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「ばけたん」に学ぶ“響く商品”のつくり方──妄想×効果検証が導くヒットの法則

 人の心を動かす商品とは、どのようにつくられるのか。その問いに対し、常にユニークな視点で世の中に“刺さる”商品を送り出してきたのが、ソリッドアライアンスの河原邦博さんである。代表作である“お化け探知機・ばけたんをはじめ、一見すると突飛なアイデアが、なぜ市場で支持されるのか。キャラクタートーク番組「キャラ談 vol.48」で明かされたその思考の背景。そこには「誰かの心に引っかかる要素」を丁寧に織り込み、それを効果検証で磨き込んでいく実践的な哲学があった。

 この記事では、河原さんの語るモノづくりの哲学をひもとく。そして、クリエイターやプロデューサーが明日から実践できるヒントをお届けしたいと思う。

心を揺らす「フック」を仕込め──“誰かに刺さる”モノづくり

 河原さんが語る商品開発の出発点は、機能や形状ではない。

 「誰かにとって“引っかかる”要素があるかどうか」。それを見極める眼差しこそがすべての起点だ。

 USBメモリとアヒル、寿司、心霊現象。異質な組み合わせが多くの人の記憶に残るのは、コンセプトの中にある種の「違和感」が人の感性を刺激するからだ。

 しかし、単に奇をてらうのではない。

 河原さんは「シュールだけど、どこか“自分ごと”として感じられるもの」を常に意識している。例えば、「ばけたん」開発のきっかけも、飲みの席で聞いた「心霊番組は視聴率が下がらない」という話からだった。

 そこに一定の“需要”があると仮説を立て、誰に刺さるか、どこで響くかをシミュレーションして商品化へとつなげたのだ。

IT業界から商品開発へ――常識に挑む発想

 河原さんはもともと、IT業界でメモリーカードの事業に携わっていた。

 独立後は、ユニークなUSBメモリーを数多く手掛け、たとえば「お寿司」や「アヒル」の形をしたUSBが話題を集めた。この挑戦には「USBメモリー×造形」という独自性を追求し、大手メーカーと競合しない市場を切り開く狙いがあったのだ。

「10個に1個当たればいい」──そう語る河原さんの姿勢は、挑戦を恐れるクリエイターに勇気を与える。

 そして、企画・設計・製造・PR・販売・効果検証までを一貫して行うことで、仮説の正否が浮き彫りになり、次の一手へとつながる。

「ありふれたものに何か違う要素を組み合わせる。それが商品の魅力を倍増させるんです」。そう河原さんは語る。こうして“常識”を疑う姿勢が、後のヒット商品へと繋がるのだ。

10分の1でも成功。効果検証がモノづくりを育てる

 「Fridgeezoo」は、冷蔵庫を開けたら喋る玩具というユニークな発想を、温暖化という社会的テーマと絡めることで、環境問題に対するゆるやかな啓発装置とした。

 例えば、同商品は、動物用様なフォルムをしており、冷蔵庫を開けるとしゃべり出すから面白い。しかも、みんなしゃべる内容が異なる。中には時間に合わせてしゃべったり、ワイルドな口調のものもいる。

 節電のために叱ってくれるのだ。

 ビジネスモデルとしても、各国ごとに言語を変えて横展開可能な仕組みを構築。結果的にイタリアなどで120万個を売り上げるヒット商品となった。

 逆に言えば、仮説の誤りが証明された商品も多い。

 売れ行きがわずか5%で止まったものもある。しかしその結果を次に活かすことで、ブランドや手法そのものが成長していく。妄想と検証の往復こそが、響く商品づくりの王道だ。

商品が語る個性。“ストーリー性”がモノを売る時代

 彼は曰く、キャラクター商品や電子玩具の領域では、ストーリー性の有無が購買行動に直結するようになった。河原さんは「商品単体ではなく、その背後にある“背景”や“想い”が共有されて初めて広がる」と語るのだ。

 格闘技の煽りVTRにたとえ、試合そのものよりも、その選手が背負っている物語に人は共感するという話は非常に印象的だ。モノづくりも同じく、商品の誕生背景、開発者の思い、社会的な意味づけといった「文脈」こそが商品に命を与える。

 特にSNS時代においては、個の物語が拡散しやすく、共感されれば大きなうねりを生む。

 また、ストーリー性は商品企画の中に「感性のパラメーター」として組み込むこともできる。

 河原さんはこれを「妄想力」と呼び、商品の使用シーン、反応、波及効果までをシミュレーションしながら商品を磨いているという。自分の感性に従いながらも、冷静に「どこで、誰に、どう響くか」を構造的に捉える視点が、感性と戦略の両立を可能にするのだ。

 これが、先ほどの企画・設計・製造・PR・販売・効果検証に繋がる。

細分化と俯瞰、その両方を持て──“見えないもの”を信じる強さ

 だから、ヒット商品「ばけたん」もそうなのだ。「ばけたん」を生んだ「オカルト」というジャンル。そこには、まだまだ多くの可能性が秘められている。

 河原さんは「UFOや幽霊、超能力といった“見えないもの”は、想像の余地が大きく、共感を生みやすい」と語る。しかも、それらはSNS時代において小さなコミュニティを形成しやすく、ニッチなマーケットがいくつも存在するのと相性がいい。

 その一方で、「俯瞰して全体を捉える視点」も重要だという。

 例えば、ヘビーメタルがやがてジャンル細分化していったように、テーマはどんどん枝分かれし、それぞれに深い共感層が存在する。その構造を理解したうえで、「今、自分はどのレイヤーで何を届けるのか」を見極める感覚。それこそが、マーケティングにおける武器になる。

 そして、どれだけ情報が氾濫しても「キュレーター(編集者)」の存在が不可欠だと河原さんは強調する。

 キュレーター?。そう。AIやデータが選別する時代にあっても、最後に人の感性を通して選ばれたモノこそが、また別の人の感性に響く。その連鎖が、商品から文化をつくり出す原動力になるのだ。

 効果検証で精度を高める――試行錯誤の重要性

 「ヒット商品は最初から狙って作れるものではありません」。そう河原さんは語る。

 先ほど触れた通り、「10個作って当たるのは1個」。だからこそ、試行錯誤と効果検証が不可欠なのだと強調する。

「ばけたん」だって実はそうなのだ。初期段階でどの市場にどう響くかを実験的に販売。

 その結果、ITガジェットとしてだけでなく、心霊系の趣味層やバラエティショップでも好調な反応が得られたため、販売戦略を拡大した。

 これに対し、「Fridgeezoo」ではNHKの番組が温暖化問題を取り上げた際の反響から、商品が社会性を持つことの重要性に気づき、啓発活動のツールとしての価値を高めたのである。

商品の個性を磨く――受け入れる意見、排除する意見

 効果検証と並行して、河原さんが重視しているのが「選択と集中」。

 「すべての意見を取り入れると商品が薄っぺらくなります。だからこそ、強烈な個性を持ちながらも、改良すべき点は見極めて修正するんです」。

 具体例として、商品レビューは確認しつつも、「売れる本質を変える意見は取り入れない」ことをルールとしている。「商品作りには強いエゴが必要です。その中で不具合や改善点だけを冷静に拾い上げるんです」と語る姿勢は、職人的なこだわりを感じさせる。

海外展開とオカルト――文化のパッケージ化

 河原さんは「ばけたん」を通じて、日本の「オカルト文化」を海外に広める試みにも挑戦しているから面白い。先ほどまで話していた日本での話を進化させた格好だ。

 「海外ではオカルトが一つのジャンルとしてパッケージ化されていることは少ない」と指摘する河原さんは、日本ならではのまとまりを持たせた商品で、文化ごと輸出する構想を描いている。

 こうなると見え方は商品ではなくなる。

 たとえば、「幽霊」だけでなく、「UFO」「超能力」といった多様な要素を組み込むことで、独自の世界観を形成。さらに、クリエイターが自由にコンテンツを追加できるプラットフォームとして成長させることを目指している。

河原邦博が描く未来――自分を極める商品づくり

 河原さんは「自分が信じるものを追求することが、商品に個性を宿す最大の鍵」だと説く。

 その一方で、クリエイターにとって自分の作品を広げる力は限られている。言うなれば、プロデューサーやサポーターの役割がますます重要になると指摘する。

「自分が作りたい商品を、ただ作るだけではダメなんです。その商品をどう伝え、広げていくかまで考えるのが本質的なクリエイティブだと思います」。そう語る河原さん。

 自らの個性を信じつつ、それを商品として具現化。さらに磨き上げる姿勢は、未来のクリエイターに多くの示唆を与えるだろう。

フックと精度

 最後に、非常に面白かったのは、誰にも可能性があるということ。好きなことは誰しもある。

 つまり、誰でもそのキュレーターになれる素質はあるということ。

 ただ、そこでキュレーションできるかどうかは、ちゃんと伝える言葉や伝える手段を工夫する必要があって、それは耳を傾ける人があってのことなのだ。

 河原さんが語るそれらの本質は、クリエイターのみならず、すべてのビジネスパーソンに通じるメッセージ。商品は単なるモノではなく、個性と物語を伝えるメディアなのだ。挑戦を恐れず、その中で響く商品を追求する姿勢。それこそが、未来を切り開く鍵となるだろう。

今日はこの辺で。 

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