その時々の設定に合わせて、上手に相手の求めるものを確立していくことだった。

 ここ数年、僕は「STAFF OF THE YEAR」に来てはいるけど、その裾野が広がっていることを実感した。以前よりも、年齢に幅があり、多様性に満ちた接客がみられたからだ。元から、答えがないものだから、審査も難しかったのではないだろうか。

 さて、この日、僕が興味を惹かれたのが、決勝戦。

 まず、ファッションに自信が持てずに悩んでいる人たちが出てきて、自らの思いや葛藤をVTRで語る。語弊を恐れずいうなら、見た目や言動からして、ファッションには無頓着な人である。

 ただ、その話を聞くうち、実にファッションとは“難しい”のだと気づく。

 例えば、スカートを最近履いたことがなく、親が買ってきた服をそのまま着ているだけの人もいる。あるいは、可愛らしいものが好きだという理由だけで、体型や年齢に不相応なものを選んでしまっている。

決勝戦が見せた“変化の物語”

 そうか、確かに、参考にするものがないから、おそらく最初の一歩すら踏み出せないのだろう。

 そこからが販売員の腕の見せ所である。販売員たちはその映像を見て、「どんな服なら、その人の気持ちを前向きにできるか」を考える。

 そして、実際に服を選び、彼らを目の前にして、接客を通して相手の心を解きほぐし、最終的に“その人がどう変わったか”までを含めて審査されるわけだ。つまり評価されるのは、単なるスタイリングの美しさではなく「人の心に寄り添い、変化を生み出す力」なのだ。

 その意味でいえば、Nitoさんは確かに、それに応える接客をしていた。

決勝で見えた“完璧”と“寄り添い”の違い

nakaさんが見せた“完璧なスタイリング美”

 決勝戦で最初に登場したのは、ユナイテッドアローズ 新宿店のnakaさん。彼女の動きは見事だった。限られた時間の中で要点を的確に聞き出し、落ち着いたテンポでコメントを重ねていく。スマホを取り出し、参考イメージを見せながら説明する姿にも、準備の周到さが感じられた。

 提案したのは、“可愛らしさ”を尊重しながらも、それをシックな色合いでまとめたスタイル。テーマは「大人の男性を振り向かせる」。見事にその要望を形にしてみせた。

「もともとすごく可愛い方だったので、その可愛さを残しながら、

大人っぽい可愛いだったらどうかなって考えて…」

 赤をアクセントにした大人かわいいスタイル。洗練されたその提案に、会場から感嘆の声が上がった。ここまで聞けば、グランプリを受賞してもおかしくない──そう思えるだろう。それほどの完成度だった。

Nitoさんが見せた“寄り添う接客”

 その一方で、トゥモローランド 丸の内店のNitoさんは、まったく異なるアプローチを見せていたように思う。

 正直に言えば、彼女の進行はnakaさんのようにテンポが良いわけではなかった。聞き出す情報も、決して多いとは言えない。──それならnakaさんが勝つんじゃないか。

 そう思った瞬間もあった。いや、違う。違っていたのは、相手への向き合い方だった。Nitoさんは、相手が話し出すまで待つ。沈黙を恐れず、うなずきながら相手の言葉を受け止める。

 その穏やかな時間の中で、お客様の中にある“変わりたい”という気持ちが、ゆっくりと顔を出していく。

「最初はシャイな方なのかなと思っていました。

でも、お話をするうちに好きなものや“変わりたい”という気持ちが伝わってきて。

だから、普段のシャープな雰囲気は残しつつ、

赤などのポイントを入れて、大人の女性として自信を持てるスタイルにしました。」

 Nitoさんは、服そのものを整えるのではなく、相手の内面を信じて導くように提案していった。

勝敗を分けたのは、“技術”ではなく“信じる力”

 もしこれが“ゲーム”なら、nakaさんが勝っていたと思う。時間の使い方、論理の展開、仕上がりの完成度──どれを取っても隙がない。だが、接客はゲームではない。

 現実の世界では、お客様の求めていることをとことん引き出し、その人が“なりたい自分”へと自然に近づいていくこと。それこそが、真の接客なのだ。

 アンミカさんが「甲乙つけ難い」と評した理由も、まさにそこにある。nakaさんが見せたのは“スタイリングの美しさ”。これは正しい。しかし、接客のナンバーワンを決める場であるなら、Nitoさんが見せた“心に寄り添う美しさ”こそが、より本質的な価値として評価されたというわけなのだ。

 これは非常に興味深いと感じた。今回、勝敗を分けたのは、“技術”ではなく、“信じる力”だったのだと思う。

グランプリの発表──イベントの進化が示した“接客の本質”

5年で進化した“接客コンテスト”

 グランプリ発表の場面。審査員ごとに先攻・後攻のどちらを選ぶかを出していき、多くは後攻──つまりNitoさんを選んだ。名前を呼ばれた瞬間、彼女の表情がパッと明るくなったが、意外そうでもあった。それだけ、接客の難しさを物語っていたのだと思う。

 総評の中で、アンミカさんはこう語った。

「チャレンジする皆さんから、すごく感動と勇気をいただきました。」

 そして、彼女は5年前の第1回を振り返る。当時はコロナ禍の最中。画面越しで接客を披露する“デモンストレーション型”の審査だった。だが、今は人と人が直接向き合い、対話を通して心を動かす“リアル接客”を審査の対象としており、その内容も確実に変化している。

人と人が向き合う“対話”の意味

 どちらが正しいという話ではない。ただ、その部分が以前より強調されることで、人と人が向き合い、笑顔に変わっていく──。その瞬間に、改めて、接客の本質があるんだと気づかされた。そういう話を、アンミカさんがしていたのだ。

  つまり、このイベントは、単に形式を変えただけではなく、「接客とは何か」そのものを問い直す場所に変わっている。もし服を単なる消耗品と捉えるなら、誰が売っても同じだろう。けれど、販売員という職業は、目の前の人に寄り添い、その人の人生に少しの勇気を届ける仕事だ。

 そのことを、今の審査形式がより鮮やかに可視化していたのだ。

Nitoさんの受賞が示した“進化の象徴”

 だからこそ、Nitoさんがグランプリに選ばれたことは、このイベントの進化を象徴しているように思う。しかも、nakaさんのようなグランプリ受賞者であり、レベルが高い人とのなかで、それを証明したのが大きい。彼女は、技術的な完成度よりも、人間的な温度と共感の深さで会場を包み込んだ。

 僕が見てきた限り、アンミカさんがこのイベントで涙を見せるのは初めてだった。正直、なぜなのだろうと気になって考えてみた。その理由は、まさにその接客の本質にある気がした。

 顧客役の人が、接客を通して、服で生まれ変わっていき、本当に自信を取り戻していく姿があった。その自信は、涙であったり、照れ臭さであったり、人それぞれ。でも、その変化が、誰の目にも“理想の接客”として映ったのだ。

 まさにそれが現れていたのが、今回の接客のデモンストレーションだったので、涙したのだ。

 ──Nitoさんの受賞は、単なる結果ではない。このイベントが「接客とは何か」を再定義した瞬間だった。

販売員という仕事が、人を照らす理由

 STAFF OF THE YEAR 2025は、単なるコーディネートショーではない。人が“変わりたい”と思う瞬間に寄り添い、服を通してその背中を押す──。その物語を、販売員たちが全身で見せてくれた舞台だった。

 改めて、おめでとう。Nitoさんは、「信じる力」で頂点に立った。服を売るのではなく、人を変える。そんな接客にこの受賞が花を添え、胸をはって、明日から、また、誰かの人生をそっと支えていく。

 今日はこの辺で。

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