“DX”が社員を変えて会社を変えた グッディが掴んだ成功への順序 その舞台裏
DXという言葉はよく耳にする。けれど、その言葉の定義は企業により異なる。例えば、DXはオムニチャネルの文脈で語られる事もある。だが、グッディが果たしたDXの革命のように、社内で起きている課題解決でそれを優先させて、成功に導く話もある。僕は、ネクストリテールラボで、グッディ 代表取締役 柳瀬隆志さんの話を聞いて、それを実感した。個々の企業ごと、違うアプローチがある。だからこそ、皆さんはその意味でDXを本当に活用できていますかと。
DX で成功を掴んだグッディ
1.必要のない業務と向き合うべき数字
まず、このグッディという会社について説明する。九州を中心に、ホームセンターに関連して、60を超える実店舗を抱えている。案外、リアルの店舗というのは、結果的にデジタルに頼ることなく、成立できてしまう。だから、デジタルが果たしてくれる課題解決には向き合えていない。その実態を踏まえてどう変われるか、という話である。
グッディの例で言えば、こんな感じ。会議は行っている。しかし、持ち込む紙資料の数ばかりが多く、その作成工数のほうに時間が割かれている。だから、議論は報告で終わってしまう。本来はそこが叩きになって、改善策や施策を考えるべきなのに。しかも、システム構成図などは存在しない。それについて確認すると、「そんなことは全て私の頭に入っている」と言われてしまう始末。つまり可視化されていないので、手のつけようがない。属人的な弊害も垣間見られたわけだ。
つまり、必要のないことに忙殺されて、向き合うべき数字で議論ができていない。論点がわかっていないから、ことの本質に向き合えていない。それゆえ、本来、議論するべき数字を、業務内容に照らし合わせて、改善策を提示できないわけである。
2.DXとは言ってもどこから手をつければ
とはいえ、その状況を前にして「どこから手をつければいいのか」わからない。それが、デジタル化が遅れた企業の課題ではないかと思う。その点、グッディの柳瀬さんが社長就任後、最初に着手したのは、シンプルに「データの分析」であった。僕は話を聞いて、この「順序」が大事なように思えた。
なぜなら、それまでの取り組みでは、誰もが直面する「必要なデータ」に対しての議論がなされていなかったからである。
では、それをどう具現化するのか。既に60以上の店舗が存在している。だから本当の意味で言えば、ここで発注、在庫管理、帳簿入力、商品マスタ管理など、一括でまとめる基幹システムの導入を意図するだろう。ただ、柳瀬さんはそれをしなかった。なぜなら、それをやるにはあまりに大きな投資額が必要。仮にそれを投資しても、それについてこれる社内の環境が整っているとは言えない。
繰り返すが、だから彼はまず、シンプルに「データ分析」の重要さを説いたわけだ。そのデータにまつわる議論の「精度」を高める為に「デジタル化」を活用しようとしたことに意味があるのである
3.基幹システムから始めずにできるところから
ちょっと難しい話になるけど、彼はクラウド上に、DHW(データウェアハウス)を取り入れた。つまり、大規模な基幹システムではなく、そこで各システムのデータを一元管理をした。そうやって、大量のデータを共通に蓄積する場所を作って、コストを抑えて、各々の社員がデータ分析できるようにしたのである。
つまり、下の図のような話である。
注目して欲しいのは、データ分析で、Tableauを使うようにしている点である。つまり、データをデータで捉えることなく、分析するのに必要な土台に置き換えるのである。そうすることで、社員は、他人に対して説明し、納得を促す武器を手にしたわけである。これは、社員の士気が上がる。それを駆使すれば、自分の意図する考えを社内で主張して実践できるのであるから。
そうやって「非エンジニア」である人たちも、デジタル上での様々なダッシュボードを使って、自然にデータを使いこなせる環境を生むことで、議論は中身を伴ってくる。
つまり、ボトルネックは社員がデータを活用できない部分にあったわけだ。まさに、それまでの会議が、報告資料という紙にただただ、必要事項を埋めていたのだから。でも、そこにかかる工数を削減する為に、必要なデジタルリソースを持ち込んだ。むしろその関心がその報告内容に向けられ、そこに必要な情報を持ち寄り、議論をすることになったわけである。どれだけの進化かがお分かりいただけるだろう。
データの理解とともに、社員が変わる
1.数字に基づき意見し、チャレンジし始める社員
そうすると、データの構成や中身の理解が進んでいく。
何が大きいのかというと、各々考える素地ができたということだ。データドリブンで社員が自ら考えて、「チャレンジ」するようになったのだ。今、扱っている商材はどうなのか。その商材でどんな仕掛けができるか。仮説と検証に基づき、より未来につながるデータがまた、蓄積されるわけである。
思うに、この「チャレンジ」が、会社にとって伸び代で、その結果が財産なのだと思う。すると、成功と失敗、それぞれあるけど、そこに躍動感が生まれて、社内の研修が進んでいくことになる。全くデジタルの要素のなかった社員が、デジタルの知見も高めて、それを使って、果敢に挑むようになるわけである。
その上で僕は、柳瀬さんにこんな問いを投げかけたのだ。
「共通して皆が同じ方向を見るために、共通して何の数値を見せていったのか」
個々の実績だけを上げるということになれば、それは部分最適な話。でも、会社にとって大事なのは全体最適の中で、部分最適を考えることである。だから、共通して、何を見せていたのか気になったのだ。
2.経営に直結する数字を理解して動く
すると、彼は「経営指標」に基づくと。経営にとって必要な数値から全ての数値を落とし込むようにしていけば、そこを考えるほど、会社の業績が良くなる。そこを全員で意識していくようにしていけば、社員もその成長を肌で感じられるというわけである。
何気ないことなのだが、それが「行動の取捨選択」にもつながることに気づいた。
例えば、社内で自然発生的に生まれているマニュアル作成や研修もそうだ。マニアックになれば、余計なことまで教えたりすることが生まれるはずだ。しかし、それが起こらないのは、経営指標に基づく、数字を当てはめているから、そこに対して必要な知識は絞られているわけである。
現に、柳瀬さん自身、その社員の研修の細かな内容に口出しはしていないのは、いうまでもなく、社員が何を必要としているかを理解しているから。彼らが作るそれらは会社にとって理に適った資料なのである。
ここまで来れば、全てが見えて来る。社内の必要なデータは何か。それを導き出す方法は何か。そしてそれに基づき、チャレンジするための資料化はどうなのか。これらの答えは社員がもうわかっている。
3.基幹システムでお客様に真に向き合う段階へ
それを踏まえた上で、彼はようやく基幹システムに着手するわけである。整理された状態で、基幹システムで各店舗の整合性が取れれば、そこにかかるコストも混乱も最小限で済むからである。
柳瀬さんにしてみれば、ここからが実は本番なのかなと思う。
いよいよ基幹システムにより、購買と顧客データをもとに、未来に向かって何をするべきかを、社員一人一人が考えるフェーズを迎えることになる。
お分かりいただけただろうか。最初に話した通りである。
DXとは言うけれど、各企業の課題がどこにあるかにより、その言葉の定義はまるで異なるのだ。でも、間違いなく言える本質的な話は、向き合う相手を見ることである。ここではそのボトルネックがデータにあった。それを使いこなせていないという実態に着目して、社員の目線に合わせて着手したことに価値がある。
やっぱりデジタル化はボトルネックから逆算して、何をするべきかなのだなと痛感させられる。この会社で言えば、データを使いこなせない社員。でも社員がせいにしがちなのが、既存の議論。社員のせいにせずデジタルと仕組みで社員の士気をあげたところに柳瀬さんの功績があるように思う。
今日はこの辺で。