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AIは企業の「原点」を設計図に変える──おとりよせネットが、AI時代にリニューアルできた本当の理由

 生成AIによって、企業のWebサイトは、これまでになく短期間で作り替えられるようになった。今回、アイランドは24年目に入る「おとりよせネット」を生成AIで全面リニューアルした。開発期間は約半年。公開後には、ユーザー一人あたりの回遊率が約25%向上した。その開発を支えたのが、「バイブコーディング」と呼ばれる新しい手法だった。ここだけを聞けば、「AIによって開発が速くなった」という話に見えるかもしれない。

 しかし、実際に取材をして感じたのは、まったく逆だった。AIが優秀だったから成功したのではない。アイランド自身が、「自分たちは何者なのか」を誰より理解していたからこそ、AIがその意図を理解できたのである。

 これからの時代、検索で上位表示されることだけが、メディアの価値ではなくなる。AIが情報を読み取り、人へ届ける時代になれば、AIに「何を伝えたいサイトなのか」を理解してもらえなければ、その存在すら認識されなくなる。

 その時、必要になるのは、新しい技術ではない。企業が長い時間をかけて積み上げてきた、自分たちらしさである。今回のおとりよせネットのリニューアルは、メディアの話に見えて、その実、多くの企業がAI時代を生き抜くためのヒントに満ちていた。

AI時代に必要だったのは、新しいサイトではなく「自分たちは何者か」を知ることだった

一度失敗したリニューアルが教えてくれたこと

 「おとりよせネット」は2003年にスタートした。当時はPerlで構築されたシステムを、時代に合わせて少しずつ増改築しながら運営を続けてきた。しかし、その積み重ねは、やがて大きな課題にもなっていく。

 実は2018年、一度、大規模なリニューアルを試みている。外部の専門家も交え、約1年をかけてプロジェクトは進んだ。しかし、やりたいことが次々と増え、仕様は膨らみ続けた。完成する頃には、また時代が変わってしまう──そんな状況に陥り、プロジェクトは断念せざるを得なかった。

 その後も、レガシーシステムを延命させながらサービスを続けてきたが、転機は2025年の終わりに訪れる。生成AIを活用した「バイブコーディング」という開発手法に出会ったのである。

AIは、企業の原点が見えなければ動けない

 ここだけを見ると、「AIが問題を解決した」と思ってしまう。しかし、取材を通して見えてきたのは、それとは違う景色だった。AIは、企業の代わりに考えてくれる存在ではない。むしろ、企業側が曖昧であればあるほど、AIは汎用的で、どこかで見たような答えしか返さない。だから今回、一番最初に行われたことは、「どう作るか」ではなかった。

 「おとりよせネットとは、そもそも何だったのか」。

 その原点を、もう一度見つめ直すことだったのである。この作業は、一見すると遠回りに見える。

 しかし、AI時代においては、この時間こそが、もっとも重要だった。なぜなら、その企業が何を大切にしているのかが明確になって初めて、AIはその世界観を理解し、それを設計へと落とし込めるからだ。

 言い換えれば、企業の原点こそが、AIにとっての設計図だった。

おとりよせネットが23年間、変えなかったもの

口コミを、一文字も変えない理由

 では、おとりよせネットの原点とは何だったのか。それは、「お取り寄せ商品のレビューサイト」であるということだった。今では当たり前になった「お取り寄せ」という言葉も、サービスが始まった2003年当時には、まだ一般的ではなかった。通販そのものへの不安も大きい時代である。

 店頭で見られない。味も分からない。本当に美味しいのかも分からない。

 だからこそ、必要だったのは、商品のスペックではなかった。実際に食べた人の、生の声だったのである。おとりよせネットでは、モニター審査員が商品を実際に食べ、そのレビューを掲載してきた。

 そして、その口コミは、表現が少し分かりづらくても、ショップにとって耳の痛い内容が含まれていても、事実と異なっていたり、誹謗中傷の類でなければ、原文をそのまま掲載する。しかし、人が感じた感情そのものには手を加えない。

 この姿勢を、23年間、一度も変えてこなかった。現在、おとりよせネットには、全国各地から約6,000品のお取り寄せ商品が掲載されている。つまり、その背後には、実際に食べた人たちの声が、商品ごとに積み重ねられているということである。

②AIが理解できたのは、23年間積み重ねた編集だった

 粟飯原さんは、「総合的に見て評価されている商品は、やはり良い商品なんです」と話す。

 僕は、この言葉に、おとりよせネットというサービスの本質があるように感じた。どんな商品にも、良い面もあれば、人によっては気になる点もある。それでも、多くの人が「もう一度買いたい」と感じているのであれば、それは本当に価値のある商品なのだ。

 良いところだけを並べるのではない。悪いところまで含めて、その商品の全体像を伝える。

 だから、人は信用した。考えてみれば、これは男性的な「スペック比較」とは少し違う。成分や産地だけでは伝わらない、「食べたとき、どう感じたのか」という情緒を可視化したからこそ、人は安心してお取り寄せできたのである。

 つまり、おとりよせネットが23年間積み重ねてきた価値とは、商品情報ではなかった。生活者の感情を、商品と結び付ける編集だったのである。

 そして、このブレない原点があったからこそ、AIは「このサイトは何を伝えたいのか」を理解できた。今回のリニューアルは、新しいものを付け足したのではない。23年変えなかった価値を、AIにも理解できる形へ翻訳し直したプロジェクトだったのである。

AIは企業理念を理解しない。理解するのは「構造」である

レビューをAIが読める形へ整理する

 ここで、一つ誤解してはいけないことがある。AIは、おとりよせネットの理念に感動したわけではない。「口コミを大切にしている会社なんだな」と、人間のように理解したわけでもない。

 AIが理解したのは、その理念が情報として整理されていたことだった。今回、副社長の長谷川浩司さんが何度も口にしていたのは、「レビュー」という資産を、AIが読み取りやすい形へ整理することだった。

 例えば、これまで一つの商品に対するレビューは、複数ページに分散していた。それを、一つの商品に対して、一つのページで一覧できるようにした。さらに、おとりよせネットでは昔から、単なる感想だけではなく、「コストパフォーマンス」「ギフト向きか」「リピートしたいか」といった項目ごとに評価を蓄積してきた。

 つまり、「この商品は好きでした」だけでは終わらない。誰が。どんな場面で。何を評価したのか。そうした情報が、23年間積み重ねられていたのである。これは、人間が読むときにも分かりやすい。

理念は構造になって初めてAIに伝わる

 しかし、それ以上にAIにとって意味が大きい。AIは大量の情報を読み込み、共通点を見つけ、必要な人へ最適な情報を返す。

 だからこそ、「三人家族には量が多かった」「贈答用には喜ばれた」「濃厚だけれど甘さは控えめだった」といった、生のレビューが、単なる口コミではなく、AIにとっての知識へと変わっていく。

 長谷川さんは、「もともと、おとりよせネットはAIの参照元になりやすいサイトだった」と話す。実際、2026年に実施されたAI参照元調査では、おとりよせネットはEC・通販業界における国内21位の参照元サイトとなった。今回のリニューアルは、その資産をゼロから作ったのではない。

 23年間積み重ねてきたレビューを、AIが迷わず理解できるように、もう一度整理し直したのである。僕はここで、AI時代に必要なのは、新しい情報ではなく、「伝わる構造」なのだと感じた。理念だけでは、AIは動かない。しかし、その理念が構造になった瞬間、AIはそれを理解し、応用し始めるのである。

バイブコーディングとは、「曖昧さ」を形にする技術だった

AIへ丸投げしても、良いサイトにはならない

 今回のリニューアルを象徴する言葉が、「バイブコーディング」である。この言葉だけを聞くと、「AIが勝手にプログラムを書いてくれる技術」と思われがちだ。

 しかし、実際に長谷川さんの話を聞くと、まったく印象が変わる。AIは、自由に作らせるほど、自由に暴走する。「こんな感じで」と曖昧に頼めば、確かに、それらしいものは作ってくれる。

 だが、それは多くの場合、どこかで見たことのある、汎用的なサイトでしかない。だから長谷川さんが最初にやったことは、AIへ丸投げすることではなかった。

 まず、自分の中で「おとりよせネットとは、こういうサイトである」という輪郭を固める。そして、その範囲だけをAIへ渡す。AIが違う方向へ進めば、「違う、違う」と何度も軌道修正する。

AIより先に、人間が輪郭を決める

 長谷川さんは、「作業の半分くらいは『違う、違う』と言っていた」と笑う。私は、この言葉が非常に印象に残った。バイブコーディングとは、AIに主導権を渡す技術ではない。人間が主導権を握り続けながら、AIの発想力と速度だけを借りる技術なのである。

 だからこそ、昨年の冬休み、長谷川さんは一人で試作を始めた。すると、驚くほど短時間で、おとりよせネットの新しい姿が目の前に現れた。もちろん、それが完成形ではない。しかし、「ここまでできるのであれば、サイト全体も作り替えられる」。

 その確信が生まれた瞬間だった。思えば、この出来事自体が、おとりよせネットというメディアの強さを証明していた。AIが一気に形にできたのは、AIが優秀だったからだけではない。23年間かけて、「何を届けるメディアなのか」が整理され続けてきたからである。

AIは90%を一瞬で作る。だから人間は残り10%に時間を使える

90%まで作る速さが、AIの武器

 そのモックを見た粟飯原さんは、「これなら、全部できるかもしれない」と直感したという。2018年、1年かけても実現できなかったリニューアル。

 それが、一人のエンジニアが冬休みに試した実験から、一気に動き始めた。AIが時代を変えたのではない。「自分たちは何者か」が整理されている企業ほど、AIは、その力を最大限に発揮する。おとりよせネットのリニューアルは、そのことを象徴する出来事だった。

 しかし、それは「AIが一瞬でサイトを完成させた」という意味ではない。長谷川さんが何度も強調していたのは、むしろ、その逆だった。

 長谷川さんが繰り返し語っていたのは、「AIは90%を作るのが圧倒的に速い」ということだった。サイト全体の骨格やデザイン、画面遷移まで含めた完成度90%の部分は、驚くほど短時間で出来上がる。

最後の10%こそ、人間の仕事になる

 だが、その先に待っている最後の10%こそ、人間が担うべき仕事だった。セキュリティに問題はないか。これまで積み重ねてきた資産は失われていないか。UIは本当に使いやすいか。AIの思い込みが入り込んでいないか。

 長谷川さんによれば、全体の90%を作る時間は、プロジェクト全体の約半分だったという。残り半分の時間は、完成度を90%から100%へ近づけるために費やされた。

 この話は、とても示唆的だった。AIによって人間の仕事が減るのではない。AIによって、ようやく人間が本当に時間をかけるべき仕事へ集中できるようになるのである。これまで設計やコーディングに費やしていた膨大な時間を、品質や安全性、そして体験を磨くことへ回せる。

 企業にとって重要なのは、「AIを使うこと」ではない。AIによって生まれた時間を、どこに投資するかなのである。

AIに選ばれるサイトと、人が好きになるサイトは違う

AIに伝わるサイトは、人にも見やすくなる

 今回のリニューアルで、もう一つ興味深かった成果がある。回遊率の向上である。AI時代になると、多くの人は「AIに選ばれること」が目的になりがちだ。もちろん、それは間違っていない。AIエージェントが情報を探す時代になれば、AIに理解されなければ存在しないのと同じだからだ。

 しかし、そこで終わってしまえば、それは検索順位を追いかけていた時代と何も変わらない。今回、おとりよせネットが改善したのは、AIへの見せ方だけではなかった。スマートフォンで見やすい画面へ刷新し、画像を大きくし、レビューを一覧しやすくした。

 その結果、公開後はユーザー一人あたりの回遊率が約25%向上した。AIに理解されるよう情報を整理したことが、結果として、人間にとっても居心地の良いサイトへとつながったのである。

人は、寄り道したくなるからメディアが面白い

 粟飯原さんは、こんな話をしてくれた。例えば、チーズケーキを探しに来た人がいる。AIなら、おすすめのチーズケーキを答えて終わる。

 しかし、おとりよせネットでは、その人がサイトを見ているうちに、「このチョコレートも美味しそう」「このプリンも気になる」と、別の商品へ興味が広がっていくことがある。僕は、この話こそ、メディアの本質だと思った。

 人間は、必ずしも合理的には買わない。目的買いだけではなく、偶然の出会いにも心を動かされる。だからこそ、メディアには「編集」が必要になる。どの順番で見せるのか。どんな写真を置くのか。どんなレビューを並べるのか。その積み重ねが、人の好奇心を刺激し、回遊という結果になって表れる。AIは入口を作ることはできる。

 しかし、人の心を寄り道させることまでは、まだ得意ではない。だから今回のリニューアルは、AIへ最適化したサイトでありながら、人間にとっても、より心地よいメディアへと進化したのである。

AIが進化させるのは、サイトではなく、人間だった

アイランドが育ててきたのは「共感」の場だった

 今回の取材で、最後に粟飯原さんへ聞いてみた。ここまで短期間で、おとりよせネットをリニューアルできた。では、その先に、今、何を思い描いているのか、と。返ってきた答えは、「共感」だった。

 考えてみれば、アイランドがこれまで作ってきたサービスには、一つの共通点がある。2003年、おとりよせネットを立ち上げた当時、「お取り寄せ」という言葉は、まだ一般的ではなかった。

 料理を発信する人たちを、「レシピブロガー」と呼んでいた時代には、その人たちがInstagramやYouTubeで活躍する未来は想像されていなかった。だからこそ、「フーディスト」という新しい呼び名へと広がっていった。

 つまり、アイランドがやってきたことは、メディアを作ることではない。まだ名前のない共感を見つけ、人が集まる場を育ててきたのである。だから、長く続いた「レシピブログ」を終え、「フーディストノート」へ統合したことも、決して後退ではない。人々が共感する場所が変わったから、その器も変えた。

 思えば、「朝時間.jp」もそうだ。朝ごはん、美容、ヨガ、睡眠など、朝の暮らしを豊かにする情報を、毎朝6時に届けている。その時間に、約200万人へLINEを配信しても、クレームが来ない。「そんなメディアは、朝時間.jpくらいです」と、LINEの担当者から言われたという。

AIが解放した時間で、人は未来を描く

 ただ、それだけのことなのだ。今回のおとりよせネットのリニューアルも、同じ延長線上にある。AIによってサイトを作り替えたことが価値なのではない。AIによって、これまでリニューアルに費やしていた時間や労力から解放され、「次に、人は何に共感するのか」を考えられるようになったことに、本当の価値がある。

 ジャンルは違っても、やっていることは一つだった。人が共感するテーマを見つけ、その周りに人が集まる場を育てること。その積み重ねこそが、アイランドという会社の原点なのである。

 僕は、この話を聞きながら、AIは人間の代わりになる存在ではなく、人間の才能を前へ押し出す存在なのだと思った。AIは、企業の原点を整理し、形にすることはできる。しかし、次の時代に、どんな共感を生み出したいのか。その未来だけは、人間にしか描けない。だから、おとりよせネットのリニューアルは、ゴールではない。

 23年間積み重ねてきた価値をAIへ翻訳し終えたことで、ようやく、その先の景色を描けるようになった。おそらく、アイランドが本当に面白くなるのは、ここからなのだ。そして、ここから人間が始まる。

 今日はこの辺で。

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