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カプセルトイ60周年と1400億円市場──ガチャガチャが大人市場を切り開いた“ガチャ男”たちのリレーの物語

 カプセルトイが日本に登場して60年。いまや市場規模は1400億円を超え、老若男女、さらには海外の人々までも魅了している。けれど、この広がりを支えてきたのは「数字」や「戦略」ではなく、一人ひとりの“好き”を突き詰める情熱だ。

 この日、僕は、ギフト・ショーのセミナーで、日本ガチャガチャ協会の小野尾勝彦さん、キタンクラブの古屋大貴さん、クオリアの小川勇矢さんが来るというのでやってきた。三者三様の歩みは、互いを尊重し合いながらガチャガチャの文化をここまで育ててきた。

1.プロローグ──ガチャ60年、三人が語る未来

 2025年、カプセルトイは日本上陸から60年を迎えた。市場規模は1400億円、専門店は1300店舗を超える。けれど、この数字だけを並べても物語の本質は見えてこない。

 大切なのは「人」だ。もちろん、バンダイやタカラトミーアーツといった大手企業が強大なIPを武器に業界を牽引してきた功績は大きい。だが今回登壇した三人は、そうした路線とは違う場所で勝負をしてきた人たちだった。大手に敬意を払いながらも、彼らはオリジナルを切り拓き、大人のマーケットに独自の形でガチャを根づかせていった。

 日本ガチャガチャ協会の小野尾勝彦さん、キタンクラブの古屋大貴さん、そしてクオリアの小川勇矢さん──三人の話を聞いて強く感じたのは、世代ごとに挑戦の場を変えながら、まるでリレーのようにバトンを繋いできたということだ。

 この師弟のようなリレーの物語を辿ることで、ガチャガチャが単なる玩具ではなく文化として広がった理由が見えてくる。

 三人の関係性は、とても象徴的だ。

2.師弟のリレーが紡いだ物語──ユージンからキタンクラブ、そしてクオリアへ

 小野尾勝彦さんは90年代、ユージン(現タカラトミーアーツ)で大人市場開拓に挑んだ先駆者だ。あらゆるチャレンジを惜しまないその背中を追ったのが、同じくユージンに入社した古屋大貴さん。経験を糧に30歳で独立し、キタンクラブを立ち上げた。

 古屋さんの強みは、巨大IPに頼らず、自らの発想を武器にガチャへ飛び込んだことだ。受注生産でチャレンジングな企画を実現できる仕組みを活かし、常識を軽やかに裏切るアイデアを次々と送り出した。ガチャに“遊び心の実験場”を持ち込んだのは彼だった。

 そのキタンクラブで経験を積んだのが小川勇矢さんだ。古屋さんが生み出した数々の発想を、売り場やイベントで拡張する実務を通じて学び取った。小川さんは「ガチャを大人が身近に感じる世界」を自ら形にしながら、一歩ずつ経験を重ねたのだ。

 こうして、小野尾→古屋→小川と、世代をまたいでバトンが繋がれていく。まるで駅伝の襷のように、形を変えながら継承されてきた挑戦の系譜こそ、ガチャガチャを文化へと押し上げた原動力だった。

3.小野尾勝彦と1995年の挑戦──まだ時代が追いついていなかった大人市場

 1995年、小野尾さんはユージンで「スリーボーイ」マシンを武器に、大人市場の開拓に挑んだ。
ディズニーシリーズなどを引っさげ、大学や文化祭で「スリーボーイキャラバン」を展開した。

 だが、結果は「全く売れなかった」。当時はまだ“大人女子”がガチャを受け入れる環境になかったのだ。

 しかし小野尾さんは歩みを止めなかった。以来30年以上、現場に立ち続け、業界を見守り続けている。

 2025年の「ガチャガチャ展」では、11社と7人のクリエイターを結集し、3週間で38,000人を集めた。自ら現場を知り、ネットワークを作り、文化を可視化する。その姿は1995年から何も変わらない。

 小野尾さんの役割は、時代を語り継ぐ“語り部”。そして、同時に人や企業を結びつける“ハブ”だ。その歩みがあったからこそ、古屋さんや小川さんの挑戦も生き、ガチャガチャの未来は広がり続けている。

4.古屋大貴の独立──IPに頼らないものづくりと「コップのフチ子」の衝撃

 古屋さんはユージンでの経験を経て、30歳でキタンクラブを設立。その象徴が「コップのフチ子」だ。

「好きな漫画家・田中カツキさんと組みたい」。そんな純粋な動機から始まった企画は、大人の女性に強烈に刺さり、SNS時代の追い風を受けて大ヒットした。

「IPに頼らなくても市場は動く」。その事実を示した古屋さんの挑戦は、業界に新しい空気をもたらした。小野尾さんは「フチ子で初めてガチャからIPが生まれた」と讃え、小川さんは「現場で見て学んだことが今に活きている」と語る。さらに古屋さんの歩みを特徴づけるのは、“笑い”や“意外性”を真剣に形にしたことだ。

 ネイチャーテクニカラーシリーズや土下座ストラップなど、誰もやらない企画に本気で挑み、ガチャを「文化の実験場」に変えていった。 

 これは後に小川さんがSNSで拡散を武器にした方向性とは異なり、「モノそのものの魅力で勝負する」姿勢が際立っていた。

5.小川勇矢の挑戦──拡散時代に花開いた共感型オリジナルIP

 古屋さんの発想から生まれた「コップのフチ子」は、単なるガチャ商品のヒットにとどまらなかった。大人の女性にどう届けるか、その“拡張の現場”を動かしたのが小川勇矢さんだった。

 当時、パルコの担当者に「うちはファッションだから、おもちゃは扱えない」と断られそうになるほど、カプセルトイはまだ“大人女子”に浸透していなかった。そこで階段横の小さなスペースで写真展を仕掛けると、たちまち火がつき、1週間で2万個が売れる大ヒットに。やがて「コップのフチ子展」へと展開し、カプセルトイがファッションやカルチャーの文脈に入り込む流れを決定づけた。

 小川さんはこの経験を通して、「ガチャはもっと拡張できる」と確信する。2016年、独立してクオリアを設立。以後はSNSを武器に、新たな拡張戦略を仕掛けた。YouTubeやXで自ら発信し、ファンとの距離を縮め、拡散が商品への関心を呼び込むという逆転の流れをつくった。

 古屋さんの「商品発想」と小川さんの「市場拡張」が噛み合ったからこそ、大人の女性にガチャは浸透し、次の時代へと広がっていった。小川さんはそのバトンを受け継ぎ、拡散型のガチャ文化を切り開いている。

6.SNSが拓いた“拡散型ガチャ”の時代

 小川さんの革新は、ガチャを「SNS時代の武器」に変えたことだ。

 従来は商品を作って店頭で売るのがゴールだったが、小川さんは違った。SNSに面白さを放ち、拡散が関心を呼び、その熱が店頭のガチャ機へ人を導く──そんな逆転の流れを生み出したのだ。

 YouTubeでは自ら顔を出し、イベントではファンと交流。XやInstagramでは商品をシェアしたくなる写真を投稿し、ユーザーが勝手に宣伝役になる。

 ガチャはもはや販売装置ではなく「文化を媒介する仕掛け」へ。ここに、SNS時代のガチャの新しい幕開けがある。

7.女性が変えたガチャの風景──“キダルト”層の台頭

 大人の女性が市場を押し広げたのは間違いない。

 フチ子現象以降、女性が主役となり、親子で楽しみ、SNSでシェアする文化が根づいた。職場や友人との会話にガチャが入り込み、「ちょっと回してみよう」が日常になった。

 ここでいう“キダルト”とは、子どもの頃に遊んだ記憶を持ちながら──。大人になっても遊び心を忘れない人々のことだ。ガチャ市場では特に“大人女子”を中心に広がり、文化を支える存在となった。

 小野尾さんは「ガチャはコミュニケーションの架け橋」と語り、古屋さんは「女性が支えてくれるから挑戦できる」と感謝する。小川さんも「女性スタッフの感性が商品を豊かにしている」と強調する。

 “キダルト”層の存在が、ガチャを子どもの玩具から“大人の文化”へと押し上げたのだ。

8.イベントが生む文化祭的熱狂──協会が紡ぐ横のつながり

 小野尾さんが仕掛ける「渋谷ガチャガチャナイト」や「ガチャワングランプリ」には、メーカーもクリエイターも垣根を越えて集まる。

参考:ガチャガチャ協会 ガチャ に魂を人々に笑顔を

 「文化祭のように盛り上がる空気が大事」と小野尾さん。古屋さんも「競合ではなく仲間だと思える」と語り、小川さんは「子どもワークショップは未来を育てる」と目を細める。

 そこにあるのは、数字では測れない“人の温度”。この熱狂こそが、ガチャを文化に押し上げてきた。

9.世界に広がるガチャ文化──空港、観光、そしてローカルIP

 2016年、成田空港にガチャが置かれると、外国人観光客が一斉に回し始めた。

 中国・韓国ではキャッシュレス対応マシンが普及。オーストラリアでは「押しボタン信号機」のガチャが人気を博すなど、現地文化に根ざした商品も登場している。

 「ガチャがある国は平和だ」と小野尾さん。古屋さんは「現地独自のIPが芽生えるのが楽しみ」と言い、小川さんは「SNSを通じて海外ファンとつながれるのが嬉しい」と笑う。

 ガチャは日本発の遊びを超え、世界の生活に寄り添う文化となった。

10.38000人が訪れた「ガチャガチャ展」──歴史を形にする実践

 そして、2025年夏、丸ビルで開催された「ガチャガチャ展」。小野尾さんが中心となり、11社と7人のクリエイターを集めたイベントには3週間で38,000人が訪れた。

 「文化祭みたいだった」と来場者は口を揃える。親子連れ、大人の女性、外国人観光客──多様な層がガチャの魅力を共有する場となった。

 60年の歴史を“今”につなげた実践。小野尾さんが見守り、古屋さんと小川さんが築いた流れを、形あるイベントに昇華したことは、この文化の未来を確かに感じさせた。

11.未来へのエール──偏った愛情が市場を広げる

 三人に共通するのは「儲けるためではなく、好きだからやる」という信念だ。

 古屋さんは「変な人ばかりだが、だから面白い」と笑い、小川さんは「スタッフ全員が四六時中アイデアを出す」と語る。小野尾さんは「みんなガチャを愛してやまない」と締めくくった。

 60年の歩みを経ても、ガチャは人の情熱に支えられている。その“偏った愛情”がある限り、裾野は広がり続け、新しい才能が次々に花開くだろう。

 僕は三人の話を聞き、心から思った。──ガチャの歴史とは、才能と情熱のリレーが紡いできた物語なのだと。そして未来もまた、このリレーが続いていくに違いない。

 今日はこの辺で。

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