タイミーが生んだ新たな雇用モデル─小川嶺さんが語るスポットワークの真価

柔軟かつ前向きな発想で時代の変化を捉え、新たな道を切り拓く姿勢。そこに感銘を受けた。オムニチャネルDAYでは、日本オムニチャネル協会会長・鈴木康弘さんがモデレーターを務め、株式会社タイミー代表取締役・小川嶺さんが登壇。着目したのは、日本の労働市場。少子高齢化の影響を受け、深刻な人手不足の時代へと突入している。こうした中、企業は労働力確保の新たな選択肢として、従来の正社員雇用や長期アルバイトとは異なる「スポットワーク」に注目している。
小川さんの視点と行動力は、新たな気づきをもたらし、企業に知恵をくれるとともに、起業を目指す者にも学びとなりそうだ。スポットワークの現状と未来について考察し、その発想の舞台裏に迫る。
1. スポットワークが生まれる必然性
小川さんはまだ二十代。一見すると、タイミーは上場企業となり、順風満帆の様に見える。でも、実は一度会社を廃業した経験もあり、苦労人ではある。ただ、それでもめげずに、とにかく一直線。目的を定めるなり、すぐに行動に移し、このタイミーという会社で、彼は一躍時代の寵児となった。
この背景には、柔軟で前向きな発想がある。その本質を捉えることで、読者にも「挑戦は決して特別なことではない」と感じてもらえたらと思う。
そこには、絶妙なタイミングをつかんだ運の要素もあっただろう。特に印象的だったのは、小川さんの「人口減少が進む中で、企業と働く人の意識が変わった」という言葉だ。これまで長い間、企業と雇われる関係性においては、どこか企業側の方が強い立場にある様に思えた。
それには理由がある。実際に、企業の数に対して、働く人の数の方が多いからだ。必然的に、企業が働く人を“選別”する立場にあった。ところが、それが2020年代に入って変貌した。
これこそが時代の変化を敏感に察知し、運を味方につけたと思う所以である。
つまり、人口減少によって労働市場のバランスが崩れた。企業が労働者を選ぶ立場から、確保に奔走する立場へと逆転したのである。つまり、事業を続けるためには、選り好みをしている余裕がなくなり、働き手を集めること自体が大きな課題となったのだ。
2. 「スポットワーク」という新概念
だから、小川さんの発想がピタリとハマった。
要するに、雇用のあり方を見直した。そして、短時間でも効率よく働ける環境を、スマホ一つで実現できる仕組みを作り出したのだ。それは、時代の流れを的確に捉えたものだった。
企業側も、自らの経営課題に対応するため、必要なタイミングで人材を補充しながら柔軟な働き方を整えざるを得ない。結果、このスタイルこそが、新たな常識へと変わっていったのだ。
そもそも、小川さんが最初からそれを考えていたかというと、そうではない。しかしタイミーを立ち上げた背景には、従来のアルバイトや派遣という働き方に対する強い問題意識があったのは事実だ。
求人情報に応募し、面接を経て雇用契約を結ぶ従来のプロセス。それは、求職者にとっても企業にとっても時間と手間がかかるものだった。しかし、実際には「今日、数時間だけ働きたい」というニーズも多い。そのギャップを埋めるため、生まれたのが、スポットワークという新しい働き方である。
この「スポットワーク」というキーワード。これこそ、この会社を大きく躍進させる要因となったのだ。
3. 成功の鍵は「時代の流れを読む力」
それは、企業側にとっても、急な人員不足に対応できるだけでなく、従来の求人広告や採用活動にかかるコストを削減できる点が魅力となる。
何より、日本の労働市場の変容はもう一つの観点でも見られた。これもこの事業には大きい。それは、長らく続いた「終身雇用」からの脱却だ。
近年では副業の解禁や柔軟な働き方を推奨する企業も増えている。ここに追い打ちをかけたのが、コロナ禍だ。リモートワークの普及や働き方の多様化が進み、「必要な時に、必要なだけ働く」というスタイルへの需要が高まったことがそれを後押しした。
タイミーはこの流れにうまく乗り、多くのユーザーを獲得したのである。
4. スポットワークがもたらす社会的価値
それらスポットワークの広がりは、単に人手不足を補うだけではない。働く個人にとっても大きな可能性をもたらしている。
例えば、小川さんが講演で紹介した事例の一つに、定年退職後にタイミーを活用して再び働き始めた高齢者の話がある。銀行員として長年勤務していた。
だが、飲食店での接客業を経験することで新たな生きがいを見つけ、365日中300日を働くほどに。こうしたスポットワークの活用により、シニア層の社会参加を促進。高齢者の生きがいにもつながっている。
また、会社員が副業としてスポットワークを活用するケースも増えている。
繰り返しになるが、コロナ禍を機にリモートワークが進み、働く時間に余裕ができた。だから、「週末だけ働きたい」「趣味の延長として仕事をしたい」といったニーズが生まれた。スポットワークは、こうした「働くことの選択肢」を広げ、労働市場の柔軟性を高める役割を果たしている。
なんとタイミー調べでは会社員の占める割合が約3割を占めるほどである。
5. 企業はスポットワークをどう活用すべきか
何より評価されるべき小川さんの視点は、雇う側の企業の手間を軽減しようという発想にまで至らせたことにある。働く環境がそれだけコンパクトになれば、企業の人事や総務に対して皺寄せがいくことになる。
それでは不便さゆえに一向に働く人は増えない。だから、それらの手間を彼らが引き取る。そうすることで、企業がそこに飛び込みやすい環境を作ったわけである。
つまり、タイミーは、働く人に対して給与を先に立て替えて支払い、その後、企業に請求する仕組みを採用している。このように、単なるマッチングサービスにとどまらず、企業の課題解決の手段として機能したことが、成功の大きな要因となっている。
そうやって、その「スポットワーク」を、従来のバイトを雇う感覚とは違う概念にしていった。だから、それらを踏まえた一部の企業から、スポットワークを単なる「短期労働力」としてではなく、「業務プロセスの最適化」の手段として活用している事例が見られる様になった。
例えば、スーパーでは、商品の陳列やピッキングといった業務をスポットワーカーに任せる。それで、社員はより付加価値の高い業務に集中できる環境を作っている。
また、スポットワークを活用することで、新たな人材採用の機会も生まれる。従来の面接だけでは見極められなかった「実際の働きぶり」を企業側が確認できる。そのため、企業と求職者の間のミスマッチを防ぎ、より適切な人材を確保しやすくなる。
6. スマートというより泥臭さ
だからこそ、タイミーは「泥臭い部分」にも向き合う。社員の半数を営業職にしているほど。マッチングサービスだけなら、そこまで営業は必要ないはずだ。では、なぜこれほど営業に力を入れるのか?
それは、蓄積したデータを活用し、企業ごとに最適な働き方や人材活用の方法を提案するためだ。ただマッチングするだけではなく、実際に企業の課題を解決する。そのためには、現場に足を運び、経営者や担当者と直接向き合って話をすることが不可欠だからである。
僕らが描くタイミーという会社の印象が変わったのではないか。
そして、忘れてはならないのは、デジタルの力だ。生産性が向上したことで、サービスの細部まで手厚く対応できるようになった。そして何より、先ほど触れた仕組みにより、利用者の利便性が向上し、満足度が高まった。選択と集中がもたらした成功である。
その結果、リピート利用が増え、市場全体が活性化する基盤が築かれた。こうした仕組みが社会に根付き、文化として受け入れられるほど、タイミーの企業価値はさらに高まっていく。
時代の変化に対応することで、彼らは企業とともに成長し、さらなる飛躍の機会を生み出している。
7.そして未来へ
「働く」という概念が大きく変わる。そう強く感じたのは、小川さんの言葉だった。
「スマホでYouTubeを観る時間があるなら、その時間を“働く”に充ててみてはどうか?」
従来の「朝9時から夜18時まで働く」という固定観念の中では、こうした発想は生まれにくい。だからこそ、小川さんは“働く”をもっと気軽で柔軟なものへと変え、働くことの魅力を自らの手で広げていったのだ。
まさに既成概念の打破。
そして、彼は「スポットワークの可能性は、労働人口の半分を支えるレベルにまで達する」と語る。現在、タイミーの登録ユーザーは1,000万人を超え、今後3,000万人規模への拡大を目指している。さらに、日本の人手不足問題が深刻化する中で、この仕組みが企業の持続的な成長を支える重要な要素となることは間違いない。
今日、僕たちは「働くことの意味」について改めて考え直す時期に来ている。スポットワークの広がりが、日本の労働環境をどのように変えていくのか。これからの展開に期待が寄せられる。
今日はこの辺で。
オムニチャネルDAYの様子はここでも。