初音ミクと浴衣 に施された技術革新 「初音工房」が新しき中に古き良さを伝える
ボーカロイドでお馴染みの初音ミク。それが、800年という歴史を持つ博多織の企業と結びつく。伊勢丹新宿店で開催された 「初音ミク × イセタン」に訪れて、その発想と仕掛け方に刺激を受けた。仕掛け人は「OKANO」の代表取締役 岡野博一さん。彼は、今までの着物の概念をそうやって打破して、新たな可能性を示しているのである。それだけではない。それをより本格化するべく、糸口という会社を起こしてそこを起点に展開して、このプロジェクトを本腰を入れていくのだ。
浴衣と初音ミクは和風でよく似合う
ちなみに岡野さんについて、少し触れておく。彼は廃業が決まっていた1897年創業の博多織の織元を継いで今に至る。父が博多織の職人だったこともあり、その理念を受け継いだのである。
ただ彼の場合、自らが職人となるのではない。継ぐ前にベンチャー企業を経営していた手腕を活かして、経営者として再生させることに自らの使命があると考えた。
改めて、流通形態の古さに疑問を投げかけ、廃業から立ち直らせた。そのバランス感覚が魅力だろう。「良いものを作って、伝統文化を未来へ、世界へつなぎたい」との気持ちは今も変わらず、変革に燃えている。枠組みにとらわれない発想で、その文化の裾野を広げているのだ。
キャラクターをただ使うのではない
そんなわけで、僕も以前から、岡野さんからはキャラクターとのコラボの話をしたいことは聞いていた。だからというわけではないが、近況を聞くと、まさに初音ミクとのコラボをしているという。絶妙なタイミングでそれを耳にしたから、伊勢丹新宿店に急行したわけだ。
とはいえ、彼らしいと痛感したのは、単純にキャラクターグッズを作ってはいないからだ。プロジェクトとして成立させており、そこには、継続的な視点で、文化を伸ばす気概も感じられた。
版権元クリプトンフューチャーメディア社と連携して「初音工房」というプロジェクトを立ち上げた。具体的には、初音ミクがその公式アンバサダーとなって、伝統の魅力を伝えてもらうのである。
伝統を織り交ぜながら高めあう
彼は思いがけず、こんなことを口にした。
「国が認定する伝統工芸品は、何個あると思いますか?」
その答えは、若干の変動はありながら、228個。そういうものもこういう企画と連動させながら、魅力を伝えられたらと構想を語るのである。やはり伝統を重んじながら、未来へつなげる張本人だ。実際、伊勢丹新宿店での他のフロアを見れば、定番のキャラクターグッズが多い。それはそれで間違ってはいないし、需要がある。ただ、彼らの場合は「初音工房」というプロジェクトのお披露目で、商品も本邦初公開である。
イメージはこのような感じで、初音ミク自体も全面に出てくる。クリエイターの「がり」さんが手掛けていて、その気合の入りようがわかる。さて、その商品は、浴衣や履き物、帯であり、その実物が展示。受注発注形式で、一点一点、販売する形式を取った。金額は、10万円を超える代物もあるが、それに相応しい工夫が凝らされている。
初音尽くし紋様というキャッチを生み出す
着物を活かすアプローチなのである。まず彼らが編み出したのが「初音尽くし紋様」である。これらは、浴衣などに施される。いずれも初音ミクを連想させるアイコンで、モノグラムで可愛らしく表現している。このような感じだ。
その一方で、浴衣も「雪花絞」という着物の染め方を用いている。
岡野さんが手にしている生地は、雪の結晶のような発色をしているだろう。「雪花絞」と呼ばれる、雪にちなんだモチーフである。数ある中で、これをチョイスしたのは、クリプトン社が北海道発祥だから。なるほど。
博多織で引き立つ印刷技術
その一方で、このプロジェクトの仕組みづくりに岡野さんは奔走する。プロジェクトとして規模感をより大きな影響を持って、成立させる為にエプソンを巻き込んだのである。
エプソン自体は、浴衣などとは縁もゆかりもない。ただ、彼が着目したのは同社の最新鋭の印刷技技術だ。ここの部分に先ほどの「初音尽くし紋様」が意味をなす。博多織・絞り染めなどの要素とエプソンの最新鋭の印刷技術をかけあわせて、オーダーごと、その紋様を入れて、オリジナル制作ができる仕様にしたのである。
これまでのエプソンではできないこと。だからこそ、意味がある。
今回の企画を通してその印刷にまつわる技術革新を披露することはエプソンにプラスである。また、その露出が広がれば浴衣の価値が向上する。その価値向上に寄与するのが「初音尽くし紋様」。
それ自体は初音ミクにとって伝統と格式を持った新しいイメージの創出につながる。この仕組みは、互いにその強みを補完しあっている点で、プロジェクトとしての体裁をなしている。
浴衣への想い。そして、よりそれを活かすためのキャラクターの活用。そして、受注発注をベースにした手堅いリスクを抑えた取り組み。さらにはエプソンを巻き込みながら、新しさを伝えていく。
その商品も、その製法も「メディア」ではないか。個々の強みは連携させ、同じ方向を向かせることで、僕ら心に感動的な奏でを響かせてくれるのである。
今日はこの辺で。