商品を“売る”前にすべきこと──OEMメーカーの視点からの商品開発の本質と思考設計

「商品開発」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか?原材料の選定?ターゲット設定?価格決定?もちろんどれも大切だ。しかしそれらはあくまで“手段”であり、“本質”ではない。では本質とは何か。それは──「誰の、どんな悩みに応えるのか?」という問いを、ゼロベースで繰り返し掘り起こすことだ。
松崎淳さんは、かつて医薬部外品のOEM提案で業績を伸ばしてきた人物だ。しかし、彼の真髄はそこではない。商品を“売り込む”のではなく、顧客と“並走”しながら、課題を言語化し、構造化し、未来の選択肢を照らしてきたのだ。
そんな松崎さんが、いまや、医薬部外品のOEMが当たり前になったからこそ、現在ではジャンルを超えて「商品づくりの本質」へと到達している。その進化は、初心者が商品開発を学ぶうえでまさに最良の“教科書”になる。本記事では、「訴求軸」の重要性を核に据えながら、商品開発という営みに必要な姿勢と構造的思考を紐解いていく。
商品開発の起点は「悩み」にある
松崎さんが何よりも重視するのは、「この商品を売りたい」ではなく、「誰の、どんな悩みに応えるか」という問いかけである。
たとえば、ある人が美容師で、まだ商品を持っていないとする。ECに挑戦したいと思っているが、何を売ればよいかわからない。その時、松崎さんは「美容師としてのあなたの強みは何ですか?どんな悩みを抱える人に役立てますか?」と尋ねる。
悩みが明確になると、それにふさわしい商品のジャンルが見えてくる。それが食品であれ、アパレルであれ、サプリであれ、彼はジャンルにこだわらず「一番良い手段」を提案する。彼が例えば、美容健康に強みを持っていたとしても、その解決策が服にあるなら、「それならアパレルOEMの方がいいですよ」と、商品ジャンルごと切り替えることさえ勧める。
この柔軟さと徹底した“顧客起点”の姿勢こそ、商品の根底にあるべき思想だ。
ピントを合わせる──訴求軸の精度が成否を分ける
商品開発において、最も重要な視点が「訴求軸」だ。
松崎さんは「全ての人に美しさを届けたい」という曖昧な訴求ではなく、「たとえば毎日丁寧にスキンケアしてもニキビが治らない」「乾燥で粉を吹くのが恥ずかしい」といった具体的で深い悩みにこそ価値があると説く。
悩みの深さと価格の高さは比例しやすく、悩みが深ければ高価格でも購入されやすい。
例えば、ここで表を思い浮かべてほしい。「横軸に悩みの深さ」「縦軸に価格」を置いたとき、右上の“深くて高い”領域をどう設計するかが勝負の分かれ目になる。
下の図の通りである。

両者のバランスを考えて、商品設計するのである。物ありきではなく、設計ありきである。
この「ピント合わせ」が甘ければ、他と似たような商品として埋もれてしまう。逆にピントが合えば、少ない予算でもヒット商品を生み出すことができる。
そうやって絞り込む作業は、まるで、カメラで撮影するかの様。カメラで風景をぼんやり撮るのではなく、花にフォーカスするような設計が求められているのだ。
売り場によって変わる「売り方」──チャネル設計も商品設計の一部
悩みと訴求軸が明確になったあと、次に考えるべきは「どこで売るか」だ。
例えば、モールであってもAmazonと楽天では戦い方がまるで異なる。また、いきなり、BASEでECサイトを立ち上げて売ろうとする人も多いが、それでいいのだろうか。
どれが悪いというのではなく、手当たり次第、そうやって売ること自体、「典型的な失敗パターン」だ。なぜなら、チャネルごとに求められる見せ方・集客・価格帯が違うからだ。
下記の佐山さんの話がわかりやすいが、楽天市場で言えば、店としてのアプローチが肝である。ただ、その取っ掛かりは、商品であり、そのカテゴリー選定が大事で、年間通しての店としての在り方が問われる。逆に、Amazonでは商品軸で分析をして立ち位置を割り出す。
参考:楽天市場に学ぶ、売れる商品設計とブランド現象論(リンク)
つまり、先ほどの商品のあるべきところの絞り込みができた上で、どこでどういう戦略を立てるのか。それが、まずその商品の価値を最大化させるだろう。松崎さんは、だから、次に、どのチャネルを主軸とするかを顧客と徹底的にディスカッションしながら、それに合った商品設計を組み上げていく。
売り場選定は単なる「販路選び」ではない。商品と並行して考えるべき“設計の一部”なのである。
訴求軸 × 売り場 × 数字──“売れるか否か”の判断軸を持つ
どれだけ良い企画であっても、数字が伴わなければ事業として成立しない。ここで松崎さんが持ち出すのが、競合商品の売上データや広告単価といった「現場の数字」だ。
たとえば「月間2万個売れている商品がある。その10%=2000個を狙うなら、広告費はこれくらい」という具体的な指標をもとに話が進む。これが先ほどの売り先と商品とのバランスの中で考慮されることで、そのマーケットがその商品にとってふさわしいかの判断材料となる。
この“数値に基づいた判断”ができることにより、無謀な突撃を避けることができるし、逆に「これはいける」と踏ん張る判断の根拠にもなる。
これこそが、プロダクトアウトの幻想ではなく、現実に即したマーケットインの実装である。
人の悩みに寄り添い、ゼロベースで設計するということ
しかし、人はなぜか、売れているものに飛びつき、同じものを作ろうとして、価格競争に巻き込まれる。それがマーケットインかと言われれば、そうではないだろう。
ここで語られているのは、真のマーケットイン。ちゃんと顧客ニーズを確かめ、そしてふさわしいマーケットで顧客の反応を見て、自分たちの立ち位置を知る。それこそが大事だ。そういうと難しい話の様に聞こえるけど、そんなことはない。それは彼の話を聞いていてもよくわかる。
人間の悩みは時代が変わっても本質的には変わらないからだ。その悩みに最もふさわしい手段を、ジャンルにとらわれずに選ぶ。その姿勢が松崎さんの核であり、OEM時代から一貫して変わらぬ“思想”なのだ。
かつては最初から医薬部外品を作り、そこでの実績を横展開することで、実装していたこの思想。逆に、多くの会社が医薬部外品でOEM提案をする様になったことで、特別なことではなくなった。
でも、彼の本質は変わらない。単純に、医薬部外品でやっていた知見があるから、それを、今ではサプリにも、食品にも、応用可能になって、寧ろ提案の幅が広がっているのだ。
しかも、それはネットでこそ、築ける。なぜなら、ネットによりリアクションを瞬時に把握できる時代になったからだ。これは「武器がなくなった」のではなく、「武器が汎用化された」と捉えるべきだ。
終章 “商品企画”は、楽しい
商品を売るとは、単にモノを作ることではない。誰かの悩みに寄り添い、最適なかたちで世に送り出すことであり、それを“共に考える”ことができる人が、これからの商品開発には必要なのだ。
松崎さんは言う。「この工程こそが一番楽しいんですよ」
悩みに寄り添い、言葉を選び、手段を柔軟に選び直す。そして数字と向き合い、売り場に適応させていく──。この一連の流れは、一見すると難解で、泥臭く、忍耐力を要する作業にも思える。だが、松崎さんはそこに「ブレストしながら盛り上がっていく楽しさ」があると言う。
商品を作るという営みは、ひとりで悩むものではない。正しく問うこと、共に考えること。そして、人に届く形に変換していくこと。
そのすべてが、“ものづくりの本質”であり、“届ける力”である。
今日はこの辺で。