LINEギフト、利用者累計3500万人突破 ECをもっと柔軟に活用する時代へ
よりECが柔軟性をもち、もっとライトになっていく。それは、もはや、交流の一環。これまでもギフトはECの中でも行われていた。けれど、LINEヤフーが提案するのは、それをLINEの交流で完結させること。それがLINEギフトであり、近況を踏まえた事業説明会で、同社ソーシャルコマース本部長 嘉戸 彩乃さんが、その成長ぶりを強調したのだ。
コロナ禍がもたらしたギフト市場の変化
そもそも、日本の小売市場は約130兆円規模。そのうち約8%がギフト関連の需要を占めている。ただ、大きく流れが変わったのはコロナ禍。直接、人々が会うということが難しくなった結果、ソーシャルギフトの需要が急増したのである。実は「LINEギフト」は歴史を辿れば、2015年サービス開始と古い。だが、ここ数年で、躍進し、2024年までに、累計3500万人が利用する大規模なサービスへと成長した。
改めて、LINEそのもので言えば、日本国内で月間9700万人が利用する。そのアプリ内で提供されているから、それを強みに、年間利用者は1900万人に達する。極論、日本人の5人に1人が年間を通じてLINEギフトを利用している計算である。
2023年度の流通総額は129%成長。さらに7月から9月の四半期でも42%の成長を見込むなど、非常に高い成長率を維持しているのだ。
LINEギフトの特徴と利用シーンの多様性
では、LINEギフトの魅力は、どこにあるのか。
最大の特徴として、送りたい相手の住所を知らなくても、ギフトを送ることができること。その感覚的な使い道ゆえか、利用者の約6割は女性で、特に20代が中心。最近はそれが40代から50代の利用者にも広がっていて、ギフトとして定着しつつ、利用場面も多様性に満ちてくる。
利用シーンとしては、日常の「ありがとう」。そして、誕生日のサプライズ、季節イベント(母の日、父の日、クリスマスなど)といった具合。なかでも誕生日ギフトとの相性がよく「LINEギフト」の送信数全体の中で大きな割合を占めている。
そして「LINEギフト」といっても、2つのタイプが存在する。
1つは「eギフト」。店頭でバーコードをかざして商品を受け取る形式である。もう1つは「配送ギフト」で、相手の住所に直接商品を届ける形式だ。最近の伸びを牽引しているのは、配送ギフトの利用の増加。
背景には商品の多様化と品揃えの充実がある。現在、LINEギフトで取り扱っている商品は400万点を超え、カジュアルからフォーマルまで、幅広いギフトニーズに対応している。
個別の利用シーンに合わせた提案型売り場
さて、これを事業者目線で考え、「LINEギフトの成功の鍵がどこにあるのか」考えたい。
LINEヤフー曰く、このギフトの特徴は「ユーザーが何を送るか決めずに」サービスを訪れる場合が多いこと。ECサイトのように、ある程度目的を定めてくるのとは少し違う。
だから、適切な商品を見つけやすい提案型の売り場作りが重要になる。例えば、誕生日ギフトに特化した売り場では、専用のメッセージカードやギフトボックスが用意され、その特別感を作り出す演出が肝となる。また、商品カテゴリーやターゲット別のタグ付けが施されており、ユーザーが簡単にギフトを選べるので、それを活用することが大事だ。
その上、ギフトを「受け取る」部分が柔軟。そこが満足度を高めることに直結すると思っていて、例えば、渡す側ではなく、もらった人のほうで色や香りを選べる機能、ギフトに刻印を施す機能が用意されている。ある程度、その選択を受け取る側に委ねた方がより満足度が高くなる要素が何か。そこを踏まえて、機能が用意されているので、それを活かす。
ことに、それらの機能は、誕生日や記念日に合わせたカスタマイズが可能な商品において親和性が高い。現に、LINEギフトのユーザーから高い評価を得ているのは、その部分においてである。具体的事例で見てみよう。
パッケージの工夫で売上3倍以上に
にしき食品は、商品パッケージをギフト向けに変更し、大幅な売上増加を達成した。初めは、通常のパッケージで出品して、売上が伸び悩んでいた。だが、LINEの担当者とのやりとりの結果、たどり着いたのは、ギフト用に最適化された「しずる感」のあるパッケージデザイン。その変更で、売上が劇的に向上したという。
しかも、「辛いもの好きに贈るギフトセット」という商品名、それと説明文における工夫も。ターゲット層に対してインパクトの強い訴求がプラスに働いた。実際、同商品は通常の3倍以上の売上を記録。LINEギフト内での代表的なギフト商品となった。
シュゼットは、それまで対面販売重視。コロナ禍を受けて、LINEギフトへの取り組みを開始。なるほど。まず彼らは、配達部分における質の向上。つまり、ポストインできるようなパッケージの作成を行った。自ずと、再配達を不要となる。それにより、送る相手の手間を軽減して、ギフトにおけるストレスをなくした。
また、クラフトビールを製造するヤッホーブルーイングは、ファンコミュニティとLINEギフトの親和性を語っている。そもそも、このクラフトビールへ愛着を持つファンが多い。
関連記事:18年連続増収の舞台裏 “よなよなエール” のアノ会社 の 熱狂
新たな顧客の創出
ただ、その多くは自ら買うことによる需要。ところがLINEギフトであれば「成人した息子から初めての誕生日プレゼントとしてクラフトビールが送られてきた」といった具合。これまでアクセスできなかった新たな層にリーチし、そのブランドの認知を高めることができたのである。
そしてシュゼット、ヤッホーブルーイングともに強調したのは、受け取る側のレビューの意義である。通常、ECにおいては購入した人のレビューが記載されている。だから、ギフトで受け取った側の心理は計り知れない。けれど、LINEギフトの場合、その仕様上、機能として、受け取った側の書き込みがしやすい。ゆえに、そのれニューが今までにない、企業のブランディングとして、寄与している。それに感動と共に書き込みされるので、担当者の士気も上がる。
それ以外にも、日本ロレアルの化粧品などでも成果が出始めた。彼らの商材は、リップスティックなどの色選びが選定において重要。その点、受け取ったユーザーが自分で色や香りを選べる機能を提供。ギフトの満足度を向上させることに成功した。ギフトを送る側も「相手の好みに合わなかったらどうしよう」という不安を解消できるから、利用機会を増やす。双方にとって大きいわけだ。
加えて、LINEギフト限定のパッケージや名入れ刻印サービスを提供。ギフトとしての特別感を演出することで、売上が7.7倍にまで増加したというのだから驚きだ。
ECはより柔軟に、そこにLINEギフト
このようにして、よりECが柔軟性を持ち、もっとライトなものになっている。まさに、交流の一環として、用いられているのだ。明らかに従来の売り方とは異なる。当然、LINEギフトもユーザー体験を向上させるために、商品ラインナップの充実と利用シーンに応じた機能の強化を図る。それが進めば、その裏側にあるECの可能性は更に広がりそうである。
改めて、僕は嘉戸さんへの質問をして、感じたのは「まずはチャレンジすること」。企業として、ある程度、やり方もそのままでは難しいから、新たなリソースが必要。だけど、そこはちゃんと覚悟を決めて、リソースを割いたところが、成功している。
いきなり大きなことは難しいから、いくつかの段階を分けて、一つ一つ、積み上げる形で、トライして欲しいとも語っている。成功事例も上記の通り、蓄積されているので、助言できる内容に幅ができてきた。だから、その分、ハードルは低くなるだろうと説明している。
デジタルができたことで、何気ない交流にECが絡んで、人と人との関係性をより密に、深くしていく。ECサイトで選んで買ってもらう縦割りの発想からもっと柔軟に。タイミングとその売り方とを考えていくフェーズに来たように思う。
今日はこの辺で。