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棚前ではなく、“日常”を取りにいく──ハウス食品がLINEで実現した“愛着設計”のCRM

 スーパーの棚の前で、人は商品を選んでいるように見える。だが、本当にそうなのだろうか。「Hello Friends! W!th LINE ヤフー」において、ハウス食品グループが語るセミナーの内容を聞いていて、僕が最も印象的だったのは、「棚に行った瞬間には、もう決まっている」という考え方だった。

 つまり、勝負は棚前ではない。もっと手前。日常の中で、どれだけ自然に思い出される存在になれるか──そこに、食品メーカーの本当の競争があるという話である。

 実際、バーモントカレーやジャワカレーを見れば、多くの人が商品自体は知っている。しかし、「それがハウス食品の商品だ」と、企業単位で認識しているかというと、必ずしもそうではない。マロニーちゃんのように、「商品認知」と「企業認知」が完全に分離しているケースも少なくない。

 この“分離”をどう埋めるか。

分離を埋める柔らかなCRM

 そこでハウス食品が選んだのが、「LINE」だった。しかも、単に広告を流すわけではない。面白いのは、その着地が「ゲーム」だったことである。

 LINEは、もはやSNSというより、生活インフラに近い。毎日開き、誰かとやり取りし、通知を見る。その“日常動線”の中に、企業がどう自然に存在できるか。その問いに対して、ハウス食品は、「遊びたくなる接点」を作ることで応えようとしていた。

 しかも、それは極めて合理的である。メーカーでありながら、物理的な在庫を大量に動かす必要がない。基本的にはデジタル上のクエストアイテムを配布し、最後の最後だけ、スマホ決済ポイントへ繋げる。大きなコストをかけずに、接触頻度と愛着を積み上げていく構造になっている。

 だが、そこにあるのは単なる効率化ではない。

 “売り込み”ではなく、“自然と触れたくなる”を設計していること。それこそが、この施策の本質だった。

「商品は知っている。でも“ハウス食品”は知られていない」という巨大メーカーの課題

 今回のセミナーで、ハウス食品グループ本社の清土健太郎氏は、「思い出されるを、選ばれるに変換する」という言葉を使っていた。この言葉が、今回の施策全体を象徴していたように思う。

 食品メーカーは、非常に特殊な立場にいる。

 認知度は高い。商品も知られている。だが、その商品が“どの会社のものか”までは、生活者の中で強く結びついていないケースが多い。

 例えば、「バーモントカレー」は知っている。でも、「ハウス食品だから買おう」とまではなっていない。

 これは、食品というカテゴリー特性にも関係している。食品は、比較検討をじっくり行う商材ではない。セミナー内でも、「食品は棚前で瞬間的に意思決定される」と語られていた。つまり、家電のようにレビューを調べたり、比較サイトを見るわけではない。

 だが、さらに面白かったのは、「棚前で決まるように見えて、実際は棚へ行く前に決まっている」という発想だった。

 確かに、人はスーパーで突然“ゼロから選択”しているわけではない。家を出る前、料理を考えた瞬間、CMを見た時、家族との会話、スマホを触っている時間──そうした日常の中で、既に候補は絞り込まれている。

 つまり重要なのは、「棚前施策」ではなく、「日常接点」なのである。

 ハウス食品は、この“日常の中で思い出される状態”を作ろうとしていた。それは単なる広告接触とは違う。ブランドが、“生活の中に自然に存在している状態”を目指していたのである。 

LINEを“広告”ではなく、“生活導線”として捉えたことが全ての始まりだった

 その“日常接点”を作るために、ハウス食品が選んだのがLINEだった。ただし、ここで重要なのは、「ユーザー数が多いから」という理由だけではない。

 清土氏は、「LINEが生活動線の一部になっているから」と語っていた。つまり、LINEを広告媒体として見ていないのである。人は毎日LINEを開く。友人とのやり取り、仕事の連絡、通知確認。その流れの中に、自然に企業接点を溶け込ませることができる。

 ここでハウス食品が辿り着いた答えが、「HOUSE QUEST WORLD」だった。

 クイズ、ミッション、ガチャ、アイテム収集。ユーザーは、ゲーム感覚で遊びながらハウス食品の商品や取り組みに触れていく。だが、そこに強い金銭的インセンティブはほとんどない。

デジタルゆえの生産性が高く合理的なな設計

 これが実に興味深い。

 普通なら、「クーポン」「ポイント大量配布」に走りたくなる。しかしハウス食品は、それをしていない。なぜなら、彼らが欲しかったのは、“瞬間的な反応”ではなく、“自然な接触”だったからだ。ゲームなら自然と毎日触れるきっかけを作り出す。

 しかも、この設計は、メーカーとして極めて合理的でもある。基本的に配るのは、デジタル上のクエストアイテム。物理在庫を動かす必要がない。最後の最後にだけ、スマホ決済ポイントへ繋がる。

 つまり、大きなコストをかけずに、「日常の中で何度も触れる」を作れるのである。

 しかし、この施策の本質は、合理性ではない。

 「広告を見る」ではなく、「遊びたくなる」に変換したこと。そこに、ハウス食品の凄みがあった。

 企業が生活者の日常へ入ろうとすると、どうしても“売り込み”が発生する。しかし、ゲームという形に変えることで、「企業との接触」が、“遊び”へと変換されていたのである。 

「買わせたい」のではない。“自然に触れたくなる”を徹底したプル型設計

 今回の施策を見ていて感じたのは、ハウス食品が徹底して「無理をさせない」設計をしていたことだった。セミナーでも、「プッシュ型ではなく、プル型」という言葉が繰り返されていた。

 つまり、「来てください」「見てください」と押し込むのではなく、「自然と触れたくなる」を作る。ログインボーナスも、数十秒で終わる。ミッションも軽い。抽選に外れても、アイテム収集が無駄にならない。

 これらは全て、「生活者の負担を極限まで減らす」ための設計だった。

 だから、続く。

 しかも、ここが重要なのだが、その結果として集まるデータは、“無理やり作られたデータ”ではない。

 「どの商品に興味を持ったか」
 「どれくらい自然に再訪したか」
 「何を見たか」

 それらが、“日常の行動”として蓄積されていく。

接触データこそ肝である

 つまり、ハウス食品は、「購買データ」だけを追いかけていないのである。むしろ、「接触データ」に価値を見出している。

 どれだけ売れたかではなく、「どれだけ日常の中で触れているか」。そこに、現代の食品メーカーにとって重要なヒントがあるように感じた。

 なぜなら、今の時代、人は“好きだから買う”だけではない。“なんとなく馴染みがあるから選ぶ”ことが増えているからだ。

 だからこそ、“浅い接触”を軽視しなかった。むしろ、その浅い接触こそが、ブランド想起を作る土台になっていたのである。 

家にある商品を読み込ませる──“ハウスだと気づく”瞬間を作った発明

 今回、個人的に最も唸ったのが、JANコード読み取り機能だった。普通、この手の施策は、「買った証明」に使われることが多い。しかし、ハウス食品がやっていたのは、少し違う。

 狙いは、「家にある商品を再認識してもらうこと」だった。つまり、「これ、ハウスだったんだ」という気づきである。

 ハウス食品の課題は、「商品認知」と「企業認知」が分離していることだった。だからこそ、家にある商品を読み込ませることで、「普段使っていた商品」と「ハウス食品」という企業を接続したのである。

 しかも、この仕組み、相当手間がかかっている。

 セミナー内では、700以上の商品バーコードと画像を紐づける設計について、制作会社が「そこをやらないと意味がない」と強く主張したエピソードも語られていた。

 つまり、単なるデータ取得ではない。“愛着形成”として設計されているのである。「買ったから読み込む」ではなく、「家にあったから触れる」。

 ここに、ハウス食品の思想が表れていた。ブランドを、“生活の中に住まわせる”。それは、CRMを「管理」ではなく、「関係性」として捉えているからこそできる設計だったのだと思う。 

CRMは、“深く囲い込む”時代から、“浅く長く触れ続ける”時代へ

 今回の取り組みで、ハウス食品は全指標で大幅な成果を出していた。登録者数は年間目標を約4か月で達成。ミッション参加数は目標比3倍。滞在時間は2.6倍。クリック率は7倍。数字だけ見ても、十分すぎる成果である。

 だが、もっと重要なのは、その“思想”だった。ハウス食品は、「ヘビーユーザー」を、従来とは違う意味で捉えていた。深く囲い込むファンではなく、“軽い接触を続ける人”。

 つまり、「浅い繋がり」を否定していないのである。むしろ、食品メーカーにとっては、その“浅い繋がり”こそが重要だった。なぜなら、食品は毎日使われる。だからこそ、“特別な時だけ思い出される”のでは遅い。

 日常の中に、自然と存在している必要がある。

 そして、その接点を、LINEという生活インフラの中で積み重ねていった。

 さらに今後は、オフラインイベントとも連動していくという。イベントで生まれた熱量を、LINEミニアプリへ戻し、日常接点として持続させていく。

 つまり、
 「広告 → 購買」ではない。

 「日常接点 → 愛着 → 想起 → 購買」

 この流れへと、マーケティングそのものを組み替えようとしているのである。

 ハウス食品がやっているのは、単なるLINE活用ではない。“企業が、生活者の日常の中にどう存在するか”。その新しい関係性の設計なのである。 

 今日はこの辺で。

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